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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
Aルート第1章:激動の聖ルミナス女学園バドミントン部編
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第108話-A:とんでもない高校生がいた物だな

 静香VS迅。その壮絶な死闘の結末は…。

 静香と迅による『天才』VS『雷神』の試合は、開始直後から凄まじいまでの高速ラリーが繰り広げられた。

 世界最速の競技とされているバドミントン。そのトッププロにも迫る実力を持つとされている2人が織り成す壮絶な超高速ラリーを、試合を観戦している聖ルミナス女学園の部員たちや三津菱マテリアル名古屋の選手たちが、固唾を飲んで見守っている。

 迅の左手のラケットから次々と放たれるスマッシュを、静香が次々と迅のコートへと打ち返していく。

 そんな静香と迅の超高速ラリーを、彩花が相変わらず無気力に無表情でパイプ椅子に座りながら、目の前で猫じゃらしをブンブンされた猫みたいに、何度も何度も首を横に振りながら目で追っていたのだが。


 「…はあっ!!」


 そこへ迅の僅かな隙を目掛けて、静香の右手のラケットから放たれた、一筋の『閃光』。

 静香の渾身の維綱。プロ顔負けの威力を誇る強烈なスマッシュが、迅のコートのラインギリギリに襲いかかる。


 「こんな物かよ!?朝比奈!!」


 だがそれを迅が、あっさりと返してしまったのだった。

 まさかの光景に聖ルミナス女学園の部員たちが、驚愕の表情になってしまう。


 「朝比奈さんの維綱を返した!?」

 「お前の維綱、見せて貰った!!ならば俺もお前に敬意を表し、奥義でもって応えよう!!」


 静香が高々と打ち上げたシャトルに向かって、迅が高々と飛翔。


 「食らえっ!!」


 その瞬間、迅の左手のラケットから放たれた、一筋の『雷光』。

 そして雷光の輝きを放つ強烈な威力のスマッシュが、静香の足元に情け容赦無く突き刺さったのだった。


 「0-1!!」


 審判のコールと共に、体育館が大騒ぎになってしまう。

 あの静香が先制点を奪われた…聖ルミナス女学園の部員たちは悲痛の表情になり、三津菱マテリアル名古屋の選手たちは大喜びしていた。


 「出たぁ!!雷堂の一撃必殺のスマッシュ、『雷光閃』!!」

 「雷堂の奴、全力であの子に勝ちに行ってるな!!」


 先制点を奪われ、維綱までもあっさりと攻略されてしまった静香だったが、それでも全く想定していなかった訳では無い。

 迅は仮にも『日本人最強』と呼ばれ、辞退したとはいえパリオリンピックの代表にも選抜されていた程の選手なのだ。

 これ位の事はやってのけるだろうと、静香は別に驚きもしていなかった。

 取り乱す事無く冷静に、自分の足元に転がっているシャトルを拾い、静香は真っ直ぐに迅を見据えながらサーブの構えを見せる。


 (次は止める…!!)


