第79話:私が何度だって取り返しますから
静香と詩織にとって中学生最後となる大会が、いよいよ開幕です。
地区予選大会での静香と詩織のペアの強さは、まさに圧倒的だった。
あまりにも一方的な試合内容に、最早対戦相手が可哀想だとさえ思えてしまう程までに。
そして詩織という最高のパートナーと出会う事が出来た静香は、まさしく水を得た魚の如く躍動していた。
これまでは誰も静香の全力プレーに追従出来ず、静香の足手まといになってばかりで、それ故に静香はパートナーを後方に下がらせ、自分1人だけでダブルスを戦うというスタンドプレーを強いられてきた。
それを学生らしくないと問題視した日本学生スポーツ協会が静香に対し、今後同じ事をしたら即失格にするなどという理不尽な事を言い出した。
だがこれからは、そんな理不尽な思いをしなくてもいい。
何故なら静香のパートナーとなった詩織が、静香の全力プレーに見事に追従する
事が出来ているのだから。
静香の足手まといになるどころか、逆に静香を見事にサポートする事が出来ているのだから。
詩織と出会えた事で静香は、ようやく日本学生スポーツ協会が言う所の「学生らしいダブルス」が出来るようになったのだ。
これまでと違い随分と活き活きとした笑顔で、試合に臨む事が出来るようになった静香。
かくして地区予選大会のダブルスの部門は、静香と詩織がぶっちぎりの強さで優勝を果たして県予選大会へと進出。大会MVPにも選出されたのである。
さらに時は流れ、2023年7月22日の土曜日。
愛知県名古屋市のドルフィンズアリーナで開催の、県予選大会の最終日において、既に午前中にシングルス部門の全試合が無事に終了。
今大会最も注目されていた隼人と彩花は準決勝でぶつかり合う事になり、両者互角の壮絶な死闘の末に隼人が彩花を下し、決勝戦にも勝利して優勝。彩花は3位決定戦に勝利し3位という結果に終わった。
シングルスに出場した麗奈は県予選への進出を果たしたものの、残念ながら2回戦で彩花にフルボッコにされ、2回戦敗退という結果に終わってしまった。
そして昼食を挟んで、午後1時から開始されたダブルスの部門。
「皆様、大変長らくお待たせ致しました。只今よりダブルスの準決勝第1試合、桜花中学校3年、朝比奈静香&3年、月村詩織ペア VS 豊町中学校3年、水島洋&3年、金森英二ペアの試合を始めます。」
ウグイス嬢のアナウンスと共にコートに姿を現した4人に、客席から惜しみない声援と拍手が届けられる。
静香と詩織の準決勝第1試合の相手は、静香と詩織同様に地区予選大会を圧倒的な強さで勝ち上がってきた、西三河地区の強豪・豊町中学校の丸刈りとスポーツ刈りの3年生ペアだ。
いかに静香と言えども、決して油断出来るような相手では無い。
「さあいよいよダブルスの県予選準決勝が開始です。実況はシングルスに引き続き、CCCテレビの佐々木恵一が。解説は藤崎六花さんにお願い致します。藤崎さん。ダブルスの解説も引き続きよろしくお願いします。」
「はい、よろしくお願いします。」
マイク付きのヘッドホンを耳元に付けた、首元にネクタイを締めてリクルートスーツを纏った六花が、とても穏やかな笑顔で静香たちを見つめている。
JABSの仕事の一環として、こうして県予選最終日の解説を行っているのだ。
静香はスケジュールの都合で午前中のシングルスの試合を観戦出来なかったのだが、マッチョが言うには六花の解説は、観客たちから「分かりやすい」と好評を得ていたらしい。
バドミントンの本場・スイスのプロリーグに16年間も身を置き続け、10年連続優勝という偉業を成し遂げ、スイスにおいて『英雄』と呼ばれている六花。
その六花が今年になって日本に帰国し、JABS名古屋支部の正社員になったとの事で、静香も一体どんな人なんだろうかと興味を持ってはいたのだが。
随分と美人で綺麗で優しそうな、おっぱいが大きい女性なんだなと…静香は六花の姿を一目見て、そんな印象を抱いたのだった。
