不思議なクリスマスカード〜わたしの目には、あなたは高価で尊い〜
わたしの目には、あなたは高価で尊い。わたしはあなたを愛している。(旧約聖書イザヤ書43:4より引用)
自己肯定感アップさせ、セルフラブを持ち、自分で自分を愛する。そうすれば上手くいく。
「私は私を愛しています」
鏡の前で自分を抱きしめる。自己啓発セミナーの講師に言われた通りにやっていたが、ものの見事に何も変わらない。現実は冴えないブラック企業勤めのアラサー女。
自己肯定感を上げようとすればするほど、逆の思いがきてしまう。毒親育ち、いじめ、パワハラなどの過去も思い出す。メンタルヒーリングカウンセラーに話を聞いてもらったり、スピリチュアルカウンセラーにメンタルブロックも解除してもらった。「私は私を愛しています」というアファメーション だって真面目にやっているが、全く何も変わらない。
そうこうしているうちに、今年もクリスマスイブだ。去年同様、またクリぼっち。仕事の帰り、コンビニのケーキを買って帰ったところ。
メールボックスにカードが届いていた。クリスマスツリーやリースが描かれた華やかなカードだが、差し出し人が不明だった。住所も名前も書いていない。
「何これ?」
不審に思いつつ、このカードを眺めがら自宅のアパートへ。
電気と暖房をつけ、ゆっくりとカードを眺める。
カードにはこんな言葉も書いてある。
わたしの目には、あなたは高価で尊い。わたしはあなたを愛している。(旧約聖書イザヤ書43:4)
「聖書? え、どういう事?」
思い当たるのは地元の友人だ。立河乃亜という。確かクリスチャンで牧師夫人もしていた。布教目的で送ってきたのだろうか。これだから宗教は嫌。
「は? クリスマスカードなんて送ってないよ」
すぐに電話して確かめたが、乃亜はカードを送っていないと言う。念の為、クリスマスカードの画像も撮影し、乃亜に確認したが、こうも言われた。
「このクリスマスカードのデザイン見た事ないね。私、クリスマスカードマニアだし、よく貰うから分かる」
「えー、どういう事?」
急に目の前にあるクリスマスカードにゾクゾクとしてきた。
「このツリーのイラスト見て。オーナメントがワインボトルとか、パンとか、ちょっと変でしょ?」
「そうね、乃亜……」
「こんなツリーの飾りは普通ない。しかもワインもパンも聖書と縁が深い」
「だとしたら……?」
「神様が送ってきたクリスマスカードだったりして? あるいはメッセンジャーの天使から?」
私は絶句。そんな事はあるか。何かのイタズラではないか。
「わたしの目には、あなたは高価で尊い。わたしはあなたを愛している、か。イザヤ書の御言葉だね」
「旧約聖書の?」
「自分で自分を愛するとか、自己肯定感上げるより、神様から愛されているって事思い出した方がラクなのにね。世間ではそういう考えの方が人気だけど。あ、これから私も色々忙しいから、またね!」
ここで乃亜との電話が切れた。一人になり、改めてクリスマスカードを眺める。
確かにイタズラの可能性もある。それでも、この言葉を見ていたら、わざわざ悪意を持って送って来たものには見えない。むしろ……。
「私、もう自分で自分を愛さないでいい?」
なぜか口からこんな言葉が溢れた。一生懸命セルフラブし、自己肯定感上げる事は、思った以上に疲れてたと気づいたからか。自分の心の奥には醜いところ、弱いところもあると知ってるし。
無邪気に自分を愛せるほど、もう子供ではないんだ。自己肯定感を上げるのも、何かのリターンを期待していた。どこかで自分だけが幸せになれば良いとも思っていたらしい。多分、これは自己愛というもの。
もう一度じっくりとクリスマスカードを見つめた。今夜ぐらいは、自己愛から解放され、誰かに愛されていると思いながら過ごしても良いかもしれない。もし、そんな無償の愛があるのなら。
「別にそう思い込んでいるだけなら、いいよね?」
肩の荷が降りる気がした。