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平凡な俺が吸血鬼に? 高嶺の花な彼女に連れられて、夜の街の掃除屋はじめます  作者: パラレル・ゲーマー


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第23話 SSRの実力と吸血鬼のチート感覚

 深夜の高校体育館。

 水銀灯が照らすフロアに、俺たちレギュラーメンバーと、昼間に登録を済ませたばかりの1年生二人が集まっていた。


「よーし、集合!」


 剣持先輩の号令で、全員が整列する。


 指揮官ポジションの皇かれん、メカ担当の美島さん、魔法少女の杖子(本名・高橋)、そして俺、久我陽介。

 その対面に、緊張した面持ちで立つ田中くん(男子)と佐藤さん(女子)。


「えー、今日からこいつらが新入りだ。怪異ハンター組の田中と佐藤だ」


 先輩の紹介に、修理屋の美島さんが興味津々で歩み寄る。


「おー! 怪異ハンター組は久しぶりだねー。よろしく!」


「よ、よろしくお願いします!」


「あれ、他にもハンターっているんですか?」


「うん。今のところ学校所属のハンターは君らだけやけど、3年生に一人いるかな。でもあの子、完全な一匹狼やし、滅多にシフト入らんから」


 美島さんは肩をすくめる。


「ま、そのうち会うこともあるかもね」


「さてと」


 剣持先輩が、二人の前に立つ。


「自己紹介も済んだし、まずは『手札』の確認だ。お前ら、アプリの『適性ガチャ』で何の能力引いた? まだ人前で見せてねえだろ?」


「あ、はい」


 まずは男子の田中くんが一歩前に出た。

 彼は少し恥ずかしそうに、スマホの画面を見せた。


「僕はこれでした……【身体能力強化フィジカル・ブースト】。レアリティはSRです」


 おお、SR。なかなかの引きじゃないか。


 先輩が頷く。


「なるほど、オーソドックスだな。だがハズレじゃねえぞ。むしろ当たりだと思うぞ?」


「えっ、本当ですか? なんか地味だし、SSRの派手な魔法とか憧れたんですけど……」


「馬鹿野郎。生き残る確率が一番高いのは、シンプルに身体が強い奴だ。応用も効くしな。ただし……」


 先輩は、田中くんの細い腕をバシッと叩いた。


「素の基礎体力が肝心だ。いくら倍率かけて強化しても、元がヒョロガリじゃ意味がねえ。今日から筋トレな」


「えーっ! アプリの力で強くなるんじゃないんですか!?」


「えーじゃねー。筋トレだ。まずは腕立て伏せと走り込みから始めろ」


 地獄の特訓コース確定だ。


 次に、女子の佐藤さんが手を挙げた。


「あの、私はこれが出ました……【空間転移テレポート】。レアリティSSRです!」


 SSR!!!!


 場がざわついた。最高レアリティじゃないか。

 画面には、金色のエフェクトを纏ったアイコンが表示されている。


「うわすげっ! 空間転移かよ」


 俺も思わず声を上げた。Tier4レベルで瞬間移動? バランスブレイカーすぎないか?


「空間転移か……。こりゃまた、とんでもないのを引いたな」


 剣持先輩も、少し驚いた顔をしている。


「間違いなく強いな。回避にも奇襲にも使えるし、移動手段としても優秀だ。……だけど」


 かれんが、冷徹に補足を入れた。


「制御が難しいわね。空間認識能力が高くないと、壁の中に埋まったり、空中に飛び出して落下したりするリスクがあるわ。Tier4なら、移動距離や回数制限も厳しそうだし」


「そうなんです……」


 佐藤さんが肩を落とす。


「試しに使ってみたんですけど、更衣室に入ろうとして、間違って男子トイレに出ちゃって……」


「それは災難だな(男子側が)」


「よし」


 先輩が手を叩いて、話をまとめた。


「二人ともポテンシャルは分かった。だが、実戦はまだ早い。

 まずはアプリの『デイリーミッション(能力発動回数〇回など)』をこなしつつ、基礎体力の向上と能力制御を覚える。ハンターランクレベル10になったら、怪異退治へ投入だ。それまでは見学しつつ鍛えるぞ!」


「はいっ!」


「じゃあ、手始めに……」


 先輩は、俺を指名した。


「久我! 田中と組手しろ! 田中の身体強化がどの程度のレベルか見る。お前が相手してやれ」


「了解です」


 俺は田中くんと向かい合った。


「よ、よろしくお願いします……! 久我先輩!」


 1年生から見れば、俺も立派な「能力者の先輩」だ。


「お手柔らかに頼むよ、田中くん。……始め!」


 田中くんがアプリを起動し、【身体能力強化】を発動させる。

 彼の全身に、微かな青い光が走る。


「うおおおっ!」


 雄叫びと共に、彼は突っ込んできた。


 速い。一般人にしては、アスリート並みの速度だ。そしてストレートの右パンチ。


(……でも止まって見える)


