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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
第4章:地区予選大会編
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第51話:ここは私に任せて下さい

 彩花の地区予選大会の決勝戦が迫る中、とある事件が…。

 その後も地区予選大会での聖ルミナス女学園の快進撃は、止まらなかった。

 出場したシングルス4名ダブルス2組の全員が、最早対戦相手が可哀想になってしまう程の圧倒的な強さを見せつけ、『王者』としての風格を存分に見せつけたのである。

 それは黒メガネの指導が優れていたからなどではなく、レギュラーになれなかった控え選手でさえも、他校でなら鼻くそをほじりながら余裕でレギュラーになれてしまう程、元から全員が圧倒的な強さを身に着けていたからだ。

 ここまで来ると、彼女たちに監督など必要あるのかと疑いたくなってしまう程までに。


 そして2024年6月22日の土曜日。地区予選大会最終日。

 ここまで大会は滞りなく順調に進んだのだが…ここで誰もが予想もしなかった、全国のニュースでも特番が組まれる程の事件が起きてしまうのである…。


 「ゲームセット!!ウォンバイ、聖ルミナス女学園1年・朝比奈静香!!ツーゲーム!!21-2!!21-1!!」


 決勝戦でも圧倒的な強さで対戦相手を叩きのめした静香が、無事に県予選へと進出。

 彼女だけでなく聖ルミナス女学園は地区予選大会において、まだHブロックでの決勝戦が残っている彩花を除き、出場選手全員が県予選大会へと進出するという快挙を成し遂げたのである。


 「朝比奈選手!!県予選進出おめでとうございます!!圧倒的な強さでしたね!!」

 「今の率直な気持ちをお聞かせ頂けませんか!?」


 物凄い勢いで押し寄せてきた多数の記者たちから、無数のフラッシュを浴びせられて質問攻めにされる静香ではあったが、そんな静香を守るかのように大会運営スタッフたちが記者たちの前に立ち塞がり、


 「取材ルールを守って下さい!!」

 「大会進行の妨げになります!!」


 などと、記者たちと壮絶な押し問答を繰り広げる。

 そんな大会運営スタッフたちに必死に守られながら、静香は穏やかな笑顔で記者からの質問に堂々と受け答えしたのだった。


 その一方で彩花が試合をする第8コートでは、Hブロックの準決勝第2試合が最終盤に差し掛かっており、男子生徒と女子生徒が互いに息を切らしながら真剣な表情で、両者互角の壮絶な死闘を繰り広げている。

 この試合に勝った者が県予選進出を賭けて、決勝戦で彩花と戦う事になるのだ。

 勝った者が先に進み、負けた者はその時点で全てが終わってしまう。

 それこそが残酷な…そしてだからこそ美しくも神聖な、誰にも汚す事など許されない勝負の世界なのだ。


 その美しくも神聖な勝負の世界を、どうして大人たちは自分たちの身勝手なエゴによって、こうも簡単に汚してしまえるのだろうか。

 選手たちは皆、輝いていたいのに。

 一生に残る大切な思い出として心に刻まれる事になる、この瞬間に。

 選手たちはただ純粋に、バドミントンをプレーしたいだけなのに。

 そんな選手たちが、どうして周囲の大人たちの下らない利権争いに、このような理不尽な形で巻き込まれなければならないのだろうか。

 そして彩花も六花も周囲の大人たちの身勝手なエゴのせいで…一体どこまで苦しめられれば気が済むと言うのだろうか…。


 「聖ルミナス女学園1年の藤崎彩花さん。稲北高校1年の須藤隼人君がお見えになっております。至急第1倉庫までお越し下さい。繰り返しお知らせ致します。聖ルミナス女学園1年の藤崎彩花さん…。」

 

