まだ、でも・・・
短編です
部屋の入口付近に置いている棚の上、そこに鎮座する、ちょっと大きめのクマのぬいぐるみ。ふわふわで、柔らかくて、見るだけで私を癒してくれた。
でも、意を決して、この子を袋に入れた。
「お前の部屋、殺風景だな!」
そう言った彼の言葉がまた鮮明に蘇る。やっぱりこれだけでも、と思う気持ちをグッと堪えて、袋に押し込んだ。一応、ぬいぐるみだし、お寺に持って行って、供養してもらおうかな。えぇい面倒だ、買取に出してしまおう。
さて、次は、とクローゼットを開くと、白と黒ばかりの服の中に、ひときわ目立つピンクのフリフリの服が目に付いた。あぁ、以前はこういう服が好きだったなぁ。でも彼が白と黒のシンプルな物が好きだったし、付き合ってすぐの頃、私に自分好みの服をプレゼントしてくれたんだっけ。奥の方で少しだけ埃をかぶっていたその時の服を見つけ出し、目を閉じながら、袋に入れた。今は古着の買取をしているところもあるから、持ち込んでみよう。他の服も意を決してどんどん放り込む。
彼との思い出が詰まった服たちをすべて入れてしまうと、私の好みの服は、ほとんどなくなってしまっていた。
さて、次だ。
キッチン周りにも、彼が置いていったものが沢山ある。料理ができる男は格好いいからって理由でフライパンやらを買ったが、自分は料理をしないからって、私の部屋に持ち込んできた料理器具たち。私だって、料理あんまり得意じゃないけど、彼が食べたいって言うから、この鍋たちを使って、懸命に料理した。でも彼には、「あんまり美味くない」なんて言われたんだっけ。
ちょっとした怒りが湧いてきたから、すぐにこの辺は袋に詰められた。これだって、買い取ってもらって、金に換えてやるんだから。
こうして見てみると、彼は実にたくさんの物を置いていったんだなぁ。
部屋を見渡すと、片付けてしまったことで、本当に殺風景な部屋になってしまった。つまらない女、ソレが別れるときに彼に言われた言葉だ。その言葉が、また蘇る。
嫌なことも沢山言われたし、されてきた。でも私は彼に尽くしてきた。それだけ彼が好きだった。彼の好きなものを身につけて、彼が喜ぶように料理を覚えて、彼の趣味に付き合った。でも彼は、私をつまらないと言って、別の女のところに行ってしまった。
泣いて、泣いて、悔しくて、苦しくて、ずっと泣いて。
今日、ようやく決意が出来たんだ。思い出すと、この決意が揺らぐ。
手放そう。彼からもらったものを全部。
ぬいぐるみも、服も、調理器具も、生活に入りこんだ何もかもを、捨ててしまわなければ、またつまらない泣き虫の私に戻ってしまう。
鼻を詰まらせている暇はない。
友人に手伝ってもらって、すべての物を運び込み、買い取り業者に持ち込んだ。
結局、彼が残した物は大した金額にもならなかった。
「・・・こんなもんかぁ」
レシートを見て、持ち込んだものの量と、金額を比較する。でもこれでよかったんだろう。
「ね、美味しいモノでも食べに行かない?」
「・・・・いいね、今日は私の・・・ううん。あいつの奢り!」
「えぇ~じゃぁ大したもの食べられないじゃ~ん!」
「確かに!」
——大丈夫、私今笑えてる——
ゆっくり、確実に




