第8話:やっと、君に出会えた
幼年期編の最終話です。
2023年3月。隼人と彩花が15歳になった頃。
もう春だと言うのにまだまだ肌寒さが残る、日本の愛知県常滑市に存在する中部国際空港…またの名をセントレア。
2005年2月に開港したこの空港は年間1200万人もの利用者を誇り、様々な商業施設も数多く存在しており、飛行機を利用せずにそれ目当てで訪れる客も、かなり多いとの事らしい。
多くの人々が行き交い物凄く混雑している、朝9時のターミナル。
だが今日はいつもと様子が違っており、大勢の記者たちや野次馬たちが、間もなくスイスから訪れる飛行機の到着を今か今かと待ち構えていたのだった。
伝説のバドミントンプレイヤー・藤崎六花、日本に帰国。JABS名古屋支部に入社。
その驚きのニュースはインターネットを通じて瞬く間に世界中を駆け巡り、この日本においても大騒ぎになる事態になってしまったのである。
バドミントンは日本では比較的マイナーな競技ではあるが、それでも全く普及していないという訳ではなく、スイス程では無いがそれなりに競技人口が存在している。
学校の部活動がそれなりに存在しているし、バドミントンスクールや同好会、社会人のクラブチームもそれなりに存在しているし、日本選手権だって毎年開催されているのだから。
それ故にスイスで圧倒的な成績を残した六花の知名度は日本でも相当な物であり、多くの人々が六花の姿を一目見ようと、こうして土曜日の朝から集まってきたのである。
「…あ、テレビの前の皆さん、御覧になりましたでしょうか!?藤崎六花さんが娘さんを連れて、ここ中部国際空港に到着致しました!!」
朝のニュース番組による実況生中継なのだろう。テレビカメラの前に陣取った若い女性の実況アナウンサーが、興奮しながら六花と彩花の方角を指差している。
ゲートから現れたのは、首元にネクタイを締めリクルートスーツを身に纏った六花と、スイスにいた頃に通っていた中学校の制服を身に纏った彩花。
その瞬間、多くの記者がカメラのフラッシュを浴びせ、野次馬たちも一斉にスマホで六花と彩花の姿を撮影する。
彩花はカメラ慣れしていないせいか完全に無数のフラッシュにビビってしまっており、戸惑いながら六花の身体にしがみついてしまっている。
そんな彩花の肩を六花は苦笑いしながら優しく抱き寄せ、無数のフラッシュに臆せずに背筋をピンと伸ばし、威風堂々とした立ち振る舞いを周囲に見せていたのだった。
仮にも六花はスイスの英雄なのだ。こんな事は普段から日常茶飯事なのだろう。
「私は今から藤崎六花さんにインタビューを敢行しようと思います!!藤崎さん、長旅お疲れ様でした!!今日はこれからどこに向かう予定なのでしょうか!?」
「今からJABS名古屋支部の職員の方が車で迎えに来る事になっているので、彩花と一緒に同乗して名古屋支部へと向かう予定です。そこで今後の仕事の内容の打ち合わせと、後は給料や休日などといった待遇面の交渉ですね。」
「今、この日本では、多くの方が藤崎さんに多大な期待を寄せていらっしゃいます!!低迷が続く日本のバドミントンを強くして欲しいと!!それに関して藤崎さんは、どうお考えなのでしょうか!?」
「私の力がどれだけ役に立つか分かりませんが、JABSに雇われたからには日本のバドミントンの未来の為に、全力を尽くして頑張るつもりです。」
テレビ局の女性からのインタビューに穏やかな笑顔で応えながら、六花は思った。
今日、この時刻に自分たちがセントレア空港に到着するという情報が、一体どこから洩れてしまったのかと。
六花と彩花が日本に帰国する事自体は既にニュースで流れているのだが、それでも到着する正確な日時までは誰にも伝えていないはずなのに。
一応、美奈子には事前にLINEで伝えてはいたのだが、隼人も美奈子も玲也も周囲にバラすような真似は絶対にしないはずだ。
だとすると状況証拠から察するに、JABSかスイスの空港の職員のどちらかが…いや、どうせなら両方だろう。うっかりSNSで流してしまったのだろうか。
もしそうだとしたら、インターネットというのは本当に恐ろしい代物だ。
たった1人の僅かな失言が、瞬く間に全世界に拡散されてしまう世の中なのだから。
「藤崎六花さんと、それに藤崎彩花さんですね?」
そこへ首元にネクタイを締め、リクルートスーツを着た1人の若い女性が、慌てて六花と彩花の下にやって来たのだった。
胸元にはJABSの職員である事を示す、「JABS」と刻印されたシャトルが描かれたピンバッジが付けられている。
「私はJABS名古屋支部所属の佐久間と申す者です。本日は遠路はるばる日本まで、ようこそおいで下さいました。」
