第15話:フェアなプレーをするように
全日本中学校バドミントン大会の地区予選、開幕です。
2023年6月3日の土曜日。
清々しい青空の下、全日本中学生バドミントン大会の熱い地区予選が、全国各地で遂に始まった。
愛知県では尾張地区、名古屋地区、西三河地区、東三河地区の4地区において、各中学校のシングルス4名、ダブルス2組の代表選手たちがぶつかり合い、県予選に駒を進めるシングルス8名、ダブルス4組の地区代表選手を決める。
その為に各地区毎に6月の土曜日の4日間を利用して、シングルス8ブロック、ダブルス4ブロックに分けてトーナメントを行い、優勝した者が各地区の代表選手として選抜され、県予選へと出場する事になるのだ。
隼人と彩花が在籍している平野中学校は稲沢市平和町にあるので、尾張地区の一宮市総合体育館が試合会場となる。
そして原則として地区予選では、同じ中学校の選手同士が対戦する事は無い。
なので隼人と彩花が敵同士としてぶつかり合うのは、県予選になってからになる。
「皆、悔いだけは残さないように。変に気負わなくてもいいから、最高の舞台を全力で楽しんできてね。」
残念ながら平野中学校の代表からは漏れてしまった楓ではあるが、それでも前を向いて出場選手の隼人たちに、部長として精一杯の檄を飛ばした。
彩花の温もりに包まれながら精一杯泣いてからというもの、もうすっかり吹っ切れてしまったのか、何だか楓の表情が随分と明るくなったように見える。
「さあ、行くわよ!!平野中~~~~~~~!!ファイッ!!」
「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」」」」
楓の掛け声と共に、気合の声を上げる隼人と彩花ら8人の代表選手たち。
かくして隼人たちの暑い…いいや、熱い夏の戦いが、今ここに始まったのである。
試合は午前中はシングルスの8ブロックが、午後からダブルスの4ブロックが、それぞれ複数のコートを利用して同時に行われる事になっている。
そして下馬評通り、隼人と彩花の強さは…まさに圧倒的だった。
「ゲームセット!!ウォンバイ、平野中学校3年・須藤隼人!!ツーゲーム!!21-0!!21-0!!」
「ゲームセット!!ウォンバイ、平野中学校3年・藤崎彩花!!ツーゲーム!!21-0!!21-0!!」
最早対戦相手が可哀想になってしまう程の、圧倒的なまでの完封劇。
とても力強い笑顔で、隼人と彩花は互いにハイタッチをしたのだった。
そして2人に惨敗した対戦相手2人が、憔悴し切った表情で膝を付いて崩れ落ちている。
これが勝負の世界である以上、勝者が現れれば必然と敗者も現れる。
出場選手全員が幸せになる方法など、存在する訳が無いのである。
そう…勝者が現れれば、必ず敗者も現れる。
平野中学校のバドミントン部は真剣に全国を目指して、日々猛練習を重ねている。
だがそれは平野中学校に限った話では無く、多くの中学校でも同じ事だ。
確かに練習は嘘をつかない。練習を重ねた分だけ必ず上手くなれるのだが、それは他の学校の生徒だって同じ事なのだから。
つまりは猛練習を重ねた生徒が、必ず全国に行けるとか…そんなご都合主義な話が有り得る訳がないのである。
「ゲームセット!!ウォンバイ、西川中学校3年・米川美智子!!スリーゲーム!!21-18!!17-21!!21-19!!」
「ううっ…御免なさい、部長…!!」
「お疲れ様。凄い試合だったよ。本当によく頑張ったね。」
2023年6月24日の、地区予選最終日。
楓は準決勝で惜しくも敗戦して悔し涙を流している、シングルスの女子選手の頭にタオルを被せ、優しく慰めていた。
結局、平野中学校バドミントン部の代表メンバー8人の内、地区予選の決勝まで生き残れたのは、隼人と彩花の2人だけとなってしまったのである。
だが、それこそが残酷な勝負の世界。しかもスイスのプロリーグと違いトーナメント方式であり、敗者復活戦も存在しない。
