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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
第3章:高校生編
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第41話:もう一度、彩花ちゃんとしたいなぁ

 久しぶりの様子の登場。

 静香が彩花を相手にボロカスに負けた、あの試合の翌日。

 あれから静香は授業の休み時間を利用して、1年生の全クラスを回って彩花を探したものの…どこのクラスにも彩花は在籍していないようだった。

 静香からの問いかけに、困惑の表情で首を横に振る同級生たちの姿に、静香は一体全体何がどうなっているのかと疑念を抱いてしまう。

 あの日、確かに彩花は、自分が「聖ルミナス女学園の生徒だ」と語っていたというのに。

 それにあの時、彩花が着ていたジャージは、間違いなく聖ルミナス女学園指定の物だったというのに。

 それなのに、どこのクラスにも在籍していないとは…一体どういう事なのか。


 そんな疑念を抱いたまま、静香は今日も無事にバドミントン部の練習を終えたのだが、結局彩花は今日の練習にも一切顔を出さなかった。

 実は今日の彩花は六花からの指示で学校を休んでおり、直樹による過度のオーバーワークのせいで全身ボロボロになってしまっている身体を休めながら、気分転換に軽く外を散歩しつつ、dアニメストアで1日中アニメを観まくっているのだが。

 そんな事情など知る由もなく、静香が同級生の部員たちと笑顔で談笑しながら、一緒に制服に着替えていた最中だった。


 「朝比奈さん。ちょっといいかしら?大事な話があるんだけど。」


 制服に着替え終わった愛美が、真剣な表情で静香に話しかけてきたのだった。

 下着姿の静香は、きょとんとした表情で愛美を見つめていたのだが。


 「はい、どうされました?部長。」  

 「昨日の藤崎さんとの試合…どうしてわざと負けたの?」


 この愛美の一言によって、更衣室が一斉にざわついてしまったのである。

 わざと負けたって。困惑する部員たちだったのだが…静香だけは意地悪な笑みを浮かべながら、舌をペロッと出したのだった。


 「…なぁんだ、やっぱり部長にはバレてましたか。」

 「分かるわよ。いつも朝比奈さんの練習相手を務めているのは、一体誰だと思っているのかしら?」


 真剣な表情で、じっ…と静香を見据える愛美。

 他の部員たちは愛美に言われるまで気付いていなかったようだが、愛美だけは一目で見抜いていたのだ。

 あの試合、静香が手加減をして、わざと彩花に負けたのだという事を。

 静香が繰り出した維綱も縮地法も、いずれも本来の静香の威力や切れ味とは程遠い代物だったのである。

 それこそ鼻くそをほじりながら、手抜きをして放ったような。

 他の部員たちは気が付いていなかったようだが、静香の練習相手を毎日務めている愛美の目だけは誤魔化せなかったのだ。


 「勘違いしてほしく無いんだけど、私は別に朝比奈さんを責めている訳じゃないの。ただ理由を聞いておきたかったのよ。朝比奈さんの事だから、何か理由があっての事だったんでしょう?」


 バドミントンは紳士のスポーツだ。どんな対戦相手にも、しっかりと礼節と敬意を持って挑まなければならない。

 だからこそ非公式のエキシビジョンマッチとはいえ、手を抜いてわざと負けるなど、どんな理由があったとしても言語道断なのだ。


 それは六花がシュバルツハーケンでプレーしていた頃、負ければ戦力外通告を受けるという苦境に置かれていた、自身の恩人である美奈子さえも、決して手を抜かずに全身全霊の力でもって、情け容赦なく叩きのめした事でも分かるという物だろう。

