魔物退治(2)
——この影は僕をどこかへ導こうとしているんだ——
この影を操る母体が近くにあると思った。
エルンはその黒い影を追った。
影はエルンがついてくるのを確認しながら森の奥へと進んだ。
しばらく行くと荒れ果てた小さな小屋があった。
「なんだ、このぼろい小屋は?」
ガルディが様子を見に戻ってきた。
もう何十年も放置されたような崩壊寸前の小屋だ。
「この中からさっきの魔物の妖気が漂っています。入ってみましょう」
「お前、妖気を感じるのか?」
「わかりません。自分でもまだ自分の能力がわかってませんので」
エルンは朽ち果てたドアを開けると足を踏み入れた。
床が腐っていてうっかりすると踏み抜きそうだ。
「ガルディさんは外で待っていてください。床が抜け落ちそうです」
ガルディの屈強な体には耐えられそうにないと思った。
屋根がところどころ穴が開き、明かりが漏れるが、部屋全体を見定めるには少々時間がかかる。
目が慣れると部屋の状況がわかった。
ここは狩りや農作業の準備をするための作業小屋だろうと。
朽ちて雑然とした家具やテーブルの向こう側から妖気が漂う。
なにかが瓦礫に埋もれている。エルンは近づくと手早くそれを掘り出した。
出てきたのは骨だった。
何らかの獣のようではあるがエルンには初めて見る形状の骨だ。
エルンは、その骨を手に取り、じっと見つめた。
すると骨の記憶が心の中に映像として再現された。
——これが僕のスキル?——
エルンは骨を搔き集めると手持ちの袋に詰め込んだ。
外では暇を持て余したガルディが剣を振り回している。
「どうした。何があった」
「骨を見つけました」
「骨なんて珍しくもなんともねえ」と言いながらもエルンが手にした袋の中を覗き込んだ。
ガルディは頭蓋骨を見るなり言った。
「これはデザトウルフの骨だ」
「デザトウルフ?」
「この周辺の人々が狩りに同行させる、勇敢で忠実な原種の姿を残した狼だ」
「あの魔物の正体がこれですよ。これがご主人を待っていたんです。九十年もの間。狩りの途中でご主人が急用を思い出したようで、村へ一旦戻る時、ここへ残されたそうです。ご主人の名前はニコラス・オリヴァー。腕のいい猟師だったそうです」
「お前に、そんなことがわかるのか?」
「ええ……なぜかわかるんです。これが僕のスキルなのかな」
「そんなことは俺にはわからんが、わかるのならそうなんだろう。この狼、捨てられたって可能性もあるんじゃねえのか、その恨みか?」
「それはないと思います。弓と矢が残されていました。猟師が命の次に大事な物を取りに戻らないことなどないはずです。帰ったときにご主人に何かが起こったんですよ。たぶん」
「確かにそう考えると納得できるが……で、その骨をどうするんだ。骨スープの出汁にでもするのか? ちょっと古すぎやしねえか」
エルンは憮然としてガルディを睨んだ。
「冗談だよ。デザトウルフのスープなんて聞いたことねえ。まずそうだ」
「ご主人のところへ返してやろうと思うんです。ちょうどこれから行く村シュバイゲンらしいですから」
「お前って、おめでたい奴だな」
「僕って、もともとこんな人間じゃなかったんですけど」
「転生して変わったのか? それともお前自身が本当の自分を知らなかっただけかもな」




