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作者: 雨池蓮葵

 人々は皆、誕生し、成長し、老いて死ぬ。それは、人間だけに当てはまるものではなく、植物や昆虫、人間以外の動物、人間の目では確認できないような、細菌、地球上の生ある全てが持つ、特権だ。

 命の長さが違う、ただそれだけ。

 僕だって、いつかは死んでしまう。

 すべての命に、一生に、愛しい者がいて、忌しい者がいて。その事に例外はない。ある訳が無い。

 昨日、僕の愛しい人が、成人を迎えた。

 そして今日、成人式を行うという。二十歳の誕生日の次の日が、成人式というのは、めでたいのか? そうではないのか? 僕にはわからない。君はどう思っているんだ? 嬉しいか? 淋しいのか? それとも、何も感じなかったのか? どれにしても、僕には分からない。僕が君を、君たちを想っているように、君が僕のことを感じてくれているのか、なんてそんなこと、僕には分からない。

 昨日、君はこの家に、親戚を呼んで、誕生日を祝ってもらっていた。昔から仲のいい友達も数人呼んでいた。外からじゃあ、部屋についているカーテン越しの明かりと、君たちの声、かすかに聞こえるような君たちの感情しか分からなかった。 

 部屋が暗くなって、淡いオレンジ色の光がカーテン越しに部屋の中心で光って揺れているのが分った。君たちは歌を歌って、歌が終わると同時に淡いオレンジ色の光が消えた。ぱっと部屋にまた光が付いた。

 君は泣いて、その友達が笑った。君の親戚は、カーテン越しだからよく分からなかった。ただ、君と友達以外のその沈黙が、僕にはとても暖かく思えた。

 不意に、君につられたのか、小さな子供のな小声が聞こえた。

 君と友達と親戚が笑ているのが聞こえてきた。

 僕はただ見守る事しかできない、それも、僕がこの場所から見える範囲で、だ。君との会話なんて当然できない。君がもし話しかけてきてくれても僕は、応えることなんてできない。

 やっぱり君は、僕がこんなふうに君たちのことを想っているなんてことがあるわけがないと思っているんだろうか。だとしたらそれはとうに勘違いなのだが。だが事実それが正解だと君たちは考えている。そう思うとなんだか僕はさびしくなる。だがもともとそういう存在だ。僕たちにそれは求められていない。

 そうやって君と君の友達と君の親戚の声と感情を聞いていると、君がまだ小さかった頃を思い出す。

 いや、実際思い出そうとしても大した記憶があるわけじゃない。

 断片的な記憶がかすかに残っているだけだが。一番はっきりと残っている記憶が、君が七歳の時に、僕と写真を撮ったときの記憶だ。そのときは楽しかった。僕の前に、着物を着て、何やらいろいろ入った帆の長い袋を持った君。確かそのときは

今日来ている君の友達も一緒に写真を撮ったのだったか。

その他はもう、断片的過ぎてほとんど何も覚えていない。

 僕はもう君たちをずっと見守ってきたが、もうそんなことしか覚えていない。君はどうなんだろうか、そのことをまだ覚えていてくれているのか? 君たち記憶の感覚など僕には、何もわからない。

 僕は、君たちの事なんて何もわかっていない。分かっていることなど、何一つない。

 何か一つでも、君たちと共感できることがあればいいと思う。

 そんなことを考えながら僕は、夜が明けるのを迎えた。




 陽が昇るあたりがうっすらと明るくなってくる。霜が降り、それがあたりを濡らしていく。冷たく、乾いた空気が少ししっとりとして、心地よい。水滴がはじけて、地面に散る。

 同時に、少しずつ、辺りが賑やかになり、やがて陽が完全に顔を出すころには、僕の前を通る、年をとった夫婦が。僕の前の塀の上を三毛猫が。

 君のおじいさんが家から出てきた。いつもの時間より少し早い。

 緊張でもしているんだろうか。いつもより少し硬い顔をしている。目も少しうるんでいるように見える。続いて、君のおばあさんが出てきた。

 今日君は成人式を迎える。

 二十歳の誕生日の次の日が、成人式というのは、めでたいのか? そうではないのか? 僕にはわからない。

 僕達に成人という感覚はなく、年齢なんて概念もない。成人するということにどれだけの意味があって、そのことがどれだけめでたい事かなんて、分からない。

 君はそのことをどう考えているのだろうか。

 君の部屋から、いつものジリジリという金属音が聞こえてきた。いつもなら、ボクの方を向いた窓の雨戸を、君が開けるのだが、今日は君の友達が開けた。昨日帰っていくのが分らなかったが、君の家に泊まっていたのか。

