第64話:手加減なんかしたら許さないから
準決勝第1試合、隼人VS楓。
楓が隼人を相手に躍動します。
『大変長らくお待たせ致しました。間もなく試合開始です。まずは稲北高校1年、須藤隼人選手 VS 稲北高校1年、里崎楓選手による、準決勝第1試合です。』
そして午後1時。女性アナウンサーからの場内アナウンスによって、準決勝第1試合の試合開始が告げられたのだった。
怪我と肉離れの防止の為に、準備運動と柔軟体操を入念に済ませた隼人と楓に、美奈子が慈愛に満ちた笑顔で話しかける。
「さあ、いよいよ出番よ。2人共、準備は出来てるわよね?」
「ああ、勿論だよ。母さん。」
「須藤監督。」
そんな中で楓がとても真剣な表情で、慈愛に満ちた笑顔で自分を見つめる美奈子を見据えながら、本心からの言葉を美奈子に送ったのだった。
「私が今日、この準決勝の舞台に立っていられるのは、紛れもなく須藤監督のご指導ご鞭撻があっての物です。この御恩を私は一生忘れる事はありません。」
そう、楓がここまで強くなれたのも、このバンテリンドームナゴヤという最高の舞台に立つ事が出来たのも、全て美奈子のお陰だ。
美奈子が楓に課した練習メニューは確かに過酷だったが、それでも美奈子は絶対にオーバーワークにならないように常に気を配ってくれていたし、何よりも美奈子の指導には楓への確かな愛情が、たっぷりと込められていた。
だからこそ楓は、美奈子が課した過酷な練習メニューに決して音を上げる事無く、こうしてここまで強くなる事が出来たのだ。
美奈子に出会えなければ楓は、その生まれ持った素晴らしいバドミントンの才能が、開花される事無く埋もれてしまったままだったかもしれない。
まさに楓にとって美奈子は、自分の人生を変えてくれた恩人なのだ。
その大恩ある美奈子に対しての、楓にとっての恩返しの手段…それは…。
「私は今日、須藤君に勝つ事で、須藤監督への恩返しとさせて頂きます。」
そう、今日ここで隼人に勝つ。それこそが楓の美奈子に対しての恩返しだ。
『神童』の異名を持つ最強のバドミントンプレイヤーである隼人に勝つ事で、自分が美奈子のお陰で今日ここまで成長出来たのだという事を、美奈子に証明する為に。
そんな愛しの教え子の言葉に、美奈子は何だか感極まってしまったのだが。
「ありがとね、里崎さん。だけど私に気を遣う必要なんか無いわよ?」
楓にそう言って貰えるだけでも、指導者冥利に尽きるという物だ。
それだけでも楓が自分の事を、心から慕ってくれているという事を理解したのだから。
だがそれでも美奈子は隼人にも楓にも、もう二度と訪れないかもしれない今この瞬間において、存分に輝いて欲しいと思っているのだ。
「このバンテリンドームナゴヤという『聖地』で繰り広げられる、県予選準決勝…ここまで勝ち抜いた貴方たち2人だけに許された最高の舞台、最高の特権よ?変に気負わなくてもいいから、2人だけの時間を思う存分楽しんでいらっしゃい。」
「うん。」
「はい!!」
とても力強い笑顔で、美奈子に頷く隼人と楓。
このバンテリンドームナゴヤでの準決勝第1試合という、ここまで勝ち残った隼人と楓にだけ許された最高の舞台、最高の特権を、隼人にも楓にも存分に楽しんで欲しいと…一生の思い出に残る最高の試合にして欲しいと…そう美奈子は思っているのだ。
そんな美奈子の想いを背中に受けながら、隼人と楓はコートへと向かう。
そして高台の審判に穏やかな笑顔で見守られながら、互いにコートに立って周囲を見渡した隼人と楓は、改めてバンテリンドームナゴヤの『広さ』という物を実感させられたのだった。
忠実トラフォンズの主砲・ビズエダが『モンスター』と表現した、日本の球場の中で最大の広さを誇り、日本一ホームランが出にくいとされている広大なフィールド。
