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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
共通ルート最終章:県予選大会決勝編
85/135

第85話:私は後悔なんてしてないから

 いつの間にか静香が主人公みたいになってて草w

 ファーストゲームと同様、セカンドゲームの彩花と静香の戦いは、互角の死闘が繰り広げられていた。

 だがそれでも試合を支配していたのは、完全に彩花の方だった。

 スコア上では互角。だがそれでも点差が少しずつだが、確実に開きつつあるのだ。

 自身のプレイスタイルが黒衣と相性最悪の静香と、逆に自身のプレイスタイルが黒衣と絶妙に噛み合っている彩花。

 六花が彩花に助言したように、確かにそれも理由の1つだが…それだけではない。


 『神童』彩花と、『天才』静香。

 2人の実力は、ほぼ互角。

 秘められた才能さえも、ほぼ互角。

 ではこの2人の明暗をここまで分けたのは、一体何なのか。


 それはズバリ、指導者だ。


 六花という最強の指導者の下で、幼少時から六花からの愛情たっぷりの英才教育を受け続け、めきめきと秘められた才能を伸ばし続けてきた彩花。

 そんな彩花とは対称的に、これまで静香はろくな指導者に恵まれていなかったのだ。


 小学生の頃に通っていたバドミントンスクールの教師も。

 桜花中学校での監督だったマッチョも。


 2人共、静香に対して確かに愛情を持って接してはいたが、それでも指導者としては決して有能とは言えなかった。静香の優れた才能を完全に持て余してしまっていた。

 聖ルミナス女学園での監督であり、先程退場処分を食らって追い出された黒メガネに至っては、完全に論外だ。

 一応、沙也加も指導者としては有能な人材なのだが…彼女が静香に教えたのは、あくまでも夢幻一刀流だ。バドミントンに関してはズブの素人なのだ。


 「19-16!!」


 とうとう点差が3点にまで開いてしまい、静香は肉体的にも精神的にも完全に追い詰められてしまっていた。

 試合中も六花が的確にアドバイスをくれる彩花とは対称的に、黒メガネが退場処分になってしまった静香には、六花のような優れた指導者が傍にいてくれていないのだ。

 愛美たち聖ルミナス女学園の部員たちは、六花のような的確なアドバイスを静香に送る事も出来ず、なんかもう泣きそうな表情で、ただただ静香に対して声援を送る事しか出来なかった。

