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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
第5章:県予選大会編
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第57話:最後に貴方と戦う事が出来て、本当に良かったわ

 隼人VS愛美。その壮絶な戦いの結末は…。

 かくして県予選の午前中のダブルスの試合は無事に滞りなく進行し、昼休憩を挟んで午後1時からの、隼人たちが出場するシングルスの試合が遂に始まった。

 やはり隼人と彩花、静香の周囲からの注目度は凄まじく、隼人たちがコートに姿を現した途端、先程までのダブルスの試合の時とは段違いの物凄い大歓声が、日本ガイシホールを包み込んだのだった。


 これまでの大会ではシングルスの試合を午前中から、ダブルスの試合は午後から行われる事が通例だったのだが、今回の県予選に限っては逆にダブルスの試合が午前中に組まれてしまっていた。

 これはダブルスの選手たちにとっては屈辱なのだろうが、やはりシングルスに出場する隼人たちの『前座』として扱われてしまっているからなのだろう。

 記者たちが隼人たちに対して一斉にカメラのフラッシュを浴びせまくっている事が、その残酷な現実を物語ってしまっていると言える。


 隼人は美奈子に許可を貰ってチームとは別行動を取り、彩花や六花とダブルスの試合を観戦したり、一緒に昼食を食べたり、ついでに西尾市までみかん狩りに行ってきた時のおみやげも彩花と六花に渡すなど、久しぶりとなる3人での穏やかな時間を過ごしたのだが。


 「ハヤト君!!この『ウンコの造形を完璧に再現した黒かりんとう』って一体何なのよぉっ(泣)!?」

 「いやあ、なんか売店で見かけて面白かったから、彩花ちゃんにあげようかと思って(笑)。」

 「去年メロン狩りに行った時もそうだったんだけどさあ、君のおみやげのセンスは本当にどうにかならないの(泣)!?」

 「いやでも、僕も食べてみたけど、結構美味しかったよ(笑)?」


 やはり今の彩花から感じられるドス黒い『何か』に、口には出さなかったものの違和感というか、威圧感のような物を隼人は感じてしまっていた。

 彩花の態度や振る舞い自体は、これまでと何も変わらないように見えるのだが…。


 「大変長らくお待たせ致しました。それでは午後1時より、シングルスのAブロックの試合を開始致します。出場選手の皆様はコートに集まり準備を行って下さいますよう、お願い致します。」


 そんな事を考え込む暇も与えられないまま、隼人の出番が遂に訪れたのだった。


 「あ、僕の試合だ。それじゃあ彩花ちゃん。六花さん。行ってきます。」

 「ハヤト君、頑張ってね~。」

 「行ってらっしゃい。隼人君。」


 彩花と六花に笑顔で見送られながら、ラケットと鞄を手に威風堂々とコートへと向かう隼人。

 そして同じAブロックでの試合となる楓と一緒に、準備運動や柔軟体操を入念に済ませたのだった。


 「Aブロック1回戦第1試合は第1コートにおいて、稲北高校1年、須藤隼人選手 VS 聖ルミナス女学園3年生、川中愛美選手による一戦となります。続きまして第2試合は…。」


 そんな中で日本ガイシホールに響き渡った、場内アナウンス。

 まずはAブロックの1回戦8試合全てを8つのコートで同時進行し、8試合全て終了後にコートの整備を行った後、Bブロックの8試合を同時進行する事になっている。

 予定では今日と来週の土曜日の2日間で、準々決勝までの試合を全て終わらせるのだそうで、バンテリンドームナゴヤでの準決勝と3位決定戦、決勝は、2週間後の7月20日(土)に行われる事になっているのだ。

