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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
Aルート第3章:動乱の日本代表編
134/135

第134話-A:貴方はそんな事も分からないのですか

 動乱の日本代表編、完結です。

 かくして今回のデンマーク代表との国際親善試合は、日本の1勝4敗という惨敗に終わってしまった。

 それでも世界レベルの迫力ある試合を…特に『帝国』デンマーク代表のプレーを目の前で観戦出来たという事で、観客の多くがとても満足そうな表情で帰路についたのだった。

 だが今回の国際親善試合は転売ヤー共のせいで、色々な意味で振り回される結果になってしまったのである。


 まず今日の試合は日本のバドミントン史上初となる、皇族の麻子さまが直々にご観戦なされる天覧試合になるという事で、テレビのニュース番組でも大々的に特番が組まれる程の、全国的に大きな話題になった。

 だが皮肉にもそれが原因で多数の転売ヤー共に、今日の試合のチケットがプラチナチケットとして狙われる羽目になってしまったのである。

 今日の試合で用意した、予約開始数秒で即完売した2万枚ものチケットの内、およそ1万枚が転売ヤー共によって買い占められ、各種フリマアプリにおいて法外な金額で高額転売される事になってしまった。

 しかも最終的に落札されたのは5000枚程度であり、残り半分の5000枚が試合終了までに転売ヤー共が売り切る事が出来ず、本当にチケットを欲しがっている人たちの手に渡る事が無いまま、プラチナチケットどころか全く何の価値も無い紙クズと化してしまったのである。

 その5000枚ものチケットの分の空席が、今日の試合で目立つ事になってしまったのだ。


 しかも試合当日までに売り切れなかった5000枚ものチケットを何としてでも売り切ろうと、多数の転売ヤー共が一斉にスタジアムや駅周辺に集結し、数多くの迷惑行為を行った事も大きな問題となってしまった。


 近所迷惑も顧みずに、住宅街で大声で喚き散らした者。

 片っ端から住居にまで押しかけてチケットの押し売りを行い、それによって近隣住民とのトラブルを引き起こした者。

 赤信号を無視して通行中の車の前に突然立ちはだかってチケットの押し売りを行い、購入に難色を示すドライバーに対して執拗にチケットの購入を迫った結果、無用な交通渋滞を引き起こした者。

 中には転売ヤーに暴力を振るってチケットを強奪する者が現れるという、逆に転売ヤーが被害者となる事件さえも発生してしまった。


 そこまでしても尚、5000枚ものチケットが近隣住民や通行人に対して全く売れず、文字通りただの紙クズと化してしまったのだが。

 その5000枚ものチケットが、怒り狂った転売ヤー共によって路上に大量投棄されるという、本末転倒な事態も起きてしまったのである。


 今回の一件を問題視したJABSは、開幕が来年3月下旬に迫ったJBLのチケットの転売を防ぐ為に、スマホのアプリをチケットとして利用して貰うシステムの構築を進めていると発表。

 早ければ来年1月にもアプリの実証実験を行う予定で、JBLのオープン戦が開始される3月上旬までには、何とか間に合う目処が立ったとの事だ。

 とはいえ元々ロシアによるウクライナへの侵攻の長期化に伴う物価高の影響で、紙やインクの単価の高騰、それに伴う印刷物作成のコストが増大している事から、仮に今回の件が無かったとしても、将来的にはコスト削減の観点からチケットのペーパーレス化は進める事になっていた可能性が高いと、六花がJABSの公式サイトで語っているのだが。 


 そんな騒動の中でも今回の国際親善試合は、無事に全試合が滞りなく終了。

 隼人ら高校生4人組をスカウトしようと、亜弥乃が内香やチームメイトたちを引き連れて、日本代表の控室の扉をノックして物凄い勢いで開け放った瞬間。

 

 「た~のも~!!隼人君!!静香ちゃん!!博子ちゃん!!若菜ちゃん!!改めて君たち4人をヘリグライダーにスカウトに来たよ~~~~~~~!!」

 「何だお前たちの今日の無様な試合はぁっ!?」

 「御免なさい~~~~~~~~~~~~~~~~~~(泣)!!」


 日本代表の控室に、政府のお偉いさんの怒鳴り声が響き渡ったのである。

 亜弥乃たちの眼前に広がっていたのは、政府のお偉いさんが顔を真っ赤にして興奮しながら、試合を終えたばかりの隼人たちを怒鳴り散らす光景だった。


 「今日の試合は皇族の秋篠宮麻子さまがスタジアムに出向かれ、直々にご観戦なされる天覧試合だ!!だからこそ無様な試合をする事だけは絶対に許されないと!!何が何でもデンマークに『勝て』と!!試合前にお前たちに告げたはずだろうがぁっ!!」


