第103話-A:好きだからこそ、嫌いになる前に辞めるんですよ
いよいよ始まった、隼人の引退記者会見ですが…。
そして16時。JRセントラルタワーズ16階にあるホテルの大宴会場において、隼人の引退に関しての記者会見が遂に始まった。
事前にJABSの社員たちが用意した椅子に、礼儀正しく腰を下ろして背筋を伸ばす隼人に、集まった記者たちが一斉にカメラのフラッシュを浴びせる。
そんなフラッシュの嵐にも全く怯む事無く、真っすぐに記者たちを見据える隼人。
その隼人の隣に彩花が座り、さらにその隣に六花、絵里と続く。
彩花は相変わらず六花の身体にしがみつき、一斉にカメラのフラッシュを浴びせる記者たちに対して、生まれて初めて落雷を体験した猫みたいに、すっかり怯えてしまっていた。
本来なら絵里は、こんな状態の彩花を記者会見に同席など、させたくは無かったのだが。
彩花が六花からどうしても離れたがらない上に、記者たちが六花の記者会見への出席を強く要求してきたのだ。
だから苦渋の決断ではあったが、彩花を同席させざるを得なかったのである。
「記者の皆様。本日はお忙しい中をお集まり頂きまして、誠に有難うございます。私は不祥事を起こし懲戒解雇処分となった前支部長の渋谷の後任として、JABS名古屋支部の新たな支部長に就任した、八雲絵里と申します。」
だからこそJABS名古屋支部の支部長として、他でも無い絵里が彩花の事を、責任を持って守ってやらなければならないのだ。
「只今より須藤隼人君の引退に関する記者会見を行わせて頂きますが、その前に皆様方に守って頂きたい、今回の記者会見における取材ルールを説明させて頂きます。まずはお手元の資料をご覧下さいませ。」
その強い決意を胸に秘め、絵里は記者たちに対し、今回の記者会見における取材ルールを説明したのだった。
まず今回の記者会見は隼人と彩花への負担と、JABS名古屋支部の終業時間を考慮し、18時までで強制的に打ち切らせて貰うという事。
そして今回の隼人の引退に関係する質問以外は、いかなる理由があろとも一切合切応じないという事。
さらに彩花に対しての質疑応答は、質問内容に関わらず一切厳禁とし、記者たちが誰か1人でも彩花への質問を行った時点で、問答無用で記者会見を打ち切らせて貰うという事。
これらを記者たちに通告した後、絵里は前支部長に着せられた六花の罪が冤罪であるという事、六花もまた被害者であるという事を、改めて大々的に宣言。
その六花には今年のインターハイが終了するまでの期間限定ではあるが、引き続き聖ルミナス女学園バドミントン部の監督を務めて貰う事になったと説明した。
現在、聖ルミナス女学園は監督が不在という非常事態に陥っており、このままでは愛知県代表としてインターハイ出場が内定しているダブルスの選手2人が、最悪インターハイに出場出来なくなってしまう恐れがあるからだという、人道的な理由による物らしい。
それでも聖ルミナス女学園の新学園長からは、
「藤崎さんには古賀監督の代行などではなく、今後も正式に監督を務めて貰いたい。」
「何なら藤崎さんの事を出向などではなく、正式に譲って欲しい。」
との要望があったものの、それを絵里が却下した事も説明した。
県予選であのような理不尽な目に遭わされた以上、六花も最早JABSには居られないだろうが、自分たちなら六花をちゃんと大切に扱うと、新学園長は絵里に告げたらしいのだが。
それでも全国的に深刻な社会問題になっている少子高齢化の影響で、ただでさえJABSもまた人手が不足しているというのに、そんな中で優秀な社員である六花まで失う訳にはいかないと、絵里は新学園長に通告したのである。
なので妥協案として、取り敢えずインターハイ終了までは六花を聖ルミナス女学園に出向させるが、それまでに聖ルミナス女学園の方で新しい監督を見つけておいて欲しい、という形で両者合意に達したとの事だ。
「それでは続きまして、今回の隼人君の引退に関する説明を、本人の方から行わせて頂きます。隼人君、お願い出来るかしら?」
「はい。」
