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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
Aルート第2章:聖ルミナス女学園バドミントン部インターハイ編
117/135

第117話-A:私たちの未来の為に

 インターハイのダブルス部門の決勝、遂に決着です。

 「5-8!!」


 ネコのクリスタルウォールが、三つ編み先輩のスナイプショットを打ち砕く。

 七三分け頭がタチの懇願によりオルケスタを封印しても尚、セカンドゲームはネコとタチが依然としてペースを握っていた。

 三つ編み先輩とオカッパ頭ちゃんが必死に追撃するも、それを嘲笑うかのように突き放すネコとタチ。

 やはりファントムストライクが効いているようだ。これがあるせいで三つ編み先輩もオカッパ頭ちゃんも、どうしても打てるコースを限定されてしまうのだから。


 「12-15!!」


 そしてこのネコとタチの奮闘振りは、2人が七三分け頭のオルケスタが無くても戦えるという事を、決して七三分け頭の操り人形などではないという事を、周囲に思い知らせるのには充分過ぎる程だった。

 これは試合を観戦している大学や社会人、プロの各チームのスカウトたちにとって、絶大な好印象を与える事だろう。

 七三分け頭に頼らずとも、ネコもタチも間違いなく強いのだと。スカウトするに値する選手なのだと。


 「15-17!!」


 このままセカンドゲームもネコとタチが奪い、見事に優勝を決めるのだろうか。

 観客の誰もが、そんな事を考えていた矢先の事だ。


 「私は彩花ちゃんに誓ったんだ!!必ず勝利を届けるって!!」

 

