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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
第3章:高校生編
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第45話:私のお母さんをいじめるな

 大体全部静香のせい。

 翌日の朝、六花に車で送迎された彩花は、因縁の地である聖ルミナス女学園へと再び足を踏み入れたのだった。

 六花が彩花の為『だけ』に学園長に用意させた、今はもう誰も使っていない空き教室に、六花と彩花は足を運ぶ。

 教室内にひしめき合っている沢山の机。だが今この教室にいるのは六花と彩花の2人だけ。

 これからこの教室で六花の授業を受ける者は、彩花1人しかいないのだ。


 それでも彩花は、寂しさを感じてはいない。

 何故なら直樹によって、営倉室に孤独に閉じ込められていた今までとは違う。

 今日からは他でも無い六花が、彩花の傍にいてくれるのだから。


 「それじゃあ彩花。まずは英語の授業から始めるわよ。」

 「うんっ!!」

 「じゃあ教科書の8ページを開いてね。I like my mother…。」


 こうしていびつな形ではあるが、身勝手な大人たちのエゴのせいで台無しにされてしまった彩花の貴重な高校生活が、今やっと始まりの時を迎えたのである。

 リクルートスーツ姿の六花が黒板にチョークで書いた英文を、聖ルミナス女学園の制服を着た彩花が熱心にノートに写している。

 六花は大学に行かずに高卒後すぐにシュバルツハーケンに入団したので、教員免許は持っていないのだが、それでも高校の授業を教える程度の学力は持ち合わせている。

 と言うか六花の授業は要点をしっかりと押さえてくれていて、下手な教師が教えるよりも凄く分かりやすいと彩花は感じていた。

 

 そして2時間目の国語、3時間目の数学、4時間目の科学の授業を終えた後、六花の手作りのお弁当を2人で一緒に食べ、5時間目の歴史、6時間目の美術の授業も無事に終了。

 六花と2人で教室の掃除をした後に、放課後のバドミントンの練習の為に、バドミントン部が利用している体育館ではなく、かつて直樹が彩花を指導していた別館の体育館へと足を運ぶ。

 彩花にとっては因縁の場所だが、それでも彩花は悲しさや辛さを感じてはいない。

 何故なら今日から彩花を指導するのは、直樹ではなく六花なのだから。


 こうして、いよいよ彩花にとっての本当の意味での、高校でのバドミントン部の部活動がスタートした。

 六花と2人きりの、他に部員が誰もいない、またしても歪な形での部活動だったのだが。

 それでも彩花にとっては間違いなく、バドミントン部の『部活動』と呼べる代物だった。

 まずは準備運動と柔軟体操を入念に行い、グラウンドを軽く1周だけランニング。そして軽く基礎練習をした後に、六花と軽くシャトルを打ち合い…。


 「それじゃあ彩花、今日はここまでね。整理体操に入るわよ。」


 終わり。


 「ねえ、お母さん、本当にこんなスロー調整でいいの?だってハヤト君は今も美奈子さんの指導を受けてるんだよね?」


 あまりにも練習メニューが軽過ぎるもんだから、彩花は呆気に取られた表情で拍子抜けしてしまったのだった。


 「それなのに、こんなんで本当にハヤト君に勝てるの?それに静香ちゃんにだって…。」

 「あのね彩花。落ち着いて聞いてくれる?」


 そんな彩花の不安を払拭させようと、六花は彩花の両肩に穏やかな笑顔で、そっ…と両手を置いて彩花を見据える。


 「今の彩花の身体はね、昨日までよりは大分マシにはなったけど、まだまだ全身に細かいダメージが蓄積している状態なのよ。だからまずは彩花の身体を、万全の状態に戻す所から始めないといけないの。」

