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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
Aルート第3章:動乱の日本代表編
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第121話-A:そんなの僕の知った事じゃないですよ

 緊急記者会見で、隼人と静香が…。

 日本代表メンバー14人の発表直後、当たり前の話だが稲北高校と聖ルミナス女学園には、隼人と静香の代表入りに関しての、報道機関からの問い合わせの電話が殺到する騒ぎになってしまった。

 これにより部活動の最中に、校長や学園長から代表入りの話を聞かされた隼人と静香は、それぞれの監督や校長、学園長と同伴の上で、練習が終わった直後の18時に体育館にて、個別に緊急記者会見を開く羽目になってしまったのである。


 まずは稲北高校では隼人が、美奈子と校長に同伴して貰った上で、多数の記者たちが一斉にカメラのフラッシュを浴びせる最中、それに全く怯むこと無く椅子に座り、背筋を伸ばして威風堂々と記者たちを見据える。

 そんな隼人の事を物陰から、心配そうな表情で見つめる駆ら部員たち。

 そして何の迷いも無い決意に満ちた表情で、隼人は記者たちに対してはっきりと宣言したのだった。


 「僕は代表入りを辞退します。」


 隼人の言葉は記者たちにとって完全に想定内だったようで、記者たちの誰もが全く動揺する素振りを見せなかった。

 そりゃあそうだろう。そもそも隼人はバドミントンの引退を宣言しており、今後試合には一切出ないと公言しているのだから。

 それなのにツルピカ頭は、隼人を日本代表として強行選抜したのだ。

 これでは隼人が代表入りを辞退すると宣言するのは、至極当然の話なのだろうが。


 「君は日本代表に選ばれた事を光栄だとは思わないのかね!?君と違って日本代表に選ばれたくても、選外にされてしまう選手たちが数多く存在するんだぞ!?」


 それでも記者たちの隼人への質疑応答の時間になった途端、初老の男性記者が隼人の事を、鬼のような形相で怒鳴り散らしたのである。

 隼人程の実力と才能を持つ、しかも神衣にまで目覚めている選手が、簡単に引退などと。

 しかも初老の男性記者が言うように、代表に選ばれたくても選ばれなかった選手たちが、数多く存在するというのにだ。

 そんな自分勝手な事が簡単に許されると思っているのかと、そう言わんばかりの怒りの形相で。


 「それなのに君が代表に選抜されながら、怪我や病気でも無いのに簡単に辞退してしまうというのはな!!そういう涙を飲んだ選手たちへの最大の冒涜ぼうとくであると、そう私は思うのだがね!!その辺の事はどう思っとるんだ!?」


 だがそれでも隼人は自身への理不尽な怒鳴り声にも全く怯む事無く、初老の男性記者を真っ直ぐに見据えながら、はっきりと断言したのだった。


 「そんなの僕の知った事じゃないですよ。」

 「んなっ…!?」


 何の迷いも無い力強い瞳で、あっさりと言い切ってしまった隼人。

 そんな隼人の態度に初老の男性記者は、興奮して顔を赤くしながら物凄い形相になってしまったのだが。


 「だったらその代表になりたい人たちを選抜すれば済む話なんじゃないですかね?僕はもう引退しているんですよ?それなのに代表に選ばれても、正直言って迷惑でしかないのですが。」


 隼人の言い分は、ある意味では至極当然の事だ。

 既に引退を表明しているというのに。しかもその事情さえも、あの時の記者会見でちゃんと説明しているというのに。

 それなのにツルピカ頭は、そんな事情など知った事ではないと言わんばかりに、隼人の事を日本代表として強行選抜したのだ。

 こんなの隼人にしてみれば、迷惑以外の何物でも無いだろう。


 この初老の男性記者は隼人の事を厳しく責め立てているが、彼もまた口では偉そうな事を言いながらも、隼人の気持ちを何も察してくれてはいないのである。

 何が隼人に引退という決断をさせてしまったのか…その隼人の悲しみと失望を。

 そんなジジイが今更ぎゃあぎゃあ騒いだ所で、隼人の胸には何も響かなくて当然だ。


 「今回の代表選抜にあたって、先日開業したばかりの名古屋金鯱なごやきんしゃちもこもこスタジアムのプレオープンマッチとして、デンマーク代表を招いての国際親善試合が予定されている事は、須藤君も知っているよね?」


