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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
第3章:高校生編
30/153

第30話:これが私のプロ入りの夢への第一歩です

 いよいよ始まったリーグ戦。

 静香の天賦の才が躍動します。

 かくして翌日から早速、聖ルミナス女学園バドミントン部において、レギュラーを決める為のリーグ戦が行われる事になったのだが。


 「お前らぁ!!遊びでやってんじゃねえんだぞ!?チームメイトが相手といえども殺す気でやれやオラァ!!」


 昨日あんな事があったにも関わらず、黒メガネが我が物顔でパイプ椅子にどっかりと腰を下ろし、腕組みをしながら部員たちを物凄い形相で怒鳴り散らしていたのだった…。


 「…ちっ。」


 その黒メガネの醜態を静香が舌打ちしながら、侮蔑の表情で見つめている。

 事の発端は昨日の部活動の終了後、静香が学園長に黒メガネの解任を直談判しに行った時の事だ。

 黒メガネが部員たちに不当なパワハラ行為を行った事、さらに自分に対して暴力未遂をしでかした事、自分の身を守る為に止むを得ず夢幻一刀流の護身術で返り討ちにした事を、静香は全くの嘘偽りも誇張表現も無く、馬鹿正直に学園長に話したのだが。

 ところが学園長は黒メガネを解任するどころか、


 「彼とは来年3月まで契約がまだ残っている。」

 「今、彼を解任してしまえば、多額の違約金を支払わないといけなくなってしまう。」

 「私が直接現場を見た訳でもないのに、君の証言だけで彼を解任する訳にはいかない。」

 「今後そういう事が無いよう、私が彼に厳重注意をしておくから。」


 などと、黒メガネの解任を拒否したのである。

 何故か随分と歯切れの悪い言い方をしていたのが、静香は気になって仕方が無かったのだが。

 とにかく雇用主の学園長が黒メガネの解任を拒否した以上、朝比奈コンツェルンの令嬢とはいえ一介の学生でしかない静香如きの権力では、最早どうする事も出来なかった。

 流石に学園長にたっぷりと絞られたのか、昨日と違って竹刀は持参していないようなので、そこは安心しているのだが。

 何にしても黒メガネがまた何かやらかそうとするならば、静香は昨日のように部の皆を身体を張ってでも守るつもりだ。


 「それでは只今よりシングルス部門の、1年A組・朝比奈静香 VS 3年B組・川中愛美の試合を開始します!!」


 準備運動と柔軟体操を終えた後、遂に始まったリーグ戦の初戦。

 静香の対戦相手は部長の愛美。去年のインターハイのシングルス部門で準決勝まで勝ち進んだ実力者だ。

 結局準決勝にも3位決定戦にも敗れて4位に終わってしまったのだが、それでも全国の猛者が集うインターハイにおいて、4位に入賞したというだけでも相当な「偉業」であり、彼女が充分に全国レベルの実力を有しているという事が伺える。