 もうこの試合で何発目かというファントムストライクを、オカッパ頭ちゃんが決死の表情で迎撃する。


 「その技は!!もう見切ったあああああああああああああっ!!」

 「「んなっ…!?」」


 果たして繰り出されたネコのオーロラカーテンが、遂にファントムストライクを捉えたのだった。

 乾いた音を立てて、シャトルがネコとタチの背後に力無く落下する。


 「16-17!!」

 「よっしゃあああああああああああああああああああああっ!!」


 遂にファントムストライクを攻略し、派手にガッツポーツをして絶叫するオカッパ頭ちゃんに、観客席から惜しみない拍手と大声援が届けられた。

 そんなオカッパ頭ちゃんを、唖然とした表情で見据えるネコとタチ。

 まさかこの試合の最中に、しかもこんな短時間で、もうファントムストライクを攻略されてしまうとは。

 流石は『王者』聖ルミナス女学園のダブルスペア。簡単に勝たせてくれる相手では無い。


 「19-18!!」

 「やったぁっ!!とうとう2人が逆転したぁっ!!」


 そして三つ編み先輩が放ったスナイプショットが、タチの足元に突き刺さった。

 まさかの逆転劇に、聖ルミナス女学園の部員たちは大喜びする。

 どんな競技でも言える事なのだが、試合の中で『流れ』という物が必ずある。

 ファントムストライクを攻略した事で、ネコは試合の流れを見事に自分たちに引き戻したのである。

 そして。


 「ゲーム、愛知県代表、聖ルミナス女学園3年、三ツ矢亜美&1年、河田たまペア!!21-18!!チェンジコート!!」


 セカンドゲームを奪ったのは、三つ編み先輩とオカッパ頭ちゃん。

 インターハイ決勝のダブルス部門は、とうとうファイナルゲームにまでもつれこんだのである。

 互いに2分間のインターバルが与えられ、汗だくになりながらベンチに座る4人。

 そんな4人に観客席から、精一杯の声援が届けられる。 


 「三ツ矢さん、河田さん。ここまで来たら私が言う事は1つだけよ。」


 愛美に手渡されたスポーツドリンクを一気飲みする、三つ編み先輩とオカッパ頭ちゃんに対して、六花が穏やかな笑顔で伝えた言葉は。


 「泣いても笑っても、これで最後よ。悔いだけは残さないように、貴女たちだけに許された最高の舞台を、全力で楽しんでいらっしゃい。」

 「「はい!!」」


 そんな六花に対して三つ編み先輩とオカッパ頭ちゃんは、決意に満ちた表情で元気よく返事をしたのだった。

 その一方で、聖アストライア女学園のベンチでは。


 「ファントムストライクは河田に完全に攻略されたしまったようだな。最早まともに正面から打った所で通用しないだろう。こればかりは流石の私も想定外だった。」


 七三分け頭が真剣な表情で、ネコとタチにアドバイスを送っていた。

 タチの懇願でオルケスタを封印したとはいえ、それでも七三分け頭が2人の監督である事に変わりは無いのだから。


 「だがファントムストライクを破られたからといって、お前たちの勝利が消えた訳では無い。いつも私がお前たちに言っている事を思い出せ。」

 「バドミントンは将棋やチェスと同じ。常に盤面の状況を分析して、最善の一手を導き出し、対戦相手を詰ませろ…ですよね?」

 「その通りだ立川。どんな状況でも思考を止めるな。追い込まれても勝ち筋を見出す事を諦めるな。私の教えを受けた今のお前たちならば、それが出来るはずだ。いいな?」

 「「はい!!」」


 とても真剣な表情で、ネコとタチは七三分け頭に対して元気よく返事をする。

 試合の流れは再び三つ編み先輩とオカッパ頭ちゃんに引き戻されてしまったが、そんな中でも流れを引き戻す一手を打つのが、監督である七三分け頭の仕事なのだ。


 「お待たせ致しました。只今よりファイナルゲームを開始致します。」


 やがて2分間のインターバルが終わり、ウグイス嬢がファイナルゲーム開始のアナウンスを告げる。

 

 「行ってくるね。彩花ちゃん。」

 「……。」


 彩花を優しく抱き締めたオカッパ頭ちゃんが決意に満ちた表情で、三つ編み先輩と共にコートへと向かう。


 「行こう、若菜ちゃん。」

 「そうだね、博子。」

 「「私たちの未来の為に!!」」


 そしてネコとタチもまた、互いに手を繋ぎ合いながら…。


 「ああそれと、猫山。立川。1つだけ言い忘れていた。」


 コートに向かおうとしたのだが、そこへ七三分け頭が穏やかな笑顔で、こんな事を告げたのである。


 「お前たちの晴れ舞台だ。悔いだけは残すなよ?最強の対戦相手との試合を存分に楽しんで来い。」


 らしくない七三分け頭の言葉に、一瞬呆気に取られてしまったネコとタチだったのだが。


 「「…はい!!」」


 それでも力強い笑顔で、七三分け頭に対して頷いたのだった。 

 

 「ファイナルゲーム、ラブオール!!愛知県代表、聖ルミナス女学園3年、三ツ矢亜美、ツーサーブ!!」 


 かくして運命のファイナルゲームが、遂に始まった。

 この試合に勝った方が、インターハイ優勝という栄冠を手にする事が出来るのだ。

 それを掴むのは聖ルミナス女学園の、三つ編み先輩とオカッパ頭ちゃんなのか。 

 それとも聖アストライア女学園の、ネコとタチなのか。

 観客席から大声援が届けられる最中、4人の壮絶なラリーが繰り広げられる。


 「てええええええええええええええええええええい!!」


 そんな中でタチのランサーノワールが、オカッパ頭ちゃんに襲い掛かった。

 ファーストゲームの時と同じように、試合の流れを強引に引き戻すつもりなのだ。

 

 「させるかああああああああああああああああああっ!!」


 だがそれをオカッパ頭ちゃんが、遂にオーロラカーテンで返して見せたのだった。

 

