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平凡な俺が吸血鬼に? 高嶺の花な彼女に連れられて、夜の街の掃除屋はじめます  作者: パラレル・ゲーマー


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第17話 師匠(ロリババァ)の特別講義 ~最強の言霊と24時間戦闘態勢~

 深夜の静寂が包む自室。

 今日の任務報告も終え、いつものようにPCに向かおうとした瞬間、ヘッドホンをする間もなく、背後からその声はかかった。


「……うむ。今日の敵は『言葉遣い』か。まあ、言葉遣いと呼ぶほど大層なものではない、遥か格下の雑魚じゃったが」


 振り返ると、いつもの定位置(ベッドのヘッドボードの上)に金髪の幼女がふわりと浮かんで、腕を組んでいた。

 今日はなんだか機嫌が良さそうだ。というか、説教モードのオーラが出ている。


「うぐっ……そんな雑魚にはめられて、すみませんね」


 俺はばつが悪そうに頭を掻いた。Tier4ごときの「動くな」で棒立ちになってしまった醜態を、この内なる師匠が黙って見過ごすはずがない。


「完全に虚を突かれました。初見殺しってやつですよ」


「うむ、反省するのじゃ」


 幼女はふんぞり返りつつも、意外にも寛容な態度を見せた。


「言葉遣い……現代風に言えば【言霊使い】や【呪言使い】じゃな。これは色々複雑な能力じゃから、慣れぬ若輩者が後れを取るのも、まあ仕方がない面はある」


「複雑? シンプルに『命令するだけ』じゃなかったのか?」


「馬鹿者、それが奥深いんじゃ」


 彼女は小さな人差し指を立てて、空中に図を描くように動かした。


「いいか。他の能力と違って、『言うだけで発動する』というのは一見手軽に見える。しかしのう、これはある意味『自分を縛っている(制約を課している)』能力なんじゃ」


「縛っている……?」


「考えてみよ。

 まず思考を言語化する。これで1アクション。

 次に、それを口から音波として発する。これで2アクション。

 さらに、その言葉が相手の鼓膜に届き、脳に認識される必要がある。ここで初めて術が作用する……3アクションじゃ」


「あー、言われてみれば工程が多いな」


 彼女は、嘲笑うように鼻を鳴らした。


「そうじゃろ? 見るだけで問答無用に相手を殺す【邪眼】や、見たら石にする【石化の魔眼】といった、視線ひとつで完結する『魔眼類』と比べて、アクションがあまりに多い! そして遅い! 音速じゃぞ? 光速の視線に比べて、音なんて亀のような鈍足じゃ」


「確かに。今日みたいに、剣持先輩が突っ込んできたら、言葉を発する前に斬られちまうもんな」


「うむ。だから、単なる戦闘手段としては下の下。雑魚が使うにはリスクが高すぎる能力じゃ。――しかし」


 そこで彼女は言葉を切り、真紅の瞳を妖しく細めた。

 空気が凍りつくような威圧感。


「その面倒な手順……『対価』として、言葉遣いには超絶極まる汎用性があるのじゃ!」


「汎用性?」


「うむ。ただ相手を縛るだけではない。

 『燃えろ』と言えば炎が生まれ、『消えろ』と言えば物質が消失する。

 言うだけで世界を改変する能力! 物や人に対する干渉強度! これにおいて右に出る能力はない」


 彼女は熱っぽく語る。かつての「強者」としての記憶が疼くのか。


「今日の雑魚は、ただの命令しかしなかったが……使い手次第では、最良にして最強といえる能力になるのが、言葉遣いじゃな!」


「最強……そこまで言うか」


「当たり前じゃ。もしTier1……いや、Tier0クラスの神々レベルの術者が使えばどうなると思う? それは、単なる物理干渉を超えて、世界の歴史すら編集する権能になるのじゃ」


「歴史を編集……?」


「例えば、『お前なんて最初から存在しない』と神が宣えばどうなる? その対象は今ここで消えるだけではない。生まれた過去まで遡って消滅し、最初からいなかったことになる。

 『過去のあの大戦は実は起きなかった』と言えば、歴史の教科書が書き換わる。

 『空は紫色だ』と言えば、この世の空の定義が書き換わる」


 彼女は楽しそうに笑った。


「悪用次第では、世界すら自由に改変出来るのじゃ。概念そのものを書き換える力……それが言葉の真髄よ」


「……うわ、えぐいな」


 俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。


「最良ね……。何でも出来るチートってわけだ」


 今日戦ったあの顔面口人間(雑魚)とはスケールが違いすぎる。だが、理屈の上では可能なのだろう。「言葉が現実になる」なら、その強度が上がれば現実はどこまでも歪む。


「まあ、『考えるだけで改変出来る』本物の全知全能の神もごく稀にいるがの。そういうチート極まりない例外を除けば、言葉遣いというのはかなり強い能力ジャンルなのは間違いない! 遭遇したら最大級の警戒をするんじゃな」


「了解……。やっぱり俺も、魔力ガード覚えないとダメだな」


 俺は反省した。今の俺は丸裸も同然だ。


「剣持先輩や美島さんは自動で弾いてたしな。どうやればいいんだ?」


 幼女は腕組みをして、厳しい教師の顔になった。


「そうじゃな。一人時は警戒しろと、かれんは言っていたが、それは正しい。だが……ワシは言いたい。

 『常に警戒しろ』と」


「常に?」


「うむ。魔力をオフにするな。家にいようが、トイレにいようが、寝ていようが、常に己の身体に微弱な魔力の膜を張り巡らせておくのじゃ」


「24時間? 疲れそうだな」


「甘えるな。吸血鬼の世界は弱肉強食。いつ、いかなる時、暗殺者が窓から入ってくるか分からんのじゃぞ?

 常に戦場になることを想定しろ! いつ、いかなる時も気を抜くな! 魔法を0.1秒で発動出来る状態を、呼吸をするように身につけるのじゃ!」


「ス、スパルタだな……」


 だが正論だ。Tier4の俺が生き残るには、反応速度を上げるか、防御力を底上げするしかない。


「分かったよ。やるよ。……具体的にはどうすんだ? 魔力を垂れ流しにするってことか?」


「垂れ流しではない、循環させるのじゃ。血液のように、皮膚の直下で魔力を回し続けるイメージ……『魔力循環マナ・サーキュレーション』。これが基本にして奥義じゃ」


「よし……こうか?」


 俺は目を閉じ、体内にある魔力(熱い血液の感覚)を意識する。

 それを指先に集中させるのではなく、全身の皮膚に薄く伸ばしてコーティングするイメージ。


「うむ、最初は意識しないと維持できまい。だが、これを無意識レベルで行えるようになった時、お主は『Tier4の素人』を卒業できるじゃろう」


「分かった。今日から意識するよ。ありがとうな、師匠」


 彼女はふんと鼻を鳴らした。


「礼には及ばん。お主が死ねば、ワシも消えるからな。……では説教はここまでじゃ。引き続き『影トレ』と並行して『循環トレ』も励むように」


 言うだけ言って、彼女は金色の光となって消えた。


 後に残されたのは、やるべき宿題が増えた俺一人。

 24時間、常在戦場。


 ゲームをしながら影を動かし、全身に魔力を纏わせる。

 なんだか忙しない吸血鬼ライフになってきたが、不思議と悪くない気分だ。


 強くなっている実感があるからだろうか。

 俺はPCの電源を入れる前に、もう一度深呼吸をして、魔力を全身に巡らせた。

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