初めての弟子(3)
エルンが待ち合わせのクスノキの下へ行くと、フィリアはもうそこに来ていた。
座り込んで胸の前で手を受け皿のようにして目をつぶっていた。唇はわずかに動いている。呪文を唱えているのだ。
エルンが近づいても気がつかない。いや、気付いているのかもしれない。頑張っている様子をエルンに見せたいのかもしれない。
エルンがさらに近づくと、ゆっくりと目を開けた。
「全然無理なの」とフィリアは悲しそうに言う。
やっぱり気付いていたんだと思いながらエルンはその横に腰を下ろす。
「昨日と今日だよ。そんなに簡単にできるわけないよ」
「そんなことを言いに来たの」
「約束しちゃったから来ただけだよ」
「嫌なら来なきゃいいのに」
「来なきゃ怒るでしょ」
「当然よ。先生なんだからちゃんと責任持ってよ」
フィリアは目を閉じると再び呪文を唱え始めた。
エルンはその隣でフィリアの横顔を見ていた。呪文の途中で「見られていると気が散るんですけど」と挟んだ。
「ごめん」
エルンは先生のはずなんだけど、どうして弟子にこんなに気を使わないといけないんだろと内心思った。
しばらくそんな時間が流れた。
「そうだ。出来るかどうかわからないけど、ちょっと手を貸して」
エルンはフィリアと向かい合った。
昨日、ジータにむやみに魔法を使ってはいけないと言われたことを思い出した。どうしよう。でも、制限すればちょっとくらいいいかと思った。グロイエルやグリフスは何もしなくてもやって来るわけだから。ここに村があることはわかっていることだから。フィリアの気も引きたいし……。
「どうするの?」
フィリアは怪訝な顔を向けた。
「僕が魔力を貸してあげるから。それを使ってみて」
エルンはフィリアの手の下に手で受け皿を作った。
「いい? 魔力を送るからね。それを使ってみて」
「わかった」
フィリアは再び呪文を唱えた。
すると小さな光が現れた。
「出た」
「出たわ」
「そのまま集中して」
光は次第に大きくなった。
しかし、そこまでだった。
フィリアの集中力が途切れたらしく光は吸い込まれるように消えた。
「でも、できたじゃない。僕は念じてないよ。光を出したのはフィリアだよ。つまり、やり方は間違っていないんだ。あとは魔力量だけなんだよ」
フィリアは感動のあまり、全身を震わせ言葉を失った。
フィリアはエルンに抱き着いた。
勢いで草むらにごろんと転がった。
それでもフィリアは離さなかった。
「エルン、大好き」
エルンは思った。女の子の身体って柔らかくていい匂いがするんだ。そして暖かい。




