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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
Aルート第3章:動乱の日本代表編
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第127話-A:本気で勝ちに行くよ

 決戦前夜。

 そしてデンマーク代表との国際親善試合が翌日に迫った、2024年10月25日の金曜日の夕方。

 またしても授業を早退した隼人と静香は、彩花と一緒に六花に車で送迎されて、名古屋金鯱もこもこスタジアムへとやって来ていた。

 明日の1日限りではあるが日本代表として、翌日のデンマーク代表との国際親善試合に備え、他のチームメイトたちと完全非公開で合同練習を行う事になっているのだ。


 名古屋金鯱もこもこスタジアム。

 先月完成したばかりの新築ピカピカの体育館であり、来年3月に開幕する日本初のバドミントンのプロリーグ、JBLに加盟しているプロチームの、名古屋ゴールデンドルフィンズの本拠地となる予定の体育館だ。

 名鉄神宮前駅とJR熱田駅のすぐ近くという立地条件の良さもあり、名古屋からの交通の便も良好だ。

 収容可能人数は2万人で、バドミントン以外にも様々なスポーツやイベントなどで使用される予定であり、12月には愛知県の高校のバスケットボールの、ウインターカップの県予選決勝で使われる事が既に決まっている。

 事前申請すれば一般の利用者も有料で借りる事が可能であり、既に数多くの団体から利用の申込みが殺到しているという状況だ。


 そのプレオープンマッチとして開催されるのが、明日のデンマーク代表との国際親善試合なのだ。


 隼人と静香が六花に促されて体育館に入ると、隼人の眼前に広がったのは巨大な電光掲示板が設置された、真新しいピカピカの広大な競技場。

 ここで隼人と静香は明日、デンマーク代表との国際親善試合に赴くのだ。

 完全非公開での練習という事もあって、館内は不気味な静けさに包まれていたのだが。


 「おう、よく来てくれたな、2人共。」


 そんな2人を穏やかな笑顔で出迎えたのは、迅たち三津菱マテリアル名古屋の3人の選手たちだ。


 「お久しぶりです。雷堂さん。」

 「久しぶりだな朝比奈。元気そうで何よりだ。」


 穏やかな笑顔で、がっしりと迅と握手を交わす静香。

 静香にとっては迅たちとは、インターハイ前日の練習試合の時以来となる再会だ。

 迅たちも、事前に六花から事情は聞かされている。

 明日の1日限りの加入とはいえ、それでも練習試合で自分を打ち負かした静香と、その静香と互角の実力だと評されている隼人が日本代表に加わってくれた事に、迅は心の底から頼もしさを感じていたのだが。


 「待っていたよ、須藤。朝比奈。歓迎するよ。」

 「んなっ…!?」

 

 聞き覚えのある人物の声に、思わず静香はぎょっとしてしまったのだった。


 「貴女は…馬場監督!?」


 そう、以前聖ルミナス女学園との練習試合に赴いた、三津菱マテリアル名古屋の監督のBBAだ。

 予想外の人物の姿に、静香は驚きを隠せない。

 BBAとはこれが初対面である隼人は、静香の驚き振りに「?」という表情になってしまっていたのだが。


 「デンマークとの試合の1日だけでいいから、代表監督になってくれないかと、そこの藤崎に頼まれてね。」

 「そ、そうだったのですか…。」

 「だけど流石にアタシもこの歳だ。デンマークに長期滞在するのはきついから、世界選手権大会までチームを率いるつもりは無いと、はっきりと藤崎に伝えたよ。」


 BBAの言葉に、穏やかな笑顔で頷いた六花。

 六花が言うには、BBAの後任の監督について既に何人かリストアップが済んでおり、現在条件面も含めて交渉を進めている最中だとの事らしいのだが。

 だがしかし隼人と静香だけではなく、まさか監督までもが1日限定だとは。

 デンマークとの国際親善試合の後の事までは知った事では無いと、そう言い出したのは他でも無い隼人ではあるのだが。

 このチームは今後一体どうなるのかと、何だか不安になってしまった隼人なのであった。

 

 「それで馬場監督。残り2人の選手はどうなっているのですか?」

 「ああ、さっき2人が新幹線で名古屋駅に着いたって、マネージャーからアタシのスマホに電話が入ったからね。もうそろそろマネージャーに車で送迎されて、こっちに着く頃だと思うんだが…。」


