第24話 深夜のLINEグループ ~吸血鬼たちの井戸端会議~
深夜2時。
草木も眠る丑三つ時だが、吸血鬼にとってはゴールデンタイム真っ只中である。
今日の学校警備を無事に終え、風呂上がりにモンスターエナジー(カフェインレス)を飲んでいた俺のスマホが、断続的に振動を始めた。
通知元は、先日のパーティーで結成されたLINEグループ 『20XX年度覚醒組(新人の会)』 だ。
俺はベッドに寝転がりながら、トーク画面を開いた。
佐伯(学生):
お疲れー! みんな生きてる?
ミキ(学生):
おつおつー。今、ちょうど課題終わったとこ。
夜型生活だと集中できていいけど、昼間がマジで死ぬ。
今日の体育、見学したわw
運転手・高橋:
お疲れ様です。俺は今、ヤタガラスの巡回任務中。
ちょっと休憩入ったから、ロムる。
陽介(主人公):
みなさん、お疲れ様です。
俺も今、帰ってきました。今日の夜勤(部活)も平和でしたよ。
相原(学生・眼鏡):
みんな、夜元気だよねw
夜、時間あるから何してる?
私は最近、シミュレーションゲームしまくってる。信長の野望とか。
時間が無限にあるから、統一し放題だよ。
ミキ(学生):
分かるー。
うちはソシャゲかなぁ。今、5つ掛け持ちしてる。
イベント周回が捗りすぎてヤバいw
陽介(主人公):
5つ掛け持ちは、すごいっすねw
俺もゲームしてますけど、主にFPSです。
ちなみに、課金とかどうしてます?
ミキ(学生):
ヤタガラスでの給料で、廃課金してる。
初任給、全部ガチャに溶かしたw 親には秘密w
佐伯(学生):
草。
廃課金勢ワロタ。
でも俺も、新しいPC買っちゃったわ。ゲーミングPC最高。
吸血鬼の動体視力だと、FPSヌルゲーじゃね?
陽介(主人公):
それなw
あ、そういえば、俺、夜の学校警備に本格的に登録しましたよ。
実戦やってみて思うんですけど……吸血鬼ってチートですね。
かなり強いです。
田中(学生):
あー分かります!
身体能力が、そもそも違いますもんね。
僕も学校にいる「怪異ハンター」の子達と模擬戦やったんですけど、
めっちゃ 「チートだチートだ!」 って言われて引かれましたw
OL事務・佐藤:
怪異ハンターね……。
あー、なんかヤタガラスの説明会で聞いたな。
まだ会ったことないけど、そんなにいるの?
陽介(主人公):
そうなんですか? 俺は、学校に目覚めたヤツが居たから、
ヤタガラスまで連れていきましたよ?
運転手・高橋:
おお、偉いな久我くん。
俺たちヤタガラス就職組(実働部隊)からすると、怪異ハンターはかなり多いぞ。
廃ビルとか心霊スポット巡回してたら、高確率で遭遇するね。
「どうもー」みたいな軽い感じで、挨拶されるよ。
OL事務・佐藤:
へえー。仲良くやってるんですか?
運転手・高橋:
まあね。彼らは基本、遊び感覚だから。
怪異をハントしてるだけあって、強い人は普通に強いよ。
SSRの能力とか持ってるランカーは、特にね。
……ただ、やっぱり吸血鬼のチートっぷりには負けるね。
佐伯(学生):
やっぱそうっすかw
吸血鬼チートだよなー。
身体能力、俊敏性、動体視力。基礎スペックが全部強いもん。
あと、自己再生能力あるのがデカい。多少怪我しても、すぐ治るし。
OL事務・佐藤:
へー。
私は事務だから戦わないけど、
確かに時々「身体を動かしましょう」って訓練があるのよ。
で、講師の自衛隊上がりの人にしごかれるんだけど、全然平気なのよね。
筋肉痛にならないし、息も切れない。
相原(学生・眼鏡):
確かにチートかもw
体育の持久走とか、わざとゆっくり走らないと世界記録出ちゃうレベル。
ミキ(学生):
でしょ? 吸血鬼チート!
これなら多少の日光アレルギーも、我慢できるわー。
陽介(主人公):
でもさ、怪異ハンターの方がチートだろ。
アイツラ、ガチャで能力ゲット出来るし。
俺たちは修行しないと新しい技覚えないけど、あっちはボタン一つで火吹いたり、テレポートしたりするんだぜ?