これらの説明が絵里の口から一通り済んだ後、いよいよ本命となる隼人の引退に関する説明が、隼人自身の口から記者たちに対して行われた。
まず隼人が今回の県予選をもって引退という決断をしたのは、日本のスポーツの在り方という物に失望した事が理由の1つだが、何よりも彩花と六花をこんな目に遭わせた、周囲の身勝手な大人たちが許せないと思った事、そんな連中の身勝手なエゴにこれ以上振り回されるのは懲り懲りだからという事を、隼人は胸を張って堂々と記者たちに語った。
何しろ隼人は、目の前で散々見せつけられたのだから。
彩花も静香も、六花でさえも、周囲の大人たちの身勝手なエゴに振り回されて絶望し、黒衣に呑まれてしまった光景を。
だからこそ隼人は、もうこれ以上周囲の大人たちの身勝手さに振り回されないようにする為に、引退という決断をしたのである。
そんな隼人の言葉に記者たちの多くがざわつき、一斉に隼人にカメラのフラッシュを浴びせた。
確かに隼人の気持ちは理解出来なくもないが、だからといって隼人程の凄腕のプレイヤーが、こんな形で引退などと。
しかもまだ16歳、まだまだこれからの選手だというのに。伝説の闘気である神衣にまで目覚めたというのに。
記者たちの誰もが隼人に対して、そんな不満に満ちた表情をしていたのだった。
「それでは只今より質疑応答に入らせて頂きます。質問がある方、挙手をお願い致します。」
やがて隼人が引退の真相を語り終えた後、絵里からの呼びかけに対し、記者たちのほぼ全員が一斉に挙手。
「では番号札1番の方。」
絵里に指名された若手の男性記者が右手を降ろし、しっかりと隼人を見据えながら、JABS名古屋支部の女性社員に手渡されたマイクを手に起立をする。
「週刊過去の町山です。須藤隼人君に質問なのですが、貴方は先日の県予選をもってバドミントンを引退したとの事ですが、それでも今日は稲北高校のバドミントン部の練習に参加していらっしゃいましたよね?」
「はい。間違いありません。」
「引退したにも関わらず練習に参加したというのは矛盾していますよね?一体どういう意図があっての行為なのか、詳しい説明をお願いします。」
「確かにそう思われても仕方が無いですね。ですが僕が部の練習に参加しているのは、バドミントン自体が嫌いになった訳では無いからです。」
隼人の言葉に、またしても記者たちが一斉にざわついた。
そう、隼人は引退したとはいえ、別にバドミントンを嫌いになった訳では無い。
引退と言っても試合には今後一切出場しないというだけであって、大好きなバドミントンを皆と一緒に楽しむ為に、部の練習には参加しているのだ。
例え大会には今後一切出場せずとも、それだけが全てという訳では無いのだから。
もっと極端な事を言えば、例えば公園で棒切れを使って地面に13.4m×6.1mの四角を描いて、その真ん中にネットを立てて、その辺を通りかかった通行人に対して
「へい!!そこの彼女!!僕とバドミントンやろうぜwwwwww」
などと笑顔で呼びかけて、見知らぬ人々と軽く楽しく打ち合ってもいい。
それか公園で遊んでる子供たちを集めて、青空の下で無料でバドミントンの教室を開いたりなんかもいいかも。
そう、バドミントンをやるだけなら、無理に試合に出る必要など微塵も無い。それこそ勝ち負けに拘る必要さえも微塵も無い。
隼人に言わせれば、それだけでも立派なバドミントンなのだ。
むしろ勝ち負けに拘ったバドミントンをしてしまえば、彩花や静香、六花のように、周囲の大人たちの身勝手なエゴに振り回される事になりかねないと…そう隼人は思ったのである。
「では貴方は、バドミントンが好きなのに引退すると!?」
「好きだからこそ、嫌いになる前に辞めるんですよ。」
何の迷いも無い力強い瞳で、隼人は男性記者に高々と宣言したのだった。
ざわざわ、ざわざわ、と、隼人の発言に記者たちが大騒ぎになる。
「わ、分かりました。どうも有難うございます。」
「では次、番号札2番の方。」
絵里からの呼びかけに、挙手をしていた若い女性記者が礼儀正しく起立し、六花を真っすぐに見据えた。