 こういうのもなんだか新鮮だ。

 バタバタと音がして、君のお母さんが起きたようだ。昨日は遅くまで起きていたようだったから、今日は寝坊だろうか。いつもは君起きた時にはすでに朝ご飯が作り終えているのに。

 君と友達が笑っている。それに続くように君のお父さんが眠そうに声を上げて起きてきた。

 なんだか呑気だな。と思う。

 


 しばらくして、着物姿の君と友達と君のお母さんとおばあさんと、スーツを着た君のお父さんとお爺さんが出てきた。そして君の親戚、そこに君の友達二人の両親が来て、その姿で君と友達は、あの七五三のときのように写真を撮っていた。

 家の前で写真を撮り、僕の前で写真を撮った。これもすぐに曖昧な記憶となって、僕から消えてしまうと思うと、悲しい。

 そろそろ行こうか。と君と友達、三人横一列に並んで、両親と親戚に何かお礼のようなことを言った。それを聞いてか、君のお母さんとおばあさん、友達のそれも同じように、涙を流して、それをハンカチ拭いながら微笑んでいた。君のおじいさんは声を上げて泣いていた。

 それを君と友達は、なだめながら家の庭を出た。

 君が一番最後に、ここを出ていく。

 おめでとう、僕は君たちを祝福しよう。心から。そしていつまでも僕は君を見守り続ける。

 君が何かに気付いたように歩く向きを変えた。忘れものでもしたのだろうか。君は先に行っていてと君の友達に声をかけて、小走りに駆けてきた。庭の入口を開け中に入って、僕の方を向いた。そして。

 そして、僕の幹から伸びて枝から分かれる、すっかり葉が散りきった小さな枝を折って、腰の帯にそっと、挿した。

 君が、僕に向かって、言った。


「行ってきます」


あとがき         


皆さんこんにちは雨池蓮葵です。

 今回描かせていただきました「白」のテーマは、一応 想い です。なんでタイトルが白かっていうと、だれかを想う気持ちってなんか白っぽい感じがするじゃないですか。

 もっときれいな感じで描きたかったのですが、なんだかストーカーの話みたいになってしまいました。思いついたときは、いい感じだなと思ったのですが。

ちょっとショックです。

 

 ここからは、「白」の補足ですが

 最後まで読んでくださった方で何がなにやらよくわからなかったというような方もいたのではないかと。

 私は、あとがきでネタバレする作家とか、大嫌いなのですが、ここであえてネタバレします。

 申し訳ありません。

 つまりですね、「白」の語り手は、「君」の家の庭に生えた木です。わかっていただけたでしょうか。最後に全部がわかるようにはしたつもりなのですが、後で読み返すとよくわからないことも多くてこちらのほうで補足を入れました。



 実は、植物には少なからず、感情があるらしいんですね。

 たとえばこんな話、カルフォニア州のサンタローザにある、とある苗木店のオーナーが、サボテンに「怖いことはないよ…。体を守るトゲは必要ないんだ。何故なら私が君達を守っているから…」と必ず毎回話しかけて育てたら、本当にとげの生えていないサボテンが育ったそうです。

 他にも、東京の八王子のとある農家では、メロンにモーツァルトを聞かせて育てる実験を行ったところ、平均より非常に糖度の高いメロンが、出来上がったそうです。同様にイチゴやトマトも同じような結果が出たそうです。

 


 実はアメリカの嘘発見器の第一人者であるバクスター氏が、植物に嘘発見器をつけた実験を行っています。

まずドラセナという植物の葉を熱いコーヒーに浸けてみたところ反応はほとんどなかったようなんですが、今度は口に言葉として出したり実際に行動せず、頭の中 で熱いコーヒーに浸ける想像をしてみると、驚いた事に針が振り切れるほどの反応があったといいます。葉を火で焼いてみた時よりも何度やっても想像した方が 大きな反応を示したようなんですね…。

 バクスターは間違いなく植物にも感情があり、特に人間の感情を読み取る能力に優れているという研究結果を発表しています。それを示す私達でも出来る簡単な実験があるようで、観葉植物にクラッシックやリラクゼーション音楽を1週間聞かせるとその葉はスピーカーの方向へ 寄って行き、ハードロックやヘビーメタル等の激しい音楽には葉は背を向け、時には枯れてしまう事もあるようなんです…。



 はい、途中から豆知識みたいになってましたが、あとがきでした。

 最後まで読んでくださった方々、どうもありがとうございました。

 また、ここをこうすればもっとよくなるなどのアドバイスや、ここが嫌だったなどの批評は、どんどん書き込んで下さい。

 それと、ツイッターも、雨池蓮葵の名前でやってますんでそっちにもどんどんフォローください。

 改めてありがとうございました。




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