 何でも7月27日(土)はバンテリンドームナゴヤにおいて、大手転職サイトが主催する合同企業説明会が行われる事になっているからなのだそうだが。


 「お互いに、礼!!」

 「「よろしくお願いします。」」


 そんな中で隼人と愛美の試合が、遂に開始されたのだった。

 審判に促されて愛美と握手を交わし、審判からシャトルを受け取った隼人が、決意に満ちた表情で左打ちの変則モーションの構えを取り、対戦相手の愛美を見据える。

 既に第8コートでは楓と聖ルミナス女学園の選手による試合が、同時進行で始まっているようだ。


 「スリーセットマッチ、ファーストゲーム、ラブオール!!稲北高校1年、須藤隼人、ツーサーブ!!」

 「さあ、油断せずに行こう!!」


 いつものルーティンを口にした途端、隼人の頭の中がクリアになり、心も体も試合モードへと突入する。

 楓の事は気になるが、今は自分の試合に集中する事の方が大切だ。

 相手は『王者』聖ルミナス女学園において、部長を務める程の実力者である愛美だ。

 元から隼人は相手が誰だろうと油断も慢心も一切しないが、いかに隼人といえども決して油断出来るような相手では無い。

 

 「行くぞ!!」


 多くの観客たちに、そして彩花と六花に見守られながら、隼人の強烈なサーブが愛美に襲い掛かった。

 それを返す愛美。さらにそれを返す隼人。

 『世界最速の競技』とされているバドミントン、その全国レベルの一流プレイヤー同士による凄まじい速度でのラリーの応酬に、観客たちが興奮しながら心からの賛美の大歓声を送る。


 「相手が『神童』だからって!!それでも私はぁっ!!」


 隼人の強烈なスマッシュを、辛うじて打ち返した愛美。

 地区予選大会において圧倒的な強さを見せつけた隼人を相手にしても、愛美は必死に食らいついていく。

 1回戦でいきなり隼人とぶつかるという不運に見舞われてしまった愛美は、正直言って当初は試合前から勝利を諦めてしまっていた。

 だがそんな愛美に対して静香が、力強い笑顔で奮起を促してくれたのだ。


 戦う前から諦めてどうするんですか、と。

 私は決勝戦で部長と戦えるのを楽しみにしています、と。


 「頑張れぇっ!!部長ぉっ!!」


 この後、Bブロックにおいて駆との試合を控えている静香が、他の部員たちと一緒に真剣な表情で愛美に声援を送ってくれている。

 この静香たちの応援に応える為にも、愛美は隼人が相手だからと言って、簡単に諦める訳にはいかないのだ。


 「てえええええええええええええええいっ!!」


 隼人の遥か後方に向けて、超精度で繰り出された愛美のロブが、隼人のコートのラインギリギリに襲い掛かった。

 インか、アウトか。どちらに判定されても決しておかしくない程の際どい当たりだったのだが。


 「…はっ!!」


 判定?何それwwwwwと言わんばかりに、問答無用で物凄い速度でロブに追い付いた隼人が、強烈なカウンターを愛美に浴びせたのだった。

 

 「あれを追いついたって言うの!?朝比奈さんの縮地法じゃあるまいし…っ!!」


 返されたシャトルを慌てて追いかけた愛美だったのだが…お返しと言わんばかりにラインギリギリに向けて放たれた隼人のロブに、必死に差し出したラケットが僅かに及ばない。


 「1-0!!」


 審判が隼人のポイントを告げた瞬間、凄まじい大歓声が日本ガイシホールを包み込んだ。

 とても真剣な、しかし楽しそうな表情で、左手のラケットを愛美に突き付ける隼人。

 そう、六花がいつも言っているように、バドミントンは楽しく真剣に。

 この県予選という大舞台においても、隼人はその気持ちを忘れていないのだ。

 

 そんな隼人の雄姿を、穏やかな笑顔で見守る六花。

 今の一連のプレーだけで、六花は充分に理解したのだ。

 美奈子からの優れた指導を受けた今の隼人は、間違いなく中学時代よりも遥かに強くなっていると。


 「くっ…決まったと思ったのに…!!」

 「部長!!諦めないで下さい!!まだ試合は始まったばかりですよ!!」

 「…朝比奈さん…!!」


 隼人の圧倒的な実力を見せつけられた愛美だったが、それでも静香たちの声援が、愛美に勇気を与えてくれる。

 そうだ。まだ試合は始まったばかりだ。部長である自分が、こんな所で諦める訳にはいかない。

 