「エ~テレの梅田という者です。まずはこの場を借りて藤崎六花さんに対して、今回の前ディレクターの愚行に対して深くお詫びをさせて頂きます。貴女の名誉を深く傷つける事になってしまい、本当に申し訳ありませんでした。」
そして深々と、六花に対して頭を下げる女性記者。
そんな彼女に対して周囲の記者たちが、一斉にカメラのフラッシュを浴びせたのだった。
本来ならば前ディレクター本人に、六花に対して頭を下げさせるのが筋なのだろうが。
既に懲戒解雇処分を下してしまった以上、最早エ~テレに前ディレクターに対しての命令権など持ち合わせていないし、何よりも前ディレクター本人が不貞腐れた態度で、六花への謝罪を一切拒否してしまっているのだ。
それ故に何も悪く無いどころか、今回の件に一切関わっていない女性記者が、こうして六花に対して頭を下げる羽目になってしまったのである。
「その上で、改めて藤崎六花さんに質問をさせて頂きます。」
そんな中で顔を上げた女性記者は、とても真剣な表情で六花を見据えた。
「今回の須藤隼人君の引退宣言は我が国のみならず、世界中のバドミントン界にさえも多大な騒動を起こしています。幼少時の須藤隼人君と藤崎彩花さんにバドミントンを教えたのは貴女だとの事ですが、その件に関して貴女はどうお考えでしょうか?」
「その質問に答える前に、まずは前提として言わせて頂きますが…。」
何の迷いも無い力強い瞳で、六花ははっきりと断言したのだった。
「私は隼人と彩花に対して、貴方たちには才能があるんだからバドミントンをやりなさいなどと、バドミントンをやる事を強制した事は、ただの一度もありません。」
六花の力強い言葉に、記者たちが一斉に六花に対してカメラのフラッシュを浴びせる。
そう、六花は隼人と彩花に秘められた、凄まじいまでのバドミントンの才能に驚きはしたものの、それでも2人に対してバドミントンをやる事を強要した事など、ただの一度も無い。
六花は2人のプロ入りには反対しながらも、それでもバドミントンを続けるかどうかは、完全に2人の意志に任せたのだ。
その上で隼人も彩花も、バドミントンを今まで続けていてくれたのだ。
こんなに面白い競技は他に無いから…という理由でだ。
「その上で貴女の質問に応えさせて頂きますが、隼人にどれだけの才能と実力があろうとも、他でも無い本人が今後試合に出たくないと言っているんです。それを無理に試合に出させようとするのは、筋違いなのではないでしょうか。」
日本でもアルコールハラスメントが度々社会問題になっているが、酒を飲みたくないと言っている社員に対して、上司が飲酒を強要するのと同じだ。
他でもない隼人自身が、もうこれ以上試合には出たくないと言っているのだ。
その隼人に対して試合への出場を強要するというのは、やっている事はアルコールハラスメントと同じ事だろう。
それを六花は、女性記者に対して諭しているのである。
「しかし神衣に目覚めた須藤隼人君を、こんな形で引退させるなど…あくまでも私個人としての意見ですが、低迷が続く我が国のバドミントン界において、あまりにも大き過ぎる損失なのではないでしょうか?」
「それを言ってしまったら、前支部長の渋谷が彩花に対してやらかした事と、全く同じになってしまいますよ?」
「それは…ですが…。」
そう、稲北高校への進学を希望していた彩花を、前支部長が無理矢理聖ルミナス女学園に進学させたせいで、彩花はこんな事になってしまったのだ。
引退を宣言した隼人に対して試合への出場を強要するというのは、まさにそれと同じ事なのである。
だから六花もJABSも、隼人に対して試合への出場を強要する事は絶対に無い。
例え隼人が神衣に目覚めたとしても。隼人にどれだけのバドミントンの実力と才能があったとしても。
彩花のバドミントンの実力と才能に目が眩んだ前支部長と同じ過ちを、これ以上犯す訳にはいかないのだから。
