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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
第3章:高校生編
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第28話:この聖ルミナス女学園で、私は出会えるのでしょうか

 舞台は聖ルミナス女学園へ。

 物語の中核となる新キャラが2人登場します。

 時間を1日だけ巻き戻す。

 2024年4月8日。愛知県名古屋市の聖ルミナス女学園において、新入生の入学式が盛大に行われようとしていた。

 大手企業や財界などの各方面の大御所たちを来賓に迎え、生徒たちの中にも財閥のお嬢様が何人も存在している事から、この聖ルミナス女学園が名門のお嬢様学校だという事がよく分かる。

 事実、この聖ルミナス女学園の卒業生からは、各方面に何人もの著名人を排出しているのだから。

 

 そんな中でこの聖ルミナス女学園に、1人の少女が入学してきたのだった。

 後に隼人や彩花と同様に、日本の…いいや世界中のバドミントン界を震撼させる事になる『天才』…朝比奈静香あさひなしずか

 世界中に強い影響力を持つグループ企業・朝比奈コンツェルンの総帥・朝比奈様子あさひなようこの1人娘で、中学時代にダブルスの部門で全国大会2連覇を達成した実績を誇る少女だ。

 2連覇と言っても3年生の頃の全国大会では、パートナーの女子生徒が準決勝で足首を捻挫ねんざした事で棄権する羽目になってしまったので、それさえ無ければ六花以来となる大会3連覇を達成出来たとさえ言われている。

 

 「いいザマスか静香さん。あ~たはこの私の1人娘ザマス。いずれ我らが朝比奈コンツェルンのトップに君臨する事になる女性ザマスよ。」 

 「…はい。お母様。」

 「あ~たがダダをこねるから、こうしてバドミントンの名門である聖ルミナス女学園へと入学させたザマス。ですが、やるからには中途半端は許さないザマス。朝比奈グループの令嬢として常にトップを目指すザマスよ。」

 「ええ、分かっています。」

 「レギュラー獲得は当然として、あの須藤隼人も藤崎彩花も叩きのめして、あ~たが全国を制覇するザマスよ。」


 高級リムジンを降りた静香は大きなキャリングケースとラケットを手に、威風堂々と校門をくぐる。

 隼人と彩花に関しては、静香も噂だけは聞かされていた。

 だが中学時代の静香はダブルスの部門で全国大会に出場しており、2人の試合を全く観戦した事が無かったので、正直2人がどれ程の存在なのかという事は、あまり実感が湧かなかった。

 2人がどこの高校にいるのかまでは知らないが、まあこの2人が高校でもバドミントンを続けているのなら、いずれ戦う機会もあるだろうと…静香はそんな事を考えていたのだが。


 「セバス!!」

 「塚本です。」

 「今日のこれからの私の予定は、どうなっているザマスか?」


 タキシードを着た初老の男性の塚本に、様子は高々と声を掛ける。

 塚本は鞄からタブレットを取り出し、慣れた手つきでスケジュール管理用のアプリを起動したのだった。


 「今日はお嬢様の入学式への出席を済ませた後、名古屋市の川森市長と料亭『かわた』にて昼食と会談、その後に朝比奈食品の月島社長との、欧州への事業進出についての打ち合わせが御座います。その後は…。」


 塚本の話に真摯に耳を傾けた様子は、とても満足そうな表情で大きく頷く。

 様子が亡くなった父の後を継いで朝比奈コンツェルンの総帥になってからというもの、彼には秘書として随分と助けて貰っているのだが。

 

 「では川森市長には、11時半には市役所に着く予定だと伝えるザマス。」

 「承知致しました。奥様。」

 「静香さん。聞いての通りザマス。入学式が終われば、これから寮生活を送る事になる静香さんとは、しばらく離れ離れになるザマス。ですがいずれ朝比奈コンツェルンを継ぐ事になる者として、しっかりと学び、成長するザマスよ?」


 妖艶な笑みを浮かべながら、威圧的な態度でそう告げる様子の姿に、深くため息をつく静香。

 静香にとっては正直な話、朝比奈コンツェルンの事など至極どうでもいいし、様子の後を継いで総帥になるつもりなど毛頭無い。

 何故ならこれは静香の人生であって、様子に勝手に決められるなど冗談ではないからだ。

 

 静香の夢はズバリ、バドミントンのプロ選手になる事だ。


 聖ルミナス女学園を卒業後にすぐにプロ入りする事を目指すのか、あるいは大学に進学してからにするのかは、静香はまだ決めてはいないのだが。

 今年の3月にJABS主導の下で全国の主要都市に10チームが発足し、10月にドラフト会議が行われる予定の、日本のバドミントンのプロリーグ「JBL」を目指すのか。

 あるいは高校時代は神奈川でプレーしていた、世界ランク1位の日本人女性選手が所属している、デンマークのプロリーグを目指すのか。

 それともかつて六花や美奈子が所属していた、スイスのプロリーグを目指すのか。あるいはドイツかイギリスか。

 