 「行くぞ!!」


 再び放たれた隼人の凄まじい威力のサーブを、必死に打ち返す愛美。

 こうして実際に戦ってみると、愛美は嫌でも思い知らされてしまう。

 隼人の圧倒的なまでの実力を。そして秘められた凄まじいまでの才能を。

 静香のような夢幻一刀流による派手な必殺技を持っている訳ではないのだが、それでもプレーの1つ1つの『質』が非常に高いレベルで纏まっている。

 

 静香と同じオールラウンダーながら、静香とは対極のプレイヤーである隼人。

 この2人が決勝戦で戦ったら、一体どんな凄い試合になるのかと。

 隼人との試合中にも関わらず、思わず愛美はそんな事を考えてしまっていたのだった。


 「3-0!!」


 隼人のスマッシュを受け切れずに、ラケットを弾かれてしまう愛美。

 この隼人のスマッシュにしても、何て事の無い普通のスマッシュなのだが、それでも威力だけなら静香の維綱にも匹敵する代物だ。


 「5-2!!」


 そして楓のクレセントドライブを彷彿ほうふつとさせる、この変幻自在のドライブショット。

 これも普通のドライブショットなのだが、それでも何というキレのある一撃なのか。


 「10-3!!」


 プレーの1つ1つに派手さは無いものの、それでもプレーの1つ1つが高い完成度を誇っている。

 RPGで例えるなら強力な魔法やスキルは一切使えないが、基本能力値が滅茶苦茶高く、『たたかう』コマンドで安定して9999ダメージを叩き出せるキャラクター。

 こんな選手が実在するのかと、愛美は思わず感嘆させられていたのだった。

 そして。


 「ゲーム、稲北高校1年、須藤隼人!!21-8!!チェンジコート!!」


 必死に粘った愛美だったが、それでもファーストゲームを制したのは隼人だった。

 ベンチに座り、2分間のインターバルに入る愛美に、静香が穏やかな笑顔でスポーツドリンクとタオルを手渡す。


 「部長、お疲れ様です。」

 「ありがとう、朝比奈さん。」


 タオルで顔を拭い、水筒の中のスポーツドリンクをゴクゴクと一気飲みする愛美。

 愛美とて中学時代は全国の舞台で戦い抜いてきたという自負があったのだが…そんな愛美でさえも隼人を前に、こうして苦戦を強いられてしまっている。


 「おい川中ぁっ!!お前何をやって…!!」

 「古賀監督は黙ってて頂けますか?」

 「う、うぐっ…!!」


 そんな愛美を怒鳴り散らそうとした黒メガネを、静香が真剣な表情で威圧して黙らせたのだった。

 今、愛美が高校生活最後の大会を全力で戦っているというのに、最高の舞台で輝いている最中だというのに、それを身勝手な大人たちの下らないエゴなんかで台無しにさせる訳にはいかないのだ。

 この大会の主役は大人たちではない。自分たち選手なのだから。

 彩花の拉致未遂事件があってからというもの、静香は改めてその決意をあらわにしていたのだった。 

 

 そして愛美は静香の練習相手を毎日務めているからこそ、嫌でも理解させられていた。

 隼人は静香と、恐らくほぼ互角の実力だと。

 全くとんでもない1年生がいたものだと…愛美は思わず苦笑いしてしまったのだった。 

 

