第38話:今から私の事を好きにしなさい
これもまた、親子の形なのかな。
彩花を無理矢理自宅のアパートまで連行した六花は、彩花を無理矢理自分の部屋へと連れて行き、ネクタイをほどいてベッドの上に腰かけたのだった。
そして戸惑いを隠せない彩花に対し、六花が真剣な表情で、とんでもない事を口走ってしまうのである。
「…彩花、貴女は私の事を憎んでいるのでしょう!?彩花を聖ルミナスに行かせた私の事を!!」
「そ、それは…!!」
「なら今から私の事を好きにしなさい!!彩花の私への怒りと憎しみを、全力で私にぶつけなさい!!今すぐに!!」
「うえええええええええええええええええええ(汗)!?」
ワイシャツのボタンを外した六花の胸元から、豊満な胸と純白のブラジャーが顕わになる。
そんな六花の色っぽい姿に、思わず彩花は顔を赤らめながら生唾を飲み込んでしまったのだった。
「私に何をしてもいいから!!彩花に何をされても私は一切抵抗しないから!!」
「お、お母さん…!?」
「だから彩花!!今の彩花の怒りも憎しみも、その全てを私にぶつけなさい!!」
黒衣に呑まれてしまった今の彩花は、精神的にとても不安定な状態にある。
そしてその最大の要因となっているのは、他でも無い自分に対しての怒りと憎しみだと、六花はそう判断したのである。
だからこそ六花は彩花に告げたのだ。その怒りと憎しみを私にぶつけなさいと。彩花が何をしても抵抗しないから、私の事を好きにしなさいと。
「…本当にお母さんに、何をしてもいいの…!?」
「ええ、いいわよ。」
これは彩花の六花に向けられた怒りと憎しみの捌け口を解消してやる事で、彩花の心の闇を少しでも払ってあげる事が目的の1つなのだが、それ以上に六花が自らに与えた罰でもあるのだ。
そう、支部長に脅されるまま彩花を聖ルミナス女学園へと入学させてしまった事で、彩花を絶望させて黒衣へと目覚めさせてしまった、自分自身への罰だ。
ベッドに座ったまま、決意に満ちた表情で自分を見つめる六花を、彩花は黒衣を纏ったまま、戸惑いの表情で見つめていたのだが。
「な、なら私、お母さんの事、め、滅茶苦茶にしちゃうよ!?」
やがて彩花は興奮しながら、六花が自らボタンを外したワイシャツを乱暴に脱がし、ブラジャーも外してしまった。
上半身が一糸纏わぬ姿となり、彩花の目の前で完全に顕わになってしまった、六花の豊満な胸。
彩花は息を荒げて興奮しながら六花を押し倒し、両手で六花の豊満な胸をわし掴みにし、乱暴に揉み出したのだった。
「ほら!!お母さん!!実の娘にこんな事されて、今どんな気持ち!?どんな気持ち!?ねえっ!?」
興奮した彩花に胸を揉まれた六花が、自身が公言した通りに彩花に対して全く何も抵抗しないまま、んっ…!!と小さく喘ぎ声を上げる。
傍から見れば異様な光景なのだが…これは六花が自身に下した罰なのだ。
彩花に何をされても、どんな事をされても、その痛みも苦しみも全て受け止めなければならないのだと。
「わ、私は、お、お母さんの事を憎んでるんだから!!」
だから彩花に何をされようが、六花は一切抵抗しない。絶対に抵抗するつもりはない。
そう…例え彩花に何をされたとしても。どんな生き地獄を味合わされたとしても。
最悪の場合…彩花に殺される事になってしまったとしても。
それは彩花に生き地獄を味合わせてしまった六花が、自分自身を許せないと思ったから。
「お母さんが私を聖ルミナス女学園なんかに行かせるから!!私、ハヤト君と一緒に稲北高校に行きたいって言ったのに!!それなのに!!」
彩花の言葉が、六花の胸にグサリと突き刺さる。
六花とて、まさかこんな事態になるとは思ってもみなかったのだが…それでも彩花の気持ちを考えれば、そんな物は言い訳にもならないだろう。
何しろ六花は彩花にとっての貴重な高校生活を、自身のせいで台無しにしてしまったのだから。
だから六花は彩花の怒りと憎しみを、全て真正面から受け止めなければならないのだ。