 そう、政府のお偉いさんは、今日の試合で無様な惨敗を喫した隼人たちに対して、心の底から怒りをあらわわにしているのである。

 今日の5試合で見事に勝利を収めたのは、ダブルス2に出場した隼人と静香の2人だけ。

 残りの5人全員がデンマーク代表に敗北し、1勝4敗という無様な結果に終わってしまったのだから。

 それだけならば隼人たちが、たかが国際親善試合で負けた程度の事で、ここまで理不尽に怒鳴られる事など無かっただろうが。


 問題になったのは今日の試合が、麻子さまが直々にご観戦なされる天覧試合だという事なのだ。


 麻子さまが見ておられる目の前で、強豪デンマークと言えども無様な敗北だけは絶対に許されない、何が何でも『勝て』と。

 それを政府のお偉いさんは、試合前に隼人たちに対して怒鳴り散らしたにも関わらず、しかし蓋を開けてみれば1勝4敗という惨敗を喫してしまったのだ。

 一体何をやっているのかと、政府のお偉いさんは唖然としている隼人たちを、物凄い形相で理不尽に睨みつけていたのだった。


 「それなのにデンマークを相手に1勝4敗とは!!麻子さまに対して何たる無様な試合を見せてくれたのだ!!お前たちぁっ!?」


 右手で机を派手にバァン!!と叩いた政府のお偉いさんが、物凄い形相で隼人たちを睨みつける。

 そのあまりにも理不尽かつ高圧的な怒鳴り声にすっかり気圧されてしまったネコが、タチの身体に両腕でしがみつきながら大粒の涙を流してしまっていた。

 そんなネコの右肩を優しく抱き寄せながら、タチは必死にネコをなだめていたのだが。


 「無様とは一体どういう事なのですか!?大倉大臣!!」


 そこへボディーガードの女性たちを連れて突然乱入なされた麻子さまが、逆に物凄い剣幕で政府のお偉いさんを、お怒りの表情で怒鳴り散らしになられたのである。

 全くの予想外の人物の登場に、その場にいた全員が唖然とした表情になってしまっている。


 「ま、麻子さま!?一体どうしてこのような場所に!?」

 「日本代表の皆さんの事を激励しにやって来たのです!!ですがそんな事よりも!!貴方の先程の彼らに対する横暴な態度は、一体何なのですかぁっ!?」


 麻子さまの怒りの表情と威圧感の前に、政府のお偉いさんは完全に気圧されてしまっていた。


 「彼ら7人全員が強豪デンマークを相手に一歩も引かない、とても素晴らしい試合を見せて下さいました!!そんな彼らを称賛こそすべきなのに、どうして貴方は無様な試合などと暴言を吐いたりしたのですか!?」

 「そ、それは…!!し、しかしですよ麻子さま!!よりにもよって麻子さまが見ておられる目の前で、この者たちはデンマークを相手に惨敗を…!!」

 「だから何だと言うのですか!?結果など所詮は過程に過ぎません!!むしろ死力を尽くして全力で戦い抜いて下さった皆さんに対して、心からの賛美の言葉を送る事こそが、今の私たちがするべき事なのでは無いのですか!?」

 「いや、ですが…!!」

 「今、この場にいらっしゃる全員が、我々日本のバドミントン界にとって絶対に失ってはならない、とても大切な『宝』なのです!!貴方はそんな事も分からないのですかぁっ!?」


 皇族らしく威風堂々とした振る舞いで、政府のお偉いさんを怒鳴り散らしになられる麻子さま。

 そんな麻子さまに対して政府のお偉いさんは何も言い返す事が出来ず、ただただ平伏してしまっていたのだった。


 政府のお偉いさんには今日のデンマーク代表との国際親善試合における1勝4敗という結果が、ただの『敗北の印』だとしか見えていないのだ。

 彼が今日の試合を実際に目の前で観戦して得た物、感じた物、学んだ物とは、結局その程度の物でしか無かったのかと。

 それを麻子さまは政府のお偉いさんに対して、心の底から失望なされたのである。


 確かに今回のデンマークとの国際親善試合は、結果だけを見れば日本の1勝4敗という惨敗に終わってしまった。

 だがそれでも観客の誰もが隼人たちに対して、心からの笑顔で大声援を送ってくれたのだ。

 強豪デンマークを相手に一歩も引かず、最後まで立派に戦い抜いた隼人たちの全力のプレーに、観客たちの誰もが大いに感動させられたのである。

 それどころか高校生4人組は亜弥乃たちから、高校卒業後にデンマークに来ないかとスカウトまでされたのだ。

 それ程の素晴らしい試合を隼人たちが見せてくれたのだという、確固たる証だと言えるだろう。

 そんな隼人たちに対して、どうして無様な試合などと暴言を吐けてしまえるのか。


 「…大倉大臣。今回の貴方の皆さんに対する高圧的な振る舞いを、皆さんの尊厳を踏みにじる悪質な誹謗中傷行為とみなし、本日付けで貴方に7日間の自宅謹慎処分を言い渡します。」


