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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
第5章:県予選大会編
66/136

第66話:この私の絶望の極意を

 準決勝第2試合、彩花VS静香。

 静香が…。

 こうして準決勝第1試合は、壮絶な死闘の末に隼人の勝利に終わり、隼人の決勝戦進出とインターハイ出場が決まったのだった。

 そんな隼人に観客たちが笑顔で、物凄い大声援と拍手を送る。

 まさかのジャイアントキリング達成か…そう観客たちに期待を抱かせる程の楓の奮闘劇、そして下馬評通りの隼人の快進撃。

 そして2人共、インターハイ県予選の準決勝に相応しい、実に見事な試合だった。

 ダクネスも亜弥乃も内香も、雄二も力也も詩織も穏やかな笑顔で、死闘を演じ切った隼人と楓に、惜しみない拍手を送っていたのだが。


 「お互いに、礼!!」

 「「有難うございました!!」」


 審判に促されて、隼人と楓が握手をした際…事件が起きてしまったのである。


 「…あの…楓ちゃん?」


 いつまで経っても自分の右手を握りっぱなしで放そうとしない楓を、隼人が戸惑いの表情で見つめていたのだが。

 

 「…あ、あのね、隼人。」

 「うん。」


 目を潤ませながら頬を赤らめ、とても真剣な表情で、じっ…と隼人の顔を見つめる楓。

 いつからだろうか。いつから楓は隼人に対して、こんな想いを抱くようになってしまったのか。

 平野中学校で初めて会った時は、なんか『神童』だとか騒がれてる、バドミントンが凄く強い優男、という位の印象しか受けなかったというのに。

 それなのに楓は隼人と一緒の時を過ごす内に、いつの間にか隼人の事を、常に目で追うようになってしまっていたのだ。

 周囲から『神童』だと騒がれながらも、それに決して慢心する事無く、部の誰よりも努力を積み重ねてきた隼人の姿を。


 隼人の右手を握ったまま、チラリと横目で彩花を見据える楓。

 彩花もまた隼人に対して、幼馴染の間柄を超えた好意を抱いているというのは、もう楓にはバレバレだ。

 鈍感な隼人はそんな彩花の想いに、未だに気付いていないようなのだが。

 だからこそ、そう、だからこそなのか。

 隼人の気持ちが、彩花に向いていない今の内に。

 心の中で、思わずそんな焦りを抱いてしまった楓は。


 「私、隼人の事が好き!!」


 このバンテリンドームナゴヤの15000人もの大観衆、しかもエ~テレによる地上波放送が行われているという、誰がどう見ても弁明の余地もない物凄い公衆の面前において、遂に隼人への愛の告白をしでかしてしまったのである。


 「ちょ…!?ええええええええええええええええええええええ(泣)!?」

 

 いきなりの楓の爆弾発言に、思わず仰天してしまった隼人。

 次の試合を控えている静香もまた、びっくりした表情で口元を両手で押さえながら、そんな隼人と楓を見つめている。

 

 「確かに伝えたから。返事は急がなくても構わないから。」

 「か、楓ちゃん…。」


 顔を赤らめながら、ようやく隼人から右手を離した楓だったのだが。


 「カ~~~~~エ~~~~~デ~~~~~ちゃあああああああああああああん!!」

 「ちょお、彩花!?」


 当然、彩花は黒衣を発動して、ブチ切れてしまったのである…。

 そんな彩花を、戸惑いの表情で見つめる六花。

 

 「…彩花。私、負けないわよ?」


 そんな彩花の黒衣に怯む事無く、彩花をじっ…と見据えながら、宣戦布告をする楓。

 一体彩花がどういった経緯で黒衣を纏う事になってしまったのか、それは楓には分からない。

 だがそれでも楓は、隼人の件に関しては微塵も譲るつもりは無かった。


 「じゃ、私、トイレに行ってくるから。」

 「あ、じゃあ僕も…。」

  

 それだけ彩花に告げてベンチ裏に向かう楓と隼人を、六花は悲しみに満ちた表情で見つめていたのだった。


 (何て事なの!?最悪だわ!!よりにもよって、こんなタイミングで…!!)