どれだけ勝ち進んだとしても、たった1つの敗戦だけで全てが終わってしまうのだ。
「須藤先輩…藤崎先輩…!!どうか私たちの分まで頑張って下さい!!」
大粒の涙を流しながらも、必死に隼人と彩花へと勝利へのバトンを繋ぐ女子選手。
これは団体戦ではなく、個人戦なのだが…隼人も彩花も後輩から託されてしまった。
そう、まるで団体戦のように。
「ああ、任せろ。」
「皆の分まで、楓ちゃんの分まで、私もハヤト君も全力を尽くすからね。」
皆の想いを胸に秘め、それぞれの決勝戦へと向かう隼人と彩花。
ここまでは特に何のトラブルも無く、予定通りに試合が消化されていったのだが。
隼人の県予選出場を賭けた、Aブロックの決勝戦において…事件は起こったのである。
「只今より第1コートにおいて、Aブロック決勝戦、平野中学校3年・須藤隼人選手 VS 香取中学校2年・北川純也選手の試合を始めます。」
Aブロック決勝戦。この試合に勝った方が県予選への出場権を獲得するのだ。
だが試合はまたしても一方的な展開となり、対戦相手の純也は何もさせて貰えず、無様にファーストゲームを取られてしまう。
「ゲーム、平野中学校3年・須藤隼人!!21-3!!チェンジコート!!」
「くそっ、まさかこの俺が、まるで歯が立たないとは…っ!!」
純也とて決勝戦まで勝ち上がっただけあって、中学レベルとしては充分に強いのだが、それでも対戦相手があまりにも悪過ぎたのだ。
何しろ「神童」の異名を持ち、全国大会2連覇を圧倒的な強さで成し遂げ、六花以来となる大会3連覇を、周囲から期待されている程の選手なのだから。
しかもこんな凄い奴が、例え相手が超初心者であろうと油断せずに行っちゃうもんだから、余計に隙が見当たらない。
一体どうした物かと考え込みながら、ベンチに座ってスポーツドリンクを口にする純也だったのだが、その時だ。
「おい、北川!!」
「は、はい!!」
「勝てへんぞ!!分かってるやろな!?」
考え込む純也を怒鳴り散らした顧問の先生だったのだが。
次の瞬間、顧問の先生は純也に対して耳打ちしながら、誰もが想像もしなかった、とんでもない事を口にしたのである。
「…須藤に思い切りラケットをぶつけてやれ。」
「…はあああああああああ!?しかし、それでは須藤先輩はどうなるんですか!?」
「アホか。勝つ為には相手を殺す覚悟で挑めって、いつも言っとるやろが。」
周囲に…特に審判の耳にだけは絶対に入らないように、小声で…しかし威圧感を込めて純也を脅す顧問の先生。
思い切りラケットをぶつけろって。顧問の先生の無茶苦茶な指示に、唖然とした表情になってしまう純也。
当然だろう。そんな物はもうバドミントンとは言えない。最早反則をすっ飛ばしての悪質な暴力なのだから。
だが顧問の先生は、そんな事は…それこそ隼人が大怪我をしようが、それどころか後々の人生に響く程の後遺症を残す事になろうが、全く気にしていないようだった。
「これは勝負の世界なんやぞ。勝つ為には手段なんぞ選んどる場合ちゃうやろが。」
「で、ですが…!!」
「いいから思い切りラケットをぶつけてやれ。反則を取られても須藤に1点入るだけや。それで須藤が大怪我でもしてプレーに支障が出れば儲け物や。分かったか?」
「で、でも…俺は…!!」
「…何やお前。俺に逆らおうってのか?これは後でお仕置きが必要だなぁ、おい。」
「…わ…分かりました…!!」
やがて2分間のインターバルが終わり、先程までとは打って変わって憔悴し切った表情でコートに戻る純也。
一体彼に何があったのかと…何の事情も知らないまま、「?」という表情になってしまった隼人だったのだが。
「セカンドゲーム、ラブオール!!香取中学校2年・北川純也、ツーサーブ!!」
このワンプレーによって…事件が起きてしまったのである。
「く、くそおっ!!」
憔悴し切った表情で放たれた、純也のサーブ。
