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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
Aルート第1章:激動の聖ルミナス女学園バドミントン部編
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第101話-A:記者たちがどうしても納得が行かないらしくてね

 因果応報。

 読者の皆さんに、順を追って説明しよう。


 まず彩花との試合で朱雀天翔破を連発した事で損傷した、静香の右肘の状態なのだが。

 医師の診察の結果、六花による迅速かつ的確な応急処置の甲斐もあって、そこまで深刻な状態ではないとの事だった。

 なので若くて健康な静香なら右肘に余計な負荷さえかけなければ、放っておいても3日もあれば完治するとの事で、これには六花も安堵したのだった。

 取り敢えず静香は右肘が治るまでは、医師の指示で別メニューで練習をする事となった。


 だがそんな事よりも黒衣の暴走による、彩花の精神への影響の方が問題だった。


 静香に関しては持ち前の強靭な精神力のお陰からなのか、そこまで深刻な状態では無かったのだが。

 彩花は黒衣の暴走による後遺症なのか、因果関係は不明だと診断されながらも、とにかく常に何かに怯えているような状態になってしまったのだ。

 あるいは一時的とはいえ対戦相手全員の五感を奪ってしまった事…大好きな隼人に至っては五感どころか第六感までも奪ってしまった事で、深い罪の意識を感じてしまっている事も影響しているのかもしれないが。


 いずれにしても今の彩花からは、黒衣に呑まれていた時のような暴虐さは、最早微塵も感じられなかった。

 散歩中の犬に突然わんわん言われて飼い主の背後で怯える猫みたいに、ただただ六花の傍で震えているだけだ。

 元から彩花の六花への依存は『狂信』レベルにまで達していたのだが、周囲の身勝手な大人たちの下らないエゴのせいで、さらに深刻さを増してしまったのである。


 そして読者の皆さんが一番気にしているであろう、彩花をここまで追い込んでしまった愚かな連中の処遇についてなのだが。


 まず支部長は、JABS名古屋支部をクビになった。


 稲北高校への進学を希望していた彩花の意志を無視して、無理矢理聖ルミナス女学園へと入学させた事。

 それがきっかけで絶望した彩花が、結果的に黒衣に呑まれてしまった事。

 さらに己の保身に走るあまり、それらの全ての責任を六花に押し付けて冤罪を吹っ掛け、一時は六花の社会的地位までも危うくしてしまった事。

 そして彩花が学生スポーツからの永久追放処分となった件に関して、彩花に対して謝罪するどころか『あれ』呼ばわりし、「最早使い物にならんわ」などと暴言を吐いた事。


 これら一連の出来事を本部長に問題視され、支部長は弁明の余地を一切与えられる事無く懲戒解雇処分を言い渡されたのだ。

 彩花の持つ凄まじい天賦の才に心を奪われて暴走した結果、最悪の事態を招く事となってしまったのである。

 後任の支部長には、これまで経理担当だった40歳の女性社員が、本部長から任命される事となった。


 その彩花が黒衣に呑まれる最大の元凶となってしまった直樹もまた、就職したばかりのバドミントンスクールをクビになった。


 オーナーとしては直樹が既に心を入れ替えており、子供たちからも慕われている事から、バドミントンで犯した罪はバドミントンで償わせたいと考えていたようなのだが。

 それを子供たちから知らされた保護者たちが猛反発し、直樹をクビにしないなら子供たちを別のバドミントンスクールに行かせると、一斉に激怒しながらオーナーに迫ったのだ。

 流石にそれではスクールの経営にも響きかねないという事で、オーナーは保護者たちに押し切られる形で、直樹を懲戒解雇処分にせざるを得なくなってしまったのである。

 直樹もそれを素直に受け入れ、子供たちに惜しまれながらバドミントンスクールを退職。後に一般企業に就職する事となる。


 学園長に至っては彩花の拉致と殺人未遂の容疑で、警察に逮捕された。


 学園長は警察による取り調べに対して、当初は一貫して容疑を全面否認。

 殺人未遂に関しては、警察が被害者の彩花に事情聴取を行ったものの、決定的な証拠が何も得られなかった事から嫌疑不十分となった。

 だが拉致に関しては防犯カメラに、学園長が彩花を車内に拉致した場面がはっきりと映っていた事が決定的な証拠となり、学園長は警察から厳しい追及を受ける事となる。

 これにより学園長は青ざめた表情で、拉致に関しては一転して容疑を認め、後に刑事裁判で懲役3年の有罪判決を受ける事となる。

 後任の学園長には彼の娘であり、聖ルミナス女学園のOBで専業主婦の40歳の女性が就任する事となった。


 エ~テレのディレクターもまた、エ~テレをクビになった。


 県予選の組み合わせの抽選結果を不正に操作した件に関してだけなら厳重注意で済んでいたのだが、何よりもマイクの受信機の電源を落とし、六花の名誉回復までも妨害した事が問題視されたのだ。