 指導者に恵まれた彩花と、指導者に恵まれなかった静香。

 それがここまで2人の明暗を、はっきりと分けてしまったというのか。


 「私が…彩花ちゃんに負ける…!?ふ、ふひひ、ふひひひひ…!!」


 もう完全に四面楚歌の状態になってしまった静香は、激しく息を切らしながら目の前の彩花を見据えている。

 彩花も息を切らしてはいるが、それでも静香と違って余裕があった。

 それは六花が彩花の傍にいてくれるから。六花が彩花に的確なアドバイスを送ってくれるから。


 「随分と手こずらせてくれたね、静香ちゃん…!!だけど、もう私の勝ちは揺るがないよ…!!」

 「彩花!!集中!!」


 即座に六花から彩花に届けられた、彩花への優しさに満ち溢れた、とても力強い掛け声。


 「隼人君じゃないけど、最後の最後まで油断したら駄目よ!!朝比奈さんはそこまで甘い相手じゃないからね!?」

 「うんっ!!分かった!!」


 勝利まであと2点に迫り、点差が3点差にまで開き、彩花の心の奥底で油断が生じかねない、この絶妙なタイミングでの…彩花に送られた六花からの的確な声掛け。

 これにより六花は、彩花に僅かに芽生えた油断と慢心さえも、完全に潰してしまったのである。

 一体六花は、どこまで指導者として優秀なのだろうか…。

 今の静香に、六花のような最強の指導者がいてくれたのなら…例えば今、聖ルミナス女学園のベンチに、美奈子や内香がいてくれたのなら…結果は違っていたかもしれないのに。


 「静香さんが負けるザマスって…!?そんな事は許されないザマスよ!!」


 来賓室から試合を観戦していた様子が、怒りの形相で勢いよく立ち上がる。


 「アンドレ!!」

 「あ、安藤です(汗)!!」

 「私についてくるザマス!!もし静香さんが負けるような事があれば…その時は…!!」


 秘書の若い男性を引き連れて、ズケズケと来賓室を飛び出した様子は、顔を赤くしながら派手に扉をバァン!!と閉めたのだった。

 そんな母親の怒りなど知らず、静香は追い詰められながらもサーブの構えを見せる。

 だが今の静香は彩花への勝ち筋が、全く見出せずにいたのだった。

 互いに黒衣を纏っている以上、黒衣との相性が最悪の静香では、黒衣と絶妙に噛み合っている彩花には勝てない。

 かと言って静香が黒衣を解除してしまえば、瞬く間に彩花が放つ闇に呑まれてしまい、五感を剥奪されてしまう事にもなりかねない。


 「…ふひひ…詰みですか…ここまで来ておきながら…私は…っ!!」


 激しく息を切らしながら、目の前の彩花を見据える静香。

 もう今の静香は、彩花に勝つ事を完全に諦めてしまったように見える。

 諦めたらそこで試合終了だよ…そう静香に苦言を呈するのは簡単だろう。

 だが静香は『天才』であるが故に、悟ってしまったのだ。

 最早どう足掻こうが、自分では彩花に勝つ事は出来ないのだという事を。 

 そんな静香の無様な醜態を、目の当たりにさせられた詩織が。


 「静香ちゃんの、馬鹿~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」


 思わず立ち上がり、大声で静香に対して呼びかけたのだった。

 ダクネスも亜弥乃も内香も、雄二も力也も、周囲にいる観客たちも、誰もがびっくりした表情で詩織を見つめている。


 「らしくないよ静香ちゃん!!さっきから静香ちゃんのプレーをアナライズで分析してたけどさ!!黒衣を纏う事で本来の静香ちゃんの持ち味が殺されちゃってるよ!!」

 「し、詩織ちゃん…!?」


 だが静香は、もっとびっくりした表情で、観客席にいる詩織を見つめていたのだった。

 何故こんな所に、詩織がいるのか。

 様子によって理不尽に引き離され、詩織の母親の怒りを買ってしまい、もう二度と会う事は叶わないと…そう思っていたのに。

 その詩織が、こうして静香の事を応援に来てくれているのだ。


 「思い出して静香ちゃん!!静香ちゃん本来のバドミントンを!!そんな黒衣なんかに任せた暴力的な戦い方なんて、静香ちゃんらしくないよ!!」


 唖然とした表情の静香に対して、必死に訴える詩織。

 静香とダブルスを組んでいた経験があるからこそ、詩織は今の静香の戦い方が気に入らないと思っているのだ。

 静香の持ち味は、持ち前の冷静さと頭脳を活かした、的確な状況判断力だ。

 それが彩花の五感剥奪から身を守る為とはいえ、黒衣を纏う事によって強烈な破壊衝動に襲われる事で失われ、静香本来の長所が殺される結果になってしまった。

 だからこそ、こうして彩花に追い込まれる結果になってしまったのだ。


 「もっと自信を持って静香ちゃん!!黒衣なんかに頼らなくても静香ちゃんは強いから!!絶対に藤崎さんと互角に渡り合えるから!!藤崎さんの事もアナライズで分析したから!!勝負の世界に絶対は無いけど、それでもこれだけは絶対に保証する!!」

 「…詩織ちゃん…!!」


 そう、例えどんな選手だろうと、詩織のアナライズからは絶対に逃げられない。

 静香もそれを分かっているからこそ、詩織の言葉に強い説得力を感じていたのだった。


 「それに静香ちゃんが、私の事に関して罪を意識を感じて、自分の事を追い詰めてるっていうのなら…それは筋違いだから!!」

 「そ、それは…!!」

 「静香ちゃんとダブルスを組んだ事…私は後悔なんてしてないから!!私は今でも静香ちゃんの事を、最高のダブルスのパートナーだって思ってるから!!」


 それだけ告げた詩織は、鞄からラケットを取り出して、ブンブンと静香に対して左手で振ってみせた。


 「私、地区予選で須藤君に負けちゃったけど…!!それでも今もバドミントンを続けてるから!!」

 「…詩織ちゃん…!!」

 「だから静香ちゃんは、もう過去を振り返らないで!!黒衣なんかに呑まれないで!!」


 静香にとって心残りだったのが、様子のせいで詩織と最悪の別れ方をしてしまった事だ。

 そしてそれ故に静香は、自分が詩織とダブルスを組んでしまったせいで、詩織を不幸にしてしまったのではないかと…そんな罪の意識を持ってしまっていた。

 だがそれを詩織が、真っ向から否定してみせたのだ。


 静香とダブルスを組んだ事を、後悔なんかしていないと。

 今でも静香の事を、最高のパートナーだと思っているのだと。

 そして…静香と離れ離れにされてしまった今でも、バドミントンを続けているのだという事を。 

 

