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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
Aルート第1章:激動の聖ルミナス女学園バドミントン部編
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第104話-A:もう目的が違います

 よしポチ。俺と代われ。


 聖ルミナス女学園は全寮制だが、大型連休の期間中は実家に帰省するという生徒は大勢いる。

 静香もその1人であり、実家がすぐ近くにある事から、夏休みの期間中のバドミントン部の活動に支障は無いと判断し、こうして実家に帰省しているのだ。


 監督不在の中で愛美の指導の下、無事に午前中の練習を終えた後に帰宅した静香は、午後から自宅近くの公園でポチと一緒に遊んだ後、自室のノートパソコンでネットの動画サイトから隼人の引退記者会見を視聴。

 その際にインターハイ終了までの期間限定とはいえ、六花が引き続きバドミントン部の監督を務める事になったと絵里が語った事で、静香は心の底から安堵したのだった。


 本来ならば六花には代行とは言わずに、正式に監督に就任して貰いたかったのだが。

 六花が本来はJABS名古屋支部で勤務する正社員である以上、こればかりはJABS名古屋支部の都合もあるので、最早どうしようも無かった。

 組織というのは、そういう物なのだから。

 静香とて朝比奈コンツェルンの令嬢として、それ位の事は理解しているつもりだ。


 その後、夕食前にポチと一緒に入浴しようと浴室に向かう最中、様子の部屋の前を通りかかったのだが。


 「静香さんの永久追放処分は不当ザマス!!今すぐに処分を解除するザマス!!」

 『それは認められんな。黒衣に呑まれてしまった朝比奈静香君は、清く正しく正々堂々と戦わなければならない学生スポーツにおいて、全く相応しくない存在だからだ。』


 様子の部屋から、様子とダンディな男が言い争う声が聞こえてきたのだった。

 静香が部屋を覗いてみると、どうやら様子がデスクトップパソコンで、ダンディな男と通話アプリで会話をしているようだ。

 耳にマイク付きのヘッドホンを身につけた様子が、とても真剣な表情でダンディな男に食って掛かったのだが。


 「お母様、その事でまだ山口さんと揉めていらっしゃるのですか?」

 「静香さん、丁度いい所に来たザマス!!あ〜たからもガツンと次長に言ってやるザマス!!」


 興奮して顔を赤くしながら席を立ち、耳から外したヘッドホンを静香に手渡す様子。

 溜め息をつきながら静香は先程まで様子が座っていた椅子に座り、ヘッドホンを耳に装着し、モニター越しにダンディな男を見据えたのだった。

 かつて桜花中学校に在籍していた頃、静香の『1人でダブルスをプレーする』という行為に対してイチャモンを付けた、静香にとって因縁の相手なのだが。

  

 「山口さん、はっきり言いますね。もう目的が違います。今更学生の大会に出場した所で、私に何か得られる物があるとは、私は全く思っていません。」

 『な、何だとぉっ!?』


 何の迷いも無い力強い瞳で、静香はダンディな男に対して通告したのだった。

 ダンディな男も様子も、予想外の静香の言葉に仰天してしまっている。

 てっきり静香が自分に頭を下げて、処分を解除して欲しいと泣きついてくるかと思っていたのに。

 それなのに、今更学生の大会に出場した所で、得られる物が何も無いなどと…そのような愚かな事を言い出すとは。


 だが静香は自分に処分を下したダンディな男を侮蔑するような尊大な態度で、腕組みをしながらどっかりと椅子にもたれかかり、ダンディな男を睨み付けたのだった。

 ダンディな男に対して抗議するどころか、ご機嫌取りさえも全く行わない。

 それは静香がダンディな男に対して、学生スポーツからの永久追放処分が下されようが別にどうでもいいという、有無を言わせぬ無言の圧力の証だ。


 いや、今の静香は、本当にどうでもいいと思っているのだ。

 今の静香に科されている、学生スポーツからの永久追放処分など…今の静香にとっては、本当にマジで何のダメージにもなっていないのだから。 


 「先程の須藤君の引退記者会見を、山口さんは視聴なされましたか?」

 『い、いいや、先程まで業務の最中だったので、まだ観ていないが…。』

 「その記者会見の場で、須藤君は記者の皆さんに対して、こう仰られていました。バドミントンをやるだけなら、何も大会への出場に拘る必要など微塵も無いと。大会に出場する事だけが全てでは無いと。今の私は全くその通りだと思っていますよ。」


