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エルン、カモになる(2)

 ラウンジへと降りると先ほどのガルディが窓際のテーブルで手を振っている。

 エルンはそのテーブルへとむかい席に着く。

「エルンとか言ったな、いくつだ?」

「十歳になりました」

「十歳で旅か?」

「街まで行きます」

 後ろのテーブルの男がエルンの耳元で言った。

「その女、ヴォルフガルド族の女だから気をつけろよ。坊主、食われちまうぞ」

「人間はまずいから食わねえんだ」

「まずいってことを知ってるってことは食ったことあるってことじゃねえか」

「吐き出したんだ。これ以上、話のじゃまをするな」

 ガルディは牙を見せて睨みつけた。

 後ろの男は顔を歪め、慌てて口を噤んだ。

 ガルディはエルンへと目を戻した。

「さっき三千デリラ得しただろ。俺な腹減ってんだ……なんだその目は」

「いえ……じゃあ、何か注文してください。僕がお金、払っておきますから」

「そうか、悪いな、催促したみたいで」

 ガルディは「おい」とウエイトレスを呼ぶとメニューを見ながらいくつかを指さした。

「これとこれとこれ、一つの皿でいい。すべてレアで。お前もなんか頼め。俺だけ食ってると変だろ」

「じゃあ、ミルクとサンドイッチお願いします」

「お前、いいとこの坊ちゃんか?」

「いえ、いろいろあって鍛冶屋の息子ということになってます」

「なんだそりゃ。まあいいが」

 ウエイトレスが戻っていくと話は本題に入った。

「それで相談なんだが。俺、お前に雇われてやる」

「雇われてやるって?」

「お前、これから街へ行くんだろ。グラッドシュタットだろ」 ガルディはエルンの表情を見ながら話した。「そこまで行くにはお前の足では、まだ三日はかかる。その間、盗賊や魔物が出ないとも限らない。つまり、用心棒になってやるっていってるんだ」

 確かに子供一人で旅をすれば格好の餌食である。一人より二人。強そうな人を同行させれば危険を回避する可能性は高くなる。

「どうだ?」

 ガルディはエルンの顔を覗き込んだ。

 ちょうど料理が運ばれてきた。一皿に山盛りの肉料理だった。よい香りが漂った。

「いくらですか?」

「一日、一万デリラ。三日で三万デリラ。めんど臭えから五万でどうだ?」

——高い。高すぎる。どんな計算してるんだ?——

 ガルディの話は続く。

「それくらいの金は持ってるんだろ。金を全部取られることを考えると安いもんだ。下手をすれば命がなくなるんだぞ」

「でも、ちょっと高いような……四万デリラなら」

「よし決まった。それでいい。もちろん飯付きだぞ」

 はめられたと思った。最初に高い料金を提示して、それを値下げして商談成立に持ち込むわけだ。それでも安心を買うと思えばそれでよいかとも……。

 エルンは勉強になったと思った。

 後ろの男が再びエルンの耳元で言った。

「バカだなお前、そいつは肉さえ食わせればどこへでもついてくるよ。三日も食わなけりゃ死んじまうんだから」

「余計なこと言うんじゃねえ」 ガルディは口いっぱいに肉を頬張りながら叫んだ。「食うか、お前も。うまいぞ」 フォークの肉をエルンの口先へと差し出した。エルンが口を開けると「……やらねえ」と引っ込めて大口を開けて笑った。「お前って可愛いよな。本当に食いたくなってくる」

 食事代三七五〇デリラ。値切ってもらって得したつもりだったが、結局、高くついた。

 その夜、ガルディはエルンの部屋に泊まった。床に寝ることに慣れているので「ここでいい」と忍び込んできた。 

 ガルディは宿代まで浮かせた。


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