「私たちJABSとしても、隼人が試合に出たくないと言っている以上、隼人に対して試合への出場を、ましてプロの選手になる事を強制する事など絶対にありません。でなければ隼人の事を、彩花の二の舞にさせてしまう事になりかねませんから。」
「成程、分かりました。有難うございます。」
六花の言葉を聞いた隼人は、改めて思う。
最高の仲間と最強の指導者に恵まれた自分は、本当にただ運が良かっただけなのだと。
そう、一歩間違えていれば、自分が彩花や静香のように絶望し、黒衣に呑まれていたかもしれないのだ。
そしてそれだけの事を周囲の身勝手な大人たちは、彩花と静香に対してやらかしてしまったのである。
「では番号札3番の方。」
「テレビ藍知の新田です。須藤隼人君に質問なのですが、今の貴方は朝比奈静香さんや里崎楓さんと共に、来年デンマークで開催予定の世界選手権大会に向けた、日本代表の最終選抜候補として名前が挙がっている事をご存じですか?」
だからこそ、この男性記者が言うように、日の丸を背負うなど冗談ではない。
あんな身勝手な大人たちの言いなりになって、どうして世界を舞台に戦わなければならないのかと。
隼人は今、改めてその決意を新たにしたのだった。
「はい。今日の朝、校長先生から聞かされました。」
「そんな中で貴方は、自分の力が世界を舞台にどれだけ通用するのか試してみたいと、そう思った事は無いのですか?」
「確かに、そう思った事はありますよ。」
頭の中で隼人は、世界を舞台に活躍している上位ランカーたちの姿を思い浮かべた。
デンマーク代表の亜弥乃、コミー。
スイス代表のダクネス、エステリア。
フランス代表のシャルロット、ジャンヌ。
スウェーデン代表のカレン、ミランダ。
彼女たち世界上位ランカーたちを相手に、自分の力がどれだけ通じるのか試したいと。
バドミントンプレイヤーとして、そういう気持ちがあった事は、確かに否定はしない。
いや、今でも隼人は心のどこかで、その気持ちを胸の内に秘めているのだ。
だが、それでも。
「ですが今の僕はもう、そんな気にはなれません。仮に代表に選ばれたとしても100億%辞退しますよ。」
「何故ですか!?デンマーク代表の羽崎監督が仰っていましたよ!?貴方は今すぐにでも世界を舞台に戦えるだけの力を持っていると!!それだけに貴方の引退宣言は心の底から残念だと!!」
「もう懲り懲りなんですよ、僕は。周囲の大人たちの身勝手なエゴに、これ以上振り回され続けるのが。それで彩花ちゃんは、こんな事になってしまったんですよ?」
彩花に秘められたバドミントンの才能に目が眩んだせいで、周囲の身勝手な大人たちは彩花を絶望させ、黒衣を顕現させてしまった。
その愚かさが隼人を失望させ、引退という決断をさせてしまったのだ。
何の迷いもない力強い瞳で自分を見据える隼人を、記者が戸惑いの表情で見つめている。
最早これ以上はどうあっても、隼人に引退発言の撤回をさせる事は不可能だというのか。
その後も質疑応答は特に何のトラブルも無く順調に進み、隼人と六花は記者たちの質問に対して、胸を張って堂々と回答していった。
記者たちの誰もが取材ルールを遵守し、誰1人として彩花への質問を行わなかった…と言うか今の怯え切った彩花の状態の目の当たりにさせられて、とても質問など出来るような雰囲気ではないと…そう思っていたのだが。
「続いて、番号札15番の方。」
「私はフリーランスの亀田という者ですが…。」
記者会見終了時刻まで30分を切った、17時30分に…事件は起こったのである。
「藤崎彩花さんに質問です。」
何とあろう事か、この中年の男性記者は、禁止されているはずの彩花への質問を、何の躊躇もせずに行ってしまったのだ。
周囲の記者たちが唖然とした表情で、この中年の男性記者を見つめている。
「貴女は地区予選や県予選において、対戦相手全員の五感を奪うという、とんでもない事をやらかしましたよね!?しかも貴女の幼馴染の須藤隼人君に至っては、五感どころか第六感までも奪いました!!その件に関して貴女はどう思っていますか!?」
「…あ…あああ…!!ああああああああああああああああああああ!!」