「藤崎六花です。わざわざお出迎え頂き感謝致します。」
がっしりと、互いに笑顔で握手をする六花と女性職員。
その光景に無数の記者たちが、一斉にカメラのフラッシュを浴びせたのだった。
「こんな所で立ち話も何ですから、外に車を用意しておりますので、詳しいお話はそこで移動しながらにしましょう。」
「そうですね。ここだと騒がしくて、お話どころじゃ無いでしょうし。」
「では案内します。どうぞこちらへ。」
女性職員に先導されながら、六花と彩花はターミナルの出口へと向かっていく。
そんな六花に対して無数の野次馬たちから浴びせられたのは、低迷が続く日本のバドミントンを何とかしてくれという、懇願と期待の声。
「藤崎、頼むで!!日本のバドミントンの未来は、アンタに掛かってるんだからな!?」
「日本のバドミントンを強くしたってや!!」
「あの神童・須藤隼人のような天才プレイヤーを沢山育ててくれよな!?」
「俺ぁこの間のドルフィンズアリーナでの世界選手権を観戦してたんだけどよぉ!!あまりにも無様な結果だったから、今も悔しくて悔しくて仕方がねえんだわ!!」
スイスの公用語であるドイツ語ではなく日本語が飛び交っているという事、そして隼人の名前を聞かされた彩花は、改めて実感していた。
今、隼人が住んでいる日本の地に、自分も遂に足を踏み入れたのだという事を。
そして隼人との念願の再会の時が、もうすぐそこまで迫っているのだという事を。
そして六花がこの日本においても、バドミントン界における「英雄」なのだという事を、改めて彩花は思い知らされたのだった。
だが。
「天皇皇后両陛下に無礼を働いた愚か者が!!一体どの面下げて日本に来たんや!?」
「何でオリンピックや世界選手権に出なかったんだ!?お前が出ていれば金メダルは確実だったってのによ!!この売国奴が!!」
やはり六花が危惧していた通り、自分に対して罵声を浴びせる者たちも少なからず存在してしまっているようだ。
天皇皇后両陛下を物凄い剣幕で怒鳴り散らした事、そして国際大会に一度も出場しなかった事。
いずれも六花は全く後悔しておらず、記者たちにも事情をちゃんと説明しているのだが…それでも納得しない者たちが、こうして六花に罵声を浴びせているのだ。
今頃JABSに…特に名古屋支部に、抗議の電話が殺到していたりしないだろうか…思わずそんな心配をしてしまった六花なのであった。
「お、お母さん…。」
「私なら大丈夫よ。さ、行きましょうか。彩花。」
彩花に穏やかな笑顔を見せて、余裕の態度で罵声を無視して先を急ぐ六花。
まあ罵声を浴びせられる事自体は、六花もスイスにいた頃から慣れてはいるのだが。一種の有名税のような物だと六花は割り切っているのだ。
こういう連中はいちいち相手にしていたら、きりが無い。無視が最善だ。
何よりも自分が罵声にブチ切れて揉め事でも起こそう物なら、色々な所に迷惑を掛ける事になりかねないのだから。
六花とて自分が今、置かれている立場という物は、充分に思い知っているつもりだ。
そうこうしている内に何とか駐車場に辿り着いた六花と彩花は、案内された車の後部座席に同乗した。
運転席に座った女性職員が、車を丁寧に高速道路に向けて走らせていく。
車の運転には運転手の性格が出ると言われているが、この女性職員が運転する車は長旅で疲れた六花と彩花をいたわるような、とても静かな走り方をしていたのだった。
「ああそうそう、今後は私に対して敬語は不要ですよ。私は藤崎さんより年下ですし、何より私たちはJABSの一員として、互いに助け合う仲間同士になるんですから。」
「なら、遠慮せずそうさせて貰うわね。佐久間さん。」
「当面の住居の方はどうなってるんですか?」
「既にネットで仮の賃貸契約を済ませてあるわ。後で津島市の不動産業者に足を運んで正式契約を交わして、鍵を貰わないとね。」
「本部の人からメールで話だけは聞いてたんですけど、やっぱり平和町のアパートを借りたんですか?」
「ええ。彩花には隼人君と同じ平野中学校に通って貰うつもりだから。隼人君たちが住んでるアパートから少し距離はあるけど、まあ別に通えない距離でもないから。」
そんな六花と女性職員の他愛のない会話を耳にしながら、彩花は高速道路を軽快に走る車の窓から、のんびりと外の風景を眺めていたのだった。
これまで自分が住んでいたスイスとは全く違う、日本の街並みの見慣れない風景。それが彩花にはとても新鮮だった。
六花は18歳までは、この日本に住んでいたと彩花に語っていた事があるのだが。
(ハヤト君。私、とうとう日本まで来たよ。もう一度、君に会う為に…!!)
