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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
Aルート第2章:聖ルミナス女学園バドミントン部インターハイ編
114/135

第114話-A:うちは別に構へんどすえ?

 今回の話は翻訳サイトで、京都弁に翻訳しながら執筆しました。

 その後もインターハイは特に何のトラブルも無く順調に進み、ダブルスの部門は聖ルミナス女学園の三つ編み先輩とオカッパ頭ちゃん、そして聖アストライア女学園のネコとタチが、いずれも対戦相手が可哀想になってしまう程の圧倒的な強さを見せつけて、見事に準決勝まで勝ち進んだ。

 そして当初の日程通りに8月9日の金曜日の午前中に、シングルスの全試合が無事に滞りなく終了。

 シングルスの部門は1回戦で楓を破った伊万里が、その後の試合でも圧倒的な強さを見せつけ、決勝戦も壮絶な死闘の末に勝利して見事に優勝した。

 日本学生スポーツ協会のダンディな男から、トロフィーと賞状と金メダルを受け取った伊万里が壇上に上がり、観客席からの大声援を受けながら、今まさに優勝インタビューを受けようとしていたのだが。


 「観客席の皆様、大変長らくお待たせ致しました。只今よりインターハイのバドミントンの部、シングルス部門を見事に制した、京都府代表、皆月女子高校1年、水瀬伊万里選手への優勝インタビューを行います。」


 その優勝インタビューにおいて…またしても大騒動が起きてしまうのである。


 「まずは水瀬選手。優勝おめでとうございます。」

 「どうも、おおきに。」

 「まさに圧倒的…いいえ、暴虐的な強さを見せつけての優勝でした。今の心境を率直に応えて頂けますか?」


 穏やかな笑顔を見せる司会の男性からマイクを向けられながら、伊万里は一瞬考え込むような仕草を見せたのだが。


 「…正直、うちは今回の優勝を素直に喜べまへんどす。」

 

 呆れたような表情で溜め息をついた後、伊万里の口から飛び出した全く予想もしなかった言葉に、観客席が一斉にざわついてしまったのだった。

 インターハイを圧倒的な強さで優勝したというのに、その優勝を素直に喜べないって。

 一体伊万里は、何を馬鹿な事を言っているのかと。


 「ゆ、優勝したのに、水瀬選手は嬉しくないと!?」

 「そうどすなぁ。本来戦いたかった相手と戦えしまへんどしたさかい。」

 「そ、そうだったのですか…。」


 本来戦いたかった相手と戦えなかった。

 その人物が誰なのかは知らないが、もしかしたら伊万里と戦う前にトーナメントで早々に負けてしまった、伊万里の知り合いの選手でもいたのだろうか。

 そんな事を司会の男性は、伊万里にマイクを向けながら考えていた。


 「で、では、水瀬選手が今大会において、一番強かったと感じた対戦相手は誰でしょうか?」


 それでも司会の男性は戸惑いを見せながらも、伊万里に対して質問を続けたのだが。


 「やはり決勝戦で水瀬選手との壮絶な死闘を演じた、東京都代表、神川高校1年の八雲裕理選手でしょうか?それとも1回戦で戦った、愛知県代表、稲北高校1年の里崎楓選手でしょうか?」

 

 そこへ伊万里が、誰もが全く予想もしなかった人物の名前を挙げたのである。

 

 「静香はんどす。」

 「は!?」

 「愛知県の聖ルミナス女学園1年の、朝比奈静香はんどす。」

 「…はああああああああああああああああああ!?」


 仰天する視界の男性。そして観客席から一斉にどよめきの声が。

 そりゃそうだろう。今大会で一番強かった相手は静香だと、そう伊万里は断言しているのだが。

 その肝心の静香は県予選で敗退しているどころか、そもそも日本学生スポーツ協会から、学生スポーツからの永久追放処分を受けているのだ。

 それ故に伊万里は、静香と戦ってすらいないのに。

 それなのに一体全体、どうして伊万里の口から静香の名前が出てしまったのか。

 伊万里に名指しされた静香は神妙な表情で腕組みをしながら、じっ…と伊万里の事を見つめている。


 「日本学生スポーツ協会の山口はんは、ほんまに器量の小さい方どすなぁ。静香はんと彩花はんが、たかが黒衣を纏った位の事で何て大人気の無い。今回の一連の騒動を見て、うちは心の底からそう思いましたわ。」