 勿論、楓は何も悪くない。それ位の事は六花も重々承知の上だ。

 それどころか『誰かを好きになる』という事の尊さ、素晴らしさは、六花自身もその身をもって充分に思い知っているつもりだ。

 何しろ六花もまたスイスで夫と運命的な出会いを果たし、周囲が思わずドン引きしてしまう程の超絶ラブラブの恋愛結婚の末に、彩花を出産したのだから。

 その夫は残念ながら、加害者の飲酒運転による交通事故で亡くなってしまったのだが…それでも夫が遺してくれた大切な思い出は、今も六花の胸の中で生き続けているのだ。

 だからこそ本来であれば、この楓の隼人への告白は、実るにしても実らないにしても、楓にとっては一生の思い出に残る、かけがえの無い大切な財産、そして何物にも代えられない大切な経験になっていたはずだろうに。


 だが、時期が悪過ぎた。そう、あまりにも時期が悪過ぎたのだ。

 よりにもよって、彩花が黒衣に呑まれてしまった、こんなタイミングで。

 しかも彩花が見ている目の前で、どうして隼人への告白なんかしちゃったのか。


 「お、落ち着きなさい!!彩花!!」

 「ふ~~~~~~~~っ!!ふ~~~~~~~~~~~~っ!!ふ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」


 まるで尻尾を爆裂させている猫みたいに、興奮しながら楓の背中を睨み付ける彩花を、六花が慌てて背後から抱き締めて抑え込んでいる。

 だがこのままでは、彩花がいつ楓に対して、シャー!!と飛び掛かるか分かったもんじゃない。

 そんな事になってしまえば彩花は、一発で失格になってしまうどころか、最悪の場合は暴行の現行犯で逮捕されて、少年院送りになってしまう可能性も…。

 それを危惧した六花は彩花に対して、思わずこんな爆弾発言をしでかしてしまったのだった。


 「そ、そうだわ!!決勝戦で隼人君に勝ったら、隼人君を私たちの家族にしてしまえばいいのよ!!」


 隼人君を、家族に。

 その六花の言葉を聞いた彩花が、途端に怒りを鎮めて黒衣を収め、ぱあっ…と明るい笑顔になって、自分を背後から抱き締めている六花の顔を見つめる。


 「…ハヤト君を…家族に…!?」

 「そ、そうよ!!そうすれば誰も隼人君に手出しなんか出来なくなるでしょ!?ね!?」

 「うん!!そうだよね!!お母さんの言う事は全て正しい!!お母さんに従っていれば何も間違いは無い!!」

 「え、ええ!!その為にも、まずは朝比奈さんを準決勝で倒さないとね!?」

 「うんっ!!」


 まるで尻尾を立てている猫みたいに喜んでいる彩花を、六花が悲しみに満ちた表情で抱き締めている。

 そんな六花に彩花は、喉をゴロゴロさせながら満足そうに身を委ねていたのだった。 


 (ああ、御免ね隼人君…貴方の事を巻き込んでしまったわ…!!)


 彩花の黒衣を鎮める為に、思わずこんな爆弾発言をしてしまった六花は、心の中で己の愚かな発言を自戒したのだった。

 何故なら隼人を家族にするというのは確かに聞こえはいいが、肝心の隼人の…そして何よりも保護者である美奈子や玲也からの承諾を、六花は全く得ていないからだ。

 その上で六花は、こんな馬鹿げた提案を彩花にしてしまったのである。


 (だけど私には、もうこれしか彩花の黒衣を鎮める方法が…!!)