 BBAが静香に言いかけた、その時だ。


 「やあ。」


 さらに聞き覚えのある声に、またしても静香はぎょっとなってしまったのだった。

 マネージャーの女性が開けた扉から姿を現したのは、静香にとって桜花中学校にいた頃からの因縁がある、忘れるはずもない2人の少女。


 「立川さん…!!それに猫山さん!?」


 そう、先日のインターハイにおいて見事に優勝に輝いた、ネコとタチの百合カップルのペアだ。

 彼女たちもまた隼人や静香と同様に、六花からの要請でデンマーク代表との国際親善試合に出場する為に、はるばる東京から名古屋までやってきたのだ。

 とても穏やかな笑顔で、ネコとタチは静香を見据えている。


 「政府のお偉いさんが最強メンバーを結成しろって、ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ騒いでいるらしいからね。だから藤崎と話し合って、アタシの判断で現時点での最強メンバーを結成させて貰ったんだよ。」


 それだけ静香に告げて、ゲラゲラと笑ったBBA。

 他の有力選手たちが大量離脱してしまった今となっては、確かにこの7人なら、現時点における日本最強メンバーと言えるかもしれない。


 日本最強のクラブチームの三津菱マテリアル名古屋、そのトップ3に君臨する実力者である迅たち3人。

 先日のインターハイで見事に優勝した、『高校生最強のダブルス』のネコとタチ。

 さらに『神童』隼人と『天才』静香。


 実績、実力共に全く申し分無い7人であり、確かにこれならば日本政府からもグダグダグダグダ文句を言われる事は無いだろう。


 「まあ諸々の経費はJABS名古屋支部が全額出してくれてるし、タダで名古屋まで観光に行けると思えばね。試合が終わったら博子と2人で、色々とゆっくり見て回ってみる事にするよ。」

 

 とても穏やかな笑顔で、静香にそう告げたタチ。

 タチが言うには、名古屋には日曜日の朝まで滞在予定で、滞在中は聖ルミナス女学園の寮の空き部屋を借りる事になっているのだそうで、食事もそこで用意して貰う事になっているらしい。


 「猫山。立川。一応聞いておくが、アンタらは来年1月にデンマークで開催予定の世界選手権大会にも、本格的に日本代表として出場する意志はあるのかい?」


 不意にBBAは、そんな事をネコとタチに質問したのだが。


 「ありませんよ。魅力的な話ではありますが、流石に単位に響きますからね。」


 それをタチは穏やかな笑顔で首を横に振り、あっさりと否定したのだった。

 六花からネコとタチの派遣を要請された際、聖アストライア女学園もまた、世界選手権大会を理由に単位の特別扱いは一切しない事を、ネコとタチに通告したのだ。

 将来的にプロになるのかどうかは、ネコもタチもまだ決めてはいないのだが、それでも世界を舞台に日本代表としてプレー出来るというのは、バドミントンプレイヤーとして確かに魅力的な話ではある。

