第74話:君にとってバドミントンとは、一体何だい?
向き合うべきは、自分の心。
かくして静香は9月の日曜日の朝9時…太一郎に連れられて愛知県名古屋市にある、とある豪邸へとやって来たのだった。
周囲の建物からは完全に浮いてしまっている、日本政府から国の歴史的文化財にでも指定されて、所有者が固定資産税の支払いを免除されてもおかしくない、それどころか建物の維持の為の費用を国が負担してくれそうな、中々に立派な古風の豪邸。
それを一目見た静香が、明治時代にタイムスリップしてしまったのかと、思わず錯覚してしまった程だ。
その豪邸の門に設置されている、カメラ付きの呼び鈴をピンポーンと太一郎が慣らすと、呼び鈴のマイクから
『入っていいよ~。』
という軽快な女性の声が聞こえてきた。
太一郎に穏やかな笑顔で促されて、静香は太一郎と一緒に豪邸の門をくぐる。
そして玄関を開けて、やや緊張した表情で豪邸の中に入った静香を出迎えてくれたのは…1人の小学生の女の子を連れた、静香に対して穏やかな笑顔を見せる、30代の美しい女性だった。
「よく来てくれたね。ざっくりとだけど太一郎から話は一通り聞いてるよ。君が朝比奈静香だね?」
「はい。よろしくお願いします。」
「私は夢幻一刀流の正当継承者の小鳥遊沙也加。この子は私の一人娘の佐那。夫は郵便局で働いていてね、今日は仕事で留守にしてるんだけど…。」
「小鳥遊…随分と珍しい苗字なのですね。」
「この日本に30人位しかいないっていう、とてもレアな苗字らしいよ。」
なんか自慢げに、沙也加は静香に対して豪快に笑ったのだった。
「さて、こんな所で立ち話も何だから中に入りなよ。詳しい話を聞こうじゃないか。」
沙也加に応接室まで案内された静香は、ソファの上に礼儀正しく腰を下ろし、その静香の隣に太一郎が座る。
そして沙也加と佐那が、そんな2人と向かい合うように座る形になった。
かくして沙也加に用意してもらった緑茶と和菓子を堪能しながら、静香は事の詳細を沙也加に明かしたのである。
自分は桜花中学校でバドミントン部に所属しているのだが、自分はシングルスで大会に出たかったのに、校長の命令でダブルスへの出場を強要され続けている事。
そのダブルスの試合でパートナーがあまりにも頼り無いもんだから、パートナーを後方に下がらせて何もさせず、静香1人の力だけでダブルスを戦い、全国大会を2連覇した事。
だがそんな静香の独りよがりなスタンドプレーを問題視した日本学生スポーツ協会から、学生スポーツとして相応しくないという理由から、今後同じようなプレーをした場合は即座に失格にすると通告された事。
それでもなお校長は、シングルスには隼人が出る事を理由に、頑なに静香に対してダブルスへの出場を強要し続けている事。
それで静香は、もう何の為にバドミントンをやっているのか分からなくなってしまい、今はマッチョの勧めもあって、心の静養と気持ちの整理の為に部活を休んでいる事。
そんな中で静香が先日のスーパーで、太一郎や夢幻一刀流との運命的な出会いを果たし、これをバドミントンに活かす事が出来ればと思い至った事。
それらを何の誇張表現もせずに、100億%馬鹿正直に語る静香の真剣な表情を、まるで静香の全てを受け止めるかのように、とても穏やかな笑顔で見据える沙也加だったのだが。
「…成程ね。話は大体理解したよ。」
とても満足そうに、沙也加は穏やかな笑顔で大きく頷いたのだった。
「しかし夢幻一刀流をバドミントンに応用したいとか、中々面白い事を言い出す女の子がいたもんだねえ。」
沙也加はこれまでにも、門下生募集の折り込みチラシを新聞に入れて貰ったり、地元のスーパーにも設置させて貰うなど、宣伝活動を大々的に行ってきたと静香に語ったのだが。
そんな中で様々な理由で夢幻一刀流を習いたいと、沙也加の元を訪れた者たちは何百人もいたものの、他のスポーツに活かしたいなどと言い出した者は、その何百人も面接した者たちの中で静香が初めてだったらしい。