「さて、桜花中学校の朝比奈選手ですが、昨年の全国大会にて優勝を決めた際に日本学生スポーツ協会から、今後は独りよがりなプレーをした場合は即座に失格にすると通達されていますが…。」
「そうですね。私は当時はまだスイスで現役でプレーしていたので、問題となった朝比奈さんのプレーを直接見たわけでは無いのですが…。」
何の迷いもない力強い瞳で、六花はアナウンサーに対して断言したのだった。
「JABSの職員である私がこんな事を言うのも何ですが、私は日本学生スポーツ協会の朝比奈さんへの通達には、疑念を持っているというのが正直な気持ちです。」
「ほう。と、言いますと?」
アナウンサーからの問いかけに、六花は自らの考えを観客たちに説明した。
まず学生の選手は年間100試合以上をこなし、負けてもまだ次の試合が控えている欧米諸国のプロの選手とは、そもそも置かれてる立場が全く違うという事。
どれだけ勝ち進んだとしても、たった一度の敗北だけで全てが終わってしまうという事。
それ故に勝利始業主義に走るのは、学生と言えども決して間違ってなどいないという事。
勝負の世界である以上、パートナーが役立たずだというのであれば、切り捨てるのは当たり前の話だという事。
そもそもダブルスを1人で戦うというのは、バドミントンにおいてはルール上認められている行為であり、静香はルールに抵触するような行為は何もしていないという事。
それ故に日本学生スポーツ協会が言っている事は、所詮は自分たちの身勝手なエゴを静香に押し付けているだけであり、言っている事が支離滅裂にも程があるという事。
それら全てを六花は、観客に対して分かりやすく説明したのである。
そんな六花に対して観客から浴びせられたのは、称賛と罵声。
人それぞれ考え方が違うのは、当然の事ではあるのだが。
やはりこれまでの静香の『ダブルスを1人で戦う』というプレー内容に対して、学生らしくないと考えている者たちが少なからず存在するようだ。
「正々堂々とは一体何なのでしょうかね。朝比奈さんはルール違反に相当する行為は何もしていないというのに、それでも日本学生スポーツ協会は朝比奈さんに対して、正々堂々と戦えなどと身勝手な言いがかりを付けているのですが、それはちょっとどうなんでしょうか。」
そんな自らの罵声を浴びせる観客たちに対しても全く怯む事無く、まるで静香を弁護するかのように、真っ直ぐに自分の意見を貫く六花。
「選手たちは皆、輝いていたんです。もう二度と訪れる事のないかもしれない、今この瞬間に。それなのに周囲の大人たちが、自分たちの身勝手な価値観を選手たちに一方的に押し付けるのはどうなのかと、私はそう思いますけどね。」
この六花の言葉に、静香は少しばかり救われたような気がしたのだった。
この人は、自分の悩みや苦しみを、心から理解してくれているんだな、と。
その上で自分の事を擁護するような事を、一部の観客たちからの罵声にも決して怯むこと無く、堂々と公言してくれたのだという事を。
「ですが今回の朝比奈選手は、現時点では審判から何のお咎めも受ける事無く、この準決勝まで無事に勝ち上がってきました。これはパートナーの月村選手が、朝比奈選手の足手まといになっていないという事なのでしょうが…。」
「そうですね。私もJABSの仕事の一環で、地区予選大会での月村さんのプレーを少しだけ見させて頂きましたが、朝比奈さんは最高のダブルスのパートナーに巡り合えましたと言っても過言では無いですよ。」
そう、六花の言うように、静香は中学3年生になって、ようやく詩織という最高のパートナーと巡り合えた。
これから先、詩織といつまで一緒にプレー出来るのか、それとも高校から再びシングルスに戻る事になるのか、それはまだ静香には分からない。
だがそれでも詩織となら、どこまでだって歩んでいけると…静香は心の底からそう考えているのである。