 「それは…だけど…。」

 「彩花が不安になるのも分かるわ。隼人君には美奈子さんっていう最強の指導者が傍にいてくれているものね。」


 JABS名古屋支部の職員として、美奈子に稲北高校バドミントン部の監督を務めて欲しいと要請したのは、他でも無い六花自身だ。

 それは美奈子の指導者としての素晴らしい資質を、誰よりも六花が一番よく分かっているからだ。

 美奈子ならば隼人や楓を…何よりも『ウンコよりも存在価値が無い』とされている稲北高校バドミントン部を、正しく導いてくれると信じているから。


 彩花もそれを分かっているからこそ、六花が組んだスローペースの練習メニューに不安を抱いているのだ。

 ハヤト君が美奈子さんの指導を受けてどんどん強くなってるのに、私はこんな事してて本当に大丈夫なのかなと。

 だが、それでも。


 「だけど彩花。どうか私の事を信じて貰えないかしら?私は誰よりも彩花の事を理解しているつもりだし、彩花の才能を誰よりも上手く引き出せる自信があるわ。」

 「お母さん…。」

 「勝負の世界に絶対は無いから、確実に隼人君や朝比奈さんに勝てるようにするだなんて、そんな無責任な事は言えないけど、それでもこれだけは彩花に約束する。」


 彩花の顔を見据えながら、六花は力強い笑顔で彩花に断言したのだった。


 「私に彩花の指導を任せて貰えれば、地区予選までには彩花の身体を、必ず万全の状態に戻してみせると約束するわ。」


 直樹のせいで全身がボロボロになってしまった彩花の身体は、徐々にだが確実に回復しつつある。

 地区予選が始まる6月まで、およそ1ヶ月。彩花は焦っているようだが、六花に言わせればまだまだ充分に時間は残されている。

 彩花の練習プランはしっかりと確立してある。地区予選までには彩花の身体を万全の状態に戻し、大会を戦い抜ける状態にする自信が六花にはあった。

 むしろ今の彩花の身体の状態で、彩花が望むようなハードトレーニングを課してしまうと、またしても彩花の身体が壊れる事になりかねないのだ。

 

 六花に諭された彩花は、少し考え込む仕草を見せたのだが。


 「…うん、分かった。私、お母さんを信じるよ。」


 それでも力強い笑顔で、六花に対して大きく頷いたのだった。

 彩花は自分を今日まで鍛えてくれた六花に対して、全幅の信頼を寄せているのだから。

 六花が指導者としても超優秀な人物だというのは、他でも無い彩花自身が一番よく理解しているのだ。

 何故なら今日まで彩花を鍛え、周囲から『神童』と呼ばれるようになるまで強くしてくれたのは、他でも無い六花なのだから。

 その六花が自分を信じろと言ってきたのだから、彩花もまた六花を信じるだけだ。

 

 「有難う、彩花。」


 そんな彩花に対して穏やかな笑顔を見せる六花だったのだが、その時だ。


 「ちょっと待つザマス!!」


 彩花と六花が2人きりで練習している体育館に、様子と塚本、学園長が乱入してきたのだった。

 突然の来訪者に、驚きを隠せない六花と彩花。

 学園長がやけに憔悴しょうすいとした表情でうつむいているのだが、一体どうしたのだろうか。


 「突然の来訪、失礼するザマス。私は朝比奈コンツェルンの総帥を務める、朝比奈様子という者ザマス。そしてこの者は私の秘書を務めるセバスという者ザマス。」

 「塚本です。」


 凛とした態度で、六花に一礼する塚本。


 「朝比奈様子って…まさか朝比奈静香さんのお母様の…!?」

 「そうザマス。今回は藤崎彩花さんの件について話があって来訪したザマス。」


 六花に対して大きく頷いた様子だったのだが…次の瞬間、様子は彩花と六花が想像もしていなかった、とんでもない事を言い出したのである。


 「藤崎彩花さん。静香さんから聞きましたよ?あ~たは聖ルミナス女学園の生徒でありながら、一度も授業に出ていないどころか、どこのクラスにも在籍していないそうザマスね?」