実際にその舞台に足を踏み入れて体験するのと、テレビの野球中継で観るのとでは、その『広さ』の体感は全く違う。
以前、ここでガールズバンドのヴォルモニカがライブを行い大成功を収めたのだが、こんな広い空間でよく気圧されずに、あんな大声で歌えたもんだなと、隼人は改めて関心させられたのだった。
プロのボーカルというのは、本当に凄い。
「ここがバンテリンドームナゴヤ…僕たちは本当にこんな所で試合をするのか…。」
「須藤君…いいえ、『隼人』。」
そんな事を考えながら球場を見渡していた隼人に対して、楓が決意に満ちた表情で話しかけてきたのだった。
「悪いけど勝たせて貰うわよ。私が心から敬愛する、須藤監督への恩返しの為に。」
「それ、母さんの息子として凄く嬉しい言葉だよ。」
苦笑いしながら、そんな楓を見据える隼人。
「だけど僕も負けるつもりは無いよ。結果を出して母さんを喜ばせたいっていう想いは、僕も君と同じだからね。」
「手加減なんかしたら許さないから。」
「そんな余裕なんか全然無いよ…『楓ちゃん』。」
そして。
「お互いに、礼!!」
「「よろしくお願いします!!」」
審判に促され、互いにがっしりと握手をする隼人と楓。
そんな2人に客席から、凄まじい声援が浴びせられたのだった。
そして審判からシャトルを受け取った隼人が、左打ちの変則モーションの構えを取る。
美奈子との二人三脚の果てに辿り着き、スイスにいた頃から何度も周囲に酷評されながらも、決して惑わされる事無く己の信念を貫き通した、隼人独自の変則モーションを。
その隼人の雄姿を15000人もの観客、そして数多くの関係各所たちが固唾を飲んで見守る最中。
「スリーセットマッチ、ファーストゲーム、ラブオール!!稲北高校1年、須藤隼人、ツーサーブ!!」
「さあ、油断せずに行こう!!」
運命の準決勝第1試合…隼人と楓による決戦が、遂に始まった。
隼人の左腕のラケットから、凄まじい威力のサーブが楓に対して襲い掛かる。
「相変わらず凄い威力のサーブね!!だけど!!」
それを楓は全く臆する事無く、正確無比の精度で隼人に対して打ち返す。
それを返す隼人。さらにそれを返す楓。
常人には決して捉え切れない、『世界最速の競技』と呼ばれるバドミントン独自の超高速のラリーに、観客は大いに熱狂する。
「私は負けないわよ!!隼人!!」
「クレセントドライブが来る…!!」
隼人が打ち上げたシャトルに対し、楓がスマッシュの体勢に入ったのだった。
どっちだ、右か、左か。それともドライブショットと見せかけての通常のスマッシュか。
隼人は楓のラケットに、全神経を集中させていたのだが。
「私のクレセントドライブは7枚刃よ!!」
果たして楓が繰り出したのは、隼人の顔面に向けて放たれた強烈な一撃。
だがその軌道は、右でも、左でもない。シャトルが向かった先は…。
「何だ!?このシャトルの軌道は!?」
何と楓が放ったシャトルは、突然隼人の目の前で急上昇し、さらに隼人の後方で急下降したのである。
唖然とする隼人の後方に、ポトリと落ちるシャトル。
「0-1!!」
審判のコールと同時に、バンテリンドームナゴヤが凄まじい大喧噪に包まれたのだった。
誰もが予想もしていなかった、まさかの楓の先制点。
そしてこれは今大会において、隼人が初めて奪われた先制点でもあるのだ。
まさかの事態に記者たちが、一斉に楓に対してカメラのフラッシュを浴びせる。
「これは野球で言う所のドロップカーブという奴だな…!!楓ちゃんが母さんと2人で、なんかやってたけど…これの事だったのか…!!」
シャトルを拾った隼人は、とても厳しい表情で楓を見据える。
以前、平野中学校にいた頃、楓と対戦した彩花は、楓に対してこんな酷評をした。