 そう、記者会見で隼人が語っていたように、バドミントンをやるだけなら別に学生スポーツに拘る必要など微塵も無いのだ。

 近所のバドミントンスクールに通い直してもいいし、社会人のクラブチームの練習に参加させて貰うという手もある。

 大会にしたって学生の大会ではなく、日本学生スポーツ協会の管轄外である、日本選手権などの一般の大会に出場してもいいのだから。

 あくまでも静香が出場停止処分を食らっているのは『学生の大会』なのであって、大人に混じってプレーする分には別に何の問題も無いのだから。

 いや、そもそもの話、『それ以前の問題』なのだ。


 『馬鹿な!?君は本気でプロを目指していると、私は先程様子さんから聞かされたぞ!?大会に出場すればプロチームのスカウトに対してのアピールに…!!』

 「必要ありませんよ。もう既に多数のチームから誘いを受けていますから。」

 『…なん…だと…!?』

 

 そう、今の静香はシュバルツハーケンやヘリグライダーを初めとした、多数のプロチームから獲得の申し出を既に受けているのだ。

 ダクネスや亜弥乃は、高校を卒業してからで構わないと笑いながら言ってくれたが、今すぐに選手契約を結んでもいいと言ってくれているチームも幾つかある。

 ダンディな男が言うような『プロチームのスカウトへのアピール』なら、もう既に彩花との準決勝で済ませてしまっているのだから。

 彩花の黒衣による五感剥奪を自力で打ち破り、敗れたとはいえ彩花とあそこまで互角に渡り合ってみせたのだ。アピールポイントとしては充分過ぎる程だろう。


 だから今の静香には、そもそも大会に出場する必要性自体が微塵も無いのである。

 どこのチームに行くのかは、まだ決めていないのだが…今更大会に出るまでもなく、高校卒業後のプロ入りは既に決まったも同然なのだから。


 「山口さん。はっきり言わせて貰いますね。もう貴方は蚊帳の外なんです。貴方が今更私に対して何を言おうが、最早私の心には全く響きませんし、至極どうでもいいのですよ。」

 『何だとぉっ!?目上の人間に対して、何だ君のその口の利き方はぁっ!?』

 「貴方とこれ以上話すのも時間の無駄です。これで失礼させて頂きますね。」

 

 ヘッドホンを外してスタンドの上に置いた静香は、侮蔑の表情をダンディな男に見せつけた後、ポチと共に様子の部屋を出ていく。

 何やらダンディな男がモニターの向こう側でぎゃあぎゃあ叫んでいるようだが、ヘッドホンを外してしまった以上は彼が何を言っているのか全然聞こえないし、そもそも至極どうでも良かった。

 そんな静香の後ろ姿を、戸惑いの表情で見つめる様子だったのだが。


 「ど、どこに行くザマスか!?」

 「夕食前にお風呂に入ってきます。そのついでにポチの身体を洗ってきます。」


 更衣室で制服を脱いで一糸纏わぬ姿になった静香は、ポチを連れて浴室へ。

 自身の身体をボディーソープで念入りに洗った後、いよいよポチの身体の掃除に取り掛かった。

 わしゃわしゃわしゃわしゃと、犬用のシャンプーでポチの身体を念入りにスポンジで磨いた後、優しく掛け湯を浴びせてシャンプーを洗い流す。


 「わん!!(フリスビー30回で疲れ切った身体に染み渡るわ~。)」

 「は〜い、それじゃあポチ。一緒に湯船に浸かりましょうね〜。」


 ポチを背後から抱きかかえながら一緒に湯船に浸かった静香は、ポチの顔を湯に埋めて窒息させないように気を遣いながら、慈愛に満ちた笑顔でポチを背後から優しく抱き締める。