 「セカンドゲーム、ラブオール!!聖ルミナス女学園3年、川中愛美、ツーサーブ!!」


 だからといって、このまま諦めるつもりは微塵も無い。

 隼人の実力が静香と互角だから、何だと言うのだ。

 愛美はその静香の練習相手を、毎日務めてきたという自負があるのだから。

 それに静香も言っていたのだ。勝負の世界に『絶対』は無いと。

 審判がゲームセットのコールをするまで、何が起こるか分からないのだと。


 「てええええええええええええいっ!!」


 だから愛美は、絶対に最後まで諦めない。

 バンテリンドームナゴヤでの決勝戦という、誰もが憧れる夢の大舞台で、静香と戦う為に。

 その愛美の『気持ち』が込められた渾身のドライブショットが、隼人に襲い掛かる。


 「そこだぁっ!!」

 「なっ…!?」


 だがその愛美の『気持ち』さえも、隼人は情け容赦なく粉砕してしまう。

 弾道を完全に見切った隼人が、愛美のドライブショットを完璧に返してみせたのだった。

 隼人とて楓のクレセントドライブを、中学の頃から毎日のように、何度も何度も何度も な ん ど で も 食らっているのだ。

 そして中学時代の全国大会で、それ以上の威力を誇る沙織のムーンスライダーを何度も食らった経験があるのだ。

 それに比べたら愛美のドライブショットなど、全然大した事は無い。


 「1-0!!」

 

 隼人のポイントに、観客からの大声援が届けられる。

 それでも決して油断も慢心もせずに、真剣な表情で愛美を見据える隼人。 

 

 「これも通用しないなんて…!!だけど最後まで諦めるもんかぁっ!!」 


 必死に隼人に食らいつく愛美だったが、それでも実力差というのは非情な物だ。

 どれだけ愛美が足掻こうとも、隼人との点差がどんどん開いていく。

 愛美とて聖ルミナス女学園という最高の環境の中で、毎日必死に汗だくになって練習に励んでいたというのに。

 静香という最強の練習相手の下で、確実に強くなったという自負があったのに。

 それでも愛美の実力では、なおも隼人には届かないのだ。


 「6-2!!」


 何をやっても、どんなショットを打っても、隼人は立て続けに対応してしまう。


 「13-5!!」


 そんな隼人の圧倒的な強さを前にしても、愛美は最後まで諦めずに食らいつこうとするものの、それでも現実は非情だ。


 「18-6!!」


 激しく息を切らしながら、目の前の隼人を見据える愛美。

 ここまで点差が開いてるんだから、少しは油断してくれたっていいのに。

 そんな事を考えている愛美に対して、隼人がスマッシュを打ちながら口にした言葉は。


 「最後まで油断せずに行くぞ!!」

 「19-6!!」

 

 一切合切手加減せずに、自分なんかとの試合に全身全霊の力で臨んでくれている隼人。


 (もう、一体どれだけ真面目な子なのよ…。)


 そんな隼人の姿に、もう愛美は苦笑いするしかなかった。

 そして。


 (須藤君…最後に貴方と戦う事が出来て、本当に良かったわ。)


 隼人に対して穏やかな笑顔を見せる愛美の足元に、隼人の強烈なスマッシュが情け容赦なく突き刺さったのだった。


 「ゲームセット!!ウォンバイ、稲北高校1年、須藤隼人!!ツーゲーム!!21-8!!21-6!!」

 「よぉしっ!!」


 観客からの大声援に包み込まれながら、見事に愛美を下した隼人が力強い笑顔で、派手なガッツポーズを見せたのだった。

 ちょっと仕事が死ぬ程忙しくなってきたので、もしかしたら今後の執筆活動に支障をきたしてしまうかもしれません。

 実は勤務先の親会社の子会社が倒産してしまった事で、その子会社が請け負っていた仕事の一部を僕の勤務先が引き継ぐ事になってしまい、それによって毎日夜遅くまで残業させられる羽目になってしまっただけでなく、来年以降は大型連休を除く祝日の平常出勤が確定してしまい、さらに僕の勤務先は土曜日は午前中だけ仕事なのですが、それも今後どうなるか分からなくなってしまったからです。


 出来れば最終話まで走り抜けたいと思ってはいますが、どうしても仕事を最優先しなければならないので、仕事の状況によってはそれも難しくなってしまうかもしれません。

 まだ先行きがどうなるかは、ちょっと不透明で何とも言えないのですが…こればかりは本当に「御免なさい」としか言いようが無いです…。


 次回、隼人との死闘を終えた愛美が、静香に語った事とは…。

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