 さらに質疑応答が続き、中年の男性記者が隼人に対して、こんな質問をしたのだが。


 「そうですね。それについてはネットのニュースで知りました。」

 「その試合は皇族の秋篠宮麻子さまが直々に試合を観戦なされる、日本のバドミントンにおいて史上初となる天覧試合となる予定となっているんだけど、その名誉ある試合にも出ないと言うのかな?」

 「出ませんよ。皇族だか何だか知りませんが、それこそ僕の知った事じゃないです。」


 隼人の言葉に、さらに記者たちは一斉にざわついてしまう。

 ある意味では麻子さまへの暴言とも取れる発言に、隼人に対して怒鳴り散らす記者たちまで出る始末だ。

 バドミントンでは史上初となる天覧試合。確かにそれに出場し麻子さまの目に留まるというのは、日本人にとって至極栄誉な事なのかもしれない。

 だがそれでも隼人が引退を撤回する要因には、決して成り得ないのだ。

 未だに暴力報道が絶えない今の日本のスポーツの愚かさや、彩花と六花をあそこまで理不尽に苦しめた身勝手な大人たちの醜態を、あれだけ目の当たりにさせられたのだから。


 「皆さん!!隼人君は今後試合には一切出ないと言っているんです!!それなのに隼人君に対して引退撤回を強要するなど、それこそ筋違いなのではないですか!?」


 もう見ていられなくなった美奈子が慌てて立ち上がり、隼人の事を悲しみの表情で庇ったのだが。


 「私は須藤君に聞いているのです!!須藤監督は黙ってて頂けませんかね!?」


 それを中年の男性記者が物凄い形相で、美奈子に対して怒鳴り散らしたのだった。


 「なあ、須藤君。引退するだなんて馬鹿な事を言うな。栄誉ある代表選抜なんだぞ。丁度いい機会だ。これを気に引退を撤回したらどうなんだね?」


 今この場にいる記者たちは、どうあっても隼人の引退を撤回させたいようだ。

 神衣に覚醒し、黒衣に呑まれた彩花さえを完全に圧倒する程の実力を見せつけ、まだ16歳と将来性もある。

 そんな彼が静香と共に、高校生としては史上初となる日本代表に選抜されたのだ。

 しかも10月末に開催が予定されているデンマーク代表との国際親善試合は、バドミントンでは史上初となる天覧試合となるのだから。

 記者たちが…いいや、日本中の人々が隼人の引退撤回を願うのは、至極当然なのかもしれないが。

 

 そんな騒ぎの中で同時進行している、聖ルミナス女学園の体育館での記者会見では。


 「辞退します。」


 監督のジジイと学園長のオバサンに同伴して貰った静香もまた、日本代表への選抜を辞退する事を、記者たちに対して公言した。

 だが隼人とは逆に静香の発言は、記者たちにとって完全に想定外だったようで、記者たちの誰もが戸惑いを隠せずにいるようだ。

 何の迷いも無く代表入りの辞退を告げた静香に、記者たちが一斉にカメラのフラッシュを浴びせる。


 隼人と違って引退するつもりなど微塵も無く、それどころか真剣にプロを目指している事を公言している静香が、何故代表入りの辞退という決断をしたのか。

 その理由を静香は記者たちに対して、何の迷いも無い力強い瞳で、はっきりと説明したのだった。

 辞退の理由は幾つかあるが、最も大きな要因となっているのが、静香がツルピカ頭に対して強い不信感を抱いているという事だ。

 今回の一件で、静香がツルピカ頭を気に入らないと思っている点が3つある。


 まず1つ目が、三津菱マテリアル名古屋との練習試合における自分と迅の試合の結果を、オバサンの意向により完全非公開にしていたにも関わらず、ツルピカ頭が全く悪びれもせずに大々的に公表してしまった事だ。

 しかも自分と迅の試合結果だけならまだしも、ツルピカ頭が記者会見が終わった直後に


 『聖ルミナス女学園が三津菱マテリアル名古屋を相手に、4つの負け越しという大健闘を見せた。これは凄い事だよ。高校生が社会人ナンバーワンチームを相手に互角に渡り合ったんだからね。』