 「…詩織ちゃん…私は…!!」


 目に溢れた涙を袖で拭った静香は…決意に満ちた表情で彩花を見据えた。

 もう今の静香に迷いも後悔も、微塵も無い。

 あるのはただ、目の前の彩花を倒すんだという、強い意志。

 その決意と覚悟を胸に秘めた静香は…詩織の助言に従い黒衣を解除したのだった。

 次の瞬間、静香に襲い掛かっていた強烈な破壊衝動が、すぅ…っと消えていく。

 同時に破壊衝動が収まった事で、静香の頭の中がクリアになったのだった。

 そして頭をフル回転させて、静香は彩花への勝ち筋を導き出す。 


 「追い詰められて、とうとうヤケになっちゃったのかな?静香ちゃん。」

 「ヤケになど、なってはいませんよ。」


 何の迷いも無い力強い瞳で、彩花を見据える静香。


 「彩花ちゃん…私は貴女を倒します!!」


 そう、詩織が言うように、静香本来のバドミントンで。

 静香は、彩花を倒す。


 「さあ、油断せずに行きますよ!!」


 次の瞬間、静香のラケットから放たれた、一筋の『閃光』。

 彩花のコートに向けて放たれた維綱を、彩花が妖艶な笑顔で天照で打ち返す。


 「そんな馬鹿の1つ覚えみたいに…っ!?」

 「彩花ちゃんなら、必ずここに天照で打ち返す!!」

 「なあっ!?」


 だがまるで、彩花がそこに打ち返すという事を最初から分かっていたかのように、静香が縮地法を駆使してシャトルに追い付いていたのだった。


 「夢幻一刀流奥義!!月光!!」


 三日月クレセントの軌道を描いた強烈なドライブショットが、楓のクレセントドライブ顔負けの強烈な切れ味を見せながら、彩花の足元に突き刺さったのだった。


 「19-17!!」


 観客が熱狂する最中、さらに畳み掛ける静香。


 「夢幻一刀流奥義!!涼風!!」


 彩花のシャドウブリンガーの威力を優しく包み込み、完璧に相殺したドロップショットが、彩花のコートにポトリと落ちる。


 「19-18!!」


 猛追する静香。だがまだまだ終わらない。


 「夢幻一刀流奥義!!維綱ぁっ!!」

 「19-19!!」

 「…そんな…馬鹿な…っ!?」


 黒衣を解除したのに、全く五感を奪われない静香。

 その威風堂々とした姿を、彩花は歯軋りしながら睨み付けていたのだった。

 これこそが詩織がよく知る、静香本来のバドミントン。

 持ち前の冷静さと状況判断力でもって試合状況を的確に分析し、常に最善手を導き出して対戦相手を詰ませていく。

 まるでチェスにおいて、キングにチェックメイトをかけるかのように。


 彩花の黒衣による五感剥奪は、対戦相手が彩花に対して過剰なまでの恐怖心を抱き、それによって肉体と精神が過剰な防衛本能を働かせる事で、起こり得る現象だ。

 現に静香も試合開始直後、一瞬ではあるが彩花に恐怖心を抱いてしまった事で、数秒間だけだが五感を奪われてしまった。

 それは静香が彩花との試合を心の底から楽しみにしていながらも、黒衣に呑まれた彩花の暴虐的な力に対して、心の何処かで僅かな恐れを抱いていたからに他ならない。

 静香もそれを認めているからこそ、黒衣を纏う事で彩花の五感剥奪から自らの身を守っていたのだ。

 自分のプレイスタイルが黒衣と相性最悪だという事を、最初から理解した上で。


 だが静香はもう迷わない。彩花を恐れない。

 何故なら詩織から、目一杯の勇気を貰ったから。

 ダブルスを組んだ事を後悔なんかしてないと、今でも静香の事を最高のパートナーだと思っていると、詩織が笑顔で言ってくれたから。

 だからこそ詩織が言うように、今の静香に黒衣など最早必要無い。

 黒衣などに頼らなくても、今の静香なら彩花と互角に渡り合えるから。

 そして。


 「ゲーム、聖ルミナス女学園1年、朝比奈静香!!19-21!!チェンジコート!!」

 「よおしっ!!」


 派手にガッツポーズをする静香に、観客から精一杯の歓声と称賛が届けられた。

 静香が肉体的にも精神的にも限界まで追い詰めれ、最早彩花の勝利は揺るがないのではないかと…15000人もの観客の誰もがそう思っていた矢先での、まさかの静香の5連続ポイントでの大逆転劇だ。