そうこうしている内に六花と彩花を乗せた車が、あっという間に目的地へと到着したのだった。
名鉄名古屋駅のすぐ近くにある、JRセントラルタワーズ。そこの27階が六花の今後の勤務先となるJABS名古屋支部だ。
女性職員の案内で、エレベーターに乗る六花と彩花。
この女性職員が言うには名古屋支部の支部長は、彩花とも話がしたいと語っていたとの事らしいのだが…一体どんな話があるというのだろうか。
「着きましたよ。ようこそ、我らJABS名古屋支部の本拠地へ。」
女性職員に案内されて、扉の向こうへと足を運ぶ六花と彩花。
オフィスの中では多くの職員が、とても忙しそうに慌ただしく働いている。
書類と睨めっこしながらExcelでデータ入力をする者、PowerPointでプレゼンテーション用の書類を作る者、電話で関係各所と大会の打ち合わせをする者、外回りの為に慌ただしくオフィスを出ていく者。
これから六花はここの正社員となり、彼らの仲間として共に働く事になるのだ。
「支部長、失礼致します。藤崎六花さんと藤崎彩花さんをお連れ致しました。」
「うむ。ご苦労だったね佐久間君。通してくれて構わんよ。」
「はい。さあ、お2人共、支部長がお待ちです。どうぞこちらの部屋の奥へ。」
女性職員が開け放った扉の奥にいたのは、どっかりと椅子に腰かけている初老の男性だ。
オフィスデスクの上にはデスクトップパソコンが置かれており、その横に大量の書類とファイルがどっさりと山積みになっている。
初老の男性は立ち上がり、ゆっくりと六花と彩花の下に歩み寄って来たのだった。
「支部長の渋谷だ。よく来てくれたね藤崎君。君の働きぶりには期待しているよ。」
「藤崎六花です。私の事を正社員として雇って頂き感謝します。雇われたからには尽力を尽くしますので、今後ともよろしくお願いしますね。」
がっしりと、互いに穏やかな笑顔で握手をする六花と支部長。
「まあ取り敢えず2人共、そこのソファに座りなさい。誰か、この2人にお茶と菓子を用意してくれないか?」
それから支部長が六花に語ったのは、仕事内容と待遇面についての話だった。
まず給料日は月末締めの5日払い。六花の銀行口座に振り込みで支払われ、給料明細はExcelのファイルを給料日にメールで送るとの事だった。
そして支部長が六花に書類で提示した給料とボーナスの金額に関しては、六花が特に不満を示さなかったので、一発で合意に至る事となった。
正社員としては妥当な金額だろうし、彩花を食べさせるには充分な条件だったからだ。
次に休日についてだが、変動制の完全週休二日制だとの事で、基本的に日曜日は休みだが大会の状況によっては日曜出勤になる事もあるらしい。
また祝日がある場合でも原則週休二日であり、出勤日になった分を盆休みや年末年始などの大型連休に回すとの事で、これも六花から一発OKを出して貰った。
残業や休日出勤も基本的には無し。というか従業員に残業されると人件費が余計にかかるとかで、JABSの親会社に相当する日本政府が色々とうるさく言ってくるそうだ。
そして肝心の仕事内容に関してだが、六花にやって貰いたいのは主に外回りの営業であり、愛知、岐阜、三重の東海三県の各地を回って貰い、JABSのイメージキャラクターとして有力選手の発掘や、バドミントンの普及活動などに尽力して欲しいとの事だ。
支部長によると、いずれは六花にテレビのCMにも出て貰う事を考えているらしい。
確かにこれはスイスのプロリーグで16年間戦い抜いた六花にとっては、まさに天職ともいえる仕事かもしれない。
六花なら知名度は充分過ぎる程だし、人格面でも問題無し。またプロでの戦いの中で養われた経験と洞察力と観察眼は、人材の発掘に多大な力を発揮してくれるはずだから。
そんなこんなで六花が特に何の不満も示さなかった事で、六花と支部長の話し合いは滞りなく終わったのだが。