 心の中で須藤家に謝罪をした六花だったのだが…それでも時間は待ってくれない。


 『それでは続きまして、聖ルミナス女学園1年、藤崎彩花選手 VS 聖ルミナス女学園1年、朝比奈静香選手による、準決勝第2試合を開始致します。』


 そう、球場スタッフがコートの整備をちゃっちゃと終えた事で、次の準決勝第2試合の…彩花と静香の試合の準備が整ってしまったからだ。

 場内アナウンスと共に、観客席から凄まじい大歓声が届けられる。

 そして静香が力強い笑顔で威風堂々とコートの上に立ち、彩花に対して左手で「おいでおいで」をしたのだった。

 もうこうなったら、六花も腹をくくるしかない。

 彩花が静香に勝つにしても負けるにしても、今は彩花専属のコーチ兼任マネージャーとして、彩花の試合を全力でサポートする事に専念しなければならないのだ。


 「彩花。分かってると思うけど、朝比奈さんはこれまでの対戦相手とは別格の強さよ?全身全霊の力で挑まなければ負けると思いなさい。」

 「うん、分かってるよ。お母さん。」


 決意に満ちた表情で、コート上の静香を見据える彩花。


 「静香ちゃんは強いよ。それは私が一番よく分かってる。」


 あの日、聖ルミナス女学園で静香を相手に、5-0でボロカスに負かした試合。

 あの試合では静香はOTLの姿勢になってしまっていたのだが、それでも静香が敢えて手加減をしていたのだという事を、彩花には何となく分かっていたのだ。

 何故ならあの試合で負けたはずの静香が、負けたはずなのに余裕の笑みを浮かべていたのを、彩花はその目で目撃していたのだから。

 六花は言っていた。恐らく静香は、直樹のオーバーワークのせいで全身ボロボロになっていた彩花の身体を気遣い、敢えてわざと負けたのではないかと。


 そして六花のこの推測は、彩花が静香の試合を間近で観戦し続けてきた事で、彩花の中で確信に変わっていたのだった。

 そう、静香は強い。いくら彩花でも全身全霊の力でもって挑まなければならない強敵だ。

 だからこそ。そう、だからこそだ。


 「だからこの試合…一瞬で終わらせるよ。」

 「一瞬で終わらせるって…ちょっと、彩花!?」


 一体彩花は何を言っているのか。戸惑いを隠せない六花に見守られながら、遂に彩花と静香がコート上で向かい合ったのだった。

 2人が誰よりも心から待ち望んでいた、バンテリンドームナゴヤでの準決勝という最高の舞台で。


 「お互いに、礼!!」

 「「よろしくお願いします。」」


 審判に促され、互いに握手をする彩花と静香。

 いよいよだ。彩花VS静香。『神童』VS『天才』。

 運命の準決勝第2試合が、遂に始まったのである。

 決勝戦で隼人と戦うのは、そしてインターハイ出場を決めるのは、果たして彩花なのか、静香なのか。

 どちらか1人が栄光を手にし、どちらか1人が脱落してしまうのだ。

 どれだけ勝ち進んでも、たった一度の敗戦で全てが終わってしまう。

 それこそが残酷な学生スポーツの掟…そしてだからこそ美しいのだ。


 「スリーセットマッチ、ファーストゲーム、ラブオール!!聖ルミナス女学園1年、藤崎彩花!!ツーサーブ!!」


 審判に促され、サーブの体勢に入る彩花。

 そんな彩花に客席から、凄まじいまでの大歓声が届けられる。


 「静香お姉ちゃんだ!!静香お姉ちゃんの試合だ!!」

 「頑張れ、静香。悔いだけは残すんじゃないよ?」

 

