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異世界でこんにちは(1)

 薄暗いランプの下でゲオルクを黙って見ていたイルゼは小さく口を開いた。

「力を過信する人は、力に溺れるのよね」

 力を自慢するあまり、それが仇となったゲオルクはイルゼに殴られた気分だった。

 今できることは、あの子が助かるのを神に祈るだけだ。

 二人は小さな十字架を握り締めるとひたすら祈った。

「神様、あの子をお救いください」


 翌日、ゲオルクはイルゼとともに診療所を訪れ、看護師に子供の容態を尋ねた。

「あの子の様子はどうですか」

「今日も朝からシュナイダー先生がヒーリングを施してますが、まだ意識が戻りません」

 二人はうなだれたままとぼとぼと帰途についた。


 二日目、子供の意識が戻ったことを知らせに看護婦がゲオルクのところへ来た。

「意識が戻った?」

「ええ、ですが、まだ話ができる状態ではありません。ただ、うめくばかりで言葉になりません。本当に見ていて辛いです。ですが峠は越えたとか」

 それを聞いたゲオルクとイルゼは安堵のため息を吐いた。

「会えますか? 一言謝りたいのですが」とゲオルクが聞いた。

「まだ、お許しが出てません。面会ができるようになったらお知らせしますが……」

「が?……何か?」

「まだ人を怖がっているみたいです。ましてやゲオルクさんを見たら引き付けを起こすかもしれませんので当分は無理です」

 それだけ言うと看護婦は帰っていった。


 三日目、柔らかいものなら口にできるようになった。


 四日目、容態は安定し、寝ながらも体を動かすようになった。

 シュナイダー先生はその回復力には目を見張った。

「ヒーリングの効果は確かにあったとは思うが、これほどの回復は驚くべきことだよ。何かしら特別な力を持っているかもしれん」

「二年近くも森の中を彷徨って無事だったと聞きますので、それは本当かもしれません。考えただけでも恐ろしいです、私なんて」

 看護婦は身震いする。

 そんな話をしていると、眠っていた子供が呻き声を上げ始めた。

 シュナイダーと看護婦は子供を覗き込んだ。

「どうしたんでしょう? この子、苦しがってます」

「ザイゴウノ・ヒ・ツ・ギ……」 

 子供は譫言を繰り返した。

「なんでしょうか、ザイゴウノヒツギって」

「さあ、わからんね。怖い夢でも見ているのかね」

 その直後、診療所の玄関の呼び鈴が鳴った。

 シュナイダーが怪訝にドアを開けるとそこにゲオルクが立っていた。すると、眠っていた子供が飛び起き、悲鳴を上げ、足をばたつかせて逃げようとする。

「いかん、ゲオルクの気配に気付いて怯えておる」

 看護婦は子供を抱き寄せると力強く抱きしめた。

 シュナイダーはドアのところでゲオルクを足止めした。

「まだ早いようじゃ。もう少し待て」

 ゲオルクは悄気たような顔で戻っていった。


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