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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
第3章:高校生編
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第34話:お前らなんか死んでしまえ

 ちなみに武藤直樹の名前の由来は「無能なコーチ」です。

 その日の夜9時、学園長から緊急事態があったとかいう連絡を受けた直樹は、大慌てで聖ルミナス女学園の学園長室にやってきたのだが。


 「…何やってんだ、アンタ…!!マジで何やってんだよ!!おい!!」


 直樹の目の前にいたのは聖ルミナス女学園から脱走したはずの、口を布で防がれて両手両足を縄で縛られ、全く身動きが出来ない彩花の無様な姿だった。

 予想外の事態に、直樹は驚きと戸惑いを隠せずにいたのだが。


 「見て分からんか!?藤崎君が脱走したと君に聞かされたから、近隣住民にバレる前に連れ戻したに決まってるだろうが!!」

 「いやいやいやいやいや、だからって何でこいつを拘束なんかしてんだよ!?」

 「仕方がないだろう!?もし藤崎君に大声で騒がれて、今回の件が近隣住民にバレてしまったら、我が校の評判はガタ落ちになってしまうだろうが!!」


 青ざめた表情の直樹に対して、同じく青ざめた表情で文句を言う学園長。

 生徒の身の安全を守らなければならない立場にあるはずの学園長が、逆に脱走した彩花を拘束して拉致まがいの事をしでかした。

 それは今回の一連の出来事を、世間から隠蔽する事が目的なのだ。


 各方面に著名人を数多く輩出している、明治時代から続く伝統ある『名門』である、バドミントンの強豪・聖ルミナス女学園。

 それ故に常に各方面や財閥、OBからの厳しい視線に晒されてしまっており、何らかの問題が起きた時に学園長に浴びせられる叱責や圧力は、他校の比ではない。

 だからこそ学園長は今回の件を何とかして隠蔽しようと、このような凶行に及んでしまったのである。


 そう、静香に暴力を振るおうとして返り討ちに遭った黒メガネを、学園長が静香の苦情を押し切ってまで解任しなかったのは、静香に言っていたように


 『黒メガネとの契約期間が、来年3月まで残っているから』


 などではない。

 それは学園長が静香についた苦し紛れの嘘であり、本当の理由は


 『静香への暴力未遂があった事が周囲に知れてしまったら、世間からの聖ルミナス女学園の評価がガタ落ちしてしまうから』


 などという、学園長によるあまりにも身勝手かつ理不尽極まりない理由からなのだ。

 それでバドミントン部の部員たちが黒メガネに、どれだけ理不尽に苦しめられる事になるのかを、全く理解しようともせずに。


 「んんんーーーーー!!んんんーーーーーーー!!んんんんんんーーーーーー!!」


 自分の目の前で下らない事を言い争っている学園長と直樹の見苦しい醜態を、彩花が怒りと憎しみに満ちた形相で睨みつけている。

 地面に打ち上げられた魚のようにバタバタ、バタバタと必死にもがくものの、両手両足を縄でガチガチに縛られており、全く身動きが取れない。

 

 だが学園長は、全く理解していなかった。

 こんな事をした所で、結局は問題を先送りにしているだけであって、そもそも根本的に何も解決などしていないという事に。


 まず学園長が黒メガネを解任しなかった件についてだが、確かに黒メガネを解任しなければ、黒メガネが静香に対して犯した暴力未遂行為が表に出る事は無いだろう。

 仮に静香がSNSで拡散したり警察に被害届を出そうが、絶対的な証拠が残っている訳では無い以上は、嫌疑不十分を理由に逮捕には至らないだろうから。

 仮に警察からの事情聴取があった所で、学園長と黒メガネが口裏を合わせて、しらばっくれれば済むだけの話なのだ。

 そもそもの話、たかが一介の女子高生でしかない静香と、聖ルミナス女学園のトップに位置する学園長とでは、社会的な信用度や貢献度が全く違うのだから。


 だがそれでも結局は解任を免れた黒メガネが、また何かしらの問題行為を起こさないとも限らないのだ。

 今は部活中は静香が目を光らせてくれているお陰で、黒メガネも特に問題行動は起こしていない…いいや、『起こせていない』ようなのだが。


 今回の彩花の件にしてもそうだ。今ここで彩花を拉致して連れ戻した所で、今この場においては確かに隠蔽は出来るだろうが、それでも結局は何も解決などしていないのだから。

 まさか彩花をこれから先も、それこそ何年も何年もずっと、一度も六花の下に帰さずに死ぬまで聖ルミナス女学園に閉じ込めておく訳にも行かないだろう。

 今は彩花のスマホに毎日のように送られてくる六花からのLINEに対して、直樹が苦し紛れの返信をしているから辛うじて誤魔化せてはいるが、それだって限界がある。

 いずれは彩花を心配した六花が聖ルミナス女学園まで直接乗り込み、彩花に会わせろと物凄い勢いで迫ってくるのは間違いないだろうから。

 

