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スノーホワイト

「あ、あの……シルヴァさんて……あんなに弓が上手なのに…………や、矢を外した事が……あるのですか……?」


 シルヴァの神業の様な射撃から数分後、今一度走り出した馬車の中で、ホワイトがおずおずとシルヴァに問いを投げ掛けた。


「どうしたの?藪から棒に。そりゃあおじさんだって人間だし、弓を覚えたての頃は外しまくってたよ」

「い、いえ……そうではなくて……えっと……先ほど……ゆ、弓を引いてる時に……『もう二度と外さないと誓った』って……おっしゃってたので……な、何かあったのかな……と……」


 普段黙りこくっている事が多いので、あまり会話が得意ではないと思われがちなホワイトだが、他人の話はきちんと聞いているタイプの様だ。


「あれ~?おじさんそんなこと口走ってたの?夢中だったから気付かなかったな……いやぁ、我ながらなんともクサイ台詞を……」

「べべべ、別に……は、話したくない事なのであれば……むむ、無理には……」

「いやいや、大丈夫大丈夫。そんな大した話じゃ無いから。実はね、おじさんは昔……」


 シルヴァにしては珍しく、笑顔を消して真面目なトーンで語りだした。


「矢を的に当てれるかの賭け事で外して大金をスッた事があるんだよねぇ~いやぁあの時は悔しくて悔しくて、もう二度と外さないと誓ったよ、アッハッハッハ!」


 真面目な話をするのかと近くで聞き耳を立てていたアレクがその場で盛大に転けた。


 「なにを真剣な顔して話すかと思えば……シルヴァさん、あなたという人は……」

「これは失敬。シルバーアローなんて大層なあだ名が付けられてるみたいだけど、おじさんの身の上話なんてせいぜいこんなのしか……」

「嘘……ですね……その話」

「え?」


 思わずして、シルヴァはその冷たい声が聞こえた方向に首を反射的に向ける。

 首を向けた先に居たのは間違いなく、いつもと変わらず静かに縮こまっているホワイトではあったが、その目はなぜかとても冷たく、まるで雪の様に透き通って、シルヴァには見えた。


「……あ!?ご、ごめんなさいごめんなさい……!む、昔からの悪い癖で……」

「ど、どういうことなんだい……?嘘って……?」

「……聞いたことがあります。かの殺人鬼スノーホワイトには、どのような嘘も通じないと」


 アレクが馬車の中から外の景色を眺めながら語りだした。日は沈みかけており、今はもう夕方時だろうか?


「シルバーアローの名声程の規模ではありませんでしたが、スノーホワイトの『悪名』も、世界を旅する間で何度が耳にしてきました……『嘘を見抜ける』というのも、その内で聞いた話のひとつです」


 どこか虫の居所が悪いかのように、少々ぶっきらぼうな態度で、アレクはスノーホワイトの話を進める。


「ある日、とある貴族の領地内で舞踏会が催されたのですが、その領地のすぐ隣の地域でスノーホワイトによる殺人事件が起こったとの噂を聞いたその領地の当主である女性は、自身にそっくりの影武者を用意し、自分は舞踏会の舞台の袖で優雅にワインを飲んでいました」


 心なしか、スノーホワイトの犯罪の一部始終を語るアレクの握った拳に、軽く圧がかかっていた。


「……そのワインと一緒に添えられていたリンゴには睡眠薬が投入されていました。スノーホワイトの有名な、よくやる手口です……彼女には分かってたんです、表に居るのは影武者で、舞台袖に居る女性こそが本物の標的だと……」


 アレクは今にも沈みそうな夕日を眺めて、少し自身の心を落ち着かせた。


「……魔王軍を倒し、世界を平和にしていく旅の途中で、淡々とその被害者の人数を増やし続けていたスノーホワイトの噂は……正直言って、殺意すら覚えた程でした……勇者としてそんな感情は許されないと理解はしています、しかし……」


 アレクの語る言葉と、その握った拳に力が入る。


「……いくら魔物を倒したとしても、今度は人間がそんな犯罪をしていては、とても平和なんて訪れない……ゴホン、失礼、少し話が脱線しました。とにかく、それが僕の聞いたスノーホワイトの悪名高き噂のひとつです。どういうわけか、嘘が分かるんですよ、彼女には」


 そう言うとアレクは深く息を吐き、もうこれ以上この話はしたくないと言った様子で、黙って窓の外の景色を眺め続けた。


「嘘が分かる……ねぇ。つまりホワイトちゃんには、今のおじさんの与太話は嘘に思えたって事なのかい?」

「ご、ごめんなさい……わ、私……見抜こうとしてなくても……か、勝手に嘘かどうか……わ、分かるんです……き、気持ち悪いですよね……こ、こんなの……ごめんなさい……」

「……ハッハッハ!そりゃすごい!すごい能力じゃないかホワイトちゃん!」


 シルヴァは大声で鬱憤としたこの場の空気を笑い飛ばすと、ホワイトを笑顔で励ました。


「どんな嘘も見抜けるなんて、さっき崖の上の女の子を見つけた時も思ったけど、やっぱりホワイトちゃんはただ者ではないねぇ~。ホワイトちゃんが味方なんて、おじさん心強いよ」

「あ……えっと……?き、気持ち悪く……ないんですか……だって……こ、こんな……」


 シルヴァの思わぬ反応に、ホワイトは面をくらってキョトンとしていた。思わずいつもの体の震えが止まる程に。


「気持ち悪くなんてないさ、それを言うなら仲間の大半を皆殺しにして、お世話になってた隊長すらも殺したってのに、ヘラヘラしてるおじさんの方がキモくないかい?」


 シルヴァ、渾身のブラックジョークであった。ヘラヘラしてるおじさんという自覚はあるようだ。


「そそ、そんなことないです……!わ、私だっていっぱい……こ、殺しましたし……」

「いいや!おじさんの方がいっぱい殺してるもんね!人数が違うよ人数が」

「で、でも……わ、私の方は正確な数が分かりませんし……そ、それに……」

「いやいや、やっぱりしっかりと記録に残ってる俺の方が……」

「なにを恐ろしい内容で張り合ってるんですかあなた達は!?」


 訳の分からない張り合いに、ついにアレクが我慢しきれずにツッコミを入れた。


「あなた達は自分が極悪な犯罪者だという自覚があるのですか!殺した人数で張り合うだなんてそんな事は……!」

「じ、ジョークだよジョーク。ね?ホワイトちゃんもなにか言って……」

「ひ、100人は越えてたと思いますし……そ、それにもっと殺した様な気も……や、やっぱり私の方が気持ち悪い……ごめんなさいごめんなさい……」


 アレクを押さえてるシルヴァの隣で、ホワイトは自己嫌悪の渦に飲み込まれていた。


 本当にこいつらなんかに世界の命運を任せて大丈夫なんだろうか?馬車を運転していた運転手はその言葉をグッと飲み込み。夕日が下がった夜の暗闇へと馬車を走らせた。

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