「スリーセットマッチ!!ファーストゲーム!!ラブオール!!桜花中学校3年、月村詩織、ツーサーブ!!」
そうこうしている間に、いよいよ準決勝第1試合が始まったようだ。
審判に促され、決死の表情でサーブを放った詩織。
それを打ち返す丸刈り君。さらに打ち返す静香。
県予選準決勝に相応しい高レベルの超高速ラリーに、観客は大いに熱狂する。
そのラリーの最中に放たれた詩織のスマッシュを、スポーツ刈り君が辛うじて返すものの、それを読んでいた静香が縮地法を駆使し、一瞬で着弾地点へと移動しシャトルに向かって高々と飛翔。
ラケットに『気』を込めて、シャトルに狙いを定め、丸刈り君の足元に向けて狙い打つ。
「夢幻一刀流奥義!!維綱ぁっ!!」
次の瞬間、静香のラケットから放たれた、一筋の『閃光』。
果たして繰り出された強烈な一撃は、丸刈り君の足元に情け容赦無く突き刺さったのである。
「1-0!!」
「…ば、馬鹿な…!!」
事前に監督が集めてくれた情報から維綱の存在を知ってはいたが、それでも分かっていたのに反応すら出来ず、足元に転がっているシャトルを、ただただ驚愕の表情で見つめる事しか出来ずにいる丸刈り君。
次の瞬間、観客席から凄まじいまでの大声援が送られたのだった。
「今の朝比奈選手のプレーは凄まじかったですね。ラケットから『閃光』が見えましたし、なんか瞬間移動をしたように見えましたが…。」
「あれは中国拳法における、箭疾走と呼ばれている技ですね。」
「ちゅ、中国拳法ですか!?」
六花の解説に、観客席からは驚きの声が上がる。
だが静香は、もっと驚いた表情で、目の前の六花を見据えていたのだった。
「走るのではなく跨ぐようにして移動する、中国拳法独自の高速移動術です。私も現役時代に使っていましたけどね。」
「な、成程、では朝比奈選手は、中国拳法をバドミントンに取り入れていると!?」
「いえ、どうやら中国拳法ではなさそうですね。」
とても興味深そうな笑顔で、右手を顎に当てながら、じっ…と静香を見つめる六花。
シュバルツハーケンでプレーしていた頃に、中国拳法をバドミントンに取り入れている後輩の中国人の女性選手がいたのを、六花は今になって思い出していたのだが。
静香のプレースタイルは、どうやらそれとは全く異なるようだ。
「あの朝比奈さん独自の変則モーションから放たれる一撃は、合気…?いいえ、居合でしょうか。」
「い、居合というと、時代劇とかでよく見る、あの!?」
「そうですね。流派までは朝比奈さんに直接話を聞いてみないと分かりませんが、朝比奈さんが何らかの古武術を習っているのは間違いないですね。それを上手くバドミントンに取り入れていますよ。」
あまりにも六花の解説がドンピシャだったもんだから、思わず唖然としてしまった静香。
今のたった一度のワンプレーだけで、まさかそこまで見抜いてしまったとでも言うのか。
何という優れた洞察力、そして凄まじいまでの観察眼なのか。
今になって静香は、シングルスでの六花の解説が凄まじかったと、先程マッチョが笑顔で褒め称えていたのを思い出したのだが。
「ふ、ふざけやがって!!古武術だと!?居合だと!?これはバドミントンなんだぞ!?そんなのありかよ!?」
「落ち着け水島!!さっき実況の人が言っていただろう!?今の朝比奈が独りよがりなプレーをしたら、即失格になるってな!!」
あまりにも理不尽な六花の解説に顔を赤くする丸刈り君を、必死になだめるスポーツ刈り君。
確かに静香の強さは凄まじい。完全に中学生離れしてしまっており、まともに戦えば勝機は無い。
ただしそれはあくまでも『シングルスでの』話だ。
どれだけ静香1人が突出していようが、それだけで勝てる程、ダブルスというのは甘くないのだから。
「月村だ!!徹底的に月村を狙うぞ!!そうすれば俺達にも勝機はある!!」
「そうだな金森!!ダブルスにはダブルスの戦い方があるって事を、朝比奈に思い知らせてやろうぜ!!」