 静香の豊満な胸が、思い切りポチの背中に当たっていたのだった…。


 「ふぅ…いいお湯ですねぇ…。」

 「わん!!(お前、中学の頃より、また胸がでかくなってないか?)」

 「そう言えば今日、藤崎監督が仰ってましたね。神衣は『希望』がトリガーとなって発動する力だとか。」


 静香の胸の感触にニヤニヤしているポチを背後から優しく抱き締めながら、静香は今日の隼人の引退記者会見の前に、六花とLINEで話した内容を思い出していた。

 神衣。それは天賦の才を持つ者が幾重もの絶望を乗り越え、『希望』を掴む事で纏う事が出来るとされている、究極の闘気。

 隼人が言うには、何でも隼人の中に宿っていた六花の夫・涼太からの励ましの言葉が、隼人の神衣発動のトリガーとなったらしいのだが。

 今の静香にとっての『希望』と言うべき存在は、彩花と六花…そして隼人。

 静香が頭の中で3人の姿を思い浮かべながら、黒衣を纏う時と同じ要領で、全身に『気』を張り巡らせた…次の瞬間。


 「わんわんわんわんわん!!(お前えええええええええええええ!!一体何やっとんじゃああああああああああああ!?)」


 静香の全身から、なんか金色の闘気が爆裂したのだった…。


 「あ、なんか出ました。」

 「わんわんわんわんわん!!(なんかって何だああああああああああああああああああああああああああ!?)」


 中学時代に大切な友人である詩織と、理不尽な理由で離れ離れにされてしまい、絶望に染まり黒衣に目覚めてしまった静香。

 だがそれでも、静香は救われた。

 準決勝で敗れたとはいえ、自分とあそこまで互角に渡り合ってみせた彩花に。

 まるで本当の母親であるかのように、自分に対してうんと優しくしてくれた六花に。

 そして様子に対して維綱を放とうとし、危うく夢幻一刀流を汚してしまう所だった自分を、危険を冒してまで身体を張って止めてくれた隼人に。

 こうして静香は幾重もの絶望を乗り越えて、この3人に『希望』を見出した。


 そう…静香は3人の事を頭に思い浮かべた事がトリガーとなって、なんか神衣に目覚めちゃったのである…。


 「わんわんわんわんわん!!(おい!!今すぐに御主人様に報告しろおおおおおおおおおおおおお!!お前が神衣に目覚めたと報告しろおおおおおおおおおおおおお!!)」

 「しかしこれは…黒衣とは別の意味で、諸刃の剣とも言うべき代物ですね…。」

 「わんわんわんわんわん!!(神衣に目覚めたお前の姿を目の当たりにすれば、あの男はお前の学生スポーツからの永久追放処分を、取り消すかもしれないのだぞおおおおおおおおおおお!?)」


 湯船の中で大騒ぎするポチを背後から抱き締めながら、静香は神衣の持つ強烈な力と反動を、その身を持って思い知らされていたのだった。

 隼人が彩花との試合で発動した時もそうだったのだが、やはり神衣は爆発的な力を得る事が出来る代償として、黒衣と違って発動しているだけで相当なスタミナを削られる代物だ。

 これをバドミントンの試合で有効活用しようと思ったら、それこそ発動は試合終盤になってからに限られてしまうだろう。

 何の考えも無しに試合開始直後から神衣を発動しようものなら、ファーストゲームの時点でガス欠になってしまいかねないのだ。

 静香が自分でも理解しているように、まさに黒衣とは別の意味で諸刃の剣とも言うべき代物なのだ。

 

 「須藤君は、こんな物を纏いながら、彩花ちゃんと戦ったというのですか…。」

 「わんわんわんわんわん!!(おい!!今すぐに見せつけろ!!御主人様にお前の神衣を見せつけろおおおおおおおおおおお!!)」


 神衣を解除した静香に襲い掛かったのは、どっと身体に押し寄せてきた『疲労感』。

 実際に検証してみない事には何とも言えないのだが、これは朱雀天翔破と同様に、プロ入り後は身体への負担を考慮して、シーズン最終盤までは封印するべき代物かもしれない。

 年間100試合以上を戦うプロの世界では、たった一度の負けで全てが終わってしまう学生の大会と違い、負けてもまだ次の試合が何試合も控えているのだから。


 「五月蝿うるさいザマスよ!!カイザー!!」

 「わん!!(ポチです!!)」


 ポチに文句を言う様子の怒鳴り声を聞き流しながら、静香は湯船の中で隼人の姿を思い浮かべていた。

 それだけで静香の胸が、ドキドキと言いようのない高揚感に包まれる。

 あの日、静香が様子に対して維綱を放とうとした所を、隼人が身体を張って止めてくれてからというもの…いつの間にか静香は隼人に恋をしてしまったようだ。

 それを今の静香は、はっきりと自覚してしまっていたのだった。

 

 だがこれは、してはいけない恋。

 何故なら隼人には、彩花という幼馴染がいるのだから。

 隼人も彩花も、まだ自覚していないようなのだが。

 少なくとも彩花に関しては、隼人に対して幼馴染以上の感情を抱いているのがバレバレだ。

 楓も隼人に告白はしたが、それでもその想いが報われる事は恐らく無いだろう。

 いずれ放っておけば、この2人がいつか結婚して幸せな家庭を築くのは、ほぼ間違い無いだろうから。

 そんな2人に対して、所詮は第三者でしかない自分なんかが割って入るなど…それこそ野暮という奴だ。 


 だからこそ、この隼人への想いは、死ぬまで胸の中にしまっておこうと。

 『この時の』静香は、その決意を胸に秘めていた。


 …だが!!

 また「はねバド」をパクっちゃったよwwwww

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