佐伯(学生):
それはそう……。
ガチャ羨ましいわー。
俺もSSR欲しい。
田中(学生):
あ、話変わりますけど。
みなさん、日夜夜の学校警備してると、ホラー耐性付きません?
陽介(主人公):
分かるw
こないだテレビで心霊番組やってたけど、鼻で笑っちゃったよ。
「いや、その程度の霊圧じゃTier6下位だろ」って、冷静に分析しちゃう。
佐伯(学生):
分かるわー。
ホラー映画見ても、
「でもこいつ、俺からしたらワンパンだよな……」
って考えちゃうw
貞子とか出てきても、「実体化するまで遅いな、今のうちに斬れるわ」みたいな。
相原(学生・眼鏡):
確かになー。怪異ワンパンだもん。
みんな戦い方はどうしてるの?
私は自分の影を槍に変えて、グサッとやってる。
陽介(主人公):
影槍ですか! かっこいい!
俺はまだ、影の操作下手くそなんで……。
ちなみに、血を使う人っています?
野良エージェント・山本:
お、俺か?
俺は血を使ってるぞ。
自分の血を硬質化させて、血槍 にしてグサッ! とな。
陽介(主人公):
うお、山本さん! お久しぶりです。
血で槍ですか? それって血不足になりません?
貧血で倒れそうなんですけど……。
野良エージェント・山本:
あー、俺の能力が特殊でな。
「魔力を自分の血に変換出来る」 スキルがあるんだよ。
だから、魔力さえあれば無限に血を作り出せる。
血操作で無双してるよ。血が不足することはない。
陽介(主人公):
うわー強い……!
それ最強じゃないですか。無限ブラッドウェポン。
良いなー。羨ましい。
佐伯(学生):
みんな武器使ってるんすねー。
俺は普通に、ヤタガラス支給の特殊警棒使ってるわ。地味w
陽介(主人公):
俺は日本刀ですね。
学校の先輩から貰ったんですけど、これが一番しっくり来るんで。
運転手・高橋:
お、日本刀か。俺も日本刀だ。
やっぱり多いよな、日本刀派。
こないだ現場で会った同僚の吸血鬼も、二刀流で暴れてたよ。
ミキ(学生):
日本刀が多いんですかね?
運転手・高橋:
みんな日本刀使ってるね。
まあ日本だぜ? 日本刀だろ、やっぱり!
ハハハ。
相原(学生・眼鏡):
日本刀かっこいいもんねw
銃刀法違反にならないように「認識阻害」かけて持ち歩くの、ちょっと背徳感あって好き。
陽介(主人公):
ですねw
まあ、吸血鬼だから爪とか血で戦いたい気持ちも分かるんですけど、
リーチがある武器って、安心感すごいんで。
OL事務・佐藤:
男子は好きねぇ、刀とか。
私は催涙スプレー(対怪異用・聖水入り)を持ち歩いてるわ。
護身用だけど、Tier5くらいならイチコロよ。
陽介(主人公):
聖水入りスプレーww
それ、吸血鬼の自分にかかったらどうなるんですか?
OL事務・佐藤:
試したことないけど、たぶん肌荒れするわねw
気をつけなきゃ。
佐伯(学生):
草。
てか、そろそろ夜明け近いな。
みんな日中モード(虚弱体質)に戻る時間だぞー。
陽介(主人公):
うわ、本当だ。ダルくなってきた。
そろそろ寝る(ふりをする)準備しますわ。
お疲れ様でした!
運転手・高橋:
おう、お疲れ。
学校頑張れよー、若者たち。
俺はこれから始発で帰って、ビール飲んで寝るわ!
陽介(主人公):
(既読スルーしてスマホを置く)
「……ふぅ」
俺は画面を消し、天井を見上げた。
スマホ越しの緩い繋がりだが、確かに彼らは同じ「夜」を生きる仲間だ。
孤独感はない。
むしろ、全国に散らばる「チートな仲間たち」が、今日もどこかでワンパンしてると思うと、妙に勇気づけられる。
日本刀か、血か、影か。
戦い方は人それぞれだが、俺たちの共通点は一つ。
今日も誰にも知られず、日常を守ったということだ。
俺は布団を被った。
数時間後には、またあのだるい太陽の下へ出なきゃいけない。
おやすみ、俺の同族たち。