それを隼人は軽々と返し、純也がスマッシュの体勢に入ったのだが…次の瞬間。
「うわああああああああああああああああ!!」
純也のラケットが右手からすっぽ抜けて…シャトルと一緒に隼人の顔面へと物凄い勢いで飛んで行ったのである。
「な、何ぃっ!?」
いきなり自分の顔面に向かって飛んできたラケットを、慌てて隼人が左手のラケットで受け止める。
全く予想もしなかった突然の出来事にびっくりして、尻もちをついて背中からコートに倒れ込む隼人。
その間にシャトルが隼人のコートにポトリと落ちたのだが、審判はとても厳しい表情で純也に反則を告げ、隼人に得点を与えたのだった。
「フォルト!!インターフェア!!1-0!!」
「ハヤト君!?」
すぐ隣のコートで対戦相手にサーブを撃とうとした彩花だったのだが、まさかの突然のアクシデントを目撃してしまい、驚いてプレーを中断してしまう。
「審判!!ハヤト君の怪我が心配です!!タイムを要求します!!」
「分かった!!タイム!!タ~~~~~~~~イム!!」
「ハヤト君!!大丈夫!?」
審判にタイムを要求して自分の試合を中断して貰い、慌てて駆けつけた彩花が悲痛な表情で、よっこらせと上半身を起こした隼人の傍にしゃがみ込んで寄り添った。
フォルトとは、選手が反則行為を行ったと審判が判断した場合に下される宣言であり、この宣言があって初めて反則があったとみなされる。
そしてインターフェアとは、選手が故意に相手のプレーを妨害する行為を行ったと、審判に判断された場合に取られる反則だ。
「僕なら大丈夫だよ、有難う彩花ちゃん。」
穏やかな笑顔で彩花の手を取り、どうにか立ち上がった隼人。
彩花がパッと見た限りでは、どこも怪我をしていないようだ。取り敢えずは一安心だと、隼人に対してホッとした表情を見せた。
観客席からも突然のアクシデントに、ざわざわ、ざわざわと戸惑いの声が上がる。
だが彩花は怒りが収まらなかった。鬼のような形相で純也の事を睨み付けたのだった。
「君ぃっ!!今の、わざとやったよね!?今回はハヤト君は無事だったけど、下手をしたら大怪我に繋がるよ!?どうして君はそんな酷い事を平気で出来るの!?」
彩花の怒鳴り声が、会場全体に響き渡る。
いきなりの出来事に他の7コートの選手たちもびっくりしてしまい、同時進行していた7試合全てが一時中断する騒ぎになってしまったのだった。
隼人への罪悪感、そして彩花の凄まじい怒気の前に、完全に気圧されてしまった純也だったのだが。
「ち、違うんです藤崎先輩!!お、俺は佐野先生に言われて…!!」
「おいおいおいおいおい藤崎!!下手な言いがかりつけるのは止めーや!!北川がわざとやったっちゅー確固たる物的証拠でもあるんか!?あああっ!?」
逆に顧問の先生が怒りの形相でコートに乱入し、彩花に対して逆ギレして不満をぶつけたのである。
「そ、それは…!!だけど明らかに今の、わざとだよね!?」
「スマッシュん時にたまたま北川の手が滑っただけやろ!?事故や事故!!」
「そ…そんな…!!何言ってるのよ!?このデブは!!」
明らかな故意による悪質な反則だというのに事故だと言い張り、故意だと言う証拠はあるのかと、逆に物凄い形相で彩花に詰め寄るデブ。
そのデブの開き直った態度に、流石の彩花も戸惑いを隠せなかった。
確かにデブが言うように、純也が故意に隼人に対してラケットをぶつけようとしたという、確固たる物的証拠はどこにも無い。
だがこれは状況証拠でしかないのだが、純也は滑り止めのグローブをしていたというのに、スマッシュの時に手が滑ったなどと…そんな事が物理的に有り得るのだろうか。
「…何なの、それ…!?スイスだと、こんな酷い事をする人なんて誰もいなかったよ!?」
彩花が隼人と共に通っていたスイスでのバドミントンスクールでは、確かに練習は過酷だったが、それでも選手全員が伸び伸びと、充実した表情で競技に取り組んでいた。