その瞬間、彩花の身体から顕現した、凄まじいまでの黒衣。
両手で頭を抱え、目から大粒の涙を流しながら、絶望に心を支配されて絶叫してしまっている。
貴女は須藤隼人君の五感どころか、第六感までも奪った。
その中年の男性記者の心無い言葉が、彩花の心に情け容赦なくグサリと矢を突き立ててしまう。
「がああああああああああああああ!!がああああああああああああああああああああああああああああ!!がああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「彩花ぁっ!!」
とっさに神衣を発動して彩花を抱き締める六花の姿を、怯えながら見せつけられている中年の男性記者。
彩花の黒衣の暴走が止まらない。絶叫した彩花の身体から、凄まじい勢いで黒衣が溢れ出してしまっている。
一体何でこんな事になってしまったのかと、中年の男性記者は目の前の惨状が、未だに信じられずにいるようだった。
「ひいいいいいいいいいいいいい!!な、何なんだよこれ!?このガキの黒衣は須藤隼人と藤崎六花に浄化されたんじゃなかったのかよぉっ!?」
そう、あの時、バンテリンドームナゴヤで、彩花と静香の黒衣は完全に消え去ったと思っていたのに。
だからこそ中年の男性記者は、彩花に対して質問をしても…それこそ彩花に対して厳しく責め立てるような言葉を並べても、問題無いと思っていたのに。
それがまさか蓋を開けてみれば、よもやこんな事になってしまうとは。
「ルール違反が確認されたので事前通告の通り、記者会見はこれで打ち切らせて頂きます!!」
とても真剣な表情で絵里が記者たちに通告し、彩花は六花の身体にしがみつきながら退場していく。
そして腰を抜かしてしまっている中年の男性記者を、隼人は怒りの形相で睨みつけていたのだった。
彼はフリーランスの記者だと名乗っていた。
それ故に報道機関に雇われている他の記者たちと違って、収入が保証されている訳では無い。
だからこそ『売れる記事』を作る為に、生きる為に必死なのだろうという事は、隼人も頭の中で理解はしていたのだが…。
「…だからアンタらはマスゴミだって言われるんだよ!!」
だからと言って『売れる記事』を作る為に、まさかここまでするというのか。
彩花への質疑応答は一切禁止だと言われていたのに。そのルールに違反してまで。
いや、と言うか、今の彩花の状態を見て、とても質問など出来る状態では無いと…人道的な観点から、そう思わないのか。
中年の男性記者に対して吐き捨てた隼人は、怒りの形相で絵里と共に退室したのだった。
「待って下さい八雲さん!!これで記者会見が終わりだなんて、こんな事で国民の皆さんが本当に納得するとお思いですか!?」
「こんな形で須藤隼人君を引退させるなど、JABSとして本当にそれでいいんですか!?」
「須藤隼人君に引退という決断をさせてしまった事で、須藤美奈子さんの監督としての指導能力も問題視されていますが!?」
一斉に質問を浴びせる記者たちを完全にシカトし、大宴会場を出て行った隼人たち。
それを見せつけられた記者たちが一斉に、中年の男性記者を睨み付けたのだった。
「な、何だよお前ら!?俺のせいだって言いてぇのかよ!?」
そうだそうだ!!と記者たちが一斉に中年の男性記者に対して抗議をする。
この男1人の身勝手かつ軽率な行動のせいで、折角用意して貰った記者会見の場を台無しにされてしまったのだ。
記者たちが中年の男性記者に対して怒るのも、至極当然だと言えるだろう。
最早完全に四面楚歌の状態になってしまった中年の男性記者は、そんな記者たちに対して謝るどころか、けっ!!などと不貞腐れた態度を示したのだった…。
こうして隼人の引退会見は、1人の身勝手な記者のせいで彩花の黒衣の暴走を招くという、最悪の形で打ち切られてしまう事となった。
暴走した彩花の黒衣は、六花の神衣の加護によって何とか収まったものの…それでも今回の件によって、マスコミの取材の在り方という物が改めて問題視される事となるのである。
そして…。
彩花が壊れた。
どう足掻いても絶望。