 『でも俺は思うんだけど、何で完全非公開にする必要があるのかな?』


 などといった内容の書き込みをSNSで不用意に行ったせいで大騒ぎになってしまい、その試合結果に納得が行かなかった学園のOBたちが、先程一斉に鬼のような形相で体育館に殺到し、練習中の部員たちを集めて物凄い剣幕で怒鳴り散らす騒ぎがあったのだ。


 2つ目が、自身の神衣覚醒さえも、記者会見という公の場において堂々とバラしてしまった事だ。


 あの記者会見以降、ネット上は勿論、学園内でも生徒職員問わずに大騒ぎになってしまっており、今の静香は学園中の注目を集めまくってしまっている始末だ。

 こういう騒ぎになってしまう事が分かり切っていたからこそ、静香はそれが嫌で自身の神衣覚醒を誰にも…それこそ様子だけでなく、六花や隼人にさえも明かしていなかったというのに。


 そして3つ目が、既に引退を表明しているにも関わらず、隼人の事を日本代表として強行選抜した事だ。

 一体隼人がどうして引退という決断をしたのか。それをツルピカ頭は理解出来ていない…いいや、理解しようともしていないのだ。

 あの記者会見を見たのであれば、今の隼人が抱えている苦しみや失望を、嫌でも理解出来るはずだろうに。

 そんな物は知った事では無いと言わんばかりに、ツルピカ頭は隼人に引退を撤回しろと迫っているのである。


 いいや、監督がツルピカ頭でなくても…それこそ静香が心から敬愛する美奈子や六花が監督になったとしても、恐らく静香は代表入りを辞退していただろう。

 その理由の1つが、先程記者会見の直前にオバサンから通告された、聖ルミナス女学園での単位の扱いについてだ。


 「学園長に質問です。今回、仮に朝比奈選手が代表入りした場合、彼女の単位取得に多大な影響が出ると思われますが、その件に関してはどう対応するおつもりなのでしょうか?」


 この女性記者からの至極当然の質問に対し、オバサンは稲北高校の校長と全く同じ事を、記者たちに対して通告したのだった。


 「私は朝比奈さんの代表入りを拒むつもりはありません。ただし代表入りしたからといって、朝比奈さんの単位取得について優遇措置をするつもりは微塵もありません。」


 記者たちがざわめきながら、一斉にオバサンにカメラのフラッシュを浴びせる。

 その無数のフラッシュに決して怯む事無く、オバサンは何の迷いも無い力強い瞳で、真っすぐに記者たちを見据えていた。


 「それはつまり、代表での活動を理由に取得出来なかった分の、朝比奈選手の単位については、その分の補習を受けて自分で補填しろという事なのでしょうか!?」

 「はい。その通りです。」

 「鶴田監督はその件に関して、朝比奈選手の進級に影響が出ないように配慮しろと、そう仰っておりますが!?」

 「それは鶴田監督が勝手に言っている事でしょう。法的な強制力など何もありませんし、だとしたら私には従う義理も義務もありませんよ。」


 大騒ぎする記者たちに対して、オバサンは自らの考えを記者たちに説明したのだった。

 仮に静香が代表入りして、代表への活動にフルに参加した結果、静香が単位不足に陥り2年生に進級出来なくなってしまったと仮定しよう。

 それで日本代表に選ばれたからという理由で、ツルピカ頭の要請通りに静香を特例として2年生に進級させてしまえば、聖ルミナス女学園は一体全体どうなってしまうのか。


 朝比奈さんが認められるんだったら、私たちも認めてくれますよね?