 「そ、それは…。」

 「その件に関して静香さんに調査を頼まれたので、セバスに調査をさせたザマスが…ここにいる学園長の口から驚きの事実が明らかになったザマス。」


 様子に促されて、塚本が様子に書類の束を手渡す。

 そして様子が書類を開き、そこに書かれた調査内容を高々と読み上げていった。

 これまで学園長によって世間に隠蔽され続けてきた、衝撃的な事実を。


 「藤崎彩花さんは授業を受ける事無く、朝から晩まで武藤直樹とかいうコーチの下で…今は不祥事を起こしたとかでクビになったそうザマスが…事情は私にもよく分からないザマスが、とにかくバドミントン浸けの日々を送っていたそうザマスね?」


 そして様子は六花に対しても、厳しい言葉を投げかけた。


 「それに加えて藤崎六花さん。あ~たは藤崎彩花さんの勉強を見ているそうザマスが、肝心のあ~たは教員免許を持っていないそうザマスね?」

 「そ、それは…!!」

 「つまりは藤崎六花さんの授業は無効であり、藤崎彩花さんは現状だと全く単位を修得していない…大会への出場資格を有していないという事になるザマスよ。」


 これはバドミントンに限らず、日本の学生たちの部活動の体育系、文学系問わず全ての大会に当てはまる事なのだが、大会への出場資格の中には


 『大会前日までに、規定の単位を全て修了している事』

 『大会前日までの中間テストや期末テストにおいて、全科目において赤点を取っていない事。赤点を取ったのならば既定の補習を必ず受講し、補習試験にも必ず合格する事』


 という物がある。

 まあぶっちゃけた話、授業をサボるな、テストで全科目ちゃんと点を取れよ、という事なのだが。

 これは学生である以上は、例えスポーツ推薦で入学した者だろうと、あくまでも部活動ではなく勉学こそが本分であり、それをおろそかにするような怠け者に大会に出場する資格など無いと、国によって取り決められた事なのだ。


 まず彩花は直樹と学園長のせいで全く授業に出させて貰えなかったので、当然ながら単位など全く修了していない。

 そして今現在彩花に勉強を教えている六花も、教員免許を習得していないので、六花が彩花に教えた授業は正当な単位として認められない。

 だからと言って今から彩花が大会出場資格を得る為に全ての単位を取り直すとなると、とてもじゃないが大会前日までには到底間に合わないだろう。


 一応、理論上は彩花に毎日ブラック企業顔負けの時間の、それこそ寝る時間さえも無い程までの凄まじい量の授業を受けさせれば、大会前日までの単位クリアは物理的にギリギリ可能ではあるのだが。

 ただでさえ普段の業務でクソ忙しいのに、そんな事に付き合ってくれる教師など存在しないだろうし、何よりも肝心の彩花が過労で倒れてしまうだろう。


 つまり彩花には、大会への出場資格は無いと…そう様子は主張しているのである。

 この様子の全くもって正し過ぎる、ぐうの字も出ない主張を前に、六花は様子に対して全く何も言い返す事が出来ず、その代わりに学園長を物凄い剣幕で怒鳴り散らしたのだった。


 「学園長ぉっ!!この件について他言は一切するなと!!貴方のせいでこんな事になったんだから融通を効かせろと!!あの時に念を押しましたよねぇっ!?」

 「す、済まない藤崎六花君!!朝比奈コンツェルンは我が校の最大のスポンサーなのだ!!その総帥であらせられる様子さんからの事情聴取となれば、私とて無下にする訳にはいかないのだよ!!」

 「…っ!!」

 

 泣きそうな表情で必死に六花に頭を下げる学園長を、歯軋りしながら睨み付ける六花。

 六花とてJABS名古屋支部の職員として、学園長の言い分は分からなくもない。

 何故ならJABS自体が国から運営費を貰って活動している団体であり、その職員である六花も、毎月の給料を国から出して貰っている立場なのだから。

 だからこそ聖ルミナス女学園の最大のスポンサーである朝比奈コンツェルンからの圧力には逆らえないと…逆らってしまえば学園の運営にも支障が出てしまうと…その学園長の言い分に関しては、六花も一定の理解を示してはいたのだが。