 まだまだどうなるのかは分からないが、取り敢えず将来的にはプロを目指すという決意は、静香は一歩も譲るつもりはなかった。

 こんな事を様子に言おう物なら100億%猛反対されるだろうから、静香はまだ様子に告げていないのだが。

 そういう意味では聖ルミナス女学園という全寮制の女子校に入学出来たのは、静香にとっては本当に好都合だと言えた。

 様子からは土日だけは名古屋の実家に帰って来るようにと厳しく言われているが、それでも平日なら自分が何をしようが、それこそプロのスカウトや関係者たちと秘密裏に連絡を取り合おうが、様子の目には決して届かないだろうから。

 

 それで高校卒業後か大学卒業後かは分からないが、とにかく卒業後に様子の事をゴミクズのように捨ててやるのだ。

 何故なら様子は静香の事を「自分の跡取り」としてしか見ておらず、「娘として」これっぽっちも愛してくれていないのだから。

 これまで様子は一度たりとも、静香に母親としての愛情など全く注いでくれなかったのだから。


 今の静香は冗談抜きで誇張表現でも何でも無く、母親の愛という物を知らない。

 だからこそ、そんなクズみたいな母親が総帥を務める朝比奈コンツェルンの行く末など、静香の知った事では無いのだ。

  

 寮の自室にキャリングケースを置いた静香は、これから自分の学び舎となる1年A組の教室へと向かい、ホームルームを終えた後に入学式が開催される体育館へと向かう。

 豪華な装飾が施された体育館には、既に新入生やその家族、在校生、教師、来賓たちでごった返していた。

 事前に与えられた自分の席に座った静香は、入学式が始まるのを静かに待つ。

 来賓席では様子が財閥の大御所の男性と何やら談笑しており、その傍らに塚本が起立して控えている。

 様子が一体どんな話をしているかなど、静香には心底ど~でもいいのだが。

  

 「それでは只今より聖ルミナス女学園の、2024年度の入学式を執り行います。」


 そうこうしている内に、入学式が始まったようだ。

 まずは校長先生からの挨拶の後、愛知県の小村知事からの挨拶、大手企業各社の社長や会長からの挨拶と続く。

 まさに圧倒的過ぎる顔ぶれ。これだけでも聖ルミナス女学園が、相当なお嬢様学校だというのが分かるだろう。

 まあ静香は彼らの話など全く興味が無いし、はっきり言って退屈極まりないとすら思っているのだが。

 こんな長々と下らない無駄話ばかりして、一体何の意味があるというのだろうか。


 「続きまして新入生代表による答辞を行います。1年A組、朝比奈静香。壇上へ。」

 「はい。」


 やがて在校生からの祝辞を受けた静香は、礼儀正しく起立して威風堂々と壇上へと向かう。

 祝辞を終えた3年生の少女と入れ替わる形で、壇上に立つ静香。

 多くの人々の視線が集まる中でも、静香は全く緊張する事無く、事前に教師から渡された台本を広げ、そこに書かれた内容を読み上げる。

 

 「美しくも壮大なソメイヨシノが咲き乱れる、暖かな春の日差しに包まれた聖ルミナス女学園において、私達新入生の新しい学校生活が…。」


 下らない。本当に下らない。

 中学校の頃もそうだったのだが、こんな祝辞とか答辞とかいう意味不明な答弁に、一体何の意味があるというのだろうか。

 他校では祝辞や答辞の際に緊張のあまり、まともに喋れず失敗してしまう生徒も、毎年のように何人か出ているらしいのだが。

 こんな、たかが用意された台本を適当に読み上げるだけの行為の、一体どこに失敗する要素があるというのだろうか。それが静香には理解出来なかった。

 そんな事を考えながら、静香は無事に台本を読み終えたのだった。


 「…以上をもちまして、先輩方への答辞とさせて頂きます。新入生代表1年A組1番・朝比奈静香。」


 在校生への答辞を無事に終えた静香に対し、盛大な拍手が送られる。

 呆れたように深くため息をつきながら、静香は威風堂々と自分の席へと戻っていく。

 来賓席では様子が、とても満足そうな妖艶な笑顔を見せているのだが。

 そんな物は今の静香には、本当にどうでも良かった。


 早くバドミントンをやりたい。

 今の静香の頭の中にあるのは、ただそれだけだ。


 (はぁ…この聖ルミナス女学園で、私は今度こそ出会えるのでしょうか…私を身も心も満足させて下さる方に…。)


 毎年のようにインターハイ出場を果たしている、バドミントンの名門・聖ルミナス女学園。

 全国から数多くの有力選手をスカウトしており、それ故に控え選手でさえも、他校ではレギュラーの座を獲得していてもおかしくない程の精鋭揃いだと聞かされている。

 だからこそ静香は様子に対し、聖ルミナス女学園への入学を懇願したのだ。

 中学時代は静香のあまりの強さ故に、誰も静香の事を満足させてくれなかった…静香についていけるレベルの者が誰1人として存在しなかったのだから。

 まさに中学時代の静香は、天才であるが故の孤独だったのだ。


 それだけに静香は、この聖ルミナス女学園での新たな学校生活に期待を寄せていた。

 全国レベルの強豪校である聖ルミナス女学園において、自分の事を満足させてくれる人に、今度こそ出会う事が出来たらと。 


 だが、この聖ルミナス女学園の入学式に…彩花の姿はどこにも無かったのだった…。

 現実に静香みたいな女の子っていそうだよね。

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