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第42話 ショッピング②

「そういや言ってなかったな。おめでとう、橋本」

「あ? 何が?」


 橋本たちと遭遇し、支払いを終えた陽華とも合流した後。

 男二人肩を並べて談笑する中、俺が若干唐突気味に投げた祝福の言葉に橋本は首を傾げた。


「インターハイ、全国ベスト4おめでとう。LAINでは言ってたけど、まだ面と向かっては祝えてなかっただろ」

「あぁ……俺としちゃもうちょいやれた気がして、まだ悔しさが残ってるんだが……」

「お前まだ一年だろ。それに準決勝でも随分活躍したって聞いたし、その悔しさをバネにまた頑張ればいいさ」


 言ってから、部外者のくせに無責任な物言いだったかと後悔が浮かぶ。

 けれど橋本は気にした様子もなく、勝気な笑みを浮かべて、


「ま、俺は天才だからな。どこまでもかっ飛んでいっちまうぜ。とりあえず次は冬だな」

「応援してるよ。……んで、今日はデートか」

「おう。ついでにシオの水着選びにな。ここに居るってことはお前らも同じか?」

「まぁな」


 頷いて、楽しそうに水着を見る女性陣の方を見る。

 水着選びに困っていた篠原さんを見て、陽華の方からその手伝いを申し出たのだ。

 最初こそ断ろうとしていた篠原さんだったが、陽華の押しの強さとサイズの選び方などがわからず困っていたらしく、凄まじく恐縮しながらも受け入れていた。


 で、体型等のデリケートな情報を聞いてしまわないよう、俺たち男子は少し離れた場所から見守っているというわけだ。


「本当はちゃんと試着するのが一番いいんだけど、アンダーショーツとかって持ってきてる?」

「ううん、ない。……そういうのが要るのね」

「なくても下着の上からなら試着できると思うけど、一応店員さんに確認しておいた方がいいかもね。自分のサイズは大丈夫?」

「一応自分で測ってきたわ。えっと……ごにょごにょ」

「うん、うん……教えてくれてありがとう。それなら大体、このぐらいのサイズがいいかな」


 女子二人のやり取りを遠巻きに眺めながら、橋本が複雑そうな表情で頭を下げてくる。


「わりぃな、デート中に彼女借りちまってよ」

「それはお互い様だ。陽華も楽しそうだしな」


 楽しそうに笑いながら水着を見て回る陽華に、俺も我知らず笑みが漏れる。

 その勢いに気圧され気味な篠原さんには、少し申し訳なく思うが。

 