 だからこそ静香は、愛美の事を心の底から尊敬していたのだった。


 「よろしくお願いしますね、部長。」

 「ええ。お互い悔いの無いよう、全力で戦いましょう。」


 互いに笑顔で握手をして、審判の部員からシャトルを受け取る静香。


 「ワンセットマッチ、ラブオール!!1年A組・朝比奈静香、ツーサーブ!!」


 他の5つのコートでも5試合が同時進行される最中、静香の試合を固唾を飲んで見守る部員たち。

 いきなり部長の愛美と試合をする事になってしまった静香を、部員たちの誰もが心配そうな表情で見つめていたのだが。

 その心配は静香が繰り出した物凄いサーブによって、ものの見事に打ち消されてしまう事になるのである。


 「太一郎さん。どうか天国で私の事を見守っていて下さいね。これが私のプロ入りの夢への第一歩です…!!」


 シャトルを持つ左手でクロスを描き、今は亡き恩人に祈りをささげた静香は、祈りを終えた後に真っすぐに目の前の愛美を見据える。

 そして左手のシャトルに『気』を込めた静香は、彼女独自の変則モーションから渾身のサーブを愛美に向けて放ったのだった。


 「夢幻一刀流奥義…!!維綱いずな…!!」


 その瞬間、静香のラケットから放たれた、一筋の『閃光』。

 そして白銀の光に包まれた凄まじい威力のサーブが、愛美の足元に向けて放たれる。

 予想外の一撃に愛美は、その場から一歩も動く事が出来なかった。


 「ワ…1-0!!」 


 審判の部員が驚愕の表情で、静香のポイントを宣言する。

 その瞬間、体育館全体を凄まじい声援とどよめきが包み込んだのだった。

 いきなりの出来事に他の5つのコートで試合をしていた部員たちもびっくりしてしまい、思わず試合を中断してしまう。


 「い、今、朝比奈さんのラケットから『閃光』が見えなかった!?」

 「て言うか、なんか今シャトルが光ってたよね!?」

 「あれってシャドウブリンガーに似てない!?平野中学校の藤崎さんの必殺技の!!」


 夢幻一刀流奥義・維綱。

 元々は自らの『気』をブレンドした衝撃波を相手に放つという技なのだが、それを静香はシャトルに『気』をブレンドする事で、バドミントンに応用してみせたのである。

 部員たちが一斉にどよめくが、それでも愛美は落ち着いた表情で静香にシャトルを手渡す。

 確かに予想外の一撃に驚きはしたが、それでも全く反応出来なかった訳では無い。

 ラケットを持つ右手に力を込めた愛美は、何の迷いも無い力強い瞳で、真っすぐに静香を見据える。 


 「…次は止める…!!」

 「さあ、どんどん行きますよ、部長!!」


 静香のラケットから再び放たれた『閃光』。

 白銀の光に包まれたシャトルを、愛美は今度はしっかりと右手のラケットで捉えるものの。


 「くっ…重っも…!!」


 あまりの威力にラケットを弾かれてしまい、シャトルが派手にゴロゴロとコートに転がってしまったのだった。


 「2-0!!」

 「何て威力のサーブなの…!?だけど私にだって意地があるのよ!!」


 それでも愛美は諦める事無く、静香に向けて渾身のサーブを放つ。

 それを打ち返す静香。それをさらに打ち返す愛美。

 だが愛美がどれだけ打ち返しても、どれだけ際どいコースを狙っても、静香は容易く追い付いてしまう。

 いや、追い付いているというより、静香が瞬間移動しているような錯覚を、部員たちの誰もが感じていたのだった。

 ただ1人、静香の移動術の正体を一目で見抜いた愛美を除いて。


 「3-0!!」

 「今の技は、まさか…!!朝比奈さん、貴女もしかして中国拳法を使えるの!?」

 

 驚きの表情の愛美の問いかけを、静香は穏やかな笑顔で首を横に振って否定する。


 「いいえ、箭疾走ぜんしっそうではありませんよ。今のは夢幻一刀流の高速移動術の縮地法という技です。まあ技の原理は大体同じなんですけどね。」


 夢幻一刀流奥義・縮地法。

 走るのではなく両足を『またぐ』ように移動する技であり、愛美が指摘したように元々は中国拳法を源流にした移動術だ。

 だが達人クラスの者がこの技を使えば、周囲の部員たちのように本当に瞬間移動したかのような錯覚を感じてしまうのである。


 「全く…とんでもない新入生が現れた物だわ…!!」


 夢幻一刀流だか何だか知らないが、まさか古武術をバドミントンに応用してしまう選手に出くわしてしまうとは。

 それでも怯まずに必死に奮闘する愛美だったが、無情にも静香との点差はどんどん開いていく。

 維綱と縮地法だけに目を奪われがちだが、単純な身体能力やバドミントンの技術、戦術眼に関しても、静香は既に高校レベルを完全に超えてしまっていた。

 静香は隼人と同様の、完成されたオールラウンダーなのだ。

 

 「11-4!!」


 圧倒的な静香の強さを、部員たちが羨望の眼差しで見つめている。

 あまりの静香の凄まじくも美しさすら感じるプレーを前に、他の5つのコートで試合をしていた部員たちまでもが静香に視線を釘付けにされてしまい、試合進行が完全に止まってしまう事態になってしまっていた。