 俺の目は、まだ魔眼を発動させていない素の状態でも、彼の動きをスローモーションのように捉えていた。


 パンチの軌道が見える。重心の移動が見える。


 スッ。


 俺は最小限の動きで頭を傾け、パンチを躱した。

 空振った田中くんが、たたらを踏む。


 俺はその隙をついて、背後に回り込み、彼の膝裏を軽く小突いて体勢を崩させ、同時に首元に手刀を寸止めした。


「――そこまで!」


 俺が声をかけると、田中くんは目を白黒させていた。


「えっ……? ええっ!?」


 何が起きたか分かっていないようだ。周りで見ていた佐藤さんも、口をあんぐり開けている。


「な、何今の……消えた……?」


 その後も数回打ち合ったが、結果は同じだった。

 俺は魔力循環で強化した「吸血鬼のスピード」で彼を翻弄し、一発も喰らうことなく完封した。


「はぁ、はぁ……! つ、強い……!」


 田中くんが地面に這いつくばりながら、俺を見上げる。


「凄い……目立たない先輩なのに、クソ強い……!」


「言い過ぎだよねそれ!」


 思わずツッコんでしまった。「目立たない」は余計だろ。


「はっはっは! まぁ無理もねぇ」


 剣持先輩が笑いながら、解説に入る。


「こいつは吸血鬼だからな。基礎スペック……種族値が、人間とは段違いなんだよ。素手でお前が勝てるわけがねえ。ツエーぞ?」


「きゅうけつき……!?」


 二人がぎょっとする。


「先輩! 吸血鬼なんですか!?」


「そうだよ、吸血鬼でーす」


 俺は口を開けて、少し伸びた犬歯を見せ、わざとおどけてみせた。


「悪い子は血を吸うぞ~、ハハハ」


「ひぃっ!」


 田中くんが本気で引いてしまった。ジョークだろ、そこは笑えよ。


「さて、次は佐藤だ。久我、お前は引き続き相手をしてやれ。SSRの実力、見てみたい」


「はいはい」


 次は、空間転移使いの佐藤さんだ。


「い、行きます!」


 彼女はスマホを構え、集中する。


 空間転移は予備動作がないから厄介だ。一瞬で距離を詰められるかもしれない。

 俺は警戒度を上げて構えた。


(……ん?)


 その時。俺の肌が、ピリッとした感覚を捉えた。


 左後ろ。そこに空気が集まるような違和感。魔力の揺らぎ。


(……後ろか!)


 俺は反射的に身を翻し、左後方へと向き直りながら防御の体勢をとった。


 その0.5秒後。


 シュンッ!


 空間が歪み、まさにその場所に佐藤さんが出現した。

 彼女は俺の背中を取るつもりだったようだが、出現した瞬間、目の前に俺がガードを構えて待ち構えているのを見て硬直した。


「えっ!?」


 彼女の不意を突くキックは、俺の腕に軽く受け止められた。


「残念、そっちか」


 その後も彼女は数回テレポートを試みた。頭上、右横、真正面。

 だがその全てに対し、俺は転移が完了する「直前」に反応し、完璧に捌いてみせた。


「嘘……なんで? 出てくる場所が分かってるみたい……」


 佐藤さんは息を切らしながら、へたり込んだ。


「なんで分かったんすか先輩? 予知能力?」


「予知っていうか……」


 俺自身、首を傾げた。


「なんか、来る場所がピリピリするんだよな。『あ、ここに穴が開くぞ』っていう予兆みたいなのが、肌で感じ取れるっていうか」


 自分でも驚きだ。


「なるほどね、事前に来るって分かるんだ……」


「ばーか、そりゃ久我が異常なだけだ」


 かれんが、冷ややかな声で割り込んだ。


「SSRの空間転移は、基本的に予備動作なしの即時発動よ。普通の人間なら知覚できない。久我が感じ取れたのは、彼の持ってる『吸血鬼の感覚』ね」


「吸血鬼の感覚?」


「そう。彼らは五感が鋭敏すぎるの。聴覚や嗅覚だけじゃなく、魔力の揺らぎや空間の振動すら『肌で』感じ取れる。言わば、野生の勘の究極系よ」


 かれんは俺の方を見た。


「流石に、普通の人間が事前に察知するのは無理だぞ。お前が変態スペックなだけ」


「な、なるほど……吸血鬼の感覚だったんですね」


 俺は自分の手のひらを見た。


 魔力循環の修行を始めてから、この感覚はさらに研ぎ澄まされている気がする。空間に開く微細な穴すら、俺にとってはサイレンが鳴っているのと同じレベルで感知できていたのか。


「……空間転移の数秒前に分かるのは、吸血鬼チートじゃないですか!!」


 佐藤さんが、不満げに叫んだ。


「せっかくのSSRなのに! 意味ないじゃないですか!」


「まあ、相手が悪かったな。対人戦において、不意打ちが無効化される吸血鬼は天敵だ」


 剣持先輩が笑いながら、俺の頭を小突く。


「実際チートだぞ? お前らも覚悟しとけ。こいつはTier4だが、生存に他者の『血』が必要な種族だ。その重い代償リスクの分、基礎的な強さは保証されてる」


「……」


 二人は悔しそうに、でも少し羨ましそうに俺を見た。


 吸血鬼はチート。

 そう言われて、悪い気はしなかった。


 数日前までは、日傘がないと歩けない虚弱体質だと思っていたが、こうして「異能の優劣」の世界で見ると、吸血鬼というカードは、かなり強い部類に入るらしい。


 SSRすら完封する自分の新たな可能性に、俺は確かな手応えを感じていた。


(ま、血がないと飢えて死ぬけどな)


 最強と最弱のハイブリッド。それが俺だ。


 俺は握り拳を作ると、悔しがる後輩たちに向かって、不敵に笑って見せた。


「ま、もっと修行しないと俺には届かないよ。頑張って、後輩くんたち」

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