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シルバーアロー

 魔王討伐隊が出発してから数分後。タカシマ刑務所正門前にはタバコをふかしているタカシマと、タカシマの側近である看守が立っていた。


「本当にこれで良かったんですかい所長?あんな何するかも分かったもんじゃない奴らを、こんな大仕事に巻き込んで……」

「良いんだよこれで、あいつらは確かに色々と問題がある人間ではあるけれど、その能力は確かだ。それに……」

「それに?」


 今一度大きく、タカシマはタバコの煙を空へと吹いた。


「あいつらは世間から恨まれてる犯罪者、死んだ所で誰にとやかく言われることもない、使い勝手の良い駒って訳よ」

「そりゃあ、そうかもしれませんが……」

「だったらあんたが代わりに行くかい?マルコ」

「と、とんでもねぇです!」

「だろ?そもそも行きたがる奴なんか居ないのさ……『あの勇者でも勝てなかった魔王』なんてものに、挑みたいなんて奴なんかさ」


 タカシマはタバコを最後まで吸い終わると、吸い殻を持ち運んでいる携帯灰皿に捨てた。


「さあ、忙しくなるよマルコ!あんたにも色々と手伝ってもらう事になるからねぇ。返事は!」

「イエスマム!!」


 そう言うと二人は、静かに刑務所の中へと消えていった。




 それから数時間後、場面は変わって、魔王討伐隊一向。

 討伐隊を乗せた馬車は、魔王城近くの城下町まで向かって、森の中を移動していた……のだが……。


「うぐぅ……す、すいません……ま、また吐きそうかも……しれません……うぅ……」

「大丈夫かい?ホワイトちゃん。ほら、水飲んで、遠くの方の景色眺めると良いよ」

「あ、ありがとうござ……うぐぅ……」


 城下町へと到着する前に、隊員一名がダウンしそうになっていた。


「ほら、窓開けたから外の空気を吸いなさいな」

「そ、そうします……すぅぅ……はぁぁ……ぐぅ……」


 ホワイトは馬車の窓から顔を出すと、外に顔を出して深呼吸をし始めた。


「……ねぇアレクくん。ちょっと良いかな?」

「?はい、なんでしょうか」


 ホワイトが窓の外に顔を出してる間に、シルヴァは小声でアレクと会話を始めた。


「あんまりホワイトちゃんを怖がらせたくないから俺にだけ教えて欲しいんだけど……実際の所、本当に俺達だけで魔王を倒すなんてこと可能なのかい?」

「……かなり、厳しいとは思います。ほとんど特攻と言っても良いかもしれません」

「……やっぱそうだよね……まぁだからこそ、死んだって構わない俺達みたいな囚人が作戦に呼ばれたんだろうし……」

「そ、そんな事はありません!僕は別に、そんな理由でお二人を仲間にした訳では……」

「大丈夫大丈夫。アレクくんはそんな事考える人じゃないって分かってるからね。そんな事考えてそうなのは、ミスタカシマの方だよって話」


 実際の所、遠からず当たらずではあった。


「しかし府に落ちないんだよねぇ。どうしてこんなおじさんと、あんな可愛い子をわざわざ刑務所まで来て勧誘しに来たんだい?いくら特別収容者の噂を聞いたからって……勇者っていうなら、他にも仲間の探しようはあったんじゃないのかな?」

「それはまぁ、あるにはありましたが……一番の決め手はあなたなんですシルヴァさん。あなたが居たからなんです」

「お、俺?」

「ええ、そうです。僕は勇者として旅をして世界各地を巡っていましたが、『シルバーアロー』の噂は度々として僕の耳に入ってきて居ました」


 アレクの顔が、まるで憧れの英雄の事を話す子供の様に浮きだってきた。


「与えられた任務は一度も失敗した事のないリーフ王国伝説の弓兵。人柄も良く、常に笑顔を絶やさない至高の英雄。世界を救う旅の途中で、あなたの噂を聞けば聞くほどに、僕はあなたをぜひ、仲間に招き入れたいと思い続けていました!」

「そ、そうなんだ……」


 爛々として語るアレクの熱量に、珍しくシルヴァがたじろいでいた。


「しかし、聞けばあなたは数年前にリーフ王国であの事件を起こしてから姿を眩まし、行方不明になったとの事……僕はあなたの事を探してでも仲間に入って貰おうとパーティーに相談したのですが、事件の事もあり大反対されました……」