 佐那と沙也加も客席から、静香の勇姿を見守っている。

 ダクネスも亜弥乃も内香も、雄二も力也も詩織も、そして大学や社会人チーム、各国のプロチームのスカウトたちも、熱い視線を彩花と静香に送った…次の瞬間。


 「はぁ、ようやく万全の状態の彩花ちゃんと真剣勝負が出来るのですね。この時を私はどれだけ待」

 「うっさいなあ!!」


 彩花の怒鳴り声と共に放たれた渾身のシャドウブリンガーが、静香の足元に突き刺さったのだった。


 「1-0!!」


 審判が彩花のコールを告げるが、その審判の声は…いいや、会場全体の大声援さえも、今の静香には聞こえない。

 それどころか今の静香には、何も見えない。何も感じない。

 どこまでも深い闇が、静香の全身を包み込んでしまっている。


 「御免ね静香ちゃん。今の私、物凄く機嫌が悪いんだぁ…。」


 そんな静香を黒衣を纏った彩花が、冷酷な表情で睨みつけている。

 その彩花の表情、そして彩花から放たれる凄まじい威圧感に、思わず審判はビクッとなってしまったのだった。


 「私ね、決勝戦でハヤト君に、どうしても勝たなきゃならなくなったんだ。」


 そんな彩花の言葉が届く事無く、呆然自失の表情のまま直立不動で立ち尽くす静香。


 「だから悪いんだけど…もう静香ちゃんには構っていられないよ。馬~鹿。」


 そして彩花の言葉と同時に、静香の右手からラケットが乾いた音を立てて、コートの上に滑り落ちてしまったのだった。

 そう、彩花が六花に対して「一瞬で終わらせる」と言ったのは、この事だったのだ。

 静香の五感を剥奪する事で、有無を言わさず問答無用で、静香を試合続行不可能に追い込む…それが彩花の目論見だったのである。

 

 黒衣による五感剥奪は、対象が黒衣を纏った彩花に対して恐怖を抱いた事で、肉体と精神が過度の防衛本能を発動させてしまう事で起こり得る現象だ。

 静香にとってのトリガーは…先程の『うっさいなあ!!』なのだろうか。

 そんな彩花と静香を、六花が悲しみに満ちた表情で見つめていたのだが。


 「おいおいおいおいおいおいおいおい!!まさか朝比奈の奴、藤崎にシャドウブリンガーを一発打たれただけで、五感を奪われちまったって言うのかよ!?」


 バンテリンドームナゴヤがどよめきに包まれる最中、雄二もまた唖然とした表情で、目の前の光景を見つめていたのだった。

 あの時と同じだ。雄二が彩花に五感を奪われてしまった、地区予選大会の1回戦の時と。

 あの試合でも雄二は試合開始直後、自身の渾身のサーブを彩花にシャドウブリンガーであっさりと返されてしまい、その絶望感と喪失感によって五感を剥奪されてしまったのだ。


 この件に関しては、今も雄二は自戒として胸の内に秘めており、自分が弱かったからこうなったのだと、今となっては受け入れてはいるのだが。

 だが、まさか…静香程の全国トップレベルの…いいや、それどころか今すぐにでも世界の舞台で通用する程の選手でさえも…彩花の黒衣の暴虐的な力の前に、こんな事になってしまったとでも言うのか。

 あの『天才』静香でさえも、彩花の黒衣には太刀打ち出来ないとでも言うのか。


 「しっかりしろよ朝比奈!!俺の想いも背負って藤崎と戦うって、そう俺に約束してくれたじゃねえかよぉっ!!」


 悲痛に満ちた表情で、必死に静香に呼びかける駆だったのだが…五感を剥奪された今の静香には、駆の叫びは届かない。

 それが駆には、何よりも歯痒かった。

 

 「ねえ審判。静香ちゃん、もう戦えないよ?早く試合終了のコールをしてよ。」

 「え!?あ、いや、し、しかし…!!」

 「しかしもかかしも無いよね?どう見ても静香ちゃんの試合続行は不可能だよ。」


 審判が戸惑いの表情を彩花に見せる中、呆然自失の表情で立ち尽くす静香の姿に、客席から戸惑いの声が聞こえてきたのだった。

 無理も無いだろう。まさか試合開始直後に静香が試合続行不可能になるなど、そんな展開を果たして一体誰が想像しただろうか。


 え?まさかこれで終わり?

 まだ試合が始まったばかりなのに?

 何だよこれ!!『神童』VS『天才』の試合を楽しみにしてたのによ!!