「ふあああああああああああ」
「さて、藤崎彩花君。」
「がががががががががががっ!?」
何やら六花と支部長がとても難しそうな話をしていたもんだから、退屈そうに大あくびをしていた彩花だったのだが…突然支部長に話を振られてびっくりしてしまう。
そんな彩花の微笑ましい姿に、思わず六花はクスクスと苦笑いしてしまったのだが。
「君は確か、あの神童と呼ばれている須藤隼人君の幼馴染だそうだね?」
「は、はい、そうですけど。それが何か?」
「私はね。須藤隼人君にではなく、君にこそ期待を寄せているんだよ。」
「私に…ですか?ハヤト君ではなくて?」
「うむ。須藤隼人君ではなく、英雄・藤崎六花の血を引くサラブレッドである君こそが、今の低迷が続く日本のバドミントン界の、救世主と成り得ると…そう私は思っているのだからね。」
何だろう。支部長の言葉に、彩花は違和感というか…喉の奥につっかかるような不快感のような物を感じていたのだった。
確かに支部長は彩花の事を、藤崎六花の娘だとかサラブレッドだとか褒めてくれてはいるのだが…。
「…あの、支部長さん。それってハヤト君が私と比べて大した事無いって…ハヤト君の存在が邪魔だって…そう言ってるみたいに聞こえるんですけど…。」
そう、彩花には支部長が隼人の事を、まるで邪魔者扱いしているように聞こえたのだ。
とても不満そうな表情で、支部長を睨み付ける彩花。
そんな彩花を支部長が、戸惑いの表情で見つめている。
「言っときますけどハヤト君だって凄く強いですよ?スイスでも色んな大会で優勝しましたし、私との対戦成績だってほとんど互角でしたし。それにハヤト君は中学の全国大会を2連覇したんですよね?それも圧倒的な強さで。」
「そ、それはまあ、そうなんだが…。」
「そもそも支部長さんは私がお母さんの娘だから~とか言ってますけど…もしかしてハヤト君のお母さんの美奈子さんの事が、クズだって言ってるんですか?」
ズケズケと、戸惑いの表情の支部長に食って掛かる彩花。
もし彩花が言っているように、支部長が美奈子の事を馬鹿にしているのであれば…彩花は絶対に支部長を許さない。
彩花は隼人と一緒に、ずっと目の前で見てきたのだ。
美奈子が隼人と玲也の為に、プロの世界でどれだけ必死に頑張って来たのかという事を。
確かに成績という観点から見れば、美奈子は六花には遠く及ばない。
通算成績は17年間ものプロ生活において、勝率5割より少し上といった所だし、何より六花と違って国際大会には一度も声が掛からなかったのだから。
だがそれでも1年や2年でクビにされる選手たちが数多く存在する、弱肉強食の過酷なスイスのプロの世界において、17年間も現役でいられたというのが、果たしてどれだけ凄まじい「偉業」なのか。
何だか彩花には、それを支部長が理解していないように見えてしまったのだ。
「彩花、もういいわ。その辺にしておきましょう?ね?」
「お母さん…。」
何だか彩花から不穏な空気を感じ取った六花が、慌てて彩花の肩を優しく抱き寄せて止めたのだった。
支部長もそんな彩花に戸惑いながらも、ウォッホンと無理矢理話題を変える。
「と、とにかくだ。先月に我が国で初めて開催された世界選手権大会の無様な結果…君たちは知っているかね?」
「デンマークが優勝、日本は予選リーグで全敗して予選敗退でしたよね。私も彩花と一緒にスマホで結果だけ見ましたから。」
マンボウみたいに頬を膨らませて、不服そうな表情の彩花の肩を優しく抱き寄せながら、六花が背筋をピンと伸ばして威風堂々と支部長を見据えている。
「そうだ。その現状を打破する為にも、君たち2人の力が絶対に必要だと、私はそう思っているのだよ。」
「言われなくとも全力で、与えられた職務を全うするつもりです。」
「うむ。来週の月曜日から出社出来るんだったよね?君の働きぶりに期待しているよ。」