 「何だとぉっ!?目上の人間に対して、何だ君のその口の聞き方はぁっ!?」


 いきなり伊万里に暴言を吐かれた物だから、ダンディな男が顔を赤くして伊万里に対して激怒したのだが。

 そんなダンディな男に対して伊万里は全く怯む事なく、まるで汚物を見るような目でダンディな男を見据えている。


 「うちに処分でも課すつもりどすか?静香はんや彩花はんを永久追放にしたのと同じように。どすけど、うちは別に構へんどすえ?」

 「な、何だと!?」


 そして伊万里はダンディな男に対して、さらにとんでもない事を口走ってしまうのである。


 「うちにとって学生の大会など、今更全く何の価値もあらしまへんさかいなぁ。今更学生スポーツから永久追放になった所で、痛うも痒うもあらへんどすえ。」


 立て続けに投下された伊万里の爆弾発言に、観客席が一斉にどよめく。

 そんな自らが引き起こした騒動に包まれながら、伊万里は自らの中学時代の過去と考えをダンディな男に語ったのだった。


 伊万里は中学時代にバドミントン部に入部したものの、そこで伊万里に待ち受けていたのは、学校の部活動の歪な上下関係、そして上級生による下級生への悪質ないじめの惨状だった。

 その惨状を伊万里は顧問の先生に必死に訴えたのだが、そんな伊万里に対して顧問の先生は何もしてくれず、


 「1年は球拾いでもしてろ!!」


 などとウザがられるだけだった。

 まるで下級生が上級生にいじめられるのが、至極当然の事だと言わんばかりに。


 これにより伊万里は学校の部活動の在り方という物に失望し、その場で顧問の先生に退部届を叩きつけ、僅か1日でバドミントン部を退部。

 父親の紹介を受けて社会人のクラブチームの練習に参加させて貰い、大人に混じってバドミントンをプレーしていた。

 伊万里が中学時代に大会に全く出場していなかったのは、それが理由だったのだ。

 楓をして、「隼人や彩花より強いかも」と言わしめるだけの実力を有していながら。

 

 それでも伊万里は後悔など、全く微塵もしていなかった。

 何故ならクラブチームの大人たちは、誰もが純粋に競技に打ち込んでおり、学校の部活動のような陰湿ないじめなど全く存在しなかったのだから。

 彼らと一緒に練習をしていると、ニヤニヤしながら下級生をいじめる上級生たちが、まるで下らない子供のように思えてしまい、いちいち真面目に付き合うのが馬鹿馬鹿しくなってしまったのだ。


 だが伊万里が中学3年に進学した時に、転換期が訪れる。

 伊万里は動画サイトでバドミントンの試合を検索していた際、たまたま『2人の神童』と呼ばれる隼人と彩花による県予選準決勝の動画を見つけ、その試合の動画を興味本位で観た事で、2人の強さに感銘させられた。

 そして何て楽しそうな笑顔で、そして真剣な表情でバドミントンをプレーしているのかと、伊万里は自身の境遇から2人の事が羨ましくなってしまった。

 さらに小学校の全国大会で自分をボロクソに負かした静香が、『王者』聖ルミナス女学園に進学すると母親から聞かされ、伊万里の心に再び闘志が沸き起こったのだ。


 この3人と…特に静香と、インターハイの舞台で全力で戦いたいと。

 

 これにより伊万里は高校ではクラブチームではなく、再び部活動でバドミントンをしようと決意。

 クラブチームの運営会社からの就職の誘いを断り、地元の皆月女子高校に進学した。

 そこは聖ルミナス女学園と違って決して強豪とは言えなかったが、それでも中学時代と違って陰湿ないじめなど存在せず、監督が確かな愛情をもって伊万里に接してくれた。

 そして伊万里は京都府の地区予選と県予選を、ぶっちぎりの強さで優勝。京都府代表としてシングルス部門でインターハイへの出場を決めたのである。

 

 だが残念な事に彩花と静香は日本学生スポーツ協会から、学生スポーツからの永久追放処分を受けてしまった。

 黒衣を纏ったから…たったそれだけの、実に下らない理由でだ。

 そして隼人もまた、そんな大人たちの身勝手さと、未だに暴力報道が絶えない日本のスポーツの在り方という物に失望し、バドミントンを引退する事を宣言した。

 周囲の大人たちの身勝手なエゴに振り回された結果、この3人が学生の大会に出場する機会は、今後もう二度と訪れる事は無くなってしまったのだ。


 だからこそ伊万里はダンディな男に対して、はっきりと通告したのである。

 この3人が出場しない学生の大会になど、今更全く何の価値も見出せないのだと。


 「隼人はんが引退し、彩花はんと静香はんが永久追放処分になり、彩花はんに至っては1人の心あらへん記者のせいで、心が壊れて廃人になってまいました。うちは今回の一件で改めて、日本の学生スポーツの愚かさちゅう物に、心の底から失望させられましたわ。」