 そもそもの話、6月にはインターハイの地区予選が始まってしまうのだ。

 そうなってしまえば、最早このまま隠蔽し続ける事など完全に不可能だろう。

 ただでさえ彩花は隼人に続く「もう1人の神童」として、世間から注目されている存在だ。

 大会期間中は多くのマスコミが彩花への取材を求めてくるだろうし、かつて六花が所属していたシュバルツハーケンを始めとした、各国のプロチームからも注目されている程の選手なのだ。

 それ故に彩花を試合に出してしまえば、当然ながら彩花がマスコミやスカウトに対して泣きながら助けを求めてくるだろうし、だからと言って彩花を試合に出さなければ、マスコミやスカウトは彩花に何かあったのかと大騒ぎになってしまうだろう。


 「武藤君!!君がちゃんと藤崎君を指導していれば、こんな事をする必要は無かったのだぞ!?」


 自らの自業自得によって完全に詰んでしまった学園長が、直樹に対して場当たりな八つ当たりをしてしまったのだった。

 その学園長からの理不尽な怒鳴り声に、流石の直樹もカチンときてしまう。


 「そうは言ってもよ!!俺はJABS名古屋支部の支部長からキツく言われてんだ!!藤崎に対して絶対に甘えは許すな、徹底的に厳しく鍛え上げろってよ!!」

 「だからと言って、あそこまで極端な真似をする必要があったのかね!?」

 「俺は徹底的にやれって言われたんだ!!だから言われた通り徹底的にやったまでの話だろうがよ!!」


 直樹は支部長から、徹底的に厳しくやれと…絶対に彩花を六花に対して甘えさせるなと厳命された。

 だから直樹は支部長に言われた通り、徹底的に厳しく彩花を指導した。休日を1日たりとも与えなかった。

 直樹自身の貴重な休日を潰す事になっても、学園側から高額な休日出勤手当が支給されるからこそ我慢したのだ。

 それに直樹は、彩花を六花に甘えさせるなと支部長から厳命された。

 だからこそ直樹は六花と連絡を取らせないようにスマホを取り上げたのだし、名鉄に乗って六花の下に帰らせない為に財布も取り上げ、念には念を入れて彩花を営倉室に閉じ込めたのだ。


 だが直樹にとって想定外だったのは、まず営倉室の鉄格子が今までまともなメンテナンスを一度も受けていなかった事で、彩花に一発ぶん殴られただけで吹っ飛ばされてしまった程、鉄格子が経年劣化でボロボロになってしまっていた事。

 問題行動を起こす生徒に反省を促す事を目的として作られた営倉室ではあるが、肝心の問題行動を起こす生徒が学園創立以来ただの1人も現れなかったせいで、完全に存在自体が形骸化してしまっていた事が理由だ。

 最近では彩花が入学するまでは、何と物置として使われてしまっていた始末なのだ。

 そして彩花が聖ルミナス女学園から自宅までの約20kmもの距離を、まさか歩いて帰ろうなどと無謀な考えに至るとは…流石の直樹も全く想定していなかったのだ。


 日本のプロ野球には、『名選手は名監督にあらず』ということわざがある。

 現役時代はどれだけ活躍した名選手だったとしても、監督としても有能とは限らないという事なのだが。

 直樹は確かに学生時代は、去年の大学選手権大会の愛知県大会で準優勝するなどの実績を誇る選手だったのだが。

 黒メガネと同様に、指導者としては完全に無能な人物だったのだ。


 「も、もういっその事、藤崎君を今この場で口封じの為に殺してしまうべきか…!!藤崎六花君には車に刎ねられて事故死したとでも言い訳をして、早急に彼女を火葬して証拠隠滅して…!!」