クレセントドライブに頼りっぱなしのワンパターンなプレーだと。肝心のクレセントドライブを活かす為の戦術が全然出来ていないと。
それは平野中学校のバドミントン部の顧問が、バドミントンに関してはズブの素人だったが故に起きた悲劇であり、これに関しては彩花に同情すらされてしまった程だ。
だが稲北高校で楓は、美奈子という最強の指導者に巡り合えた。
そして楓は自分が今まで持ち合わせていなかった、クレセントドライブを活かす為の戦術を、美奈子から徹底的に叩き込まれたのだ。
さらに楓が美奈子と充分に話し合った上で、強くなる為に最終的に出した結論…それは。
「0-2!!」
新しい必殺技を付け焼き刃で身に着けるのではなく、開き直ってさらにクレセントドライブを極限まで磨き上げるという結論だった。
彩花からはワンパターンだと酷評されたクレセントドライブ。だがそれでも楓にはクレセントドライブしか無いのだから。
今度はフォークボールのように急下降したシャトルの前に、隼人のラケットが呆気なく空振り三振してしまう。
「何て切れ味だ、大魔神かよ!!」
ぽ~ん、と隼人が楓に対して打ち上げたシャトルを、楓は何の迷いもない力強い瞳で、威風堂々と左手でキャッチする。
そしてサーブの体勢に入った楓を、隼人は真剣な表情で見据えていたのだった。
(分かっていたさ、楓ちゃん…!!君がこれ位やってのけるって事は、僕にも分かっていたさ!!)
何しろ隼人は、いつも間近で見続けてきたのだ。
楓が美奈子の下で、あんなに頑張って練習に励んでいた所を。
美奈子の優れた指導によって今まで眠っていた才能を存分に引き出され、中学時代よりも遥かに強くなっていったのを。
それを目の前で見せつけられたからこそ、隼人は楓にリードされているという現状に、別に何も驚きはしなかったし、心の中でこうも思っているのだ。
今の楓に対して少しでも油断しよう物なら、間違いなく食われると。
全身全霊の力でもって挑まなければ、今の楓には勝てないと。
(だけどね楓ちゃん。僕にだって負けられない理由があるんだよ。この県予選で彩花ちゃんと戦うって、そう約束したからね。)
楓がサーブを打とうとしている最中、コートの近くで自分の試合を観戦する彩花と六花を、チラリと横目で見る隼人。
マンボウみたいに頬を膨らませながら不服そうに腕組みをして、六花に穏やかな笑顔で肩を抱き寄せられながら、彩花は隼人と楓をじぃ~~~~~~~~~っと見つめている。
今の彩花は、隼人が楓にリードされているという展開を、一体どんな気持ちで見つめているのだろうか。
楓を相手に予想外の苦戦を強いられている隼人に対して、もっとしっかりしてよ、とでも思っているのだろうか。
あるいは彩花の想像以上に強くなっていた楓に対して、心の中で驚いているのだろうか。
果たしてどちらなのかは、隼人には分からない。
だがそれでも楓に視線を戻した隼人は、決意に満ちた表情で楓を見据えた。
「そうさ、僕は決勝戦で彩花ちゃんと戦うんだ。」
「はあっ!!」
壮絶なラリーの応酬が繰り広げられる最中、またしても楓が繰り出した強烈な威力のクレセントドライブ。
まるで野球におけるシュートのように、今度は隼人の胸元を情け容赦なく抉ってきたのだが。
「だから僕は…君に勝つ!!」
見事に弾道を読み切った隼人が、カウンターで楓に強烈なスマッシュを浴びせたのだった。
「1-2!!」
「なっ…!?」
やはり『神童』隼人。その牙城は、そう簡単には崩せない。
何の迷いもない力強い瞳で、威風堂々とシャトルを楓に突き付ける隼人に対し、観客たちが大声援を送ったのだった。
「2-2!!」
「くっ…!!」
そして、あっという間の同点劇。
自分の足元に叩きつけられたシャトルを、楓は苦虫を噛み締めたような表情で見つめていたのだった。