「まぁ、そりゃあねぇ……その頃の時点で俺はもう大犯罪者だった訳だし……」

「しかしです!いざ魔王城へと突撃しようとしていたある日、あなたがタカシマ刑務所に連行されたという噂が僕の耳に入ってきました!」


 あわやシルヴァの頭をぶつけそうになる勢いで、アレクが身を乗り上げシルヴァに顔を近づけてきた。


「ちょ、近い、近いよアレクくん。分かったから落ち着いて……」

「これは天からの思し召しだと思いました……是非ともあなたを刑務所まで迎えに行って、魔王討伐に向かおうと仲間に相談したのに、それすらも断られ……断言します!もし前回の魔王討伐にあなたが居たなら、きっと魔王討伐は成功していたに違いないと!」


 より一層、鼻息を荒くして、アレクはシルヴァに、自身の天命について熱く語り続けていた。


「あ、あの……!お、お取り込みのところ……もも、申し訳ないんですけど……その……」

「何ですかホワイトさん!いま僕はシルヴァさんと大事な話を……!」

「しー!アレクくん、その話はまた今度ゆっくり聞くから!で、どうしたのホワイトちゃん?そんなに慌てて」

「あ、あそこ……馬車の窓から見えたんですけど……お、女の子が、崖で魔物に襲われて……おお、落ちそうになってます……!崖の下に……!」


 ホワイトが指差すその先には森からでも見える高さの崖があり、その先端には女の子が座り込んでいた。崖の反対側には三体程の獣の姿の魔物が立っており、今にも女の子に襲いかかろうとしている様だった。


「なんて事だ……!一大事です!早く助けに向かいましょう」


 言い終わる前に、アレクは馬車の運転手に車を止めさせ、馬車の外へと身を乗り出した。


「で、でも……こ、ここからあそこまで数百メートルはあります……と、とても間に合いません……!」

「それでも!見てみぬふりなんて……」

「ごめん二人とも!ちょっと静かにして貰えるかな?」


 二人の会話を制する様にして、シルヴァが声をあげる。


「シルヴァさん?なにを……」

「まぁ、おじさんに任してよ。風は……うん、このくらいかな?」


 そう言うとシルヴァは銀の装飾の入った弓を取り出すと、一度深く深呼吸をして、静かに弓を引いて構えた。

 その構えはとても美しく、一切の震えも、迷いも感じられなかった。


「音がね……重要なんだよ……風の音を聞くんだ……」

「む、無理ですよシルヴァさん!ここからあの崖まで、いったいどれくらいの距離があると思って……」

「大丈夫。俺は外さない。もう二度と外さない。そう誓ったんだよ……ね!」


ヒュンッ……


 シルヴァはゆっくりと引いた弓を静かに放つと、ただ黙って、その矢の行方を目で追った。

 放たれた矢は真っ直ぐには飛ばずに、風の流れに沿って一度二度とその向きを変えると、最後には吸い込まれるかの様にして、崖の上に居た魔獣の頭に突き刺さり、その命を奪った。


「今日は風が気持ちいいね……読みやすくて助かるよ……」


 その距離、約300メートル。一般的な弓矢の飛行距離限界のメートル数にも関わらず、シルヴァはただ軽く弓を引いただけで、この距離の射撃を成功させたのだった。


「あ、ありえない……あんな、小石サイズにしか見えない標的に当てるだなんて……」

「ほ、他の魔獣も……驚いて……逃げたみたいです……お、女の子は無事みたいです……」

「ふぅ……そりゃあ良かった!いやぁ、久しぶりに弓を引いたけど、まだまだいけるもんだねぇ」


 先ほどまでの真剣な表情が嘘の様に、またシルヴァはにやにやと、いつもの笑顔を顔に張り付けていた。


「やはり僕の目に狂いは無かった!あなたこそは!かの伝説のシルバーアロー!あなたさえ居れば、必ずや魔王に打ち勝てる事でしょう!」

「はいはい、どうもありがとね。にしてもホワイトちゃん、よくあんなの気が付けたね?小粒くらいにしか見えないくらいの距離だったのに」

「わ、私……言われた通り……と、遠くの方を……眺めてたので……そうしたら……たまたま……」

「へぇ~。よっぽど観察眼が鋭いんだねぇホワイトちゃんは。走ってる馬車の中からあんなの見つけられるなんて」

「そ、そんな……たまたま……ですから……えへへ……」


 三人はしばらくその場で崖の上の女の子の安否を確認し、安全であると判断すると、再び馬車に乗り込んで、旅を続けた。

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