 確かに強烈な威力のスマッシュだったが、それでも全く反応出来なかった訳では無い。

 再び繰り広げられる2人の超高速ラリー。そしてまたしても放たれた迅の雷光閃。


 「またあの技を!?」

 「だけど朝比奈さんには、天照がある!!」


 聖ルミナス女学園バドミントン部の部員たちに見守られながら、静香は天照で迅の雷光閃を返そうとしたのだが。


 「…くっ!!」


 雷光閃のあまりの威力に、静香はラケットをふっ飛ばされてしまったのだった。


 「0−2!!」


 乾いた音を立てて、静香のラケットがコロコロと床を転がっていく。

 まさかの光景に聖ルミナス女学園バドミントン部の部員たちは、唖然とした表情をしてしまっていた。


 「う、嘘でしょ…!?天照が通用しないなんて…!!」

 「朝比奈さんが、ラケットを吹っ飛ばされた!?」


 あの静香が。地区予選で決勝戦以外の全試合を完封して大会MVPにも選ばれ、敗れたとはいえ県予選で彩花と互角に渡り合った、あの静香が。

 相手が社会人ナンバーワンとはいえ、ここまで一方的に追い込まれてしまう物なのかと。


 「どうだ朝比奈、思い知ったか。これが『社会人』だ。」


 静香からポ〜ンと打ち上げられたシャトルをガッチリと右手で受け止めながら、左手のラケットを威風堂々と静香に突きつける迅。

 その決意に満ちた表情からは、一片の迷いも感じられなかった。


 迅を相手に苦戦を強いられる静香。だがそれは静香だけではない。

 試合を同時進行している他の聖ルミナス女学園の5人の部員たちも、三津菱マテリアル名古屋の選手たちの優れた実力の前に、苦戦を強いられてしまっていた。

 これが社会人ナンバーワン、三津菱マテリアル名古屋の実力なのだ。


 「0−3!!」


 渾身の月光さえも返され、さらなる失点を兼ねた静香。


 「あ、あの朝比奈君でさえも、あそこまで追い詰められてしまう物なのか…!!」


 その絶望的な光景に、教頭の表情が顔面蒼白になってしまっていた。


 「やはりこの練習試合は失敗だ!!このまま無様な結果に終わろうものなら、関係各所やOBの皆様から、どのようなお叱りを受ける事になるのか!!」

 「教頭先生。藤崎監督が言っていたでしょう?今回の練習試合は、インターハイ終了後に引退する3年生たちに、最後の思い出作りをさせる事が目的だと。」


 慌ててBBAに対して試合中止を求めようとした教頭の肩を、オバサンが穏やかな表情で掴んで制止したのだった。

 そんな2人を無視して腕組みをしながら、直立不動で静香たちの試合をじっ…と見つめ、見守っている六花。

 今、六花の瞳には、苦戦を強いられている静香たちの姿が、どんな風に映っているのだろうか…。

 

 「そこへ私たち大人が過度に干渉するのは良くないですよ。何の為に今日の試合を完全非公開にしたと思っているのですか?今、コート上で輝いているのは生徒たちなのですよ?」

 「今はそんな悠長な事を言っていられる場合ではありませんぞ!!今回の練習試合は即刻中止にするべきです!!」

 「中止にして一体どうすると言うのですか?今、生徒たちは必死になって頑張っているというのに、何故それに水を差そうとするのですか?」

 「学園長ぉっ!!」


 そんな教頭と学園長の下らない言い争いを、迅がサーブの構えを見せながらチラ見していたのだった。

 『王者』聖ルミナス女学園…だが皮肉にも『王者』であるが故に、こうして大人たちの身勝手なエゴに振り回されてしまっているのだ。


 勝て。

 勝たねばならぬ、と。


 だからと言って迅は静香に同情して、むざむざと勝利をくれてやるつもりなど微塵も無いのだが。

 社会人のバドミントン…特に社会人ナンバーワンのクラブチームと称される三津菱マテリアル名古屋は、高校や大学と比べて遥かに高いレベルにあると、迅は心の底から自負している。

 それは迅が高校と大学でのプレーを経て三津菱マテリアル名古屋に就職し、その圧倒的なレベルの高さを、その身を持って思い知らされた経験があるからこそだ。

 その社会人の高いレベルの環境下の中で迅は揉まれに揉まれ、対外試合で勝利を重ねて名実共に『日本人最強』の地位を獲得し、いつの間にか『雷神』の異名で呼ばれるようになったのだ。

 だからこそ迅は『日本人最強』のプライドに賭けて、そう簡単に静香に負けてやる訳にはいかないのである。


 「0−4!!」


 迅の左手のラケットから放たれた精密無比のロブが、静香のコート後方のラインギリギリに突き刺さる。

 雷光閃の威力ばかりに目を奪われがちだが、迅は決してそれだけの選手という訳では無いのだ。

 まさに『日本人最強』。圧倒的な強さで静香を情け容赦無く追い込んでいく。


 「朝比奈。確かにお前は周囲から『天才』だと呼ばれているようだが、それでも俺に言わせれば、お前はまだまだ高校生だ。その程度の実力で社会人トップクラスを相手に割って入ろうなどと、思い上がるなよ。」


