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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
第4章:地区予選大会編
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第49話:君の分まで全力を尽くすと約束するよ

 互いの健闘を称え合う隼人と詩織ですが…。

 「お互いに、礼!!」

 「ありがとうございました。」

 「あ、ありがとうごじゃまじゃべなば(泣)!!」


 噛んだ。


 「と、取り敢えず月村さん、落ち着こうよ(汗)。」


 観客からの大声援に包まれ、詩織と握手を交わしながら、詩織の無様な醜態を苦笑いしながら見つめる隼人。

 試合中にゾーンに入っていた時の、あのキレのある分析力はどこへやら。

 今の詩織はあわわわわ言いながら、隼人を相手に完全に取り乱してしまっていたのだった。

 それこそまるで、二重人格者なんじゃないかと思えてしまう程までに。 


 「ごごごごご御免なさい須藤君!!ま、まさか私みたいなクソ虫なんかが、須藤君から13点も奪うだなんて(泣)!!」

 「いや、君は強かった。間違いなく君は全国レベルの選手だったよ。」


 隼人の言葉に嘘偽りは無い。詩織は確かに強かった。

 結果だけを見れば試合は隼人の圧勝に終わったが、一歩間違えば負けていたのは隼人の方だったかもしれないのだ。

 詩織ならば隼人の代わりにインターハイに出場したとしても、充分な活躍を見せつける事が出来たはずだ。

 それこそ地区予選なんかで去ってしまう事が、勿体無いと思えてしまう程までに。


 だが、それこそが勝負の世界の残酷な掟。

 勝った隼人が県予選へと進み、負けた詩織の夏は終わってしまったのだ。

 その残酷な結末を、隼人も詩織も受け入れなければならない。

 

 「そう言えば月村さん。さっき記者の人たちが気になる事を言ってたんだけどさ…君、中学時代はダブルスの選手だったんだって?」

 「そ、それは…。」


 この隼人の言葉に、詩織は沈痛な表情になってうつむいてしまったのだった。

 一体詩織にどんな事情があったのかは隼人にはよく分からないし、本人のプライパシーに関わる問題なので、これ以上深入りするつもりは無いのだが。

 ただ1つだけ隼人には、どうしても気になる事があったのだ。

 

 「君のプレースタイルはアナライズを駆使した防御特化タイプだよね?君は明らかにダブルス向きの選手だと、僕は思うんだけど。」

 「……。」

 「それなのに何で君はシングルスの部門に出場したんだい?君なら『是非パートナーになってくれ』とジャンピング土下座してくれる人たちが、大勢いると思うんだけどさ。」


 そう、隼人も身をもって思い知った事なのだが、詩織は明らかにダブルス向きの選手なのだ。

 アナライズによって対戦相手のプレーを丸裸にし、それを元にした絶対防御からのカウンター。それこそが詩織のプレースタイルにして最大の武器だ。

 それを実際に体験した隼人だからこそ、心から思うのだ。

 安定した守備力を誇る詩織がダブルスのパートナーになってくれれば、これ程心強い事は無いと。安心して背中を預けられる存在だと。

 それなのに何故詩織は、シングルスの部門に出場したのだろうか。


 「…私は…中学時代に静香ちゃんと、あんな事があったから…両親からもダブルスに出る事を猛反対されてるの。」

 「そ、そうか…。」

 「私は…疫病神らしいから…えへへ。」


 何だか詩織が辛そうな表情になってしまったので、隼人はこれ以上深入りするのは止める事にした。

 一体詩織が中学時代にダブルスのパートナーである静香と何があったのか、隼人は凄く気になって仕方が無いのだが。

 それでもこれ以上追及すれば、詩織の心の傷をえぐる事になってしまうのではないかと思ったのだ。


 「まあこれ以上深入りするつもりは無いけど…月村さん。これだけは言わせてくれ。」

 

 その代わりと言っては何だが、今の隼人が詩織に告げる言葉は、たった1つだ。

 詩織の目を真っすぐに見据えながら、隼人は力強い笑顔で詩織に告げたのだった。


 「来月から始まる県予選…君の分まで全力を尽くすと約束するよ。」

 「須藤君…。」

 「僕には県予選で、待ってる子がいるからさ。」


 そう、自身が負かした詩織の想いも背負って、隼人は全力で県予選を戦う。

 それを隼人は、詩織に誓ったのである。

 それが詩織を負かした自分が果たさなければならない責務だと…そう隼人は思っているのだ。


 「じゃあさ、須藤君。1つ頼まれてくれないかな?」

 「ん?何だい?」

 「聖ルミナス女学園の朝比奈静香ちゃん…私の中学時代のダブルスのパートナーだったんだけどね…彼女は今、シングルスに出てるんだけど、間違いなく県予選まで勝ち進むと思うの。」