 部下に関してはディレクターから命令を受けただけだとして、処罰を受ける事は無かったのだが。

 ディレクターは弁明の余地を一切与えられる事無く、秘書の女性がディレクターに対して激怒したように、世の中の真実を嘘偽りなく報道しなければならない責務のある、報道機関に所属する者として決して許されない悪質な行為だとして、エ~テレから懲戒解雇処分を受けてしまったのである。


 黒メガネは静香に対して、彩花の顔面に維綱をぶつけろなどと無茶苦茶な指示を出した事が原因で、強要罪に問われて警察に逮捕された。


 既に決定的な証拠となる動画が、ネットを通じて全世界に出回ってしまっている事から、警察の取り調べの際に黒メガネはあっさりと容疑を認める。

 これにより黒メガネは聖ルミナス女学園の新学園長から、懲戒解雇処分を受ける結果となってしまった。

 後に静香への謝罪と示談が成立した事と、既に監督をクビになって充分な社会的制裁を受けている事を理由に、黒メガネは起訴猶予処分となって釈放された。

 だがそれでも事態を重く見た本部長から、日本のバドミントンからの永久追放を言い渡されてしまい、指導者としての道を断たれた黒メガネは直樹と同様に、後に一般企業に就職する事となるのである。


 様子に関しては彼女自身がどうこうされる事は無かったのだが、母親として静香の黒衣を暴走させてしまった責任を主要取引先に追及され、その火消しに追われる羽目になってしまった。


 彼女の優れた手腕と権力によって火消しは迅速に成功し、一時期株価が下落する騒ぎになってしまったものの、それでも朝比奈コンツェルンの経営にまで影響が出るような事態にはならなかったのだが。

 何にしても、様子が静香を自身の後継者に育て上げようと躍起になるあまり、母親として静香をしっかりと愛してあげなかった事が原因で、とんだとばっちりを受ける羽目になってしまったのである。

 その事を六花に厳しく追及された様子は完全に懲りてしまったのか、これからは母親として静香をしっかりと愛する事を、六花と静香に約束したのだった。


 その静香なのだが県予選終了後、病院から六花に車で安藤と一緒に自宅まで送迎して貰った際、出迎えた様子に対してバドミントンのプロ選手を目指す事、朝比奈コンツェルンを継ぐつもりは無い事を、はっきりと通告したのだった。


 様子の事をゴミクズのように捨てるのではなく、娘なのだから母親に対して自分の意志をしっかりと伝えて、腰を据えて話し合いをした方がいいと…六花が車の中で静香に対してアドバイスをしたのだ。

 当然、様子は猛反対したのだが、結局は静香が無理矢理ゴリ押しし、バドミントンのプロ選手を目指す事を納得させたのである。

 その代わりに静香がプロ契約を果たした際は、そのチームのスポンサーに朝比奈コンツェルンが加わる事が条件だと、様子は静香に通告したのだった。

 転んでも、ただでは起きない。商魂逞しいとは、まさにこの事である…。


 こうして県予選が終了した2日後の、2024年7月22日の月曜日。


 全国の学校で夏休みが始まった最中、引退を宣言した隼人は美奈子からの指導を受けながら、練習自体は続けていた。

 今後試合に出るつもりは一切無いが、それでもバドミントン自体を嫌いになった訳ではないのだから。

 他の部員たちと一緒に『気持ち』をしっかりと込めながら、汗だくになって集中して練習に取り組む隼人。

 そんな愛しの息子の一生懸命な姿を、美奈子が慈愛に満ちた瞳で見つめていたのだった。


 そして聖ルミナス女学園バドミントン部は監督不在という異例の状況の中で、取り敢えずは暫定的に愛美の指示の下で自主練習を行う事となった。

 県予選で一時的に監督を代行した六花に、今後も監督を続けさせるのかに関して、JABS名古屋支部において意見が真っ二つに分かれて揉めていると、静香のLINEを通じて六花から伝えられたのである。