 そんなどよめきや不満の声、怒号が客席から響く最中、彩花に五感を奪われた静香は。


 (やってくれたじゃないですか。彩花ちゃん。)


 何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。

 闇。闇。闇。どこまでも続く深い闇。

 普通の人間なら雄二のように、一発でトラウマになってしまうような状況の中で。


 (ですが…こんな物で私を止められると思ったら…大間違いですよ!!)


 何と余裕の笑みさえも浮かべていたのである。


 「あ、朝比奈静香選手、試合続行不可能につき…!!」

 「…ふひひ(笑)。」

 「え(泣)!?」

 「あはははははははははははははははは!!」


 何の前触れもなく五感を取り戻した静香が、いきなり高笑いし出したもんだから、審判は思わずびっくりしてしまう。

 彩花もまた、静香の予想外の態度に、戸惑いを隠せない。

 間違いなく静香の五感を剥奪したはずなのに。間違いなく静香を試合続行不可能の状態まで追い込んだはずなのに。

 それなのに静香は、五感を取り戻したばかりか…何とあろう事か彩花に対して笑っているのだ。


 「あの時の試合とは違う!!これが彩花ちゃんの正真正銘の全力!!全身全霊のシャドウブリンガー!!」


 コートに落としたラケットを右手で拾った静香は、そのラケットを威風堂々と、力強い笑顔で彩花に突き付ける。

 そんな静香の姿に、逆に彩花の方が威圧されてしまったのだった。

 無理も無いだろう。彩花の五感剥奪を自力で打ち破った者など、これまで誰1人として存在しなかったのだから。

 戸惑いの表情で、彩花は静香を見つめている。


 「ようやく巡り会う事が出来ましたよ!!私の事を身も心も満足させて下さる方に!!」

 「静香ちゃん、何で!?五感を奪ったはずなのに!!何でよ!?」

 「ええ、奪われましたよ?と言っても、ほんの数秒だけでしたが。ですが…。」


 何の迷いもない力強い笑顔で、静香は彩花に断言してみせたのだった。


 「私は彩花ちゃんとの公式の舞台での真剣勝負を、これまでずっと心の底から待ち望んでいたのですよ!?そんな私が彩花ちゃんに対して、どうして恐怖など抱かないといけないんですか!?」

 

 そう、静香はずっと待ち望んでいたのだ。

 彩花との試合を。公式戦での真剣勝負を。

 そんな静香を相手に、彩花が黒衣の力で静香に恐怖を抱かせ、五感を奪って無理矢理試合続行不可能にするなど…最初から無理ゲーだったのだ。

 むしろ先程の彩花の静香に対しての『うっさいなあ!!』は…もしかしたら静香にとっては最高のご褒美だったのかもしれない…。

 

 「し、静香ちゃん、君は変態なの!?変態さんなの!?」

 「とはいえ、私が彩花ちゃんに五感を奪われてしまったのは事実です。そして思い知らされましたよ。今の黒衣を纏った彩花ちゃんに勝つ為には、私も死力を尽くさなければならないという事を。」


 出来れば静香は、『この力』を最後まで使う事なく彩花と戦いたかった。

 何しろ『これ』は静香の美学に反する、あまりにも暴虐的な力なのだから。

 だが黒衣を纏った今の彩花が相手では、もうそんな悠長な事は言っていられないようだ。

 ほんの数秒だけとはいえ、静香は彩花に五感を奪われてしまったのだから。


 「彩花ちゃん…黒衣が彩花ちゃんだけの専売特許だと思ったら、大間違いですよ?」

 「…まさか…!!」

 「地区予選の時に言いましたよね!?彩花ちゃんの視線を必ず私に釘付けにしてみせるって!!」


 そこへ、おしっこを済ませて美奈子たちの所に戻ってきた、隼人と楓が目撃した物は…。


 「母さん、彩花ちゃんの試合はどうなって…。」

 「ならば見せてあげますよ!!この私の絶望の極意を!!」


 妖艶な笑顔で黒衣を発動させた、静香の暴虐的な姿だった…。

 次回は県予選大会編、完結です。

 死闘を繰り広げる彩花と静香ですが…。

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