 だからと言って、どうしてこんな事になってしまったのか。

 とても悔しそうな表情を見せる六花だったのだが、様子はさらに畳み掛けるように、今度は彩花に対して圧力を掛けてきたのだった。


 「静香さんは、あ~たと県予選で戦いたいと言っているザマスが…静香さんに寄り付く悪い虫は月村詩織さん同様、私が全て排除しなければならないザマス。」

 「悪い虫って私の事だよね?一体どういう事なんですか?」

 「どうもこうも無いザマスよ。藤崎彩花さん。」


 一体全体何が何だか、様子の言っている事の意味が全然分からないといった感じの彩花だったのだが。 


 「静香さんは朝比奈コンツェルンを継ぐ者として、いずれは相応しい殿方と結婚し、高潔なる跡取りを産まなければならない使命があるザマス。そ、それなのに静香さんと来たら、あ~たにメロメロだの、もう一度あ~たと『したい』だの…!!お、女同士で不潔ザマスよ!!」

 「…あの、様子さん。何やら変な勘違いをなさってませんか(汗)?」

 「ゴチャゴチャゴチャゴチャ五月蠅うるさいザマスよ藤崎六花さん!!とにかく藤崎彩花さんの大会への出場は認められないザマスからね!!」


 興奮のあまり顔を赤くしながら、反論する六花に対してギャーギャー騒ぎ立てる様子。

 そう、様子が彩花の大会出場を認めないと主張しているのは、いかなる事情があろうと定められたルールは遵守しなければならないとかいう正義感からではない。

 『静香に寄り付く悪い虫』である彩花を、静香から物理的に遠さげる為なのだ。

 一体どんな事情があって、今まで彩花がまともに授業を受けていなかったのかまでは、様子は学園長から聞かされてはいなかったのだが…まあそんな事はどうでもいい。

 彩花を静香から隔離させられる材料である以上は、せいぜい利用させて貰うだけの話だ。 


 「ねえ!!それって幾ら何でも身勝手過ぎない!?」


 だがそんな事を企てている様子を睨みつけながら、彩花が怒りの形相で黒衣を纏ったのだった。

 突然の出来事に、流石の様子も驚いてしまう。

 

 「ななななな、何ザマスか!?」

 「私を無理矢理こんな所に連れて来たのは、他でも無い貴女たち大人だよね!?それなのに自分たちにとって都合が悪くなったら、今度は私に試合に出るなって言いたいの!?」


 彩花の心の奥底から沸き起こる、怒りや憎しみさえも超越した『破壊衝動』。

 それがどこまでも深い『闇』となって、彩花の心と身体を包み込んでしまう。


 「そもそも私の単位が足りてないって言うけどさ!!私は武藤コーチと学園長のせいで!!一度も授業を受けさせて貰えなかったんだよ!?」


 目から大粒の涙を浮かべながら、物凄い剣幕で様子に迫る彩花。


 「それにお母さんにも教員免許が無いとか文句垂れてるけどさ!!お母さんが私なんかの為に、今までどれだけ必死になって頑張ってくれていたのか知らないくせに!!」


 彩花の黒衣の暴走が止まらない。彩花の心が強烈な『破壊衝動』に支配されていく。

 彩花自身も必死に抑え込もうとはしているようだが、もう抑えようにも抑え切れなくなってしまっているようだ。

 そして。


 「私のお母さんをいじめるなあああああああああああああああああああっ!!」


 シャー!!と叫ぶ猫みたいに、彩花が怒りの形相で黒衣を爆発させたのだった。


 「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい(泣)!!」


 またしても彩花の黒衣に飲み込まれ、恐怖のあまり五感を剥奪されてしまった学園長。

 様子は朝比奈コンツェルンの総帥としての胆力でもって黒衣に抵抗し、何とか辛うじて五感剥奪は免れたようだが、塚本は彩花への恐怖によって視覚を剥奪されてしまったようだ。