そう、弱い方を集中的に狙う。それがダブルスにおける基本セオリーの1つなのだ。
一糸乱れぬ連携から繰り出された、スポーツ刈り君の強烈なスマッシュが、詩織の足元に突き刺さる。
「1−1!!」
「「よっしゃあ!!」」
笑顔でハイタッチする2人に、心からの声援を送る観客たち。
確かに詩織という最高のパートナーを得た静香ではあったが、それでも詩織のプレーに対して100億%満足しているという訳では無い。
今のように、たまにこんなしょ~もないミスをやらかす事があるのだから。
「ごごごごごご御免ね静香ちゃん、やっぱり私はクソ虫だよぉ…(泣)!!」
「どんまい、詩織ちゃん!!」
だが、それでも。
「詩織ちゃんが何度ミスをしても、私が何度だって取り返しますから!!」
「静香ちゃん…。」
そんな詩織に、静香は力強い笑顔を見せたのだった。
「私、言いましたよね!?詩織ちゃんは決してクソ虫なんかじゃないって!!詩織ちゃんになら安心して背中を任せられます!!私は本気でそう思っていますよ!!」
そう、人間である以上、ミスなんて誰もがやらかす物だ。ミスを100億%完全に根絶する事など不可能だ。
そもそも静香だって練習中や試合中にミスをやらかす事が何度だってあるし、プロの選手だって…それこそ現役時代は過酷なプロの世界で10年以上も生き残り続けてきた美奈子や六花でさえも、何度もやらかしてしまっている始末なのだから。
大事なのは、それをパートナーの静香が、しっかりとフォローしてあげる事なのだ。
どれだけ詩織がミスをしようが、それを静香が取り返す。
その代わりに静香がミスをした時には、代わりに詩織にフォローして貰えればいい。
パートナーというのは、そういう存在なのだから。
詩織に背中を預けるというのは、そういう事なのだから。
「だから後ろは任せましたよ!!詩織ちゃん!!」
静香の力強い笑顔に、詩織は何だか感慨めいた表情になる。
これまで詩織とダブルスを組んだパートナーの女の子たちは、運命のいたずらなのか、ただの偶然の産物なのか、全員が何らかの不幸な目に遭ってしまっていた。
それ故に詩織は今までチームメイトたちから、まるで汚物を見るような目で見られてしまっており、いつしか『疫病神』だと言われるようになってしまった。
だがそんな中でも静香は力強い笑顔で、そんな物は迷信だときっぱりと断じ、詩織の事を求めてくれたのだ。
そして今も静香は詩織に対して、はっきりと告げたのである。
どれだけミスをしてもフォローするから、背中は任せたと。
「…うんっ!!」
目を潤ませながら、静香に対して笑顔で頷く詩織。
六花は静香が最高のダブルスのパートナーと巡り合えたと語っていたが、それは詩織とて同じ事だ。
詩織もまた中学3年生になって、ようやく巡り会う事が出来たのだ。
心の底から信頼出来る、最高のダブルスのパートナーと。
「月村!!俺はお前の事を知ってるぜ!!何でもチームメイトから『疫病神』だって言われてるらしいじゃねえか!!」
そんな詩織に対して、強烈なサーブを放つスポーツ刈り君だったのだが。
「確かに金森君の言う通りだよ!!それでも私は!!」
既にアナライズで2人の動きを分析し終えた詩織の『絶対防御』は、最早鉄壁とも言える代物になってしまっていた。
何度も何度も何度も な ん ど で も 詩織を狙う2人だったのだが、詩織は全く崩れない。
「静香ちゃんの背中は、私が守る!!」
「な、何でだよ!?これだけ攻めてるのに、何でこいつはぁっ!!」
高々と打ち上げられたシャトルに対して、飛翔する静香。
丸刈り君の痛恨のミスショット。これを静香は絶対に見逃さない。
「し、しまった!!」
「はあああああああああああああああああっ!!」
丸刈り君の足元に、静香の維綱が情け容赦なく突き刺さったのだった。
「2-1!!」
「くっ…!!」
そんな丸刈り君に対して、静香は何の迷いも無い力強い瞳で右手のラケットを突き付け、まるで詩織を守るかのように、はっきりと宣言したのである。
