魔法の才能(3)
一週間ほどしてゼファイル村長がエルンの様子を見に来た。
「どうかねイルゼ、エルンの様子は。うまくやってるかね」
「ええ、初めのうちは表情が固くて食も細かったですが、徐々に打ち解けて笑顔が見られるようになりました。今ではお代わりをするようになりました。ゲオルクの仕事場にまでも付いて行くようになりましてね、ゲオルクなんて鍛冶屋の二代目にするって意気込んでます。本当の親子みたい」
「そりゃよかった。今日は、エルンはどうしてる?」
「今日は森の方へ行ってるみたいですが……」
イルゼの表情に戸惑いが浮かんだ。ゼファイル村長はその表情を見逃さなかった。
「どうしたね? 何か心配事かね?」
「心配事って程のことじゃないんですが、エルンってちょっと変わってましてね」
「ほう、どんなふうに?」
「あの子、魔法が使えるんです」
「ほう、……しかし、魔法が使える人は、それほど珍しくないと思うが」
「それだけじゃないんですよ。ゲオルクでも読めないような本を読んでわずかな期間で魔法を習得しちゃうんですよ」
イルゼは先日の出来事を詳しく話して聞かせた。
黙ってうなずきながら聞いていたゼファイル村長だったが、聞き終わってニヤリと笑みを零した。
「そりゃ楽しみじゃな。優秀な魔法師を村から輩出することは村の自慢になるでな」
「それで、村長さんにお願いがあるんですが」
ゼファイル村長はイルゼの内心を察したかのように口角を上げながらも黙って聞いた。
「どこからか魔導書を借りてきてくださらないかと。私やゲオルクではよくわかりませんので……」
「なるほど。エルンの勉強のために魔導書を集めてきてほしいと、そういうことじゃな」
「虫のいいお願いとは思いますが……」
「よし、わかった。わしが村中、いや、グラッドシュタットまで行って借りてきてやる。若い者を助けるのは年寄りの役目じゃ。任せておけ」
イルゼは嬉しそうに頭を下げた。
魔導書というのは高価な本が多く貴重なものだ。村にもあるにはある。職業に関わる魔導書を手に入れたり、先祖から受け継ぐ家宝のような魔導書も多いが、ほとんど活用されていないのが現状だった。なぜなら、特別な言語で書かれていたり、難解な文章で書かれていたりするものが多いからである。読み解くには時間と知識が必要となる。しかも、偽物も多い。時間を掛けて解読しても効力を発揮しないものもある。その魔導書が本物で、そしてそれが読めたとしてもその者に魔法が使えるとは限らない。生まれ持った素質と言うものが必要なのである。
「まずは村のありそうなところを当たってみるとするでな。しばらく待っていてくれんか」