「これとかいいんじゃない? 露出は控えめだけどすごく可愛いデザイン!」

「確かに可愛いけど……あたしにはちょっと、可愛すぎない……?」

「そうかな? 似合うと思うけどなー。あ、こっちはどう?」

「それなら、まぁ……あ、この柄可愛い」

「わかる! あ、でも値段が……」

「まぁお金出すのはヒロだから、あんまり気にしなくていいと思う」


 篠原さんの言葉を聞いて当人に目を向ければ、渋い表情で肩を竦めて、


「信じられるか? シオのやつ、水着デートだってのにスクール水着で行こうとしてたんだぜ?」

「あー……だから、自分で金を出してまで?」

「まっ、デートに誘ったのは俺だからな。水着の一着や二着ぐらいは出すさ」


 と言いつつ、取り出した財布の中身を心配そうに見る橋本。何とも哀愁を誘う姿だ。

 そんな話をしている内に、女性陣の水着選びも一段落したらしい。数着の水着を手にした篠原さんとほくほく顔の陽華がこちらに歩み寄ってくる。


「二人ともお待たせ―!」

「手伝ってくれてありがとな明瀬さん。俺はもちろん、シオも水着の選び方とか、気を付けることとか全然知らんかったもんで……」

「本当に助かったわ……。ありがとう、明瀬さん。柳田くんも、デート中なのにごめんなさい」

「そんなに急いでたわけでもないし、俺は大丈夫だよ。陽華は……」


 申し訳なさそうに深々と頭を下げる篠原さんに気にするなと軽く返して、満足そうな顔の陽華に視線を向ける。

 ノリノリで手伝っていた陽華も笑顔で首を振って、


「全然気にしないで! 私も楽しかったから。志緒ちゃん、また機会があったらお話ししようね。カップルの先輩として色々聞きたいし♪」

「……学年一のバカップル相手に、先輩と言われても困るんだけど……まぁ、仲良くしてくれるのは嬉しい。よろしくね、明瀬さん」


 屈託のない笑顔で手を握る陽華に、照れ臭そうにしながらも頬を緩ませる篠原さん。流石の人懐っこさである。

 仲を深める女性陣の微笑ましい光景を横目に、男子組は軽い調子で言葉を交わす。


「今日はありがとな、柳田。せっかくの夏休みだし、今度濱崎たちも誘って遊ぼうぜ」

「遊び、か……経験がなくてわからんのだが、どういうことをして遊ぶんだ?」

「前みたいにカラオケ行ったりとか、ボウリングとかゲーセンとか……ま、男だけの集まりで堅苦しく考える必要はねぇよ。集まってから何やるか考えてもいいしな」

「そういうもんか。……わかった、楽しみにしておく」

「おうよ。また追って連絡するぜ」

「あぁ、また」


 その後も二、三言交わしてから、俺たちは二人と別れてアパレルショップを後にした。

 ――後に聞いた話だが、結局水着は二人の割り勘で二着ほど購入したらしい。

 篠原さんは”本当に嫌だったら断固拒否するタイプ”と以前に橋本が言っていたし、意外と彼女も楽しみにしていたのかもしれないな。




§




「パスタ、美味かったな……」

「美味しかったねー! 次のデートの時にまた来ようよ。他のパスタも食べてみたいし」

「いいな。今回は和風パスタにしたけど、ボロネーゼも美味しそうで気になってた」

「私はジェノベーゼが気になるかも。でも明太子も捨て難いなぁ……」

「ジェノベーゼ、って麵が緑色のやつのことで合ってる?」

「そうそう、バジルとか松の実をペーストにしたソースを使ったパスタだね。ちょっと癖のある香りだけど、すごく美味しいんだよ!」


 モール内のレストランで昼食を終えた後。

 再び手を繋いで談笑しながら、今日の買い物の主目的を果たすべく雑貨店へと足を向けた。

 エスカレーターで下の階に降りてから少し歩き、簡素な印象のドアを潜る。


「この店に来るの、引っ越しの時以来だ。結構店構え変わってるな」

「私もほとんど来たことないなぁ。大体家の近くのお店で済ませちゃうから……」


 記憶にある風景から大きく様変わりした店内を見回して、スマホのメモに目を落とす。横から陽華も覗き込んできた。


「とりあえず、まずは洗濯ネットとかハンガーとかの洗濯用品から見ていくか」

「はーい」


 天井から垂れ下がった商品の分類を示す幕を見ながら、商品かごを片手に移動を開始した。

 道中で洗剤のコーナーに差し掛かったので、我が家の洗濯洗剤も買い足しておくことにする。

 これから一か月、二人分の洗濯物を片付けなければならないとなると、今ある分では流石に心許ない。


「……あ、あった。これだよね?」

「ん、合ってる。ありがとう」


 家主より先に探し当てた陽華に感心しつつ、我が家御用達の洗剤の詰め替えボトルをかごに入れる。

 そのまま目の前の棚の裏側に回れば、そこが目当ての洗濯用品のコーナーになっていた。

 俺の洗濯ネットと区別できるよう、特徴的な柄の洗濯ネットにしようと見て回る中で、陽華が小さく歓声を上げる。


「見てこれ、猫ちゃんの柄! 可愛くない?」

「確かに可愛いな。それにするか?」

「もうちょっと待って!」


 はいよ、と返して、陽華が悩んでいる間にハンガー類の方へ視線を向ける。

 純粋に一人分干す量が増えるのだし、大きい方がいいか? 広めのピンチハンガーと三個組みの三角ハンガーを二つかごに入れたところで、陽華も決まったようだ。

 可愛らしい猫の模様の大きなネットが二つと、ハート柄の小さなネットが一つ。陽華はとても満足げだ。


「次はタオルだね。バスタオルとフェイスタオルと、これぐらいでいいかな?」

「もし足りなくなっても俺のを使ってもらえば……まぁ、陽華が嫌じゃなければだが」

「嫌だなんて思うわけないよ! むしろ……えへへ」


 途切れた言葉の続きを、聞き返すことはしなかった。


 続けて食器類のコーナーへ。優唯が時折泊まりに来ることもあって、割と多めに用意されているものの、あるに越したことはない。

 コップなども専用のものがあった方がやりやすいだろうし。

 あまり悩むこともなく、二人用のお皿セットをかごに突っ込んでいく。


 その最中に、商品棚のある一点を指差して、陽華が声を上げた。


「ねっ、辰巳くん。あのマグカップ!」

「ん? ……ペアカップか」


 そこにあったのは、同じ動物モチーフのデザインで色違いの二個のマグカップが並べられていた。

 黒猫の顔が描かれた青色のカップと、ハスキー犬が描かれた赤色のカップ。

 キラキラと輝く瞳で見つめてくる陽華の視線に、思わず苦笑が漏れる。


「……俺が使うには、ちょっと可愛すぎる気もするけど。まぁ、俺たちしか見てないしな。買っておくか」

「うんっ! ありがとう、辰巳くん♪」


 俺が若干照れながらそう言うと、喜色満面の様子で腕に抱きついてくる陽華。マグカップ一つ……二つでこれほどまでに喜んでもらえるのなら、お安い御用というやつだ。


「そんなに嬉しいか?」

「嬉しいよ、すごく。可愛いし……お揃いのカップって、同棲してるカップルって感じがしていいなぁって」

「まぁ、わからなくもない」


 頷く俺に、陽華は嬉しそうに笑って、


「このカップで、毎朝一緒にコーヒーを飲むの。楽しみだね!」

「……なるほど。それは楽しみだな」


 思わず納得してしまった。その光景を思い浮かべるだけで何とも言えない満足感と高揚感を覚える。

 このカップを使って、陽華と二人で味わうコーヒーは、きっと格別だろう。


 その後も、歯ブラシやシャンプー等の生活用品を買い込んでいく。

 増えていく商品かごの重みを感じる度に、これからの生活が少しずつ形になっていく実感が胸に積み重なっていった。


 肩に感じる重みとは対照的に、陽華と手を繋いで帰路につく俺の足取りは軽くなっていた。

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