「詩織ちゃんは疫病神などではありませんよ。いいえ、これからは私が詩織ちゃんの事を、もうそんな風には呼ばせませんよ。」
「こ、こいつ…!!」
そこからはもう、静香と詩織の勢いは止まらなかった。
朝比奈はパートナーが弱点だ。だからパートナーを徹底的に狙えば勝てる。
試合前に監督からそう助言を受けていた丸刈り君とスポーツ刈り君だったのだが、詩織という最高のパートナーと巡り合えた静香にとって、最早パートナーは弱点では無くなってしまっていたのである。
そして。
「ゲームセット!!ウォンバイ、桜花中学校3年、朝比奈静香&3年、月村詩織ペア!!ツーゲーム!!21-6!!21-4!!」
「「そんな、馬鹿なああああああああああああああああっ(泣)!?」」
絶望の表情でその場に崩れ落ちてしまった丸刈り君とスポーツ刈り君の目の前で、笑顔でハイタッチを交わす静香と詩織。
最早この2人に勝てる者など誰もいないのではないのかと、そう観客たちに思わせてしまう程の圧勝劇だった。
観客席から凄まじいまでの大声援が、詩織と静香に届けられたのである。
「準決勝第1試合は一方的な展開になりましたね。この試合を藤崎さんは、どう振り返られますか?」
「そうですね。水島君と金森君は、ファーストゲームの途中から完全に心が折れてしまっていましたね。明らかに表情から覇気が無くなっていましたから。」
「朝比奈選手と月村選手のあまりの強さに、2人が勝つ事を諦めてしまったと?」
「それでも試合中に対戦相手のデータを分析し、選手たちに勝機を見出させ、奮起させるのが監督やスコアラーの仕事なのですが、私にはその桜田監督でさえも、途中から試合を投げてしまっていたように見えました。」
審判がゲームセットのコールをするまえは、試合というのは何が起こるか分からない。
それこそ静香や詩織が試合中に、何らかの怪我を負ってしまう可能性さえもあるのだ。
六花とてシュバルツハーケンで現役でプレーしていた頃、そういう選手を何度も目にしてきたのだから。
それなのに、本来なら選手たちを奮起させなければならない立場にあるはずの監督でさえも、試合を途中で投げてしまっていた。それが六花には気に入らなかったのである。
それを六花に分かりやすく解説されて、観客たちからは賛同の声が一斉に上がり、そして六花に心の内を見事に見抜かれてしまった監督は、何の言い訳も出来ずに言葉に詰まってしまったのだった。
「ですが、今の朝比奈さんと月村さんのペアに勝てる中学生が、果たして国内に存在するのかどうか…あくまでも私個人の見立てですが、恐らく隼人君と彩花がダブルスを組んで、ようやく互角の勝負になると思いますよ。」
「そ、そこまでの強さですか…。」
「勿論勝負の世界に絶対は無いので、この2人が必ず全国制覇するなどという無責任な事は言えませんが…それでも現状ではこの2人は、中学生最強のダブルスだと断言出来ますね。」
六花の解説に、おおっ…!!と、観客席から感嘆の声が上がる。
かくして準決勝第1試合を圧勝した静香と詩織は、続く決勝戦も圧倒的な強さで勝利して見事に優勝。愛知県代表として全国大会への出場を決めた。
丸刈り君とスポーツ刈り君は3位決定戦に出場し、何とか意地を見せて3位入賞。中学生最後の大会を有終の美で締めくくり、銅メダルを獲得したのである。
表彰台に上がり、とても嬉しそうな笑顔で、高々と金メダルとトロフィーを掲げる静香と詩織。
まさに六花の言う通り、静香と詩織は中学生最強のダブルスとして、この後の全国大会でも大暴れする事になるのである。
そう…。
中学生最強のダブルスに『なってしまった』のだ…。
それが原因で全国大会の舞台において、またしても大人たちの身勝手なエゴに巻き込まれた静香と詩織に、理不尽な悲劇が襲い掛かるという事を…この時の誰もが思いもしなかったのである…。
次回。急転直下。