 「はあ!?何アホな事言ってんだ!?アンタはぁっ!?」


 いきなり無茶苦茶な事を青ざめた表情で言い出した学園長を、同じく青ざめた表情で慌てて制止する直樹。

 口封じの為に殺すって。いきなり何を馬鹿な事を言い出すのか。


 「おい、ふざけんなよマジで!!俺を共犯にでもするつもりかよ!?」

 「元はと言えば君のせいで、こんな事になったんだろが!!」

 「俺のせいにしてんじゃねえぞクソジジイが!!俺は支部長に言われた通りに、こいつを厳しく指導しただけだ!!文句があるなら俺じゃなくて支部長に言えよ!!」

 「何事にも限度という物があるだろうが!!」

 「そのセリフをそっくりそのままアンタに返してやるよ!!」


 目の前で青ざめた表情で言い争っている愚物2人を、彩花が怒りと憎しみに満ちた瞳で睨みつけている。

 そして彩花の全身の血が沸騰するかのような、酷く不快な感覚。

 その瞬間、彩花の身体から溢れ出る、漆黒の闘気。


 「…ふざけるな…!!」


 こいつらは一体、何を言っているのか。

 自分たちの身勝手な都合で私をこんな所に閉じ込めておいて、自分たちにとって都合が悪くなった途端、今度は私を殺すとか言い出した。

 どうして私が、こんな目に遭わないといけないのかと。

 どうして私がこんな奴らのせいで、お母さんやハヤト君と…それに楓ちゃんとも引き離されないといけないのかと。

 どうして私が…こんな奴らに殺されないといけないのかと。


 「…お前らなんか…!!」


 怒りと憎しみさえも超越した、凄まじいまでの『破壊衝動』。それが彩花の全身を駆け巡る。

 彩花の身体から溢れた漆黒の闘気が、凄まじい勢いで彩花の全身を包み込む。

 その漆黒の闘気によって、彩花の両手両足を縛っていた縄が、物凄い勢いで焼き切れていく。

 身も心も限界まで追い詰められてしまい、さらには命の危険にさえも晒されてしまった事で、遂に目覚めてしまったのだ。

 彩花に秘められていた、本来なら絶対に目覚めさせてはいけなかった…『最悪の才能』が。

 

 「お前らなんか死んでしまええええええええええええええええええええええええっ!!」


 次の瞬間、彩花がブチブチブチブチと、漆黒の闘気によって劣化した縄を無理矢理力尽くで引き千切ったのだった。

 そして全身の漆黒の闘気を爆発させた彩花が怒りと憎しみに満ちた形相で立ち上がり、自分の口元を覆っていた布を床に投げ捨て、学園長と直樹を睨み付ける。


 「があああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいっ!?」


 全身に漆黒の闘気を纏った彩花の暴虐的な姿、そして冷酷な瞳を見せつけられてしまった学園長は、怯えた表情で腰を抜かしてしまったのだった。

 そして学園長が彩花に対して感じたのは、凄まじいまでの「恐怖」。

 その瞬間、学園長の五感が、あっという間に彩花に剥奪はくだつされてしまった。


 「…あ…が…!!」


 何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。

 学園長の目の前にあるのは、今の彩花を象徴するかのような、ただ深い深い『闇』。

 目の前で腰を抜かし、ガタガタと震えてしまっている学園長の無様な姿を見せつけられてしまった直樹は、彩花の暴虐的な姿を前に恐怖に満ちた表情で呟いたのだった。


 「こ…黒衣こくい…!!」

 

 黒衣。それは類稀たぐいまれな才能を有する者が、深い『絶望』をトリガーとする事で顕現けんげんするとされている、闇の闘気。

 過去の歴史上においても様々な分野で優れた才覚を発揮した者たちが、深い絶望の果てに発動した事が記録されているのだが、その頻度は50年から100年に1人と言われている程の希少な代物だ。

 それを彩花は周囲の大人たちの身勝手なエゴによって身も心も限界まで追い詰められ、さらには命の危機にまで晒されてしまった事で、深い絶望の底に突き落とされてしまい…遂に身に纏ってしまったのである。


 「お、俺は…!!いいや、俺達は…!!とんでもねえ才能を目覚めさせちまった…!!」

 「くくく…!!ふはははは…!!あははははははははははははははははは!!」


 妖艶な笑顔で、自分に対して虐待行為を行った直樹を睨み付ける彩花。

 その彩花から発せられる凄まじい「圧力」に、直樹は言いようのない恐怖を感じてしまう。


 「じょ、冗談じゃねえ!!俺、もう知~らね!!こんな物騒なガキの面倒なんか、これ以上見ていられるかってんだよ!!」


 そして直樹は目の前の彩花をほったらかして、大慌てでその場から逃げ出してしまったのだった。


 「あははははははは!!あははははははははははは!!あははははははははははははははははは!!ひゃはははははははははははははははは!!」


 そんな直樹など最早眼中に無いと言わんばかりに、彩花は自分の目の前で五感を失い崩れ落ちてしまっている学園長を見下しながら、狂気に満ち溢れた笑顔で高笑いを続けていたのだった…。

 本業の仕事がかなり忙しくなってきた上に、来月からタイミーの予約をちょくちょく入れたので、更新頻度が少し落ちるかもしれません。

 なるべくこれまで通り土日に2話のペースで進めたいと思っていますが、こればっかりは仕事が最優先なので…本当に御免なさい(泣)。

 一応タイミーに関しては確定申告を避ける為に年間20万円以上は働かないつもりで、早ければ9月には達成出来そうなので、それさえ終わらせてしまえば時間にゆとりを持てるとは思うのですが…。

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