「やるわね隼人!!だけど、まだまだこれからよ!!」
その白熱する試合を、亜弥乃と内香が笑顔で談笑しながら観戦する傍らで。
「…里崎さんのクレセントドライブは…回転が…さらに打つ時に右肘の…」
ブツブツ、ブツブツ、と、ゾーンに入った詩織が隼人との試合の時と同様に、まるで何かに取り憑かれたかのような表情で、アナライズで隼人と楓のプレーを分析していた。
「…ほう、見事な物だな。」
そんな詩織を隣に座るダクネスが、とても興味深そうな笑顔で見つめていたのだが。
「…須藤君は…もしかして里崎さんの癖を見抜いてる…?」
「娘。事前にネットで動画を観させて貰ったが、お前は確か地区予選で須藤隼人に敗れた月村詩織と言ったな?」
「ひゃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ(泣)!?」
いきなり流暢な日本語でダクネスに話しかけられたもんだから、詩織は思わずゾーンを解除して仰天してしまう。
そして次の瞬間ダクネスは穏やかな笑顔で、とんでもない事を詩織に対して言い出したのだった。
「どうだ?高校を出たら、うちのチームでスコアラーをやる気は無いか?」
「ぎょええええええええええええええええええええええええ(泣)!?」
いきなりのダクネスからの無茶苦茶な誘いに、詩織は思わず仰天してしまう。
隣に座っていた亜弥乃と内香も、びっくりした表情でダクネスを見つめていたのだった。
「シュ、シュシュシュシュ、シュバルツハーケンでですか!?」
「そうだ。首脳陣には私の方から話をしておくが…どうだ?」
「あわわわわわわ、私みたいなクソ虫なんかが、そんな名門チームのスコアラーになるだなんてえええええええええええ(泣)!!」
ダクネスは日本に来る前に今回の地区予選や県予選での、隼人と彩花の全試合の動画をネットで確認していたのだが、そこで特に隼人と詩織の試合における、詩織のアナライズを駆使した驚異的な分析能力による『絶対防御』に関しては、強く印象に残っていたのだ。
正直言って詩織の内気な性格では、弱肉強食のプロの世界では『選手として』活躍するのは厳しいのではないかと、そうダクネスは思っている。
だがそれでもダクネスは、この詩織の凄まじいまでの分析能力に関しては、非常に高く評価しているのだ。
そしてそれを今、実際に詩織の隣で体験させられて、改めて実感させられたのだった。
選手としては無理でも、裏方としてならどうだろうか…と。
はっきり言って詩織にシュバルツハーケンのスコアラーになって貰えれば、ダクネスにとってこれ程心強い事は無い。
そして敵チームにとっても詩織の分析能力は、まさに脅威以外の何物でも無いだろう。
だからこそダクネスは、こんな金の卵を絶対に逃してたまるかと、こうして今ここで詩織をスカウトしたのだ。
特に今、内香の隣でびっくりしながらドーナツを食べている、世界ランク1位の馬鹿にデンマークに連れて行かれるなど、冗談ではない。
「スススススススイスの公用語って、確かドイツ語でしたよね!?私、ドイツ語なんて話せませんけど!?英語しか話せませんけどおおおおおおおおおおおおおおお(泣)!!」
「英語が話せるなら充分だ。何なら私が通訳してやるよ。」
「そそそそそそそそんな、恐れ多いですううううううううううううう(泣)!!」
「まあ突然こんな事を言われたら、お前がそうやって取り乱すのも無理も無かろう。だがそれでも頭には入れておいてくれると、私も嬉しく思う。」
「ひゃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい(泣)!!」
「だから今は存分に楽しもう。この準決勝という最高の舞台をな。」