 Hブロックの準決勝第2試合の決着が迫る最中、突然場内アナウンスが会場全体に響き渡った。

 一体全体何事なのかと、きょとんとした表情になってしまう彩花。


 「ハヤト君からの呼び出しって…一体何なんだろ?」


 そう言えば隼人とは聖ルミナス女学園に入学以降、色々バタバタしてて今日まで全く会えていなかったのを、彩花は今頃になって思い出したのだが。

 だが彩花のスマホに直接電話するなりLINEを送るなりすればいいものを、わざわざ場内アナウンスを使うとは…一体何事なのだろうか。


 「お母さん、ちょっとハヤト君に会いに行ってくるね。」

 「ええ。だけど準決勝がもうすぐ終わるから、早めに切り上げて戻って来るのよ?」

 「うんっ。」


 とてとて、とてとて、と、小走りで第1倉庫へと向かう彩花。

 そんな彩花の後ろ姿を苦笑いしながら見送る六花だったのだが、隼人が駆けつけてくれた事に少しばかり疑問を抱いていたのだった。

 今頃、隼人は佐織体育館において、尾張地区の地区予選大会を戦っている頃だと思うのだが。

 あまりにも試合が早く終わった物だから、わざわざ名古屋市東スポーツセンターまで駆けつけて応援に来てくれたのだろうか。

 まあ隼人の実力なら地区予選レベルであれば、それを可能にする程までの圧倒的な強さを見せつけても不思議ではないのだが。


 その少しばかりの疑念を、六花がもっと注意深く疑ってさえいれば…念の為に六花が彩花と同行するなり、すぐに隼人のスマホに電話をかけて確認するなりしていれば…こんな事態にはならなかったはずなのに…。


 「ゲームセット!!ウォンバイ、浅田高校3年・種田理奈!!スリーゲーム!!21-19!!18-21!!30-29!!」

 「やったあああああああああああああああああああああああああ!!」


 タイブレークまで持ち込まれる程の壮絶な死闘を制した女子生徒が、駆けつけたチームメイトの女子生徒たちに抱き締められながら、笑顔で派手なガッツポーツを見せつける。

 その一方で悔し涙を流し、顧問の先生に慰められる男子生徒。

 そんな熱い光景に観客たちは惜しみない拍手と大声援を送ったのだが…六花は右腕の腕時計を確認しながら、心配そうな表情を見せていたのだった。

 

 幾ら何でも、遅過ぎる。

 あれから5分が経過しているが、彩花が一向に戻って来ないのだ。

 彩花とて隼人と久しぶりに会えて嬉しいのは分かるが、それでも大事な決勝戦が控えているのだから、早く戻らないといけない事くらいは理解しているはずなのに。

 そして隼人だって同じバドミントンプレイヤーとして、その程度の事は重々承知しているはずだ。

 言いようのない不安を抱えながら、六花は胸元のポケットからスマホを取り出し、隼人のスマホに電話を掛けたのだった。


 『はい、どうしました?六花さん。』

 「は~~~や~~~と~~~く~~~ん!?」

 『どあああああああああああああ(汗)!?』


 電話越しに隼人の事を、呆れたような表情で叱り飛ばす六花。


 「久しぶりに彩花と再会して喜ぶ気持ちは分かるけど、彩花はもうすぐ決勝戦が控えてるんだからね!?だから早く彩花を解放してあげなさ~い!!」

 『え!?彩花ちゃんを解放しろって(汗)!?』

 「そうよ!!早くしないと彩花、遅刻で失格になっちゃうんだから!!」


 六花の頭の中で、思わず隼人と彩花が


 『彩花ちゃん…。』

 『ハヤト君…。』

 『『…いやん(笑)。』』


 みたいな事になっている光景が脳内再生されてしまったのだが。

 今、彩花がそんな事をしていられる場合じゃ無い事くらい、真面目で聡明な隼人なら分かっているはずだろうに。

 

 「お客様にお知らせ致します。浅田選手の20分間のインターバルを行った後に、第8コートにおいてHブロックの決勝戦を開始致します。皆様、試合開始まで今しばらくの間、お待ち下さいませ。」


 ほら、後20分で戻らないと、彩花が遅刻で失格になってしまうではないか。

 焦りの表情を見せる六花だったのだが…ここで六花のスマホを通して隼人の口から、とんでもない言葉が投げかけられる事になるのである…。


 『あの、六花さん。さっきから何を訳の分からない事を言ってるんですか?』


 困惑しながら「?」という表情になった隼人が、六花と彩花が置かれている状況を把握出来ないまま、今の自身の現状を正直に話したのだった。


 『彩花ちゃんを解放するも何も、僕はついさっき佐織体育館で、県予選への出場を決めたばかりなんですけど…。』

 「…え!?」

 『彩花ちゃんに何かあったんですか?』


 隼人が、この名古屋市東スポーツセンターに来ていない?

