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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
第2章:中学生編
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第21話:次は県予選で一緒に戦おう

 中学生編の最終話です。

 こうしてあっという間に月日は流れ、2024年2月に隼人と楓は稲北高校の受験に挑み、無事に合格。

 と言うか近年日本で社会問題になっている少子高齢化の影響により、稲北高校も他校と同様に定員割れを起こしてしまっており、隼人も楓も受験した時点で即合格、という有様だったのだが。

 また彩花も形式上ではバドミントンの特別推薦枠という形で受験を免除され、平野中学校を卒業後に聖ルミナス女学園に通う事が正式に決まったのだった。

 本当ならこの3人で一緒に、仲良く稲北高校に通うはずだったのに。そうあって欲しかったのに。

 それなのにJABS名古屋支部の支部長の身勝手なエゴのせいで、彩花は隼人や楓との貴重な高校生活を奪われる事になってしまったのだ。


 さらに時は流れ、2024年3月。

 隼人と彩花は16歳になり、晴れて平野中学校を卒業。

 そして春休みに名鉄で名古屋の聖ルミナス女学園へと向かう彩花を見送る為に、隼人、六花、楓の3人が最寄り駅の名鉄勝幡駅までやってきたのだった。


 無人の自動券売機に500円硬貨を投入し、名古屋行きの切符を購入する彩花。

 この勝幡駅もかつては有人駅だったのだが、業務の効率化やコスト削減の一環として駅集中管理システムを実装した事に伴い、2005年7月14日から無人駅となってしまった。

 これは勝幡駅や名鉄に限った話では無く、最近では全国各地で無人駅が急激に増えてしまっており、特に障害者や高齢者たちからの苦情や抗議の声が殺到してしまっており、テレビのニュースでも特番が組まれてしまう始末だ。

 業務の効率化やコスト削減だけではなく、少子高齢化による人手不足の影響もあるのだろう。


 最近では多くの外食チェーンで、タッチパネルによる注文方式を導入する店舗も爆発的に増えているし、セルフレジを導入するスーパーやホームセンターも目立つようになってきたし、コンビニに至っては無人店舗の試験運用を開始した所さえも出ている始末だ。

