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循環するモデル 2 基本はこんな

 思考する為のモデルとして、5人のみが存在する経済社会を考えます。そして、そこに存在する生産物は、取り敢えずはAというモノ一つであるとしましょう。

 5人はそれぞれ一個だけ、生産物Aを生産しているのです。

 ここに通貨を存在させてみましょうか。本来なら、これだけ小規模で、生産物が一種類しかない社会には通貨は必要ないですが、循環するモデルを考える上では有用なので設定してみるのです。

 5人は生産した生産物Aを、それぞれ一個ずつ買っているとします。生産物Aの価格を10円とすると、5×10円で、この小さな経済社会全体を流れる通貨は50円となりますね。

 自分で生産したものを、自分で消費する。もっとも単純な通貨循環です。とっても考え易いですが、これではほとんど何にも分かりません。

 ですので、これをもう少し複雑にしてみましょうか。

 先に、作業の分化の話をしましたが、作業を分化するというのは、生活者達が別々の仕事を行う事です。ですが、ここで生産物Aを生活必需品にすると、一人につき一個しか生産物Aを生産できないという生産効率では、作業分化は実現できません。

 誰かが生産物Aを作るのを止めてしまうと、社会全体での最低必要分五個の生産量が確保できなくなってしまうからですね。とてもじゃないですが、別の作業をやっている暇はない訳です。

 ですので、技術革新を起こしましょう。

 生産物Aを一人につき、5個生産できるようになったとするのです。すると、生産物Aを生産するのは一人でよく、後の四人は余る事になります。現実社会で考えるのならばこれは失業者ですね。

 失業は、知っての通り深刻な社会問題の一つです。つまり、生産効率が上がった事で、問題が発生してしまった事になります。

 ですが、この問題を解決する為にはごく単純な方法があります。新たな生産物Bを誕生させましょう。そして、この生産物Bを、失業者となった四人に生産させたとすると、再び職を得る事ができます。

 気付いていると思いますが、この状態は、作業分化を実現できてもいるのです。

 生産物Aと生産物Bを生産する作業を分けています。もちろん、それ以後もこれは繰り返し起きます。

 生産効率向上 → 労働力が余る → 新生産物の誕生 → 生産効率向上…

 といった経緯を繰り返すのですね。

 現実社会でなら、これは、例えば食物を得る事に集中をしなければなかなかった時代に、農業という技術革新が起き、労働力が余った事によって別の生産物…… 服や、建築物や、生活雑貨が誕生していったという歴史的経緯に当て嵌められます。

 さて。

 とっても単純ですが、ここでの通貨の循環の変化も、一応観てみましょうか。

 生産物Aのみを5個生産し、5個消費している社会だと、10円×5個で、50円。通貨の循環は説明するまでもなく、生産物Aに対して10円ずつ労働者消費者間の流れがある事になります。

 次に生産効率の向上が起こります。

 一人で生産物Aを5個生産できるようになった状態ですね。

 これは最初の一回だけは全員が生産物Aを消費できるので、消費者10円→労働者10円となりますが、労働者から消費者への通貨の流れは断ち切られてしまっています。説明するまでもなく、四人が失業者になってしまっているからですね。つまり、生産物Aを生産している一人にのみ通貨50円が集中をしてしまうのです。収入のなくなった四人はそれ以降、生産物Aを消費できません。

 すると、生産物Aは余る事になります。

 現実社会ならば、供給過剰になった生産物Aの値段は下がる事になるでしょう(要するにデフレ状態です)。

 この状態で生産物Bが誕生しなければ、一人に過剰集中している通貨50円の循環場所がなくなります。一人には、生産物Aを1個消費する以外の通貨の使い道がありません(もちろん、生産物Aの需要限界が1個だとした場合の考えですが)。すると、やがては生産物Aの価格は50円に上がるでしょう。

 つまり、デフレ状態が進行すると、通貨の循環が一部に集中をする事によってインフレ状態に陥ってしまう事が、このモデルから導けるのです。

 (因みに、このデフレからインフレへの移行という流れは、物価価値に対しての通貨価値の下落、という表現で既存にある経済学でも同じ結論が得られています。この事は、このモデルの正しさを示す証拠の一つになるかもしれません)

 この状態は所得格差が開いた恐慌状態とも表現できますが、しかし、ここで新たな生産物Bが生まれ、それを四人が生産するようになると、この状態には陥りません。

 仮に、四人で生産物Bを1個生産したとしましょう。価格は40円とします。すると、生産物Bに対して、40円分(一人につき10円)の通貨の循環が復活する事になります。

 因みに、生産物Aのみだった時代から、生産物Bが増えるようになると、通貨の循環が増え、経済も発展している事が分かります。

 (先にも似たような説明をしましたが、強調する意味でもう一度繰り返します)

 工業化などによって生産効率が上昇する事によって経済社会が発展し、それと共に、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、テレビ、車、パソコン、携帯電話… と様々に生産物の種類が増えていった現実と、これはしっかり重なるので、このモデルが適応できる事は疑う余地がないと判断できます。

 つまり、生産効率向上によって、余った人手で別の生産物を生産する。それによって、通貨の循環場所が増え、経済発展が起こる。それが経済発展の基本的な流れであると考えられるのです。

 生産物の種類は、A、B、C… と経済発展と共に増え続ける事になります。

 生産物に需要の限界がある、と設定した場合のみ成り立つ結論ですが、現実社会で需要に限界がない生産物など有り得ないでしょう(実は、この需要に限界がある、という設定は重要な意味を持ちます。次章でそれを詳しく説明します)。

 

 ……因みに、賢明な方はもう気付いているかもしれませんが、この経済発展の流れで、景気循環を表現できてもいます。

 もしかしたら、景気の循環にはこういった要因もあるのかもしれません。少なくとも一つの説には成り得るでしょう。

 ただ、ある一定の波がある事から予想された、景気循環が経済的な要因によってのみ起こっているという想定には、一つ誤りがあるのですが。

 複雑系科学で、カオス結合系という概念があります。複数の複雑な系を繋ぎ合わせたモデルですが、これを展開すると循環が現れる事が知られています。

 つまり、現実の景気循環の波も、経済以外も含めた様々な要因の相互作用によって現れている可能性がかなりあるのですね。

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