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Princesse des épines ーいばらの乙女人形と岩の兵士ー  作者: 菫重工
本編

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13/14

douze

「できた。ニュー姫様の完成だ!」

 修理された機体は装甲が分厚くなった。そして比例してヒトガタとしての身体つきが人間の一歳分くらい大人びた造りになった。

「これでは、今までの衣装が窮屈になるわ」

「操縦士に強請ればいいだろ。「姫に新しい服を買ってちょうだい♡」って言えばホイホイ買うだろ」

「コノエはそんな生易しい男ではないわ」

 猫に移していた意識を機体に戻す。手足に電流が行き渡り、身体が動きだす。立ち上がる。目線が高くなった。

「ご苦労様。ちゃんとベッドで寝なさい」

「ありがたきお言葉!」

 ラボを出て、廊下を行く。硝子窓に映る自分が自分だとしっくり来なくてくすぐったい気持ちになる。コノエは今の(わたし)(わたし)と認めるのかしら。

 医療エリアに入る。時刻は21時を過ぎている。空間が昼間より静かだ。コノエの病室の場所にも慣れた。ノックをして、扉の前に立つ。自動ドアが開く。コノエはいない。もう就寝していてもおかしくないのに。

「……レヴェイユ?」

 背後から声が聞こえて、閉まりかけの自動ドアが再度開く。コノエだ。

「修理、終わったんですね」

「ええ、ようやくあなたの元へ来られたわ」

 なるべくぎこちなくないよう微笑んでみる。けれどコノエは首を傾げる。

「今までも見舞いに来てくれていたではありませんか」

「え?」

 どういう意味か。まさか、猫が(わたし)だったと気づいていたのか。

「毎日病室に来ていたファミレスの猫、あれ中身はレヴェイユでしょう」

 思わず力が抜けて崩れ落ちる。

「気づいていたのなら何故指摘しなかったのよ」

「正体を隠していらっしゃるようだったので指摘するのも野暮かと思ったので」

「コノエの野暮の定義がわからないわ」

「何より、レヴェイユがにゃんと語尾をつけて喋る様子が可愛かったので指摘したくなかったというのもあります」

 恥ずかしい。顔を上げられない。頬に熱が集まってしまう。コノエはとくに気にしていない様子で朗らかに話を続ける。

「もちろん、今のレヴェイユも可愛らしいと思います。修理なさったら身長が伸びましたね。というより全体的に大人っぽくなりましたね」

「技術者が勝手にあちらこちらの寸法を変えたのよ」

「では、僕はラボへ挨拶に行かなくてはなりませんね」

「……その、一人称を偽るのは止めなさい。素の一人称は俺、なのでしょう」

 言い切ってからコノエを見上げる。コノエは苦笑いを浮かべたまま答えない。

「猫の中から聞いていたわ。(わたし)の前では繕わないで、あるがままで居なさい」

「……かしこまりました」

「既に態度を繕っているわ。駄目ね」

 コノエは参ったなと、頭を掻く。

「わかった。わかったから勘弁してくれ」

「それでいいわ」

 ようやく(わたし)は立ち上がる。

「明日の朝、病棟巡回が来る前に(わたし)を迎えに来なさい」

「まさか、病室を抜け出せというつもりですか」

「当然よ。操縦訓練をしましょう。いい加減、身体が鈍っている頃でしょう」

 それだけ言い残して(わたし)は立ち去った。コノエは「無謀な……」などとゴネていたが、(わたし)の知ったことではない。

 久しぶりに自らの居室に戻り、寝台に身を沈める。修理の結果、機体の重量が増えた。ヒトガタの身で違和感を感じる程度だから、搭乗機体では更に差があるはずだ。己に慣れなくては。

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