 「ば、馬鹿な…!?」

 「12-13!!」


 自分の左側に情け容赦なく突き刺さったシャトルを、タチが驚愕の表情で見つめている。

 その様子を情け容赦なく見せつけられた、聖アストライア女学園のマネージャーの女性が、悲痛の表情をしていたのだった。


 「ランサーノワールが返された!?」

 「ファーストゲームの時よりも、明らかに威力が落ちているな。立川もそろそろ限界が近いようだ。」

 「そ、そんな…!!」


 マネージャの女性とは対称的に、冷静沈着に試合を見据える七三分け頭。

 元々ランサーノワールは、1試合に何発も打てるような代物では無い。

 静香の維綱以上の威力を誇るとはいえ、その代償としてタチの左腕に相当な負荷が掛かる技なのだから。

 六花の分析は、見事に的中していたのである。

 もしこのまま三つ編み先輩とオカッパ頭ちゃんに、持久戦に持ち込まれでもしたら…。


 「ここからが正念場だぞ、猫山、立川。ここまで来たらお前たち自身の力で、見事に栄光を掴み取って見せろ。」


 ランサーノワールを返された事で、再び試合の流れを失いかけていたネコとタチだったのだが。

 

 「まだだ!!まだ私は終わっていない!!」


 それでもタチは、まだ勝利を諦めてはいなかった。

 オカッパ頭ちゃんが打ち上げたシャトルに向かって、高々と飛翔する。


 「私がランサーノワールしか能の無い女だと思うなぁっ!!」


 かくして繰り出された、タチの左手のラケットから放たれた強烈な一撃は。


 「ドライブショット!?」

 「13-14!!」 

 

 タチが放った楓を彷彿とさせるドライブショットの前に、三つ編み先輩のラケットが空振り三振してしまう。

 とても悔しそうな表情で、三つ編み先輩はラインギリギリに落ちたシャトルを見つめていたのだった。

 

 タチは力也と同様の典型的なパワーヒッターなのだが、決してそれだけしか能の無い脳筋プレイヤーという訳では無いのだ。

 七三分け頭による指導の下、ランサーノワールを活かす為のプレーの数々を、徹底的に叩き込まれたのだから。

 威力が落ちているとはいえ、それでもランサーノワールはまだまだ健在だ。

 そのランサーノーワルという絶対的な手札をちらつかせ、三つ編み先輩とオカッパ頭ちゃんの脳裏に刷り込んでいるからこそ、こうしてランサーノワール以外の技が活きてくるのだ。


 「勝つ!!私たちは絶対に!!」

 「この!!いい加減しつこい!!」


 とても真剣な表情で睨み合い、壮絶な打ち合いを繰り広げる、タチと三つ編み先輩。

 そんな2人をネコとオカッパ頭ちゃんが、後方から懸命にサポートする。


 「15-17!!」


 互いに一歩も譲らない、両者互角の壮絶な死闘に、観客たちは大いに熱狂する。

 