 彩花と静香の準決勝第2試合は、とうとうファイナルゲームへともつれ込んだ。

 まさに準決勝第2試合に相応しい、『神童』と『天才』の互角の死闘に、観客たちは大いに熱狂する。 


 「よっしゃあああああああああああああ!!それでこそ俺を倒した朝比奈だぁっ!!」


 まるで自分の事のように喜びを爆発させた駆に対し、静香は心からの笑顔で軽く左手を振り、彩花に背を向けてベンチへと向かう。

 静香が完全に息を吹き返した。

 これでこの試合、ますます分からなくなった。

 ファイナルゲームを制するのは、果たして彩花なのか。それとも静香なのか。


 「…静香ちゃん…!!やっぱり君は変態だよ!!」


 そんな静香に対して彩花は、とても不機嫌そうな表情で悪態をつき、ベンチにどっかりと座ったのだった。

 

 「残念だったわね彩花。だけど仕方が無いわ。すぐに気持ちを切り替えなさいね。」


 そんな彩花に六花が穏やかな笑顔で、スポーツドリンクとタオルを手渡した。

 ゴクゴクと、スポーツドリンクを勢いよく口の中に流し込む彩花。


 「もう朝比奈さんは勝手に潰れてはくれないわよ。試合中に五感を奪う事も不可能になったと思いなさい。」

 「うんっ!!」


 決意に満ちた表情で、目の前のベンチに座る静香を見据える彩花。

 その静香にスポーツドリンクを手渡した愛美は、真剣な表情でその場にしゃがみ込み、真っすぐに静香を見据えた。

 静香よりも遥かに劣る実力しかない、隼人にフルボッコにされて引退した今の愛美では、六花と違って静香に技術的なアドバイスを送る事は出来ない。

 だがそれでも静香の事を、心の底から応援する事は出来るのだから。


 「朝比奈さん。確かに貴女はバドミントンの『天才』なのかもしれない。だけど貴女は決して才能だけで、ここまで辿り着いた訳じゃないわ。」


 目の前にいる敬愛する部長の言葉に、スポーツドリンクを飲みながら耳を傾ける静香。


 「貴女がここまで準決勝まで勝ち上がって来れたのは、こうして藤崎さんと互角に渡り合えているのは、間違いなくこれまでの貴女の努力の積み重ねがあったからこそよ。」


 そう、愛美は知っているのだ。

 静香が周囲から『天才』だと騒がれていても、それに決して慢心する事無く、部内の誰よりも一番努力を積み重ねてきた子なのだという事を。

 全国から有力選手がスカウトされた、聖ルミナス女学園バドミントン部。

 毎年のようにインターハイに出場し、OBたちから『常勝』を義務付けられた強豪で、控え選手でさえも他校なら余裕でレギュラー座を勝ち取れる程の実力者揃いだ。

 そんなレギュラー争いがどこよりも過酷な環境下において、静香はレギュラーを決める為の部内対抗リーグ戦において、全試合勝利という滅茶苦茶な成績を残してレギュラーの座を勝ち取った。