それなのに今、彩花の目の前にいる純也の無様な姿は何なのか。
対戦相手の隼人に対して明らかに故意にラケットをぶつけようとして、その罪悪感からなのか完全に憔悴した表情になってしまっている。
さらにそれを、このデブが故意では無く事故だと言い張る有様だ。
これはスポーツなのに。競技なのに。部活動なのに。
日本には大会に勝つ為に、ここまで卑劣な行為を平然と選手に強要する指導者がいるとでもいうのか。
こんな事、スイスでは…それこそプロの試合でさえも絶対に有り得なかった事だ。
彩花は純也が危険な反則を犯した事よりも、むしろそっちの方が何よりも許せなかった。
「北川選手!!これは喧嘩ではなくスポーツだ!!スポーツマンシップに則り、正々堂々とフェアなプレーをするように!!」
「す、すいません、審判…!!」
流石にあまりにも度が過ぎるという事で、審判から純也に厳重注意が行われたのだが。
「それと顧問の佐野先生!!次また同じような反則行為を北川選手が行った場合、貴方の指示によって故意に行われた物だと判断し、即座に貴方を退場処分とするので、そのつもりで!!」
「な、何やとぉっ!?ふざけんなやぁっ!!」
審判からの情け容赦の無い通告に、デブが不満そうな態度を示したのだった。
こういった悪質な反則を選手に二度と犯させないように、指導者に対して釘を刺しておくのも、審判に与えられた大切な仕事の1つなのだ。
確かにデブが主張するように、純也がわざとやったという物的証拠は何も無い。だから今この場で2人を処罰するという事は出来ない。
ならば同じ反則を、純也に二度と犯させないようにさせるまでの話だ。
「それでは須藤選手が無事だったので、1-0から試合を再開します!!」
会場全体がざわつく最中、再開される隼人と純也のシングルスAブロック決勝戦。
どうしてこんな事になってしまったのかと、隼人は目の前の憔悴し切った純也に戸惑いを隠せずにいたのだった。
だが今は、そんな事を気にしていられる場合ではない。
そんな事を気にするのは、試合が終わってからにするべきだ。
何故なら隼人は、平野中学校バドミントン部の皆から託されたからだ。
決勝戦に勝利し、県予選への出場を決める事を。
即座に気持ちを切り替えた隼人は彩花に寄り添われながら、真剣な表情で真っすぐに純也を見据えたのだった。
「…けっ、まあええわ。あんな事があったんや。これで須藤もこの試合、もうまともにプレーなんか出来へんやろ。」
だがあんな事があったというのに、このデブは反省するどころか、逆に純也の勝利を確信したと言わんばかりの、醜悪な笑みを浮かべていた。
何故ならプロ野球や大リーグにおいても、今まで打率3割を超えていた絶好調の打者が、試合中に激痛を伴う程の死球を受けた途端に、ボールへの恐怖からすっかり腰が引けてしまって打撃不振に陥ってしまったというのは、よく聞く話だからだ。
それどころか完全にイップスに陥ってしまい、戦力外通告を受けて現役引退を余儀なくされてしまった選手さえもいる始末だ。
それ程までに恐怖というのは、プレーに大きな影響を及ぼしてしまう物なのである。
今回の隼人にしても、突然試合中に相手選手のラケットが顔面に飛んでくるなどという、理不尽かつイレギュラーな事態が起きたのだ。
たまたま今回は運良く無傷で済んだようだが、普通の選手ならラケットやシャトルへの恐怖が身体に刷り込まれてしまい、プレーに精彩を欠いてしまっても不思議ではないのだ。
それこそ最悪の場合、イップスを発症してしまっても、おかしくない程までに。
「…ふう。」
「ハヤト君、本当に大丈夫なの!?」
「問題無いよ。心配かけちゃって御免な。彩花ちゃん。」
ただしそれは…あくまでも『普通の選手なら』の話なのだが…。
「藤崎選手。もういいかな?須藤選手が無事だったのだから、そろそろ君もこっちのコートに戻って、試合を再開しなさい。」
