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俺、思い出したんだけど(1)

 アラタ。俺は妻吹アラタ、だった。

 何気なく出た名前だったが、今、はっきりと思い出した。

 俺は死んだのだ。あの爆発で。

 俺は東京在住の二十三歳。

 近県の出身で、生まれてから高校まで地元で暮らした。

 内気な性格だった。一人で本を読んだり、プラモデルを作ったり、ゲームをやったり、ラノベの世界に浸ったりするのが好きで、中学卒業すると地元の三流高校へ入学するも、いじめられるのが怖くてほとんど通学した記憶がない。

 実際にいじめられたかどうかはわからないが。

 それでも卒業できたのが不思議だ。

 先生がプリントを届けてくれたり、レポートの提出で単位をくれた。

 先生のおかげだ。先生ありがとう。

 そんなことどうでもいいのだが……


 その後、就職が決まって東京へ出てきて一人暮らしを始めた。

 仕事は某大手通販サイトのピッキング作業だ。

 指示書に記載された商品を探し出して、箱詰めして出荷する仕事だ。

 一週間で辞めた。

 あれほど広い倉庫を駆け回る作業とは思わなかった。

 商品は数十万種類とあるのだ。気分が悪くなって三度倒れた。

「君には向いてないな」と言われる前に辞表を出した。

 俺にもプライドがある。

「こんなとこ辞めてやる」と小さな声で怒鳴った。

 主任は「はいはい」といって笑顔で辞表を受け取った。

 その後はアルバイトを転々とした。

 リフォーム業者の手伝い。交通誘導、居酒屋の洗い場、いずれも半年と続かなかった。

 さらに転々とし、そして直近でコンビニ店員。

 コンビニで働いているとき、三歳年下のハルカと出会った。

 彼女も地方から出てきて一人暮らしをしていた。

 同病相憐れむのたとえがあるように気が合った。と思っていた。

 そこで、俺は彼女に正式に付き合いを申し込んだ。

「お、俺と付き合ってく……」

「冗談でしょ。調子に乗らないでよ。このちんちくりんブサイク」

 告白を言い終わらないうちに断られた。

 そうだ、俺はちんちくりんブサイクだ。だった。

 なぜ世の中はこれほどまでに不公平なのか。

 その言葉を最後に、彼女はアルバイトに来なくなった。

 俺は、店のストロング酎ハイ五百ミリリットル五本をかっぱらって帰宅し、やけ酒を煽った。全部、飲み干した。さすがに死ぬかと思ったが生きていた。

 翌日、店長からクビの宣告を受けた。当然だ。

 その翌日からアルバイトを探す日々が始まった。

 そして見つけた時給五万円。

 電話をするとすぐに話がまとまった。

 集合場所は成田空港。俺は外国へ連れていかれたわけだ。

 そのとき、実は薄々そんな気がしていた。

 あれだけニュースで騒がれていたらどんな鈍い人間でも気づくというものだ。

 だが、ちょっと違った。

 俺が連れていかれたのは戦場だった。

 某国と某国の戦争に傭兵として駆り出されたのだ。

 一週間の基礎訓練の後、トラックの運転を命じられ最前線へ向かうように指示された。

 しかし、途中、敵国のドローン爆弾によって俺の体は四十九個の肉片に分かれることになった。

 一瞬のことで痛み苦しみは感じなかった。これは幸いだったが、同乗していた仲間七人も同じ運命をたどった。

 記憶はそこまで。


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