「あの、道場には誰もいませんでしたが、門下生の方はいらっしゃらないのですか?」
「最近入ったばかりの高校生の女の子たちが4人いるよ?だけど私の指導方針で今日は休みだ。日曜日と祝日は家族との時間を大切にしろと伝えてあるんだよ。」
「成程、そんな考えもあるのですね。しかし4人だけですか…。」
他にも何人かいたが、鍛錬がきつ過ぎるとか、勉強との両立が難しくなったとか、仕事が忙しくなったとか、県外への転勤が突然決まってしまったとか、色々な理由で皆辞めてしまったとの事だ。
あるいは様々な理由から夢幻一刀流を伝授するのに相応しくないと判断し、沙也加の方から門前払いした者たちも大勢いるらしい。
そんな中で夢幻一刀流の免許皆伝まで辿り着けたのは、現時点では太一郎1人だけだと…沙也加は豪快に笑いながら静香に愚痴っていたのだが。
「と言うか太一郎。君がこんなに可愛い女の子を連れて久しぶりに顔を見せに来てくれたもんだから、ようやく君に彼女が出来たのかと喜んじまったじゃないか。」
その話題になった太一郎に、沙也加がニヤニヤしながら突っ込みを入れたのだった。
「いやいやいやいやいや沙也加さん、この子はそんなんじゃないですよ(泣)!?」
「君、確か今年で24になったよね?しかも警察官なんだろ?巡査長なんだろ?公務員なんだろ?収入が安定してるんだろ?だったらとっとと伴侶を見つけて結婚したらどうなんだい?」
「それ、この間、母さんにも全く同じ事を言われましたよ(泣)。」
「全く、君みたいな20代前半の文武両道のパーフェクトイケメンなら、婚活パーティーにでも行けば人気者になれると思うんだけどねえ。何で彼女の1人も出来ないんだか…。」
沙也加からの追及に、思わず顔を赤らめてしまった太一郎。
そんな太一郎を隣の席に座る静香が、クスクスと笑いながら見つめていたのだった。
「おっと、済まないね静香。思わず話が逸れてしまったよ。そろそろ本題に入ろうか。」
いつまでも太一郎の事をからかってやりたいのは山々だが、今日の沙也加にとっての本来の客人は太一郎ではなく、静香なのだ。
その静香の事を、いつまでもほったらかしにしておく訳にはいかない。
沙也加は穏やかな笑顔で、改めて静香に対して向き直ったのだった。
「君に夢幻一刀流を教えるにあたって、1つだけ君に確認しておきたい事がある。」
「はい。」
「君にとってバドミントンとは、一体何だい?」
静香にとって、バドミントンとは何なのか。
それは静香自身も沙也加に問われるまでもなく、部活を休んでいる間に自身の気持ちを見つめ直し、考え続けていた事だ。
そしてその答えは、ここに来るまでに既に決まっている。
静かに目を閉じて深く深呼吸した静香は…やがて意を決した表情で沙也加の顔を見据えたのだった。
「…沙也加さん。今の私は増田監督からの勧めもあって、バドミントンから離れているのですが…。」
今の静香の表情からは、一片の迷いも感じられない。
そんな静香を沙也加が、とても穏やかな笑顔で見つめている。
「ここに至るまでに私は、色々と理不尽な目に遭いました。色々と辛い事がありました。そんな中で私は先程も話したように、もう何の為にバドミントンをやっているのか分からなくなってしまいました。」
「うん、そうだね。」
「ですが一度バドミントンから離れてみて、増田監督が仰っていたように自分の気持ちを整理してみて…そうして私は自分の原点に立ち戻ってみたんです。私がどうしてバドミントンを始めたのかを。どうして今までバドミントンを続けてきたのかを。」
静香がバドミントンを始めたきっかけ。
それは幼少時に様子に連れられて赴いたバドミントンの体験コーナーで、実際にラケットでシャトルを打ってみて、凄く楽しくて面白かったから。