 そんな迅の忠告を背中越しに聞きながら、シャトルを拾った静香だったのだが。


 「さあ、理解したのなら、とっとと黒衣を纏え。その上でお前の事をコテンパンに叩きのめして…。」

 「…ふひひ(笑)。」

 「は!?」


 迅に向き直ってサーブの構えを見せた静香が…何と余裕の笑みを浮かべていたのである。

 予想外の静香の態度に、迅は戸惑いを隠せない。

 てっきり自分に叩きのめされて憔悴している物だとばかり思っていたのに、この静香の余裕の態度は何なのか。


 「感謝していますよ雷堂さん。私は真剣にプロを目指していますからね。その上で雷堂さんという指標を立てる事が出来て、本当に心の底から有難いと思っていますよ。」


 その静香の余裕の笑みに、迅は思わずゾッとしてしまう。

 そう、六花が静香たちにいつも言っているように、バドミントンは楽しく真剣に。

 迅という最強の対戦相手との試合を、静香は心の底から楽しみ、そして真剣にプレーしているのだ。


 こんな貴重な機会など、そう滅多に訪れる事は無いでしょうから。

 だから存分に楽しまないと、勿体無いじゃあないですか。


 そんな事を静香は考えていたのだった。


 「念の為にもう一度確認しておきますが、雷堂さんは『日本人最強』と呼ばれているんですよね?」

 「あ、ああ、そうだな…手前味噌だがな。」


 だが次の瞬間、静香は迅に対して、とんでもない事を言い出したのである。


 「つまり私が今ここで雷堂さんに勝てば、私は今すぐにでもプロで通用する見込みがあるって事になりますよね?」

 「…はああああああああああああああああああああああああああ!?」


 まさかの静香の爆弾発言に、思わず迅は仰天してしまったのだった。


 「こいつは一体…何を言っているんだ!?」


 あれだけ叩きのめしてやったのに。

 これだけ圧倒的な実力差を見せつけてやったのに。

 0−4と点差を広げてやったというのに。


 それなのに静香は、まだそんな事を言い出すというのか。


 「ふ、ふざけやがって!!お前のその余裕ぶっこいた態度を、俺が今からOTLに変えてやるよ!!」


 再び繰り広げられる、静香と迅の超高速ラリー。

 何やら教頭がオバサンと六花を相手に、顔面蒼白になってぎゃあぎゃあ騒いでいるようだが、そんな物は今の静香の目には入らない。

 今の静香にあるのは、ただ目の前の迅を倒すんだという強い気概だけだ。

 そんな最中で迅が見出した、静香に生じた僅かな隙。

 そこを目掛けて迅は、全身全霊の雷光閃をお見舞いする。


 「食らえっ!!」


 果たして迅の左手のラケットから放たれた、迅の雷光閃。

 だがそれを静香は天照で、あっさりと返してしまったのだった。


 「1−4!!」

 「…なん…だと…!?」


 まさかの予想外の出来事に、迅は戸惑いを隠せない。


 「嘘だろ!?雷堂の雷光閃を返しやがったぁっ!!」


 三津菱マテリアル名古屋の選手たちもまた驚愕の表情で、威風堂々と迅を見据える静香の勇姿を見せつけられていた。

 先程まで迅の雷光閃の前に、手も足も出なかったというのにだ。


 「雷堂さん。確かに貴方の雷光閃の威力は凄まじいですが…それでも彩花ちゃんのシャドウブリンガーには及びませんよ。」

 「な、何ぃっ!?」


 その騒動の中で右手のラケットを迅に突きつけ、力強い笑顔を見せる静香。

 先程、雷光閃で2点目を取られた時は、あまりの威力にびっくりしてラケットをふっ飛ばされてしまったのだが。

 それでも静香は彩花と戦った経験があるからこそ、分かるのだ。

 迅の雷光閃よりも、彩花のシャドウブリンガーの方が、もっともっと凄かったと。

 だからしっかりと意識さえしていれば、雷光閃は決して返せないスマッシュではない。


 「3−5!!」


 そしてここからが、『天才』静香の本骨頂だ。


 「6−6!!」

 「雷堂が同点に追いつかれた!?」


 驚愕する三津菱マテリアル名古屋の選手たちだったが、静香の猛攻はまだまだ終わらない。


 「8−7!!」

 「やったぁっ!!とうとう朝比奈さんが逆転したぁっ!!」


 静香の月光の前に迅のラケットが空振り三振する光景に、聖ルミナス女学園の部員たちは大喜びになる。

 あの『日本人最強』と呼ばれている迅を相手に、静香は遂に逆転してみせたのだ。

 いや、静香1人だけではない。他の聖ルミナス女学園の部員たちも、三津菱マテリアル名古屋の選手たちを相手に躍動していた。

 まるで六花の指導によって、今まで眠っていた潜在能力が引き出されたかのように。


 「15-11!!」


 迅も静香から得点を奪うも、静香はそれ以上の勢いで得点を奪い返していく。

 どれだけ迅が追いすがっても静香はそれを許さず、情け容赦なく突き放していく。


 (『天才』朝比奈静香…か…。)


 そんな静香と死闘を繰り広げながら、迅は心の底から思う。

 これ程の将来性に溢れた素晴らしい選手を、どうして日本学生スポーツ協会は、学生スポーツからの永久追放になどしてしまったのかと。

 しかも黒衣に呑まれてしまったからという、実に下らない理由でだ。

 黒衣が絶望を象徴する禍々しい力で、正々堂々と戦わなければならない学生スポーツに相応しくないなどと言うが、そんな物は所詮は大人たちの身勝手なエゴに過ぎないだろうに。


 静香は本気でプロを目指していると言っていたが、きっと静香はこれから先、日本という枠に囚われる事は無く、世界を舞台に堂々と戦っていけるだけの選手に成長する事だろう。

 自分は妻の出産立ち会いの為にパリオリンピックの代表選抜を辞退したが、仮に静香が代役で出場していたら、一体全体どうなっていただろうか。

 それを思うと迅は、何だかワクワクが止まらなくなってしまっていた。


 (全く、とんでもない高校生がいた物だな。ははっw)


 苦笑いする迅の足元に、静香の渾身の維綱が情け容赦無く突き刺さった。

 そして。


 「ゲームセット!!ウォンバイ、聖ルミナス女学園1年、朝比奈静香!!ワンゲーム!!21-14!!」

 「よぉしっ!!」


 迅に快勝した静香が心からの笑顔で、派手なガッツポーズを見せたのだった。

 次回は激動の聖ルミナス女学園バドミントン部編、完結です。

 互いに健闘を称え合う静香と迅ですが…。

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