 だがそれでもネコもタチも留年のリスクを背負ってまで、世界選手権大会に出場するつもりなど毛頭無いのだ。

 これはネコとタチ、担任の先生、七三分け頭の4人で、自分たちの将来の事も含めて、じっくりと腰を据えて話し合って決めた事だ。


 「そうかい、残念だけど仕方が無いね。まあ、かく言うアタシも1日限りの代表監督だ。アンタらに対して偉そうな事を言える立場じゃあ無いんだけどね。」


 タチの言葉に、穏やかな笑顔で頷くBBA。

 そんな8人の和気あいあいとした光景に、六花は思わず安堵の表情を見せたのだった。


 本来ならば世界選手権大会に出場する為には、サポートメンバーも含めて14人の選手を集めなければならないのだが、現時点で集まった選手は7人だけだ。

 しかもその7人中4人、そして監督のBBAでさえも、あくまでも明日のデンマークとの国際親善試合限定の、1日限りの日本代表なのだ。

 だからこそデンマークとの国際親善試合が終わった後は、世界選手権大会に備えて残り11人の選手と後任の監督を、JABSは大慌てで選定しなければならないのだが。


 それでも試合が成立する人数ギリギリの7人の選手を集結させる事が出来たので、デンマークとの国際親善試合だけは、何とかギリギリで開催出来る目処が立った。

 これならデンマーク政府に対して、多額の違約金を支払う必要は無くなりそうだ。

 それを六花は、心の底から安堵しているのである。

 世界選手権大会に関しては最悪の場合、選手不足を理由に辞退すれば済むだけの話なのだから。


 「朝比奈さん。明日のデンマーク代表との国際親善試合の1日限りだけど、まさか君と同じチームでプレー出来る日が来るなんて、私も博子も夢にも思わなかったよ。」


 穏やかな笑顔で、ネコと共に静香に握手を求めるタチ。


 「お互い、ベストを尽くして頑張ろう。」

 「はい。頼りにしていますよ立川さん。それに猫山さんも。」


 静香もまた、ネコとタチに対してがっしりと握手を返す。

 タチも言っていたが1日限りとはいえ、まさかこの2人と同じチームでプレーする時が来ようとは。

 同じく1日限定で隼人と同じチームでプレーする事になった件もそうだが、本当に今の世の中、何があるか分かった物では無いと…静香は何だか感慨深い物を感じていたのだった。


 「馬場監督。そろそろ…。」

 「そうだね。時間は限られているからね。アンタたち、早速練習に入らせて貰うが、その前にアタシからアンタらに対して1つだけ言っておく事がある。」


 六花に促されたBBAが大きく頷き、隼人たちに呼びかけた。

 BBAが言うように、与えられた練習時間は限られている。

 静香たちが再会を喜び合う気持ちはBBAも理解出来るが、だからと言っていつまでものんびりしてはいられないのだ。 


 「今回の対戦相手のデンマークは世界選手権大会を2連覇した、まさに名実共にバドミントンにおける『帝国』とも言うべきチームだ。それでもアタシは『胸を借りるつもりで行け』とか、そんな弱気な事をアンタたちに言うつもりは無いよ。」


 決意に満ちた表情で、BBAは隼人たちに宣言したのだった。


 「明日のデンマーク代表との国際親善試合…本気で勝ちに行くよ?いいね?」

 「「「「「「「はい!!」」」」」」」


 元気よく返事をした隼人たちに、満足そうな表情で大きく頷いたBBA。 

 そう、相手が強豪デンマークだからと言って、ここで勝利を諦めてしまうような軟弱なチームでは、最初から世界選手権大会で結果を残す事など出来やしないだろう。

 とは言え今この場に集まっている7人中4人が、そして監督である自分さえも、世界選手権大会に出場する意志が無いという有様なのだが。

 それでも迅たち三津菱マテリアル名古屋の3人に関しては、勤務先の指示で世界選手権大会に出場する事が決まっているのだ。

 その迅たちがデンマークを相手に本気で勝ちに行くという『気持ち』を見せてくれた事に、BBAは大いに満足したのである。


 「馬場監督。練習前に1つだけ、伝えておきたい事があるんですけど。」

 「何だい須藤?言ってみな。」

 「既にネットで大騒ぎになってますけど、僕は先日亜弥乃さんと直接会って、喫茶店で話をする機会があったんですけどね。その時に亜弥乃さんがシングルス1で、僕か朝比奈さんのどちらかと戦いたいって言ってました。」

 「そうかい、分かったよ。」


 隼人の言葉に、大きく頷いたBBA。

 取り敢えず事前に亜弥乃と交わした約束通り、BBAに対して伝言は確かに伝えた。

 だが隼人に出来るのは本当にここまでだ。あくまでもオーダーを決めるのは隼人ではなく、監督のBBAなのだから。

 亜弥乃の望み通り、シングルス1で自分か静香のどちらかが亜弥乃と戦う事になるのか。それとも別の選手が割り振られる事になるのか。

 それはまさに、監督であるBBAの裁量次第なのだが。


 「それに関しては今日のアンタらの練習での動きを、直接見させて貰った上で判断させて貰う。それでいいね?須藤。」

 「あ、はい。それは勿論。」

 「よし、決まりだね。じゃあ早速、準備運動と柔軟体操から始めるよ。」


 デンマーク代表監督を務める内香からは、事前に明日の試合のスタメンを大々的に通達されている。

 明らかに日本代表に対する舐めプなのだが、それでも事前にスタメンが誰なのかが分かっているのであれば、BBAはそれを遠慮せずに有効活用させて貰うまでの話だ。

 現時点で集まった7人の選手を使って、強豪デンマークを相手にどう戦うのか。

 その為にもBBAが隼人に告げたように、今日の合同練習において7人の選手たちの動きを、しっかりと見極めないといけない。


 その決意を胸に秘めたBBAは六花と彩花に付き添われながら、隼人たちの練習をじっくりと見つめていたのだった。

 いよいよデンマークとの国際親善試合が開幕です。

 その注目の対戦カードは…。

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