 そして伊万里は何の迷いも無い力強い瞳で、ダンディな男に対してはっきりと宣言したのだった。


 「うちは今回の大会を最後に皆月女子高校のバドミントン部を退部し、以前お世話になったクラブチームで再びプレーするつもりどす。」


 まさかの伊万里の言葉に、観客席がさらに大騒動になってしまう。

 伊万里がバドミントン部を退部し、再びクラブチームに所属する。

 それはつまり伊万里が今後、学生の大会に出場する機会は、もう二度と訪れる事は無くなってしまったという事だ。

 そんな伊万里に対して記者たちもまた、


 「これは特ダネだ!!」

 「物凄い記事のネタが出来たぞ!!」

 「部数を稼げるな!!」


 などと大騒ぎになり、カメラのフラッシュを一斉に伊万里に浴びせる。 

 そのカメラのフラッシュにも全く動じる事無く、伊万里は顔を赤くして興奮しているダンディな男を、侮蔑に満ちた表情で見据えていたのだった。


 伊万里はダンディな男に対して、今更自分が彩花や静香と同じように永久追放処分を食らおうが、痛くも痒くもないと通告した。

 そりゃあそうだろう。何故なら日本学生スポーツ協会というのは、あくまでも「日本の学生スポーツ」に対して権限を持つ存在であって、伊万里が言うような社会人のクラブチームに対しては、全く何の権限も持ち合わせていないのだから。

 仮にダンディな男がJABSに対して、


 「水瀬君は永久追放処分にしたから、どこのチームでもプレーさせないように。」


 と苦し紛れに告げようが、JABSの職員から失笑されながら、


 「何言ってんだ、こいつwwwww」


 などと門前払いされるだけに終わってしまうだけだろう。

 だからこそ、第104話で静香がダンディな男に対して通告したように、伊万里にとってもまた日本学生スポーツ協会など、最早蚊帳の外でしか無いのである。


 「ほな、うちはこれで失礼させて貰うさかい。後はダブルスの試合を精々頑張って進行させとぉくれやす。」


 それだけ一方的に告げて壇上から降りた伊万里は、一斉に記者たちに追いかけられながら、威風堂々とコートを去っていく。

 そんな伊万里の姿を静香が腕組みをしながら、とても複雑な表情で見つめていた。

 自分や隼人、彩花と同じように、またしても才能に満ちた将来溢れる選手が、学生スポーツから姿を消してしまったのだ。

 伊万里の場合は、身勝手な大人たちの下らないエゴに振り回された自分たちとは、事情が全く異なるようなのだが。


 「皆、水瀬さんの言葉に動揺していられる場合じゃ無いわよ?他所は他所。うちはうち。午後からダブルスの準決勝が始まるんだから、すぐに気持ちを切り替えなさいね?」


 そんな静香たちの心情を察した六花が掌をパンパンと叩き、穏やかな笑顔で静香たちに促したのだった。

 そう、確かに六花の言う通りだ。

 三つ編み先輩とオカッパ頭ちゃんが出場するダブルスの準決勝が、昼休憩を挟んで午後1時からいよいよ始まるのだから。

 その準決勝に勝ったとしても負けたとしても、立て続けに決勝戦と3位決定戦が連戦で待ち構えている。

 だからこそ、特に三つ編み先輩とオカッパ頭ちゃんにとっては、伊万里の事をいつまでも気になどしてはいられないのだ。

 六花が言うように、「他所は他所、うちはうち」なのだから。


 「さあ、今からホテルに戻ってお昼ご飯を食べて、英気を養うわよ?」

 「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」


 六花の言葉に静香たちは、決意に満ちた表情で元気よく返事をしたのだった。

 Aルートでは伊万里の出番はこれで終わりですが、Bルートでは彼女は絵里の息子と同様に、主要人物として物語に深く関わっていく事になります。


 次回はいよいよ三つ編み先輩&オカッパ頭ちゃん VS ネコ&タチのダブルス決勝です。

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