 なので自身の正式な処遇が決まるまでは、取り敢えずは愛美が部長として皆を引っ張ってあげて欲しいとの事だった。


 全国的に深刻な社会問題となっている少子高齢化の影響で、JABS名古屋支部もまた慢性的な人手不足に陥っている事も当然あるのだろうが。

 何よりも六花自身が優秀な社員であり、これ以上通常業務から抜けられたら困るというのもあるのだろう。

 こればかりは組織である以上は仕方が無い代物であり、静香たちには…いいや、六花本人でさえも、最早どうする事も出来なかったのである。


 こうして朝から始まった両校の練習は、特に何のトラブルも無く順調に進み、両校共に昼までで練習を終える事となった。

 第54話で説明したように国からの通達で、部員たちに長時間の練習をさせる事は禁止されているからだ。


 「さ~て、帰ったら夏休みの宿題を、今日中に全部終わらせるか!!」

 「…なん…だと…!?」


 部室で制服に着替えながらドヤ顔で語る隼人を、驚愕の表情で見つめる駆。

 馬鹿な、夏休みの宿題というのは、8月下旬に慌ててやる物ではないのかと…そんなアホな事を考えていた駆だったのだが。


 「馬鹿な真似は止めろ(泣)!!」

 「やってみなければ分からん(笑)!!」

 「正気か(泣)!?」


 そこへ駆としょ~もない言い争いをする隼人のスマホに、軽快な着信音が鳴り響いたのだった。

 あっけらかんとした笑顔で、隼人はスマホの緑色のボタンをタップする。

 

 「あれ、六花さんからだ。はい、もしもし。」

 『隼人。今、時間は大丈夫だった?』

 「はい。たった今、練習が終わった所ですけど。どうしたんですか?」

 『だったら良かったわ。あのね、この間の隼人の引退宣言に関して、記者たちがどうしても納得が行かないらしくてね。記者会見を開いて隼人自身の口から詳細を説明させろって、さっきから会社に電話が鳴りっぱなしなのよ。』

 「はぁ…。」

 『それでね、隼人に確認しておきたいんだけど…。』


 六花が言うには新しい支部長と対応を話し合った結果、まずは記者会見を開くかどうかは、何よりも隼人自身の意志を最大限に尊重するとの事だった。

 その記者会見にしても隼人の負担にならないように、なるべく短い時間で終わらせるように配慮するとの事らしい。

 それで記者会見を開くなら都合のいい日時を教えて欲しいが、日曜日だけはJABS名古屋支部が休日なので避けて欲しい、との事らしいのだが…。


 「分かりました。受けますよ。記者会見。」


 何の迷いもない力強い瞳で、隼人は六花に対して即答したのだった。

 どの道、隼人自身も記者たちに対して、自分がどうして引退という選択をしたのかを、ちゃんと説明したいと思っていた所だ。

 その機会が向こうからやって来るというのであれば、まさに渡りに船だ。


 『ありがとね隼人。じゃあ都合のいい日時を教えてくれるかしら?』

 「午前中はバドミントン部の練習があるんで、出来れば午後からにして欲しいですね。後は別にいつでもいいですよ。JABSの都合に合わせますんで。」

 『分かったわ。午後を希望ね。なら支部長と話をするから、ちょっと待っててくれる?』


 かくして隼人の記者会見は、急な話だが明日の16時から、新支部長と六花と…それと彩花が六花から離れたがらないという理由から、彩花も同席して行われる事となった。


 『じゃあ明日の14時に、隼人を車で迎えに行くわね。一応記者会見は公式の場だから、制服に着替えておいてくれる?』

 「分かりました。明日の14時ですね。大丈夫ですよ。」

 『忙しいだろうに本当に御免なさいね。夏休みの宿題だってあるでしょうに…。』

 「いえいえ、気にしないで下さい。宿題なら今日中に全部終わらせますから。」

 『…なん…ですって…!?』


 馬鹿な、夏休みの宿題というのは、毎日コツコツと少しずつやる物ではないのかと…そんなアホな事を考えていた六花だったのだが。


 『馬鹿な真似は止めなさい(泣)!!』

 「やってみなければ分からん(笑)!!」

 『正気なの(泣)!?』


 六花としょ~もない言い争いをしながら、あっけらかんとした笑顔で、隼人はクロスバイクを置いている自転車置き場に向かっていったのだった…。

 次回、新支部長が登場。

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