何かバドミントンに活かせればと、他のスポーツも色々とやってみたが、それでも一番しっくり来たのがバドミントンだった。
世界最速の競技とされているバドミントン。飛んできたシャトルを思い切りラケットでスマッシュすると、スコーンと乾いた音を立てながらシャトルが物凄い速度で飛んでいく。
それが静香には、何よりも爽快で楽しかったのだ。
「…沙也加さん。私…こんな事になってしまいましたが、それでもやっぱりバドミントンが大好きです。」
そう、それが静香が悩み抜いた末に導き出した答え。
静香にとってはバドミントンという競技が、他の何よりも楽しくて面白いから。
だから静香は、今の今までバドミントンを続けてきたのだ。
例え周囲の身勝手な大人たちの下らないエゴに何度振り回されようとも、やっぱり静香はバドミントンが大好きだ。
そして静香のこの気持ちは、これからもずっと変わる事は無いだろう。
「今なら胸を張って言えますよ。私は本気でプロのバドミントン選手を目指したいと。その為に夢幻一刀流を学びたいと。」
「君は朝比奈様子さんの1人娘なのだろう?いずれは朝比奈コンツェルンの総帥の座を継ぐんじゃないのかい?」
「確かにそれは、お母様から何度も口酸っぱく言われている事です。ですが私の人生は私だけの物です。お母様の言いなりの人生を送るなど冗談じゃないですよ。」
以前、美奈子がテレビのバラエティ番組に出演した際、スイスのプロリーグの厳しさ、弱肉強食のプロの世界の過酷さという物を、自身の17年間もの経験則を元にテレビカメラの前で生々しく語っていた。
一見華やかに見えるが、六花のように億単位の年俸を叩き出す選手など、極僅かしか存在しないのだと。
その上で美奈子は司会者から、真剣にプロを目指す若者たちへのアドバイスを求められた際、こう断言したのだ。
本来ならば馬鹿な事を言ってないで、安定した仕事に就きなさいと言いたいけれど。
それでも本気でプロを目指すのであれば、例え何があったとしても、周囲から何を言われようとも、自分のバドミントンの原点という物を見失わないで欲しいと。
確かに様子の跡を継いで朝比奈コンツェルンの総帥になり、様子に言われるままに大企業の御曹司との政略結婚に臨めば、きっと金銭的に安泰の未来が待ち受けている事だろう。
だが静香に言わせれば、そんな物は冗談ではない。
自分の進路は自分で決めるし、自分が心の底から好きになった男性と自分の意志で結婚する。
静香は様子の言う通りに動くロボットなどではない。朝比奈静香という1人の心を持った人間なのだから。
「私は私自身の手で、自分の運命を切り開きたい。例え周囲が何を言おうとも、私はプロのバドミントン選手を目指します。その為の力として私は夢幻一刀流を学びたいです。この想いは今、私の中で確信に変わりました。」
美奈子の体験談と忠告に理解も納得もしているが、それでも静香はプロのバドミントン選手を目指すのだ。
その為の力として、自分の運命を自身の手で切り開ける力…夢幻一刀流を。
ソファから立ち上がった静香は、決意に満ちた表情で、沙也加に頭を下げたのだった。
「だから沙也加さん!!こんな若輩者の私ですが、どうか何卒よろしく、ご指導ご鞭撻の程を!!」
今の静香との面談の中で、静香のバドミントンへの想い、そして静香がとても真面目な子なのだという事は、沙也加は充分に理解出来た。
沙也加にとっては、もうそれだけで充分だった。
それに沙也加自身も静香が歩む未来を、その目で見てみたくなったのだ。
静香が言っていた、バドミントンと夢幻一刀流の融合。
沙也加にとっても未知数のそれが、果たして一体どんな代物になるのかを。どのような未来を切り開くのかを。
「うん、分かった。君の入門を認めてあげる。」
「本当ですか!?心から感謝します!!沙也加さん!!」
顔を上げて、ぱぁ…っと、ようやく年頃の女の子相応を笑顔を見せた静香。