 これらもまた業務の効率化、コスト削減、人手不足の解消を目的とした物…急激にIT化が進んでいる、今の激動の令和の世の中を象徴していると言えるだろう。

 これも仕方が無い事なのだろうが、無人駅となってしまった勝幡駅の光景を見て、少し寂しさを感じてしまった隼人なのであった。


 「彩花。いつも言ってる事だけど、バドミントンは楽しく真剣に。聖ルミナスに行っても、武藤コーチから何を言われても、それだけは絶対に忘れないでね。」

 「うん。分かってるよ。お母さん。」


 彩花の身体を優しく抱き締め、その温もりと匂いを存分に噛み締める六花。

 こうして彩花成分を補充出来る機会も、今日から3年間は彩花が休日にアパートに帰宅した時だけに限定されてしまう。

 だがそれでも、せめて彩花には聖ルミナス女学園で色々な事を学んで、人間としてもバドミントンプレイヤーとしても大きく成長して欲しいと…六花はそう願っていた。


 「頑張って来なさい。そして色々な事を沢山学んで来なさい。毎日LINE送るからね。」

 「うん。お母さんも身体に気を付けて。お仕事頑張ってね。」

 「休みの日には帰って来れるから。車で聖ルミナスまで迎えに行くからね。」

 「うん。待ってるよ。お母さん。」


 名残惜しいが六花は彩花の身体を離し、いつもの優しい笑顔で彩花を見据える。

 本当なら彩花に聖ルミナス女学園になんか行って欲しくないのに。隼人や楓と一緒に稲北高校に行って欲しかったのに。

 だが六花の個人的な感情のせいで、隼人たちを路頭に迷わせる訳にはいかないのだ。

 何故ならここで彩花を聖ルミナス女学園に行かせなければ、支部長の魔の手によって玲也が職場を解雇されてしまうからだ。

 そうなれば隼人も美奈子も、路頭に迷わせる事になってしまいかねない。それだけは何としてでも避けなければならなかった。


 そして六花の身体を離した彩花は、今度は隼人の身体をぎゅ~っと抱き締めた。

 何故こんな事になってしまったのか。何故彩花が突然聖ルミナス女学園に行く事になってしまったのか。正直隼人は戸惑いを隠せなかった。

 六花に理由を問い正しても、彩花がJABS名古屋支部の強化指定選手に選抜されたからで、それ以上の事は言えないの一点張りだ。

 その際に六花が、とても辛そうな表情をしていたのが気になったのだが。


 「彩花ちゃん。僕は本当なら、君と一緒に稲北高校に行きたかったよ。」

 「私もだよ。ハヤト君。」


 自分を抱き締める彩花の身体を、ぎゅっと優しく抱き寄せる隼人。

 彩花の身体の感触と温もりを、その身に刻み込むかのように。

 彩花と一緒に稲北高校に通う事は叶わなくなってしまったが、それでもバドミントンまで一緒に出来なくなってしまった訳では無い。


 「だけど僕は稲北高校で、必ずバドミントン部の大会出場メンバーに選ばれてみせる。だから君も必ず聖ルミナスの代表になってくれよ?次は県予選で一緒に戦おう。」

 「うん。ハヤト君ならきっと大丈夫だよ。私も全力で頑張るからね。応援してね?」


 そう、互いに大会の出場メンバーに選抜されれば、中学校の頃のように県予選で戦う事があるかもしれないのだ。

 その時にまた、あの時のように、笑顔で楽しく彩花と打ち合う事が出来れば。

 隼人は心の底から、そうなる事を望んでいたのだった。

 そして隼人の身体を離した彩花は、最後に楓の身体をぎゅ~っと抱き締めた。


 「彩花。私も貴女と県予選で戦える日を楽しみにしてるから。」

 「私もだよ。楓ちゃん。」

 「私、貴女にコテンパンにされた、去年のあの日の事…今も忘れてないから。次は絶対負けないからね?覚悟しなさいよ?彩花。」


 とても穏やかな笑顔で、彩花の身体を優しく抱き寄せる楓。

 本当なら彩花と一緒に稲北高校に行きたかったのに。楓もまた隼人と同じ想いだ。

 彩花とは稲北高校のバドミントン部で、互いに切磋琢磨し合えるような良好な関係でいられたら良かったのに。

 それなのに何故、こんな事になってしまったのだろうか。


 彩花がJABS名古屋支部の強化指定選手に選抜されたからとの事らしいが、どうして進学先まで大人たちに勝手に決められなければならないのか。

 それが楓には、何よりも歯痒かった。


 『間もなく、1番線に、電車が参ります。黄色い線までお下がりください。名古屋方面の、豊明行き普通です。青塚、木田、七宝、甚目寺、須ヶ口の順に止まり、須ヶ口から急行に変わります。』


 そして勝幡駅構内に、名古屋方面に向かう電車がやってくる事を伝える自動音声アナウンスが鳴り響いた。

 名残惜しいが、そろそろ電車に乗って名古屋に向かわなければならない。

 楓の身体を離した彩花は大きなキャリーバッグをガラガラと引きずりながら、先程購入したばかりの切符を自動改札機に入れ、開放されたゲートから駅のホームへと向かう。

 その様子を隼人たちが、神妙な表情で見つめていたのだった。


 「それじゃ、行ってくるね。お母さん、ハヤト君、楓ちゃん。」

 「行ってらっしゃい。応援してるからね?彩花。」

 「土日には帰って来れるんだろう?だったら僕は必ず、君と六花さんのアパートまで毎週遊びに行くよ。」

 「頑張りなさいよ、彩花。」


 穏やかな笑顔を見せながら彩花は3人に軽く手を振り、電車に乗って名古屋へと向かったのだった。

 そこで自身に待ち受ける事になる生き地獄と悲壮な運命を、知る由も無く…。

 次回から高校生編。

 稲北高校に入学した隼人と楓ですが…。

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