 佐織体育館で県予選進出を決めたばかり?

 では先程のアナウンスは…一体何だったというのか。


 「ご、ごめんね隼人君!!また後でね!!それじゃ!!」

 『はぁ…。』


 悲痛の表情で赤色のボタンをタップして隼人との通話を切った六花が、今度は大慌てで彩花のスマホに電話を掛けたのだが。

 出ない。一向に出る気配が無い。

 六花の表情が、見る見るうちに強張こわばっていく。

 まさか彩花の身に、何かあったのだろうか。


 「藤崎コーチ。」


 そんな六花の下に、ようやく記者たちから解放された静香が駆けつけて来たのだが。


 「全く嫌になってきますよ。早く彩花ちゃんの試合を観戦したいって記者の皆さんに何度も申し上げているのに、全然解放して貰えなくて…。」


 呆れた表情の静香が目撃したのは、深刻そうな表情でスマホの画面を睨めっこしている六花の姿だった。

 六花のスマホの画面に映し出されていたのは周辺の地図と、彩花の現在位置を示している赤色の小さな◎のマーク。

 先程の場内アナウンスでは、彩花に第一倉庫に来るよう促していたというのに…今、彩花がいる場所は…。


 「…あの、藤崎コーチ。彩花ちゃんは?一緒ではないのですか?」

 「大変なの朝比奈さん!!彩花が連れ去られてしまって!!今、彩花が近くの公園に…!!」

 

 六花の言葉で静香は、一瞬で状況を理解したのだった。

 先程、不自然な場内アナウンスが流れていたのを、静香も聞いていたのだが…まさかこのような事態になっていようとは。

 流石の静香も一瞬焦ってしまったのだが、今は焦っていられる場合ではない。

 こんな時だからこそ、静香が毅然とした態度で、六花を助けてやらないといけないのだ。


 「藤崎コーチ。そのアプリはGPSですね?」

 「ええ、万が一の時の為に、彩花に小型のGPSを服に仕込ませているのだけど…!!」

 「なら彩花ちゃんの現在地は分かりますね?審判には私から事情を説明しておきます。藤崎コーチは彩花ちゃんを助けに行ってあげて下さい。」

 「朝比奈さん…!!」


 決意に満ちた表情で、静香は六花に対して、はっきりと告げたのだった。


 「ここは私に任せて下さい。私だってこんな形で彩花ちゃんとの試合を台無しにされるなんて、絶対に嫌ですよ。」


 そう、こんな形で彩花との試合を台無しにされるなど、冗談ではない。

 一体誰が彩花を拉致したのかも、その目的も、静香には大体の検討はついていた。

 何故なら大事な決勝戦が20分後に迫っているというのに、浅田高校の監督のオッサンの姿がどこにも見当たらないからだ。

 自分の教え子の実力では彩花には到底勝てないから、何としてでも教え子を県予選まで行かせる為に、彩花を拉致して失格にしてやろうと…大方そんな所なのだろう。

 何という姑息な男なのか。静香は心の底からオッサンを軽蔑していたのだった。


 「分かったわ。お願い出来るかしら?朝比奈さんのスマホの番号を教えて貰える?」

 「はい。こちらになります。」


 大急ぎで静香とスマホの番号を交換した六花が110番通報を行い、大慌てで駆け出していく。

 そして走りながら警察に対し、彩花が拉致された事と現在位置を大慌てで伝えた。

 そんな六花の後ろ姿を見届けた静香もまた、決意に満ちた表情で審判の下に駆け寄ったのだった。

 大人たちの身勝手なエゴに、またしても振り回されてしまった彩花と六花。

 果たしてどうなるのか…。

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