 「17-19!!」


 どちらが勝ってもおかしくない、インターハイ決勝戦に相応しい、まさしく一進一退の死闘が。


 「19-20!!」


 今まさに、決着の時を迎えようとしていたのだった。

 ファイナルゲームは、とうとうネコとタチのマッチポイントを迎えていた。

 このままネコとタチがポイントを奪って、見事に優勝を決めるのか。

 それとも三つ編み先輩とオカッパ頭ちゃんが意地を見せて、タイブレークにまで持ち込むのか。

 必死の表情で声援を送る、両チームの選手たち。

 対称的に決して取り乱さずに毅然とした態度で試合を見守る、六花と七三分け頭。


 「「「「はぁっ、はぁっ、はぁっ…!!」」」」


 そんな中で互いに激しく息を切らしながら、壮絶なラリーの応酬を繰り広げる4人。

 そんな4人の姿をマネージャーの女性が、祈るように両手を組んで目に大粒の涙を浮かべながら見つめていたのだった。

 もういっその事、この4人が同時優勝でいいのではないかと。

 思わずそんな事を考えてしまったマネージャーの女性だったのだが、それでもバドミントンにおいてはそんな事は許されない。


 何故ならバドミントンにおいて、引き分けは存在しないのだから。

 どちらかが絶対に勝者となり、どちらかが絶対に敗者となってしまうのだから。


 「…しまった!!」


 ネコのスマッシュを辛うじて返した三つ編み先輩だったのだが、あまりの威力と全身に襲い掛かる疲労からなのか、技の精度が落ちてしまっていた。

 タチの頭上の、まさにスマッシュを打ってくれと言わんばかりの、中途半端な位置に返してしまったのだ。


 「これだ!!この一撃で決める!!」


 それを見逃さず、激しく息を切らしながらも、高々と上がったシャトルに向かって飛翔したタチが、左腕のラケットに漆黒の闘気を纏わせる。


 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 「まだランサーノーワルを打ってくるの!?」


 タチの左腕と同様に、オカッパ頭ちゃんの右腕も限界が近い。

 ランサーノワールをオーロラカーテンで何発も何発も な ん ぱ つ も 受け続けた影響で、オカッパ頭ちゃんの右腕に相当な負荷が掛かってしまっているのだから。

 だがそれでも、必ず止める。

 決死の表情で、オーロラカーテンの構えを見せるオカッパ頭ちゃん。

 今の威力が落ちたランサーノワールなら絶対に返せるという確信が、今のオカッパ頭ちゃんにはあった。


 そしてタチもまたランサーノワールの構えを見せながらも、今の威力が落ちてしまったランサーノワールでは、このまま正面から打った所でオカッパ頭ちゃんに確実に止められる事を、即座に感付いてしまっていた。

 ならばどうする。ロブか、ドロップか、ドライブショットか。それとも通常のスマッシュか。

 だがそこへタチの視界に入ったのは、タチの心理を理解して即座にオカッパ頭ちゃんのフォローに回った、三つ編み先輩の姿。


 「…くそっ!!」


 駄目だ、得点を奪えるイメージが思い浮かばない。

 タチが空中でスマッシュの体勢を見せながら歯軋りした、その時だ。 

 

 「若菜ちゃああああああああああああああああん!!」


 そこへ必死の表情で、ネコが背後からタチに向かって突撃してきた。

 それだけでタチは恋人同士らしく、ネコの心理を即座に理解する。 

 左腕のラケットに漆黒の闘気を纏わせながら、タチは左手のラケットをわざと空振り三振。


 「んなっ…!?」

 「この一撃で決める!!」


 それと同時にシャトルに向かって飛翔したネコが、右手のラケットで強烈なスマッシュをオカッパ頭ちゃんにお見舞いしたのだった。

 ファントムストライク。忘れた頃にやってきた2人の合体技。

 ランサーノワールを警戒するあまり、完全に虚を突かれた三つ編み先輩もオカッパ頭ちゃんも、放たれたスマッシュに反応すら出来なかった。


 そう…。

 タチがランサーノワールという強力な手札をちらつかせ、三つ編み先輩とオカッパ頭ちゃんの脳裏に刷り込んできたからこそ、こうして『他の技が活きてくる』のだ。


 「これでぇっ!!終わりだああああああああああああああああああっ!!」


 かくしてネコの想いが込められた強烈な一撃が…無情にもオカッパ頭ちゃんの足元に突き刺さった。


 「ゲームセット!!ウォンバイ、東京都代表、聖アストライア女学園1年、猫山博子&1年、立川若菜ペア!!スリーゲーム!!17-21!!21-18!!19-21!!」

 「よっしゃああああああああああああああああ!!」

 「やったね!!若菜ちゃん!!」


 感極まって天高く絶叫するタチを、ネコが目から大粒の涙を流しながら抱き締める。

 その2人の歓喜の姿を、敗北した三つ編み先輩とオカッパ頭ちゃんが、呆然とした表情で見つめていたのだった。

 次回、聖ルミナス女学園バドミントン部インターハイ編、完結です。

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