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バドミントン ~2人の神童~  作者: ルーファス
第1章:幼年期編
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第1話:私のかけがえのない大切な宝物

 いよいよ物語の始まりです。「復讐の転生者」以来1年ぶりの新作掲載となります。

 西暦2008年3月。

 まだ肌寒さが残る、しかし清々しい青空が人々を温かく包み込んでいる、スイスの総合病院。

 そこで別々の分娩室において2人の日本人の女性が、看護師たちが慌ただしく動き回る最中、陣痛に耐えながら必死に赤子を出産しようとしていた。


 スイスのバドミントンのプロチーム、シュバルツハーケン所属の須藤美奈子すどうみなこ。24歳。

 そのチームメイトの後輩の、藤崎六花ふじさきりっか。20歳。

 この2人がもうじき無事に出産を迎える2人の赤子は、とんでもないバドミントンの才能をその身に宿した上で、この世に生を受ける事になるのである。


 「産まれましたよ須藤さん!!とても元気な男の子ですよ!!」

 「はぁっ…はぁっ…はぁ…っ!!」


 看護師によって産湯うぶゆに浸けられた赤子が優しく丁寧に身体を洗われ、やがて毛布にくるまれ、出産を終えたばかりの美奈子に丁寧に差し出される。


 「よく頑張りましたね須藤さん!!すぐに旦那様をお呼び致しますね!!」

 「この子が…私と玲也れいやさんの子供…。」

 「旦那様!!無事に産まれました!!母子共に健康ですよ!!さあ、どうぞこちらへ!!」


 看護師に促された美奈子の夫・玲也が、慌てて美奈子の下へと駆けつける。

 恐らく勤務中に出産の知らせを上司から受けたのだろう。リクルートスーツに身を包んだ玲也が美奈子の無事な姿を確認し、安堵の表情を見せたのだった。

 そして玲也の視線の先にいたのは、美奈子が無事に出産した元気な男の子。


 「おお、美奈子によく似た、何と可愛らしい男の子なのだ!!でかしたぞ美奈子!!これで我が家の未来は安泰だ!!」


 とても大事そうに美奈子から赤子を受け取った玲也は、よしよしと赤子を優しく丁寧にあやす。

 そして自分はこれからこの子の父親になるのだという事、一家の大黒柱としての責任の重さという物を、玲也はその身に刻み込んでいたのだった。


 「ところで玲也さん。この子の名前、もう決めてあるんですか?」


 やがて玲也から赤子を受け取った美奈子は、穏やかな笑顔で玲也に問いかける。

 事前の検査で男の子が産まれるという事自体は分かっており、美奈子の出産前から医師から知らされてはいたのだが。


 「ああ、実はもう考えてあるんだ。」

 「まあ、何て名前なんですか?」


 何の迷いも無い力強い笑顔で、玲也は以前から考えていた赤子の名前を美奈子に告げた。


 「…隼人はやと。」

 「隼人…いい名前ですね…。」


 分かるのだろうか。美奈子の胸に抱かれた隼人が、きゃあきゃあと無邪気に笑っている。

 そんな隼人の頭を、玲也がとても優しく撫でてあげたのだった。 


 「今日から貴方の名前は隼人よ?これからよろしくね、隼人君。」


 その一方で別室の分娩室でもまた、六花の出産も無事に完了していたのだった。

 激しい陣痛に耐え抜いた末に六花が産み落とした、とても可愛らしい赤子。

 それを看護師が産湯うぶゆで丁寧に身体を綺麗にし、毛布で包み込んでとても大事そうに六花に差し出す。

 その命の結晶を六花はとても愛しそうに抱き寄せ、自らの豊満な胸に埋めたのだった。


 「おめでとうございます藤崎さん!!よく頑張りましたね!!とても元気な女の子ですよ!!」


 とても嬉しそうな表情で六花をねぎらう看護師だったのだが、美奈子と違い夫が六花の元に駆けつけて来ない。

 六花は18歳の頃にプロ入りの為にスイスに訪れた際、現地在住の日本人男性と運命的な出会いを果たした末に結婚したものの、六花の妊娠発覚後に勤務先から帰宅途中に飲酒運転の車に刎ねられ、僅か23歳という若さで亡くなってしまったのだ。

 その上で六花自身も20年前に母親が東京で六花を出産直後に、まだ産まれたばかりの六花を赤ちゃんポストに入れ、どこかに失踪してしまったのである。

 藤崎六花…そう書かれた紙切れだけを残して。

 だから今の六花には、愛する夫が傍にいてくれる美奈子と違い、身寄りが1人もいない…天涯孤独なのである。

 