「あ、はい!!分かりました!!…それじゃあハヤト君、また後でね。」
「うん。彩花ちゃんも頑張ってね。」
審判からの呼び出しを受けた彩花が、慌てて自分のコートへと戻っていく。
そしてサーブを撃とうとする純也を真っすぐに見据えながら、隼人はいつものルーティンを実行したのだった。
「…さあ…!!油断せずに行こう!!」
その瞬間、隼人の頭の中で、いつものようにカチリとスイッチが入った。
そして。
「ゲームセット!!ウォンバイ、平野中学校3年B組・須藤隼人!!ツーゲーム!!21-3!!21-2!!」
「な…何でやね~~~~~~~~ん!?」
イップスを発症するどころか、逆にファーストゲームの時よりも隼人のプレーが凄くなってしまっているではないか。
あまりの隼人の超プレー、そして「恐怖?何それwwwww」と言わんばかりの隼人の強靭な精神力に、デブは完全に腰を抜かしてしまっている。
そんな隼人の頼もしい姿を、同じく決勝戦の対戦相手を圧倒的な強さで叩きのめした彩花が、穏やかな笑顔で見つめていた。
そして。
「お互いに、礼!!」
「有難うございました。」
「ううっ…ぐすっ…!!」
審判に促されて、純也に握手を求めた隼人だったのだが。
純也は握手を返す事無く、大粒の涙を流しながら隼人に頭を下げたのだった。
「すいません、須藤先輩!!さっきのラケットの件なんですけど…!!俺、佐野先生に無理矢理命令されて…!!脅されて…!!」
「ちょ、北川ぁっ!!お前、何を馬鹿正直に須藤に話しとるんや!?黙ってればバレへんかったのによぉ!!」
まさかの純也からの自白に、完全に取り乱してしまったデブ。
しかも審判が見ている目の前で、先程の自らの反則が故意であると言う事を自白してしまったのだ。
それでも隼人は純也の事を、全く責めていないと言わんばかりの、穏やかな笑顔で見つめていたのだが。
「…ま、そんな事だろうとは思っていたよ。」
「本当にすいませんでした!!こんな酷い反則をした俺なんかに、バドミントンをやる資格なんて、もう…!!」
この純也の爆弾発言に、逆に被害者の隼人の方が申し訳無い気持ちになってしまった。
「いやいやいやいや!!結果的に僕は無傷だったから!!それに君は、あのデブに脅迫されてたんだろ!?だからバドミントンを辞めるなんて言わないでくれよ!!な!?」
「ううっ…ぐすっ…!!須藤先輩…ほ、本当に…俺…!!ううっ…!!」
「ほら、六花さんのお陰で、日本のバドミントンの競技人口が増えてるって言うしさ!!なのにこんな形で君に辞められたりでもしたら、僕だって後味が悪いんだよ!!分かるだろ!?」
「うわああああああ!!うわああああああああああああああああ!!」
純也は泣いた。隼人に寄り添われながら、大粒の涙を流しながら号泣したのだった。
その後、今回の一件が審判からJABS名古屋支部に報告され、デブが六花から1年間の資格停止処分を通告される事になるのだが、それはまた先の話である。
そして純也はデブに脅されていただけだったとして、逆に六花から慰めの言葉を貰って何の咎めも無し。引退発言も撤回したのである。良かった良かった。
かくして愛知県尾張地区の地区予選大会は、無事に全日程が終了。
平野中学校バドミントン部は、隼人と彩花がシングルス部門の尾張地区代表として、県予選進出を決めたのだった。
だがそれでも隼人は去年までと違い、この勝利を素直に喜べなかった。
そりゃそうだろう。決勝戦であんな悲しい事件が起きてしまったのだから。
スポーツとは、一体何なのか。
部活動とは、一体何なのか。
大会とは、一体何なのか。
試合に勝つというのは、一体どういう事なのか。
帰りのバスの中で窓の外の風景を見つめながら、隣の席に座る彩花に寄り添われながら、そんな事を考えてしまっていた隼人なのであった。
次回はいよいよ県予選です。
隼人と彩花が公式戦の舞台で、遂に激突します。