それだけ詩織に告げたダクネスは、たまたま通りかかった売り子の女性に対して右手を上げて呼びかけたのだが。
「すみません。私と彼女にアイスクリームをお願い出来ますか?」
「ダクネスちゃん!!その子にアイスクリームを奢るなら、私とお母さんにも奢ってよ~!!」
「自分で買え。」
「ひっど!!ダクネスちゃんったらひっど!!2月にロンドンで私と一緒に、あんなに激しく汗まみれになって睦み合った仲でしょ!?」
「バドミントンの試合をな。」
「そんなんだからダクネスちゃんは、彼氏いない暦21年なんだよ!!べーだ!!」
「お前もな~。(´・ω・`)」
しょーもない言い争いをしている亜弥乃とダクネスを、詩織があわわわわ言いながら必死になだめている間に、いよいよファーストゲームが終盤に差し掛かっていたのだった。
「17-14!!」
隼人の強烈なクロスファイヤーが、情け容赦なく楓の胸元を抉る。
スコア上では互角に見えるが、それでも試合を支配しているのは隼人の方だった。
美奈子の優れた指導によって、今まで埋もれていた凄まじい才能を存分に開花させ、隼人を苦戦させる程までに成長を遂げた楓だったのだが、隼人はそれだけで勝てるような甘い相手では無いのだ。
どれだけ楓に得点を奪われても決して取り乱す事無く、楓の些細なミスを決して逃さず、決めるべきポイントでは確実に決め、情け容赦なく楓を突き放していく。
それが出来る選手だからこそ、隼人は周囲から『神童』の異名で呼ばれているのだ。
そして。
「ゲーム、稲北高校1年、須藤隼人!!21-16!!チェンジコート!!」
「よおしっ!!」
ファーストゲームを奪った隼人が、心からの笑顔を見せながら派手なガッツポーズを見せたのだった。
そんな隼人に観客から凄まじいまでの大声援が送られ、記者席からもカメラのフラッシュが無数に浴びせられる。
審判から2分間のインターバルを与えられ、美奈子の隣のベンチに腰掛ける楓。
そんな楓に美奈子は慈愛に満ちた笑顔で、麦茶が入った水筒とタオルを手渡したのだった。
「須藤監督。やっぱり隼人は強いですね。」
「でしょう?だって私が鍛えた可愛い息子ですもの。」
「分かってはいたけど、簡単に勝たせてくれる相手じゃない…だけど、私は最後まで諦めませんよ。」
麦茶を口にしながら、楓は反対側のベンチで駆とじゃれ合っている隼人を見据える。
隼人に勝つ事で、美奈子への恩返しとする…その想いは当然あるが、それだけではない。
今、自分の目の前にいる、『神童』という最強にして最高の対戦相手を超えてやるんだと、何としてでも勝利するんだと…今の楓はそんな事を考えているのだ。
同じチームの仲間として…そして1人のバドミントンプレイヤーとして。
『お待たせ致しました。只今よりセカンドゲームを開始致します。』
「行ってらっしゃい、里崎さん。悔いだけは残さないでね。」
「はい!!行ってきます、須藤監督!!」
そして2分間のインターバルを終えた隼人と楓が、大歓声に包まれながら再びコートに舞い戻る。
そして真剣な表情で、互いに見つめ合う2人。
バンテリンドームナゴヤという最高の舞台で行われる、準決勝第1試合。
美奈子が言っていたように、これはここまで勝ち上がった隼人と楓だけに与えられた、最高の特権だ。
どうかその最高の舞台を、心から存分に楽しんで欲しいと…悔いだけは残さないで欲しいと…美奈子は慈愛に満ちた笑顔で隼人と楓を見つめていた。
そして。
「セカンドゲーム、ラブオール!!稲北高校1年、里崎楓、ツーサーブ!!」
「さあ、行くわよ隼人!!私の全てを今ここで、全力で貴方にぶつけるわ!!」
決意に満ちた表情で、楓は隼人に渾身のクレセントドライブを放ったのだった。
次回、隼人VS楓、決着です。