 「ああ、さっき記者の人たちが話してた…。」

 「もし、県予選で静香ちゃんと戦う事になったら…。」


 言いかけた詩織は、またしても沈痛な表情で俯いてしまう。

 一体詩織は中学時代、静香との間に本当に何があったのだろうか…。

 これ以上深入りするつもりは無いと詩織に語った隼人だったが、やはりどうしても気になってしまう。


 「…う、ううん!!何でも無いの!!気にしないで!!」

 「そ、そうか…。」

 「それじゃあ私、皆が待ってるから、もう行くね!!」

 「う、うん。」

 「県予選、私の分まで頑張ってね!!須藤君!!応援してるからね!!」


 ぶんぶんと隼人に手を振って、大慌てでマッチョとチームメイトの元に駆けていく詩織。

 呆気に取られた表情になってしまった隼人だったのだが、そんな詩織にマッチョが真剣な表情でプロテインを差し出したのだった。


 「月村。お前、須藤に朝比奈への伝言を頼まなくて本当に良かったのか?」

 「……。」

 「朝比奈に直接会うのが気まずいなら、須藤に伝言を頼むのは、別に何もおかしい事は無いんだぞ?須藤は良い奴だから心良く引き受けてくれるだろう。」

 「……。」

 「伝えたい事を伝えられないまま、朝比奈に二度と会えなくなってしまったら、お前、一生後悔する事になるんだぞ?」


 マッチョからの呼びかけに、またしても沈痛な表情になってしまった詩織だったのだが。


 「俺は中学時代にお前と朝比奈の顧問だったから言わせて貰うけどな。そもそもの話、『あの件』に関しては、どう考えてもお前と朝比奈は被害者…。」

 「いいんです。」


 差し出されたプロテインをマッチョから受け取った詩織が、それを豪快に一気飲みしたのだった。

 そしてプロテインを全て飲み干した詩織が、ぶはぁ!!と盛大な息継ぎをして、シェイカーをマッチョに返す。


 「私のせいで静香ちゃんが恥を晒す事になったのは…事実ですから…。」

 「月村…。」


 かくして尾張地区の地区予選大会は、特に何のトラブルも無く無事に全試合が終了。

 稲北高校からは隼人、楓、駆の3人が圧倒的な強さを見せつけ、尾張地区代表として県予選のシングルス部門に出場する事となった。

 今頃は彩花も、名古屋地区の地区予選大会の会場となる名古屋市東スポーツセンターにおいて、決勝戦を戦っている頃だろうか。

 まあ六花がそばについている事だし、彩花なら楽勝で県予選まで進むだろうと…隼人はそんなような事を考えていた。

 何で六花がJABS名古屋支部から出向してまで、彩花専属のコーチ兼任マネージャーになったのか、隼人にはよく分からなかったのだが。


 「あれ?六花さんからだ。」


 駐車場で帰りのバスの到着を待っている最中、その六花から隼人のスマホに電話が掛かってきたのだった。

 何だろう、彩花の県予選進出を報告にでも来たのだろうか。

 あっけらかんとした笑顔で、隼人は画面に映し出された緑色のボタンをタップしたのだが。


 「はい、どうしました?六花さん。」

 『は~~~や~~~と~~~く~~~ん!?』

 「どあああああああああああああ(汗)!?」


 何故か電話越しに六花に叱られてしまったのだった…。

  

 『久しぶりに彩花と再会して喜ぶ気持ちは分かるけど、彩花はもうすぐ決勝戦が控えてるんだからね!?だから早く彩花を解放してあげなさ~い!!』

 「え!?彩花ちゃんを解放しろって(汗)!?」

 『そうよ!!早くしないと彩花、遅刻で失格になっちゃうんだから!!』


 一体全体何が何だか、全然意味が分からないといった感じの隼人。

 彩花を解放しろなどと理不尽に六花に叱られてしまったが、その肝心の彩花がどこにもいないではないか。

 そもそも六花と彩花は、今頃は名古屋市東スポーツセンターにいるのではないのか。


 「あの、六花さん。さっきから何を訳の分からない事を言ってるんですか?」


 困惑しながら「?」という表情になった隼人が、六花と彩花が置かれている状況を把握出来ないまま、今の自身の現状を正直に話したのだった。


 「彩花ちゃんを解放するも何も、僕はついさっき佐織体育館で、県予選への出場を決めたばかりなんですけど…。」

 『…え!?』

 「彩花ちゃんに何かあったんですか?」


 何だろう。この六花の焦りようといい、何だか隼人はただならぬ嫌な予感がしたのだが。


 『ご、ごめんね隼人君!!また後でね!!それじゃ!!』

 「はぁ…。」


 スマホの画面に映された『通話終了』の文字を、「?」という表情で見つめる隼人。

 美奈子もまた、一体全体何があったのかと、不安そうな表情で隼人に寄り添ってくる。


 「隼人君。六花ちゃんは何て言ってたの?」

 「いや、僕にもよく分からないんだ。なんか早く彩花ちゃんを解放しろとか、早くしないと失格になるとか何とか。六花さん、やけに焦ってたけど…。」

 「…何だか嫌な予感がするわね。」

 「うん、僕もだよ。母さん。」


 早く彩花ちゃんを解放しろ。

 早くしないと失格になる。

 六花さん、やけに焦っていた。

 

 この隼人の断片的な言葉から、美奈子もまた隼人と同様に、言いようのない不安を感じていたのだった。

 何だろう。名古屋市東スポーツセンターで、六花と彩花の身に何かあったのだろうか。

 彩花との約束を果たし、無事に県予選出場を決めたというのに。

 その喜びが、一瞬で吹き飛んでしまった隼人なのであった。 


 そして隼人と美奈子の嫌な予感は、見事に的中していた。

 名古屋地区の地区予選大会の会場となった名古屋市東スポーツセンターにおいて、後に全国のニュース番組で特番まで組まれて報じられる程の、とんでもない事件が起きてしまうのである…。

 次回は名古屋地区の地区予選大会。

 静香と彩花が圧倒的な強さを見せつけます。

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