「ただし条件があるよ。部活には通わなくていいけど学校には必ず出席して、しっかりと勉強して赤点を取らない事。ここに来るのは学校が終わってからと、後は土曜日だけにしておきなさい。日曜日と祝日はしっかりと休んで、お母様との時間を大切にする事。いいね?」
沙也加は、静香にはバドミントン狂になって欲しくないから。
バドミントン以外の事も学校生活や日常生活の中で、しっかりと学んで欲しいから。
そんな想いから沙也加は、そんな条件を静香に突き付けたのだが。
「お母様との時間ですか…あの人との時間なんて、私にとっては苦痛以外の何物でもありませんけどね。」
「こらこらぁ!!君の事を女手1つで育てて下さっているお母様に対して、そんな酷い事を言ったら駄目だよ!?」
皮肉を込めた笑顔を見せる静香に対して、こらこらと叱り飛ばす沙也加。
この時の沙也加は、静香が思春期の中学2年生の女の子特有の、母親に対しての反抗期的な何かだとばかり思っており、あまり気に留めてはいなかった。
それが誤った判断だったという事を、もう少し静香の心の闇や家庭の事情に深く踏み込むべきだったという事を、沙也加は2年後に激しく後悔する事になるのである…。
何はともあれ、こうして無事に沙也加の弟子になる事が出来た静香だったのだが、同時に沙也加はこんな事を静香に対して言い出した。
静香に夢幻一刀流を教えるのは別に構わないが、それでも沙也加自身はバドミントンに関しては、ルール自体まともに理解していない素人同然なのだと。
それを踏まえて沙也加は、バドミントンに応用出来そうな技と、後は簡単な護身術を幾つか静香に教えるが、同時に夢幻一刀流を極めさせるまで徹底的に叩き込むつもりは無いという事を、静香に通告したのだった。
理由は明白だ。静香はあくまでもバドミントンの選手だからだ。
静香が本来戦うべき戦場はコートの上であって、静香が手にするのは刀ではなくラケットなのであって、そのラケットで打つべきなのは人ではなくシャトルなのだから。
だからこそ、プロのバドミントン選手になるという静香の夢を尊重する為にも、バドミントンには何の役にも立たないような技までは、簡単な護身術以外は教えるつもりはないと。
静香があくまでも最優先すべきなのはバドミントンの鍛錬であって、夢幻一刀流の修行はその延長線にするべきだという事を、沙也加は静香に伝えたのである。
その沙也加の考えに静香は心からの笑顔で理解を示し、沙也加に対して力強く頷いたのだった。
「そうだねぇ…維綱と、縮地法と、月光と…あとは相手のスマッシュに対してのカウンター技として天照が使えるかな。取り敢えずはこの4つをメインに、後は他にバドミントンに使える技があるかどうか、私と君とで話し合いながら鍛練を進めていこう。」
「はい!!よろしくお願いします!!」
「その上で私自身も君への指導に活かす為に、バドミントンという競技の事を詳しく知っておく必要があるが…そうだね、後でネットで試合の動画でも観てみようかねえ。」
急激な近代化やIT化が進む、今の令和の世の中においては、ネットの動画サイトで色々な動画を観る事が出来る時代なのだが。
それでも動画は所詮動画だ。実際に見て、聞いて、触れて、感じて、体験して、自身の経験とした物には遥かに及ばない。
だからこそ静香は、こんな提案を沙也加に提言したのである。
「だったら私が昔お世話になったバドミントンスクールを、見学させて頂くというのはどうですか?ここからそんなに遠くないですし、見学だけなら無料ですから。何ならお試しで1日だけ無料体験も出来ますよ?」
「そうか。なら車を出すから、今から案内してくれるかい?」
「はい!!沙也加さん!!」
こうして静香と沙也加との二人三脚での、たまに時間が空いた時には太一郎も様子を見に来てくれて、静香の夢幻一刀流の鍛錬が遂に始まったのだった。
平日は毎日放課後になると、バドミントン部には一切顔を出さず、沙也加の道場まで足を運ぶ日々。