 このような愚か者に大臣などという、国政をになう者として国民の上に立つ資格など無い。

 そんな愚か者に対して麻子さまは、とても厳しい表情で通告したのだった。


 「ちょ、ちょっと待って下さいよ!!麻子さまぁっ!!」

 「貴方の今後の処遇については後日追って伝えます。それまではしばらく自宅で頭を冷やして反省して下さい。いいですね?」

 「そ、そんなぁっ!!」


 OTLになってしまった政府のお偉いさんを無視なされた麻子さまが、今度は隼人たちに対して向き直る。


 「大倉大臣はあのような事を言いましたが、それでも今日の5試合のいずれもが、私の胸の中に深く刻み込まれた、とても素晴らしい試合でした。皇女として彼の無礼を詫びさせて頂きますね。本当にすみませんでした。」


 そしてとても申し訳無さそうな表情で、麻子さまは隼人たちに対して深々と頭をお下げになられたのだった。

 まさかの事態に、隼人たちは戸惑いを隠せない。


 「今回の件に関しての皆さんへの賠償は、また後日改めてさせて頂きますね。」

 「あ、いや、賠償だなんて、そんな大袈裟な…。」


 お顔をお上げになられた麻子さまに対して、逆に申し訳無さそうな表情になってしまった隼人。

 だが結局の所、今回のデンマークとの国際親善試合がこのような騒ぎを招いてしまったのは、他でもない麻子さまご自身が最大の元凶だと言っても決して過言では無いのだ。


 今日の試合のチケットが転売ヤー共にプラチナチケットとして狙われ、1万枚も買い占められて5000枚が高額転売され、残りの5000枚が売り切れずに紙くずになってしまい、それを阻止しようとした多数の転売ヤー共が現地で迷惑行為を行ったのも。

 代表辞退を宣言したはずの隼人と静香が、今日1日限りで日本代表に加わる羽目になってしまったのも。

 政府のお偉いさんが隼人たちに対して、高圧的な態度で怒鳴り散らしたのも。

 BBAが頭の中で思い描いていたオーダーを組む事が許されず、本来ならシングルス1で静香を亜弥乃とぶつけたかったのに、隼人と静香にダブルスを組ませる羽目になってしまったのも。


 それもこれも全て、麻子さまが直々に試合をご観戦なされる天覧試合になると、日本政府が大々的に公式発表してしまったからなのだ。

 麻子さまもそれをご理解しておられるからこそ、とても申し訳なさそうに隼人たちに対して謝罪をなされたのである。

 皇族である麻子さまが下手にご介入なされたせいで、無用な騒ぎを引き起こす羽目になってしまったのだ。

 麻子さまに今日の試合の観戦をお勧めになられたのは天皇皇后両陛下なのだが、実際にそれをご自身の意志で決断なされたのは、他でも無い麻子さまご本人なのだから。


 日本政府にしてみれば、世界を舞台に低迷が続く今の日本のバドミントンを何とか盛り上げようという想いから、今日の試合を天覧試合にしたつもりだったのだろうが。

 しかし何とも皮肉な話なのだが、蓋を開けてみれば御覧の有様だ。

 結果論になってしまうが、麻子さまが今日の試合をどうしても生でご観戦したいと仰られるのであれば、天覧試合などではなく国民たちには一切周知せずに、お忍びでご観戦なされるべきだったのである。


 スポーツって、一体何なんですか?


 バンテリンドームナゴヤでの県予選で優勝した隼人が、観客たちに対して熱弁した言葉を、麻子さまは今になって思い出されていた。

 本当にこの国にとって、スポーツとは一体何なのだろうか。

 今日のデンマーク代表との国際親善試合は、本来なら日本とデンマークによる純粋な国家間の交流の場としなければならなかったのに。

 それなのに麻子さまが下手にご介入なされた結果、隼人たちが政府のお偉いさんに不当な圧力をかけられたばかりか、転売ヤー共による金稼ぎの手段として今日の試合を利用されてしまったのだ。

 その残酷な現実に麻子さまは、大いに心を痛められておられたのだった。


 だが今日のデンマークとの国際親善試合による騒動は、これだけに終わらない。 

 ダブルス2に出場した隼人と静香は、『帝国』デンマークのトッププロであるスコットとローレンに快勝した。


 そう…。

 『快勝してしまった』のだ…。


 それが原因で隼人と静香が、さらなる身勝手な大人たちのエゴに振り回されてしまうという事を、この時の誰もが知るよしも無かったのだった…。 

 Aルートもいよいよクライマックスが迫ってきました。

 次回、急転直下。

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