 こんな事を言い出す生徒たちが、殺到する騒ぎになってしまいかねないのだ。

 最悪の場合、静香がいじめの被害に遭ってしまう可能性さえも…。


 オバサンとて静香に対して、決して意地悪でこんな事を言っているのではない。

 学園長という学園の最高責任者としての立場上、例えどのような事情があったとしても、生徒である静香の事を絶対に特別扱いする訳にはいかないのだ。

 その理由はただ1つ。静香の事を守る為だ。

 静香もその事を理解しているからこそ、特別扱いは一切しないと告げられても、オバサンの事を全く責めなかったのである。

 

 「朝比奈!!お前、日本代表に入れ!!デンマークに行け!!」


 だがそんな静香の事を、隣の席に座る監督のジジイが、物凄い形相で怒鳴り散らしたのだった。


 「日の丸を背負うっていうのが、どれほど光栄な事か!!それを辞退するとは何を考えとるだ!?単位なら後で幾らでも補習を受ければ済む話やろが!!」

 「嫌ですよ。何故そこまでしてまで代表入りしないといけないのですか?」


 そんなジジイに対して、露骨に嫌そうな表情で反論する静香。

 その言い争う2人に対して、記者たちが一斉にカメラのフラッシュを浴びせた。


 分かっているとは思うが、読者の皆さんに一応忠告しておく。

 今こうしてバドミントンに夢中になっている静香ではあるが、決してバドミントンしか能の無いバドミントンマシーンという訳では無いのだ。

 静香とて休日はバドミントンから完全に離れて1日中のんびりしたり、仲のいいクラスメートや部員たちと一緒に遊びに行く事だってあるし、意外と思われるかもしれないが自宅や寮でテレビゲームに熱中する事さえもあるのだから。

 代表での活動のせいで膨大な量の補習を受けなければならないという事は、その貴重な羽を休める時間さえも奪われてしまう事を意味するのだ。

 そんな物、静香にとっては冗談ではない。


 「お前ぇっ!!舐めた事を言っとったらあかんぞぉっ!!」

 「うっ…!!」

 

 だがそんな静香の心情など知った事では無いと言わんばかりに、ジジイが興奮して顔を赤くしながら、静香の頬を思い切り平手打ちしたのだった。

 そのまさかの光景に、記者たちは途端に大騒ぎになってしまう。

 

 「朝比奈さん!!大丈夫!?」


 慌ててオバサンに介抱された静香を、ジジイが怒りの形相で睨みつけていたのだが。


 「佐藤監督!!朝比奈さんへの暴力行為により、貴方を今日限りでバドミントン部の監督を解任します!!」

 「な、何やとぉっ!?ふざけんなやぁっ!!何でこんな事で俺が解任なんかされなあかんねん!?」


 駆けつけてきた警備員たちに、ジジイは呆気なく取り押さえられてしまったのだった。

 納得が行かないといった怒りの形相で、ジジイは学園長の事を睨みつけていた。

 まるで静香を殴るという自らの行為が、正当な物であると言わんばかりに。


 「俺らがまだ学生だった頃はな!!教官が教え子を教育の一環で殴るなんてのは、当たり前の事だったんやぞ!?」


 ずるずると警備員たちに引きずられながら、ジジイは自らの正当性を主張し続ける。


 「ほんまに生きにくい世の中になったなぁ!!たかが朝比奈の頬を引っ叩いただけやろが!!何でこんな事で暴力だとか言われなあかんねん!?」


 最早静香の代表辞退という話題さえも完全にかすんでしまう程までに、まさかの特ダネに記者たちは一斉にジジイにカメラのフラッシュを浴びせたのだった。

 そりゃあそうだろう。自分たちの目の前で監督が部員に対して暴力を振るうという、前代未聞の燃料を投下してくれたのだから。

 しかも『王者』聖ルミナス女学園で起きた出来事なのだ。この特ダネが一体どれだけ記事の部数を伸ばす事に繋がるのか。


 「これは暴力やない!!教育や!!学園長はそんな事も分からへんのかぁっ!?」

 「朝比奈さん。後で警察に被害届を出しに行きましょう。私が車で送ってあげるわ。」

 「何が被害届や!?お前ら大袈裟なんや!!こんなんで俺が逮捕なんか、される訳ねえやろが!!」 


 一体全体、どうしてこんな事になってしまったのか。

 警備員たちに連行されてしまったジジイを完全に無視し、オバサンはジジイに殴られた静香を心配そうに見つめながら、苦虫を噛み締めたような表情になってしまったのだった…。

 次回、ツルピカ頭と邂逅する隼人ですが…。

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