 「セバス!!しっかりするザマス!!セバス!!」

 「も、申し訳ございません、奥様…。それと塚本です。」

 「お、おのれぇっ!!まさか黒衣をその身に宿していたとは!!覚えておくザマス!!かくなる上はセバスを痛めつけてくれた礼は、県予選で静香さんにさせる事にしたザマスよ!!」


 その場に崩れ落ちてしまった学園長を無視し、塚本に肩を貸して慌てて体育館を去る様子。


 「そこまであ~たが大会に出たいというのであれば好きにするザマス!!せいぜい静香さんのインターハイ制覇の為の、踏み台になるがいいザマスよ!!」

 「うるさい!!私が静香ちゃんを踏んずけてギシギシアンアンしてやるんだからあ!!」

 「そういう事は、須藤隼人君とするといいザマスよおおおおおおおおおおおお!!」


 何やら妙な捨てゼリフを吐きながら去って行った様子の後ろ姿を、興奮のあまり尻尾を爆裂させた猫みたいな形相で睨み付ける彩花だったのだが。 


 「彩花ぁっ!!」


 そんな彩花を、六花が泣きそうな表情でぎゅっと抱き締めたのだった。


 「大丈夫よ。落ち着いて。私なら全然平気だから。」

 「ふ~~~~~~~~~っ!!ふ~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!ふ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」

 「私の為に怒ってくれて有難うね?だけどもういいから、ゆっくりと深呼吸して。心を落ち着かせて。ね?」

 「…ふー…ふー…ふー…。」

 「そうよ、そのまま私に心と身体を委ねて、気持ちを鎮めて。どうどう…。」

 「……。」


 六花の身体の温もりと感触、そして六花の優しさが、何だか彩花にはとても安心出来る。

 あれだけ暴走していた黒衣が、あっさりと彩花の中へと収まっていったのだった。

 何故、こんな事になってしまったのか。六花は彩花をぎゅっと抱き締めながら、やるせない気持ちで一杯になってしまっていた。

 大人たちの身勝手なエゴによって苦しめられて黒衣に呑まれてしまった彩花が、またしても大人たちの身勝手なエゴによって振り回され、こうして再び黒衣を暴走させる羽目になってしまったのだ。


 支部長も、学園長も、直樹も、そして様子も。

 一体どれだけ、彩花の事を苦しめれば気が済むのか。

 それも、彩花の気持ちを何も考えない、自分たちの身勝手なエゴによって。

 彩花はただ、純粋にバドミントンをしたいだけなのに。

 それなのに、どうしてこんな事になってしまったのか。

 彩花が天才だから?彩花にバドミントンの才能があるから?

 天才だから、才能があるから、彩花は大人たちの身勝手なエゴに振り回され、こんな事になってしまったというのか。


 いいや、そんな事は間違っている。もうそんな事は絶対にさせない。

 もうこれ以上、彩花の黒衣を暴走などさせはしない。

 彩花をぎゅっと抱き締めながら、六花はその決意を新たにしたのだった。

 幸いな事に、大会への出場自体は認められた。

 ならば今、六花が成すべき事は、地区予選が始まるまでに彩花をベストの状態に戻してやる事だ。

 そう…県予選で隼人と静香を相手に、彩花が全力で戦える状態にする為に。

 彩花が心から望んでいる、隼人と静香との公式戦での戦い。

 それが彩花の黒衣を浄化する為の鍵になると、六花は信じているから。


 六花にぎゅっと抱き締められている彩花が、飼い主の膝の上に乗る猫のように、身体を震わせながら六花に身も心も委ねている。

 そんな2人に完全にほったらかしにされてしまった学園長が、彩花に剥奪された五感が何とか回復した後、ひいひい叫びながら体育館から逃げ出してしまったのだった…。

 次回は高校生編完結。久しぶりに隼人が登場です。

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