 理由はどうあれ、全力で挑んでくる美奈子を相手にわざと手を抜いて負けるというのは、それは美奈子に対する最大の侮辱に他ならないのだから。


 そして静香は真面目な子だ。そんな事は重々承知しているはずだし、隼人と同じように相手が自分よりも遥かに格下だろうと、絶対に油断も慢心もしないはずなのだ。

 その上で静香は、彩花を相手に手を抜いて、わざと負けたのである。

 別に愛美は、その事を責めているのではない。ただ理由を聞いておきたかったのだが。


 「本調子では無い方を全身全霊でもって叩きのめすなど、大人気ないと…そう思っただけの話ですよ。」

 「…ほ…本調子じゃ…無い…!?…あれで…!?」


 予想外の静香の言葉に、愛美も他の部員たちも驚きを隠せずにいたのだった。

 無理も無いだろう。あれだけ圧倒的な…いいや、暴力的な強さを見せつけた彩花が、本調子ではなかったなどと…そんな馬鹿げた事を静香が言い切ったのだから。

 そんな驚愕の表情を見せる愛美を、静香は穏やかな笑顔で見つめている。


 「理由までは存じませんが、あの時の彩花ちゃんの身体は、全身筋肉痛でズタボロだったんですよ。一目見ただけで分かりました。」

 「だから手加減をして、藤崎さんにわざと負けたっていうの!?」

 「はい。彩花ちゃんの身体を壊したくありませんでしたから。」

 「じゃ、じゃあ、5ポイント制での試合を頑なに押し通したのも…!!」

 「彩花ちゃんの身体を守る為ですよ。」


 あの試合、静香は彩花を相手に圧倒されて、OTLの姿勢になってしまったのだが。

 静香がその気になれば逆に彩花を圧倒し、彩花をOTLの姿勢にさせる事など容易に出来たはずなのだ。

 それはあの日の彩花が、全くの本調子では無かったから。

 直樹による過度のオーバーワークの影響だという事情は知らなかった静香ではあったが、それでもあの時の彩花が全身筋肉痛で、まともに動けない状態だったというのを、静香も六花と同様に一目で見抜いてしまっていたのである。


 だから静香は、彩花を相手に、わざと負けた。

 それは彩花を守りたかったからだ。彩花を壊したくなかったからなのだ。

 昨日の夜に六花が彩花に語っていた推測は、見事に当たっていたのである。

  

 「彩花ちゃんとは公式の舞台で、今度こそお互いに万全の状態で、全力で戦いたいですから…っと、失礼しますね。部長。」


 その時、静香のスマホから鳴り響いた、プルルルルという軽快な着信音。

 愛美との話を途中で切り上げた静香が、深く溜め息をつきながらスマホの緑色のボタンをスワイプする。

 静香のスマホの画面に映っていた発信源は、様子からだった。

 心底ウザいと思っているが、まあ丁度いい。

 静香も様子に、電話をしようと思っていた矢先だったのだから。


 「はい。」

 『静香さん。セバスから聞いたザマスよ。無事にシングルス部門のレギュラーに選ばれたそうザマスね。』

 「ええ、まだリーグ戦は終わっていませんが、それでも残り試合全てに負けたとしても、私が4位以下に転落する可能性が無くなりましたから。」

 『何を馬鹿な事を言っているザマスか。たかが部内の対抗試合とはいえ、静香さんが負ける事など私は許さないザマスよ。』

 「…はい。」

 『あ~たがどうしてもバドミントンを続けたいとダダをこねるから、こうして聖ルミナス女学園に行かせているザマス。ですがやるからには中途半端は絶対に許さないザマスよ?静香さんには朝比奈家の令嬢として、須藤隼人君と藤崎彩花さんを叩きのめし、全国の舞台をも制覇し、トップに君臨する責務があるザマスからね。』

 

 須藤君と彩花ちゃんが羨ましいなあ…静香は心の底から本気でそう思ったのだった。

 だって、こんなクズみたいな人と違って、2人共あんなにも美人で優しくて素敵なお母さんが傍にいてくれているのだから。

 そもそもバドミントンを続けたいと言っているのは静香本人の意志なのに、どうして母親の許可などいちいち取らないといけないのか。

 それに大会の出場選手に選ばれた事も、様子は全く褒めてくれなかった。


 いつもいつも、そうだ。この人は。

 テストで100点を取っても。運動会で一番になっても。初めて自分の力だけで料理を作って見せた時も。

 様子は全く褒めてくれないどころか、いつもいつも静香を叱責するのだ。

 朝比奈家の令嬢たる物、そんな物は当たり前だと。出来て当然だと。


 だから静香は、隼人や彩花と違い、母親の愛という物を知らない。

 いいや、むしろ様子は本当に母親として、娘の静香の事を愛しているのかどうか…。

 美奈子と六花なら、隼人と彩花に対して、満面の笑顔でこう言うだろうに。

 よく頑張ったね。偉いね…と。

 そういった言葉を、静香は今まで一度も様子から貰った事が無いのだ。

 

