俺、思い出したんだけど(3)
絶対俺をバカにしている。そんなことで俺の心が揺らぐものか。
「しかも、お前には特別な能力を与えてやるといっておるのじゃ。決して損な話ではないと思うが」
俺の心の天秤はあっけなく傾いた。もちろん異世界の方に。
「死んだ者にはすべてそうするんですか?」
「そうではない。お前さんは特別じゃ。好きで傭兵になったわけではなかろう。騙されて……騙されたのはお前さんの自己責任でもあるが、それでも、今までろくなことがなかったじゃろ。本来ならうまくバランスを取った人生を構築するもんだが、ちょっと手違いがあってな。運命の脚本家がぼんくらでな……まあ、わしが責任を取っての配慮でもある。それにお前は無垢じゃ。扱いやすいというのも理由じゃな」
「手違い? 配慮? 無垢? バカで扱いやすいということか」
「わかりやすくいえば……そうじゃ」
——否定できないのが悔しい——
「でも、そんな不公平な人生で無垢な人間って僕だけじゃないはず」
「そうじゃな、なぜお前か? 特に何の取り柄もない、努力家でもないお前になぜか……それはな、七人の魂を背負ったからじゃ。お前は傭兵として赴任し、トラックの運転を任された。そこでお前は道を間違えた。本来の行くべき道を間違え、右へ行くところを左へ進んだ。右と左もわからんとは情けない。右へ行けばよかったんじゃが……そこで敵の攻撃に遭遇し、仲間であった七人全員を死亡させた。道さえ間違えなければ今でも生きておる。愚かじゃな。その贖罪のため、その分まで生きて働かねばならん。もちろんわしも手助けをする。わしはお前に様々な力を与えよう……」
「チート能力ですか?」
「さあ、そこまでは保証できん。努力次第じゃ」
「死んだ他の者は?」
「それぞれ個別の道を歩んでおる。大半はお前さんを恨んでおるようじゃな」
「つまり罰ということですか?」
「罰というほどのものではない。自らが選んだ運命、過失が大半じゃからな。言い換えれば、人間への罰じゃな。お前さんは人間代表というわけじゃ」
「わかったようなわからないような。断ることができないのなら、だったら、死んだ時より若い肉体がいいんですけど」
「いくつくらいじゃ?」
「十六くらいかな……」
このころが一番多感な時期だ。不遇な時期をやり直したい。イケメンとなってもう一度この時代を満喫したい。
——そう思って何が悪い——
「そして、……ブロンドヘアーで青い目、甘いルックスで身長が180センチ。ナニも大きく、精力絶倫で……」
「開き直った途端欲深くなったな。……すべてを叶えてやれるかはわからん。できるだけ意に添うようにしてやるが、その世界でもっとも有効に使える肉体が与えられる。いくつかの候補はもう選んである……どちらにしても、あちらへ行けば今の記憶は消えるが。ふふふふふ」
「なんだって?」
「いや、なんでもない」
——この神、どうも胡散臭い。なにか企んでいやがる——
しかし、ここまで来たのなら拒否できそうにない。受け入れるしかないようだ。
でも、罪業の柩とは……この世界を根底から覆す?
手にあるのはその箱の鍵ということか?
俺は、世界を根底から覆す鍵を握っているということか……。俺は支配者か? よくわからんが……
もう少し説明があってもいいと思うのだが。
ところで、特別な能力とはなんだ? 異世界に来ると何らかのスキルが備わるものらしいが、特に何かができる感じはしない。
手を広げて念じても火も水も出る気配はない。