 施設育ちで母親の温もりも愛も何も知らずに育った六花は、その寂しさを紛らわせる為にひたすら趣味のバドミントンに、まるで何かに取り憑かれたかのように必死になって打ち込み続けた結果、やがて日本国内において彼女に勝てる者が誰1人としていなくなってしまった。

 そして高校時代に出場した全ての大会でぶっちぎりの強さで優勝をかっさらうという、とんでもない偉業を成し遂げてしまう。

 その六花の滅茶苦茶な強さを高く評価したシュバルツハーケンの関係者が六花をスカウトし、六花は高校卒業後にスイスへと旅立ち、美奈子以来となるシュバルツハーケン所属の2人目の日本人選手となったのである。


 「今日から貴女の名前は彩花あやかよ。あの人が私に遺してくれた、私のかけがえのない大切な宝物…。」


 とても愛しそうな笑顔で、だぁだぁと甘えた声を出す彩花を見つめる六花。

 私は私を捨てた母のように、何があろうとも絶対にこの子を見捨てたりはしないと…絶対にこの子を立派な大人に育て上げてみせると…六花は母親としての決意と覚悟を胸に秘め、責任の重さを痛感していたのだった。

 それは母親に捨てられた六花自身が、その苦しみと寂しさを誰よりも理解しているから。

 そんな理不尽な苦しみを、六花は彩花にまで味合わせたくないと思っているから。


 六花はシュバルツハーケンの主力選手として入団1年目からそれなりに稼いでいるし、夫を飲酒運転で死なせた加害者からの多額の賠償金も、加害者が契約していた保険会社から全額支払われているので、別に今すぐに金に困るという事は無い。

 だがそれでもプロというのは、活躍出来なければ即座にクビを切られる過酷な競争社会…それがプロの掟、プロの現実なのだ。

 もし六花がそうなってしまえば、それこそ彩花を自身もろとも路頭に迷わせる事になりかねない。

 しかも六花は美奈子と違い天涯孤独であり、他に誰も頼れる人が誰もいないのだから。


 だからこそ六花は絶対にそんな事になってたまるかと、絶対にプロで活躍して彩花に贅沢をさせてやるんだと、その決意を顕わにしていたのだった。

 いつか彩花の誕生日に、豪華なプレゼントを用意してあげるんだと。

 シーズンオフにはフランス料理の豪華なフルコースを彩花に食べさせてやれる位、プロの世界で稼いでやるんだと。


 「お父さんは交通事故で死んじゃったけど、これからは私と2人でずっと一緒に仲良くしていきましょうね。彩花。」


 そんな六花の言葉を理解しているのか、彩花は何だか六花に対して笑っているようにも見えた。


 この日、全く同じ日、同じ時刻、同じ場所で生を受けた、一組の男女。

 シュバルツハーケン所属・須藤美奈子の息子・須藤隼人。

 同じくシュバルツハーケン所属・藤崎六花の娘・藤崎彩花。

 この2人がいずれ日本において「神童」と呼ばれる事になり、日本の…いや、世界中のバドミントン界を大きく揺るがす存在になるのだという事を、この時の誰もが思いもしていなかったのだった…。


 六花のモチーフとなったキャラは「はねバド!」の登場人物の羽咲有千夏です。

 ただし有千夏さんと違って娘のメンタルを鍛える為という名目で、娘を置き去りにして失踪した挙句に肝心の娘から激しく憎悪されたりしませんし、重い病に侵されて娘を置いて病死したりもしません。

 むしろ六花というキャラクターは、僕自身が有千夏さんが綾乃ちゃんに対してやらかした事に対してマジギレした上で、有千夏さんの対比となるキャラクターとして創り上げました。


 と言うか六花は有千夏さんとは真逆のキャラクターで、いつか彩花が大人になって独立して、例えば東京で就職が決まったから上京するとかになった際、


 「だったら私も彩花と一緒に東京までついていくわ!!」


 とか言っちゃう。そんな人。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読に参りました〜! 宜しくお願い致します♪ おお。いきなり舞台がスイスでびっくりしました。 奇しくも同じ日に同じ病院で誕生日なんて運命を感じちゃいますね素敵です。
[良い点] 文章が読みやすいです! [一言] 隼人と彩花が今後どうなっていくのか楽しみです!
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