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循環するモデル 1 考え始め

 ……えっと。

 普通に理論を語り出してしまっても良かったのですが、それだけじゃ出来得る限り面白い読み物を目指すって目的が果たせそうもないな、と思ったので、どういった経緯で僕が今から説明する“モデル”を考え出したのかって事から、まずは説明し始めたいと思います。

 先にも述べたように、僕は複雑系科学の発想に刺激を受けました(その存在を知った当初、充分に理解できないまま、本を何冊も読んだりしていました)。それで、コンピュータでモデルを作成して、それを展開、なんて事はできないにしても、何か自分で似たようなものを考え出せないものだろうか、なんて思ったのです。

 まず僕は複雑系科学の、“自己相似性”という概念に着目をしました。

 自己相似性とは、どんなスケールで観ても、同じような図形が現れるといった性質の事です。

 一番、典型的な例として用いられるのは海岸線でしょうか。

 海岸線は、規模を大きくして、大陸並の視点で観るとギザギザな形をしています。で、その一部を拡大して、一地域スケールの視点にしてもやっぱりギザギザしている。で、それを更に拡大して、目に見える範囲の視点にしてもやっぱりギザギザしています。つまり、どんなスケールで観ても、似たような形が現れるのですね。

 その他にも、例えば木一本を観ても、その木の枝一本でも、更に小さな枝一本でも似たような形をしていたり(もっとも、植物の種類によってはそうでもないのですが)、雲の一部と全体で、やっぱりに似たような形をしていたり、なんて自己相似性の例があります。

 これを知った時、僕は生物にもこの自己相似性があるのじゃないか?と考えました。

 もちろん、細胞一つと人間の身体全体は似ても似つかないので、それをそのまま当て嵌めると自己相似性はないように思えます。しかし、そういった具体的な対象ではなくて、考えをもっと抽象的に扱えば、自己相似性が観られるのじゃないか、と考えたのです。

 僕は生物の身体そのままではなく、生物の機能に着目をして、自己相似性を考えました。

 単細胞生物を観てみましょう。

 最近の説だと、単細胞生物も、複数の生物が結合して誕生した可能性が濃厚であると考えられているらしいです。

 酸素を吸収する為のミトコンドリア、光を合成する葉緑体、防御を行う膜、これらは本来はそれぞれ別の生物だったというのですね。

 つまり、それぞれがそれぞれの機能を担当しつつ、一つの生物体となった…… 作業の分化を行ったと言い換えてもいいでしょう。

 その単細胞生物達は、やがて同じ単細胞生物同士で群れて細胞群体というものを形成するようになります。そして、そこから多細胞生物へと進化をする訳ですが、ここでも、作業の分化を行っています。

 動きを担当する細胞群(ひれや足など)、呼吸を担当する細胞群(えらや肺)、食物を食べる細胞群(口)、などなど、と。

 そして、今度は同じ多細胞生物同士で群れ始めるのです。すると、今度もまた、作業の分化を行い始めます。

 もう分かると思いますが、ただの群れから生物は作業を分化する事によって“社会”を形成するようになったのです。アリを観ると分かり易いですが、機能を生得的に分けています。生殖を担当する女王アリ、攻撃、防御を担当する、兵隊アリ、餌の摂取や巣作りなどを担当する働きアリ。

 人間社会でも、これは分かり易く現れています。農業地域や商業地域、工業地域、と作業を分化していますし、国単位でも、農業国、エネルギー資源供給国、加工国、と作業の分化を行っています。

 そして、もっと大きな範囲でも、生物は作業の分化を行っていると考える事も可能ではないか、と僕は想像しています。

 生態系。

 生物は、それぞれの役割を担い、作業を分化する事によって、生態系を形成しています。

 “地球は一つの有機体のようだ”

 ガイア理論ですが、或いはこれの正体の一つは、生物全体の作業分化なのかもしれません。

 これが事実だとすると、単細胞生物から生態系の全てにおいて、生物には自己相似性が観られる事になります。もちろん、作業の分化、という自己相似です。どこを観ても、作業の分化が行われています。

 ここまでを考えて、僕は別の方向に思考を進めました。この発想を実のあるものにする為に、作業分化モデルを作ってみたいと思ったのです。作業分化モデルを作る為には、そこに何が起こる事によって、作業分化システムが成り立っているのかをまずは考えなければなりませんでした。

 まずは生態系で僕は考えました。生態系といえば、循環です。養分→植物→動物→分解者→養分→植物… と、生態系では物質が循環しています。そして、それぞれに物質が渡っていきエネルギーが運ばれるからこそ、生物は生きていられるのです。逆に言えば、物質が循環しなければ生物達は生きられない。つまり、作業を分化して行う為には物質が循環する事が必要なのです。多細胞生物一体を考えてもこれは同じ事が言えます。体内に取り入れた養分が身体中を循環する事で、各細胞は生きていられる。動物では血液によってこれが行われているのは、疑うまでもない事実でしょう。

 では、人間社会はどうでしょうか。作業の分化が行われる為には、直接的には食物を生産しない人間にも食物等が供給される事がどうしても必要になってきます。小さな社会ならば、直接的な労働力の供給で、代わりに食物を与え合うといった事も可能になってきますが(人間以外の動物社会も基本的には、同様のはずです)、大きな社会ではそれは無理です。食物を供給させる為には、循環させる為の媒介が何か必要になるはずです。

 僕は、その循環させる為のものは“通貨”であると考えました。そして、多様かつ複雑な生態系や生物体などを題材にするよりは、人間社会の通貨を題材にして、このモデルを作成する方が、より現実的であると判断したのです。

 生態系や生物体だと、循環させる媒介物は複数設定しなければならないでしょうし、性質や量なども、それぞれ分けて考えなくてはいけません。とてもじゃありませんが、思考する道具としてのモデルは構築できそうにはない。題材には適さないでしょう。

 それに対して、人間社会の通貨ならば質の違いはありませんし、国際取引を無視するのならば、一つ設定すれば充分なはずです。

 もっとも、人間社会の通貨循環を題材にしたとしても、抽象概念としては同じ循環モデルな訳で、そこで得られた結論はそのまま生物体や生態系にも、用いる事が可能な部分は用いる事ができるはずなのですが(ま、それが有用なものになるかどうかは、また別問題なんですがね)。

 とにかく、そんな理由から、考えられる限りで、一番、単純で扱い易そうな“経済社会”を題材として、僕は循環モデルを作ってみる事にしたのです。

 ……と、ここで少し断っておきます。ここまでを説明すれば、もう分かると思いますし、先にも一度書きましたが、僕が考え出したのは、本質的には抽象概念です。つまり、僕自身は経済の専門家でも何でもありません。経済論文を書いてはいますが、ただの素人です。ただし、それを経済という具体的な対象に適応させる為に勉強をしたので、何も勉強をしていない人に比べれば、多少は知識等を持っている事は持っているのですが。

 何度か説明していますが、根本にある抽象概念を変えると、別の視点から物事を観る事が可能になるので、素人でしかない僕でも(別の抽象概念さえ持っていれば)、何か発表する価値のあるものを提示できるのですね。だから、こんなものを書いているのです。

 (因みに、複雑系科学を研究している数学者や物理学者が、生物や社会学といった全くの別分野で業績を残しているのは、別の抽象概念を持っているからです)。

 では、次に、いよいよ、実際にそのモデル自体を説明し始めたいと思います。

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