支部長に対して不満をぶつけた彩花ではあったが、取り敢えず六花の正社員としての雇用契約は無事に終了した。
これからネットで賃貸契約をしたアパートの鍵を不動産業者まで受け取りに行ったり、彩花の平野中学校への編入手続き、さらには稲沢市平和町への転入手続き、近くのスーパーやホームセンターでの食料品や日用品の買い出しなど、やらなければならない事は沢山ある。
六花はスイスで運転免許は取得したが、これも平針の運転免許試験場で日本国内の物に切り替えなければならない。車が無いと不便だろうから購入しておいた方がいいだろう。
それとセントレア空港の両替所で、手持ちの現金をスイス・フランから日本円に切り替えてはおいたが、いずれ銀行にも足を運んで口座も日本円に切り替えないといけない。
一応、来週の月曜日から出社すると支部長に伝えてはいたが…果たしてそれまでに手続きが全部終わるのかと、今頃になって不安になってしまった六花なのであった…。
「それじゃあ彩花。まずは名鉄で津島駅まで行って、津島市の不動産業者に…。」
JAセントラルタワーズから外に出て、彩花に言いかけた六花だったのだが、その時だ。
「六花ちゃん。彩花ちゃん。久しぶり。」
「んなっ…!?」
六花の目の前にいたのは、4年ぶりに顔を合わせる…とても懐かしい3人の姿。
美奈子と玲也…そして隼人が、穏やかな笑顔で六花と彩花を見つめていたのだった。
今日、六花と彩花がJABS名古屋支部に赴くというのは、六花は事前に美奈子にLINEで話してはいたのだが…まさかわざわざ家族総出で出迎えに来てくれたとでも言うのか。
「ふふふっ、2人を驚かせちゃおうと思って、思わずアポ無しで来ちゃったわ。」
「…美奈子さん…!!」
敬愛する先輩である美奈子との、突然の4年ぶりとなる再会。
目を潤ませる六花だったのだが、その時既に彩花は駆け出していた。
身勝手な大人たちのせいで4年間も離れ離れになってしまった、それでもいつか必ず会いに行くんだと心に決めていた、とても大切な人の下へと。
「ハヤト君っ!!」
「どああああああああああああああああああああ(汗)!?」
とても嬉しそうな笑顔で、隼人に抱き着いた彩花。
慌てて隼人は、自分に向かってサイコクラッシャーをしてきた彩花の身体を、しっかりと…そして大事そうに抱き止めたのだった。
「ひ、久しぶりだね彩花ちゃん。元気そうで何よりだよ。」
「うんっ!!」
周りの通行人たちが一体何事なのかと、とても興味深そうに隼人と彩花を見つめている。
戸惑いながらも隼人は、自分の身体を抱き締める彩花の顔を、じっ…と見据えた。
あれから4年…しばらく会わない内に、何て可愛らしく成長したのだろう。
隼人の記憶の中にある彩花は、まだまだとても小さな女の子だったというのに。
4年という歳月は、こんなにも幼子を可憐な少女へと成長させる物だというのか。
「…ハヤト君…っ!!」
隼人の身体の感触をその身に刻みながら、今こうして自分の目の前に隼人がいるのだという事、その喜びを存分に噛み締める彩花。
目から大粒の涙を溢れさせながら、彩花は満面の笑顔で隼人に告げたのだった。
「やっと…!!やっと、君に出会えた!!」
作中で愛知県学生選抜チームをフルボッコにして、世界選手権大会も優勝したデンマーク代表ですが、実はデンマークに帰化した綾乃ちゃんがコニーちゃんとダブルスを組んで出場し、有千夏さんが監督を務めていると言う裏設定が存在します。いわばアニメ版の後日談ですね。
ただし小説家になろうでは二次創作の掲載は禁止されているので、あくまでも「裏設定」という扱いです。
個人的には隼人VSコニーちゃん、彩花VS綾乃ちゃん、六花VS有千夏さんを描いてみたいと思ってはいるのですが。
次回から中学生編です。平野中学校に編入してバドミントン部に入部する彩花ですが、何やら一悶着あるようで…。