そして何だかよく分からない表情になった彩花が、何だかよく分からない感情を抱きながら、六花の顔に自らの顔を近付けていく。
そんな彩花に対して決して目を背ける事無く、その彩花の怒りと憎しみを、全て全身で受け止めようとする六花。
彩花に胸を揉まれながら、悲しみに満ちた表情で、六花はじっ…と彩花を見据える。
「だ、だから私は今から、お母さんの事を…!!む、無茶苦茶にするんだあああああああああああああああああああああああああああっ!!」
「彩花…。」
彩花の唇が、今まさに六花の唇と重なろうとしている。
今、彩花が自分に何をしようとしているのかという事を、これから自分が彩花に何をされるのかという事を、六花は即座に理解し…そして全てを受け入れる覚悟を決めた。
てっきり彩花から殴る、蹴るの暴行を受けたり、首を絞められたりする物だとばかり思っていたのだが…まさか彩花とこんな事になってしまうとは。
流石の六花も、こればかりは想定外だったのだが。
今、彩花は、どんな気持ちでいるのだろうか。
やはり六花の事を許せないと思っているのだろうか。六花に対して怒りと憎しみの感情を抱いているのだろうか。
だから六花の事を言葉通りに無茶苦茶にしてやろうと思って、こんな事をしようとしているのだろうか。
実の母親に対して、こんな事を。
(御免ね…彩花…。)
静かに目を閉じ…『その時』が来るのを待つ六花。
そして彩花の唇が、今まさに六花の唇と…。
「…憎めない…!!」
重なる事は無かった。
「…憎めないよ…!!」
いつの間にか黒衣を解除していた彩花が目から大粒の涙を流しながら、六花と唇を重ねる寸前で、六花の顔を至近距離から悲しみの表情で見つめていたのである。
「私がお母さんを憎むなんてぇっ!!そんな事、出来る訳無いじゃん!!」
「あ…彩花…!?」
唖然とした表情で、六花は彩花の顔を見つめている。
今まさに彩花にキスされる物だとばかり思っていたのに。彩花に無茶苦茶にされる物だとばかり思っていたのに。
その全てを、六花は抵抗せずに受け入れるつもりだったのに。
戸惑いを隠せない六花だったのだが、そんな六花の両手を彩花が優しく両手で掴み、じっ…と見つめたのだった。
現役時代に彩花を養う為に、ラケットを数え切れない程の回数を振り続けた結果、何度も何度もマメを潰して血まみれになって、こんなにも硬くなってしまった六花の左手。
彩花の身も心も満足させる為に、彩花の命を繋ぐ為に、愛情たっぷりの美味しい手料理を何度も何度も毎日沢山作ってくれた、六花の右手。
そのいずれもが彩花にとっては、とても愛おしい。
六花の両手を自分の頬に当てた彩花が、目から大粒の涙を浮かべながら、六花の温もりと優しさを存分に感じ取ったのだった。
そんな彩花の姿に、六花は戸惑いの表情を隠せずにいたのだが。
「だけど彩花、貴女は私の事を憎んでたんじゃ…!!」
「憎んでたけど、もういいよぉっ!!」
そんな六花に彩花が、心からの叫びをぶつけたのだった。
そう、確かに彩花は六花の事を憎んでいた。間違いなく六花の事を憎んでいた。
隼人と一緒に稲北高校に行きたいと言っていたのに、無理矢理自分を聖ルミナス女学園なんかに行かせて、その結果あのような生き地獄を味合わせた六花の事を。
だが、それでも。
彩花が心の底から六花の事を憎む事など、出来る訳が無いのだ。
何故ならこんなにも硬くなってしまった六花の左手も、毎日美味しい御飯を沢山作ってくれた六花の右手も…そのいずれもが他でも無い自分なんかの為なのだから。
六花が自分なんかの為に、今までどれだけ必死に頑張ってくれていたのかを…それを彩花は間近で見続けてきたのだから。
「お母さんもさ!!もっと自分の事を大事にしなよ!!自分で自分の顔面をぶん殴るなんて、馬鹿なんじゃないの!?」
「そ、それは…!!」
「それに私にこんな真似をされても、全然抵抗しないしさあ!!本当に何考えてるのよぉっ!?」
溢れる想いが止まらない。六花に対する愛おしさがどんどん増していく。
先程まで六花に対して抱いていた彩花の怒りと憎しみの心は、もう微塵も感じられない。
