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Princesse des épines ーいばらの乙女人形と岩の兵士ー  作者: 菫重工
本編

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5/14

quatre

 空の基地には慰霊碑がある。基地の北東の端に建てられた慰霊碑に(わたし)は向かう。(わたし)が殺してしまった数多の人間が眠っている。せめて穏やかでありますように。胸の前で手を合わせ祈る。

 作り物に心なんてありはしない。人間の心だって脳機能の誤認に過ぎない。ましてや作り物には誤認する機能すら存在しない。故に、この祈りに意味など無い。

「探しましたよ。レヴェイユ」

 振り返るとコノエがいた。汗ばんでいる。一体どこを探し回ったのか。

「しつこい男は嫌われるわよ」

 (わたし)はひらひらと手を払う。けれどコノエは退きはしない。

「あなた自身がしつこい男を嫌っている訳ではないのでしょう?」

「それはそう、だけれど……」

「一緒に祈らせてください」

 (わたし)の傍らでコノエが祈りを捧げる。誰かの名前が聞こえる。コノエが喪った人々の名前だろうか。

「レヴェイユ、これからは僕も一緒に祈らせてください」

「嫌だと言ったら?」

 (わたし)は意地の悪い問いかけをする。コノエは困ったなぁとこめかみを押さえて答えた。

「共に祈っても構わないと言ってもらえるまで信頼を築いてみせます」

 そう言ったあと、笑ってみせた。晴れた夏空のような笑顔だと思った。

「仕方ないから許してあげるわ」

 コノエがパートナーになってくれて幸せだと思った。でも、それはきっと(わたし)たちが出撃したら崩れてしまう儚い幸せ。砂上の楼閣だ。このまま出撃をせずに待機だけできたらいいのにとさえ思う。しかし、叶わない願いだ。出撃要請の通知がコノエに届いてしまった。

「行きましょう。レヴェイユ」

 駐機場には何組かの自律型戦闘人形(ドール)と操縦者が集まってきていた。領空エリアに敵性飛行体が接近しているとの話だ。

「レヴェイユ。変形を」

 機体の圧縮を解く。みぞおちの辺りに不快感が現れる。いつもの持病だ。不愉快極まりない。

「乗りなさい」

 やはりコノエは静かに(わたし)に搭乗する。

「目標地点は」

「南に7kmほどの地点ね。飛ぶわ」

「了解です」

 カタパルトから射出されるがままに目標地点へ急ぐ。現地は既に交戦が始まっていた。

「敵の数は」

「多くはありません。ですが、広がっています」

「邪魔ね。散らすわ」

 複数本のバヨネットを扇状に撃ち放つ。これで雑多な小型機の足止めをしておいて、大型機を狙う。あちらこちらを縫うように走り、大型機の背へ向かう。

「撃ちますか」

「遅い。跳ぶわ」

 跳んでボムを落とし、後頭部からレーザーブレードで叩き斬る。地上に降下する前に敵を蹴り、飛び上がるとボムが爆ぜる。敵機は足から崩れていく。

「速さだけなら(わたし)の方が有利だもの」

「ちなみに、今のは最高速ではありませんよね」

 勘がいい。

「当たり前でしょう。もっと出せるわ」

 あとは、雑多な小型機を片付けるだけ。なのに、(わたし)の発作は起きてしまった。耳鳴りがする。視界が歪んでいく。頭が割れそうだ。痛い。苦しい。

「どう、して……」

「何かありましたか?」

 いけない。コノエを逃がさなくては。巻き込むわけにいかない。なのに意識が遠ざかっていく。

 撤退を始める敵機を追い詰めて、レーザーブレードで切り刻む。もう敵機は鉄くずだ。操縦者は挽き肉になっている頃だろう。

「操作が利かない」

 コノエの声が聞こえる。だめ、こんな戯れをしている場合ではない。なのに、(わたし)は殺戮が止められない。機体が真っ赤に染まっていく。

「レヴェイユ、もう帰還命令が出ている。帰りましょう」

 命令など知ったことではない。(わたし)は全ての敵を殺さなくてはならない。だから、邪魔をするな。

「レヴェイユ、聞け!」

 意識がぷつりと、断ち切れた。

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