他の4人の道着姿の女子高生の姉弟子たちと一緒に、桜花中学校バドミントン部のユニフォームに着替えた静香は、ひたすら木刀とラケットを手に汗を流したのである。
「そうだ。走るのではなく、跨ぐ高速移動術。今のが縮地法だ。」
「これは…皆さんは凄く簡単そうにやってますが、実際にやってみると難しいですね。」
「慣れれば簡単に出来るようになるさ。心配しなくても君は中々筋がいいよ。」
元々素質があると沙也加が褒めていただけあって、静香は割と短期間で、沙也加に教えられた夢幻一刀流の技の数々を習得する事が出来た。
だが維綱だけは難易度が高過ぎて、流石の静香も習得に困難を極めていた。
刀に自身の『気』をブレンドし、抜刀の際に衝撃波として放つ技である維綱。
『気』の扱い方自体に関しては、静香が自分で想定していたよりも、割とあっさりと身に着ける事が出来た。
だが問題になったのが、バドミントンにおいて要求される繊細なコントロールだ。
実際に『気』を込めたラケットでサーブやスマッシュを打ってみると、思っていたよりもコントロールが難しく、物凄い速度で放たれたシャトルが完全に明後日の方向に飛んで行ってしまうのだ。
どれだけ凄まじい威力と速度のサーブやスマッシュを打とうが、それがアウトになってしまっては何の意味も無いのだから。
もっと分かりやすく例えるならば、軽自動車にしか乗った経験が無い者に対して、いきなりフェラーリに乗ってアクセルを全開にして飛ばせと言っているような物だ。
まさに『じゃじゃ馬』とも言うべき維綱…だがそれでも静香は諦めなかった。
確かに『気』を込めたシャトルの制御は難しいが、それでもサーブやスマッシュの威力と速度が底上げされるのは事実なのだから。
これを完全に自分の物に出来れば、真剣にプロのバドミントン選手を目指す静香にとって、間違いなく静香独自の強力な武器となるはずなのだ。
そんな悪戦苦闘する静香に対して、沙也加は
「太一郎だって維綱の習得に1年も掛かってるんだから、気にする必要なんか無いよ?ま、あいつの場合は中学生活を送りながらの片手間での1年だけどね。」
などと言いながら豪快に笑っていたのだが。
その話題になった太一郎が、ある日の仕事帰りに静香の様子を見に来てくれた時の事だ。
「太一郎さんは私を助けて下さった時に、物凄く精密なコントロールで維綱を放ちましたよね?一体どうやったら、あんな精密なコントロールが出来るんですか?」
その静香の質問に対して太一郎から、こんな回答が返って来たのである。
「そうだね、人によって感じ方は当然違うと思うんだけどさ。僕の場合は『拳銃で弾丸を撃つ』イメージを持つ事かな。」
「…拳銃で…弾丸を撃つイメージ…ですか…。」
「うん。」
刀身を鞘に納めて『気』を込め、相手に狙いを定めて、抜刀と同時に衝撃波と化して放つ。
その維綱を放つ際の一連の動作を、太一郎はこんな風にイメージとして置き換えているらしいのだ。
弾丸…すなわち『気』を拳銃のバレルに装填し、その照準を相手に合わせて、引き金を引いてバレルから解き放つのだと。
成程そんな考え方があるのかと、静香は思わず感心してしまったのだった。
「だけど静香ちゃんの場合は僕と違って、刀じゃなくてラケットとシャトルだよね?だからあんまり参考にはならないと思うけどさ。」
「いえ、そんな事は無いですよ。貴重なお話を有難うございました。」
とても可愛らしい笑顔で、太一郎に感謝の意を示す静香。
(そうだ、そうやって色々と試行錯誤するのは決して悪い事じゃない。その経験さえも君の将来にとって掛け替えの無い、大切な財産になるはずだからさ。)
そんな2人の、そして他の4人の女子高生の愛しの愛弟子たちを、沙也加が慈愛に満ちた笑顔で見つめていたのだった。
(頑張れよ、静香。君ならきっと、やり遂げる事が出来るはずさ。)
そして、運命の時が…。
 