彩花が六花に対してあんな事をしようと考えたのは、大人たちの身勝手なエゴのせいで1ヵ月近くも六花と離れ離れにされてしまった事で、母親の温もりと愛に飢えてしまっていたからなのだろうか。
その彩花の想いが黒衣によって暴走してしまい、あのような行動を取らせてしまったのだろうか。
それは六花にも、彩花自身にも、よく分からない。
だが、それでも。
「私は…彩花となら、別に構わないと思っているわよ?」
どっこいせと上半身を起こした六花が、とても穏やかな笑顔で本心からの言葉を彩花に口にしたのだった。
これは支部長が指摘したような、六花自身も自覚はしている、彩花に対しての『依存』による物なのかどうかは、六花にもよく分からない。
だがそれでも、これだけは胸を張って断言出来る。
私は彩花の事を大切に想っているのだと。間違いなく愛しているのだと。
「…うわああああああああああああああ!!お母さああああああああああああああああああああああああああああん!!」
そしてとうとう我慢出来なくなってしまったと言わんばかりに、彩花は六花の豊満な胸に飛び込んで顔を埋め、六花の身体をぎゅっと抱き締めながら号泣してしまったのだった。
その六花の身体の温もりと柔らかさが、何だか彩花にはとても安心出来る。
そんな彩花の身体を、六花が慈愛に満ちた笑顔で、ぎゅっと強く優しく抱き締める。
彩花は号泣した。まるで六花に助けを求めるかのように、六花の胸の中で身体を震わせながら号泣したのだった。
やがて彩花が存分に泣き尽くし、身も心も落ち着きを取り戻した頃には…時計の針は既に夜8時を回ろうとしていた。
六花の胸の中で、一体どれだけ泣いていたのだろうか。
それは彩花も、よく覚えていないのだが…そんな事は最早どうだっていい。
六花の胸の中に顔を埋めたまま、彩花はこれまで胸に秘めていた疑問を、六花に対してぶつけたのだった。
「ねえ、お母さん、どうして私を聖ルミナス女学園なんかに入学させたの?何か理由があったんだよね?私に教えてよ。」
「それは…。」
彩花の髪を優しく撫でていた六花だったのだが…この彩花の問いかけに辛い表情になってしまう。
それは彩花の類稀なバドミントンの才能に目が眩んでしまった支部長が、
「隼人と六花の存在が、彩花のバドミントン選手としての成長を妨げる事になる」
などという間違った判断をしてしまった事で、玲也の失職をちらつかせて六花の事を脅し、無理矢理彩花を聖ルミナス女学園に入学させたからなのだが。
支部長はこうも言っていた。もしこの事を誰かに告げ口した場合、その時点で玲也は職を失う事になるのだと。
だが、それでも。
もし仮に本当にそんな事になってしまったとしても…六花は彩花に伝えなければならないと、その責務が自分にはあると思ったのだ。
何故こんな事になってしまったのかを…その真実を。
「全てを話すわね。どうして私が彩花の猛反対を押し切ってまで、彩花を聖ルミナスに入学させたのかを。その真実を。」
「…お母さん…。」
六花の豊満な胸から顔を離した彩花が、六花の顔を真っすぐ見据えた、次の瞬間。
ぐりゅるるるるるるるるるる。
彩花の腹が六花に対し、盛大に空腹を訴えたのだった…。
「…お腹空いた~。」
目をうるうるさせながら、まるで縋るように六花に訴える彩花。
そんな愛娘の可愛らしい姿に、思わず六花はポカーン( ゜д゜)としてしまうものの…やがて呆れたようにクスクスと笑みをこぼしてしまう。
「…取り敢えず、続きは晩御飯を食べてからにしましょうか。」
「…うん。」
「ちょっと待っててね。すぐに美味しい晩御飯を作ってあげるからね。」
彩花の身体を優しく離して立ち上がった六花が、豊満な胸にブラジャーを付けてワイシャツを身に纏い、彩花に穏やかな笑顔を浮かべながらキッチンへと向かっていく。
そんな愛しの母親の姿に彩花は、およそ1ヵ月ぶりとなる心の底からの安心感を抱いたのだった。
全ての真実を六花の口から告げられた彩花は、何を思うのか…。