 「15-5!!」


 あの愛美が。去年のインターハイで4位入賞した愛美が。

 ここまで静香に、完膚なきまでに叩きのめされてしまう物なのか。

 もしかしたら静香なら、中学時代は誰も太刀打ち出来なかった、あの隼人や彩花にさえも勝ててしまうのではないかと。

 部員たちの誰もが、そんな期待を込めた瞳で静香のプレーを見つめていたのだった。

 そして。


 「ゲームセット!!ウォンバイ、1年A組・朝比奈静香!!ワンゲーム!!21-7!!」


 その瞬間、体育館全体が凄まじいまでの大歓声に包まれた。

 去年のインターハイで4位入賞の実績を誇る愛美に対して、まさかの圧倒的なまでの静香の勝利。愛美も奮戦したものの静香には遠く及ばなかった。

 これが公式試合なら、まだファーストゲームが終わっただけだというのに。

 それなのに今の愛美に残ったのは、丸々フルセット戦い抜いたかのような疲労感。


 だがそれでも愛美は静香との試合を終えて、何だか心地良い充足感を感じていたのだった。

 確かに静香に負けたのは悔しいが、それでも静香との試合は凄く楽しかったから。


 「お互いに、礼!!」

 「「有難う御座いました!!」」


 審判の部員に促されて、がっしりと握手を交わす静香と愛美。 


 「流石ね朝比奈さん。完敗だわ。」

 「いえ、部長も中々のお手前でした。」


 とても穏やかな笑顔で、愛美は自分を負かした静香をねぎらった。

 そんな愛美を、とても恥ずかしそうな笑顔で見つめる静香。

 結果だけを見れば確かに静香の圧勝だったが、それでも愛美は静香にとって、決して油断出来るような相手では無かった。

 伊達に去年のインターハイでベスト4まで勝ち進んだだけの事はある。静香は心の底から愛美の実力に感服したのだった。


 そして静香に完敗してしまった愛美だったが、それでもこれは総当たりのリーグ戦で、たかが1度負けただけだ。

 別に今回の敗戦でレギュラー選抜の夢が絶たれてしまった訳では無い。明日の試合に向けて気持ちを切り替えようとする愛美だったのだが。


 「おい川中ぁっ!!お前試合に負けたってのに何をヘラヘラしとるんや!?悔しいっていう気持ちはねえのかコラァっ!?」


 そんな愛美に対して黒メガネが、理不尽な罵声を浴びせてしまう。

 自分の目の前で死闘を繰り広げたばかりの愛美に対して、どうしてこのような暴言を平気で吐く事が出来るのか。静香は心の底から黒メガネを軽蔑したのだった。

 他の部員たちが黒メガネに怯える中、静香だけは威風堂々と黒メガネの前に歩み寄る。

 また黒メガネが何かやらかした場合、自分が皆を守る…静香はそう心に決めたのだから。

 この聖ルミナス女学園バドミントン部を、誰もが平等に安心してバドミントンに取り組める環境にする為に。 

 

 「な、何だ朝比奈!?俺は何も間違ってる事を言ってねえだろうが!?負けた事をもっと悔しがれって言ってるだけやぞ!?」


 パイプ椅子に座る自分を見下しながら、冷酷な瞳で黒メガネを睨み付ける静香。

 先日、静香に暴力を振るおうとした所をカウンターで鏡月を食らっているだけに、黒メガネは静香に対して完全にひるんでしまっていた。

 愛美や周囲の部員たちが心配そうな表情で見守る最中、互いに睨み合う静香と黒メガネだったのだが。


 「…そうですね。確かに古賀監督の言う通りかもしれないですね。」


 深く溜め息をつきながら、静香は呆れたような表情で黒メガネに賛同したのだった。

 負けた事を悔しがれ…確かにそれに関して「だけ」は、静香も一定の理解を示したのだが。


 「だろ!?遊びでやってんじゃねえんだぞ!?それに昨日も言ったよな!?お前らはOBの皆様方から『常勝』を義務付けられた…!!」

 「ですが。」


 それでも静香は冷酷な瞳で、黒メガネを見下ろすように睨み付ける。

 やはり目の前の愚物は、指導者としては三流も良い所だ。静香は改めてそれを思い知らされたのだった。

 

 「貴方には先程の部長の笑顔の意味が分からないのですか?貴方が現役時代に世界を舞台に戦って得た物とは、結局その程度の物だったのですか?」

 「何だとコラァっ!?」


 昨日学園長から聞いた話によると、なんかJABS名古屋支部からの紹介で派遣されたとか、世界選手権の日本代表に選抜された実績があるとかいう話らしいのだが。

 どれだけ選手時代は有能な人物だったとしても、指導者としても有能な人物とは限らないと言う奴なのだろう。

  

 「…まあいいでしょう。貴方が皆に変なちょっかいを出さなければ、私は別に貴方をどうこうするつもりはありませんから。」


 黒メガネに背中を向けて、威風堂々と皆の下へと戻る静香。

 黒メガネが指導者としては三流のへっぽこなのは事実だが、そんな物は静香にとっては至極どうでもいい。

 黒メガネがまた何かやらかすようなら、昨日のように静香が黒メガネから皆を守るだけなのだから。

 

 「…ちっ。ガキの分際で…!!」


 皆からキャーキャー言われながら勝利を祝福される静香に対して、不貞腐ふてくされた態度を隠そうともせずに苛立ちを見せながら、悔しそうに舌打ちする黒メガネ。

 とても恥ずかしそうな笑顔で皆の祝福に応える静香だったが、そんな状況下においても背後にいる黒メガネへの警戒だけは決して怠らなかったのだった。


 そんな静香がインターハイ県予選の準決勝第2試合において、彩花と死闘を繰り広げる事になるのは、また先の話である…。

 FF14のパッチ7.0のアーリーアクセスが6月28日(金)に開始される事に伴い、申し訳ありませんが7月からしばらくの間、更新作業を一時中断させて頂きます。

 期間はパッチ7.0メインクエストの終了、ヴァイパーとピクトマンサーがレベル90に到達するまで。

 一応、勤務先の昼休みにスマホとモバイルキーボードを使って、執筆作業自体は行っているのですが、それでも更新自体は止まります。

 今後の更新スケジュールの予定は、以下の通りとなります。


 6月29日(土)14:00頃 第31話「全部」を掲載。

 6月30日(日)8:00頃 第32話「こんなの私は望んでないよ」を掲載。

 更新再開後の土曜日に第33話「お母さん、助けてよ」を、日曜日に第34話「お前らなんか死んでしまえ」を掲載。


 出来れば彩花が闇堕ちする第34話までは、パッチ7.0アーリーアクセス開始までに執筆を終えたかったのですが…。

 以上、申し訳ありませんが、どうかご了承頂けると幸いです。

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