 それは確かに、静香の生まれ持った才能の恩恵があった事も、否定は出来ないだろう。


 だがそれは決して、静香が才能だけで勝ち取った物では無い。

 間違いなく、静香のこれまでの血の滲むような努力があったからこそなのだ。

 そしてその努力の積み重ねがあったからこそ、静香はこうして彩花と互角に渡り合う事が出来ているのだ。

 その事を静香に伝えた愛美は立ち上がり、スポーツドリンクを飲み終わった静香の両肩に、ポンと優しく両手を添えた。


 「朝比奈さん、思い出して。貴女が今まで歩んできた道のりを。貴女が今まで積み重ねてきた、日々の過酷な練習量を。」

 「部長…。」

 「もっと自分に自信を持ちなさい。黒衣なんかに頼らなくても、今の貴女なら藤崎さんに勝てるわよ。」


 六花と愛美からの助言を受けながら、彩花と静香はベンチに座りながら、互いに互いを見つめ合う。


 「お母さん、私は…!!」

 「部長、私は…!!」

 「静香ちゃんに…!!」

 「彩花ちゃんに…!!」

 「「勝ちたい!!」」


 そんな2人の『気持ち』が込められた叫びと共に、バンテリンドームナゴヤに2分間のインターバル終了を知らせるブザーが鳴り響いた。

 互いに威風堂々と立ち上がり、コートへと向かう彩花と静香。

 そして互いに真剣な表情で、互いを見据える2人。

 そんな2人に観客席から、惜しみない大歓声が届けられる。


 「彩花!!ここまで来たら貴女自身の力で、朝比奈さんを乗り越えて御覧なさい!!」

 「行ってきなさい朝比奈さん!!悔いだけは残さないように、全力で戦うのよ!!」


 六花と愛美からの声援が届けられる中、彩花は高台に上がった審判からシャトルを受け取り、サーブの構えを見せた。

 いよいよ始まった、ファイナルゲーム。

 泣いても笑っても、これが最後。

 彩花と静香。いずれも全国レベルの実力の持ち主なのだが、それでも決勝戦進出とインターハイ出場を叶える事が出来るのは、どちらか1人だけだ。

 勝った方が栄光を掴み、負けた方が脱落してしまう。

 年間100試合以上戦い、負けてもまだ次の試合が控えている欧米諸国のプロの試合よりも、別の意味で過酷とも言える学生スポーツ。


 それこそが、残酷な学生スポーツの掟。

 そして…だからこそ、美しいのだ。


 「…お、おい、見ろよ隼人…。」


 ふと、駆が驚愕の表情で、彩花を指差したのだが。


 「いつの間にか…藤崎の黒衣が…!!」


 そう…消えていたのだ。

 彩花の身体を蝕んでいた、あの禍々しい黒衣が…彩花の身体から。


 「彩花ちゃんの黒衣が…消えた!?」


 驚愕の表情で彩花を見つめる隼人だったのだが、六花は目から大粒の涙を流し、両手で口元を覆いながら、六花は彩花から黒衣を消し去ってくれた静香を見つめていた。


 「あああ…!!朝比奈さん…!!」


 彩花の黒衣を何とかしてくれるのは、もう隼人しかいないと六花は思っていた。

 それは彩花が隼人との戦いを、心から望んでいたから。

 隼人と戦って彩花が満足する事で、黒衣が浄化されるきっかけになるのではないかと…そんな微かな希望を六花は抱いていたから。


 だが隼人以外にも、いたのだ。

 あの禍々しい彩花の黒衣を、取っ払ってくれた人物が。


 「やっぱり貴女は、私と彩花の恩人よ!!」


 今、六花は心の底から思う。

 彩花と静香が、もっと早くから出会う事が出来ていれば。

 もっとちゃんとした形で、巡り合う事が出来ていれば。

 今頃は彩花も静香も、互いに研鑽し合える良きライバル同士になれていたはずなのに。最高の友達同士になれていたはずなのに。

 だが彩花も静香も、欲にまみれた周囲の大人たちの身勝手なエゴに振り回されて、互いに黒衣に呑まれるという最悪の結果となってしまった。


 それでも、まだ手遅れではない。

 この試合が終わった後に彩花も静香も、これから2人で思い出を沢山作っていけばいい。

 失ってしまった時間は今更巻き戻せない。彩花と静香の黒衣発動を、今更無かった事になど出来はしないのだから。

 だがそれでも、彩花にも静香にも先がある。未来がある。

 これから先の人生に向かって、突き進む事は出来るのだ。

 そんな事を考えながら、六花は目に大粒の涙を浮かべながら、コート上の彩花と静香を見つめていたのだった。


 「ファイナルゲーム、ラブオール!!聖ルミナス女学園1年、藤崎彩花、ツーサーブ!!」

 「さあ、決着を付けよう!!静香ちゃん!!」

 「望む所ですよ!!彩花ちゃん!!」


 決意に満ちた表情で、彩花は静香に渾身のシャドウブリンガーを放ったのだった。

 次回、彩花VS静香、決着です。

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