 「…うるせえよBBA。そこまで言うなら、てめえがやってみせろってんだ(ボソッ)。」

 『何か言ったザマスか?静香さん。』

 「何でもありませんよ。そんな事よりお母様、1つ調べて頂きたい事があるんです。藤崎彩花ちゃんについてなんですけど。」

 『藤崎彩花さん?調べるも何も、今は須藤隼人君と一緒に稲北高校に通っているのではなくて?』

 「私も最初はそう思ってました。ですが違ったんです。」

 『違ったとは?一体どういう事ザマスか?』


 そう、様子もまた、彩花が稲北高校に通っている物だとばかり思っていたのだが。


 「実は彩花ちゃんは、聖ルミナス女学園に入学していたんですよ。」

 『…何ですってぇ!?そんな事は私は、学園長から一言も聞いていないザマスよ!?』

 「それなのに彩花ちゃんは、一度も授業に出ていないどころか、どこのクラスにも在籍していなかったんです。だからお母様に彩花ちゃんの事を調べて頂きたくて。」

 

 学園長が保身の為に直樹のやらかしを隠蔽し続けていたせいで、様子もまた彩花が聖ルミナス女学園に入学していたという事実を知らなかったのだ。

 いいや、それ以前の問題として。

 今、静香は、何て言った?


 一度も授業に出ていない?

 どこのクラスにも在籍していない?

 それなのに聖ルミナス女学園に入学していた?


 『一体…どういう事ザマスかあああああああああああああああああ!?』

 「私、今、彩花ちゃんにメロメロなんです。」

 『メロメロおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?』


 そんな様子のヒステリックな叫びなど無視した静香が、頬を赤らめながら昨日の試合の事を思い出していたのだった。

 一体どういう事情から彩花が黒衣に呑まれたのかまでは知らないが、それでもあの時の黒衣を纏った彩花の力は、まさに圧倒的…いいや、暴力的だった。

 しかも本調子ではない状態で『あれ』なのだから、もし万全の状態の彩花と、もう一度試合をする事が出来たなら…一体どんな凄まじい試合になるのだろう。

 それを思うと、今から静香はワクワクが止まらなかった。身体がウズウズして仕方が無かったのだが…。

 

 「はぁ…もう一度、彩花ちゃんとしたいなぁ。」


 ブチッ!!


 「…バドミントンを…って、あら。」


 プー、プー、プー。

 いつの間にか、様子との通話が切れてしまっていた。

 スマホの画面に映し出された『通話終了』の表記に、静香は呆れたように溜め息をつく。

 

 「もう、お母様ったら、まだ話は終わっていないのに…。」

 「あ、朝比奈さんが変な言い方をするから、様子さんが妙な勘違いをして怒っちゃったんじゃないの(汗)?」

 「そうですか?」


 愛美の言葉に、きょとんとした表情をする静香だったのだが。

 その愛美の推測通り、職場の自室で椅子にどっかりと腰を下ろしていた様子は、静香の爆弾発言に怒りを爆発させていたのだった。


 私、今、彩花ちゃんにメロメロなんです。

 私、今、彩花ちゃんにメロメロなんです。

 私、今、彩花ちゃんにメロメロなんです。


 もう一度、彩花ちゃんとしたいなぁ。

 もう一度、彩花ちゃんとしたいなぁ。

 もう一度、彩花ちゃんとしたいなぁ。


 「一体…何をザマスかああああああああああああああああああああああ(激怒)!?」


 様子の頭の中で、思わず彩花と静香による、


 『静香ちゃん…。』

 『彩花ちゃん…。』

 『『…ちゅっ…。』』


 みたいな光景が再生されてしまったのだった…。

 怒りの形相で、様子はバァン!!と右手を机に叩きつける。


 「セェェェェェェェバァァァァァァァァァスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥいいいいいいいいいいいえええええええええええああああああああああああああ(激怒)!!」

 「つ、塚本です(汗)!!」

 「聖ルミナス女学園にいるという藤崎彩花さんについて、徹底的に調査をして私に報告するザマスよ!!今すぐに(激怒)!!」

 「はっ!!承知致しました(汗)!!」


 いきなり様子がブチ切れたもんだから、泣きそうな表情で慌てて部屋を出て行った塚本だったのだが。


 「あの忌々しい月村詩織さんと同様に、静香さんに寄り付く悪い虫は、全て排除しなければならないザマスよ!!」


 怒りの形相でそう吐き捨てた様子は、去年のダブルス部門の全国大会の準決勝において、静香が無様な敗戦を喫した、あの日の試合を思い出していたのだった…。

 次回。出会ってしまった六花と直樹。

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