俺、生まれ変わる。
目を開くと、そこにはエルテラが立っていた。
「おはようございます!鳴宮様!清算は無事に完了しましてあなた様の経験値はいくつかのスキルとして完全に魂へと刻まれました!」
そう嬉しそうに話すエルテラに対して、さっきまでの怒りはもうないものの、文句の一つでも言ってやろうと俺は口を開いた。
「お前なぁ、先に一言っ……ってあれ?」
俺は、違和感を感じて思わず喉に手を当てた。
と言うのも、俺の声が普段の声より高くなっているのだ。
「お気づきになりましたか!!」
エルテラは、嬉しそうにそう言うと、俺の前に、周りに豪華な装飾が施された、大きくて楕円形をしている姿見を出現させた。
(これが魔法……?)
そして、俺はその鏡に近づき、映った自分の姿を見て、思わず叫んだ。
「だっ…誰だこれえぇぇぇえー!!」
そこには、前世の俺の面影は一つもなく、背丈は以前より少し小さくなっているし、髪は純白の白、顔は中学生ほどに幼くなり、瞳の色に関しては淡い金色になっていた。
(これが…俺……なのか…?)
しかも、気づけば服装も変わっていて、上下が黒ベースに白の差し色、胸や腕、膝には、鉄の装備。さらには短剣まで腰に下がっており、まさにファンタジーな格好だった。
「どうですか私のチョイスは!身長や顔立ち、瞳の色から服装装備に至るまで!余すことなく私の趣味趣向を詰め合わせました!!」
「……………」
俺は、鏡に映った自分の顔や体のあちらこちらを触って確認し、髪の色に関してある事を思い出した俺は、最後にズボンの中を確認し力尽きる様に地面に崩れ落ちた。
「ど、どうしました鳴宮様!?どこか気に入らない点がありましたでしょうか……?」
精査の結果、身長が低くなった事以外は、容姿に申し分はなかった。しかし、俺にとっては大切なアレが無かったのだ。
「……無いんだ」
俺が一言そう言うと、エルテラは少し考えてから、思い出した様子で言った。
「あぁアレですね!モサモサしていて邪魔だろうと思ったのでツルツルにしときました!」
(俺のアイデンティティがあぁぁぁああ!!!大人の証明があぁぁあぁあ!)
「まぁ、そんなに落ち込まないで下さい!向こうの世界でもちゃんと成長しますし、それに髪色や瞳の色なんかも、向こうでは珍しくないですし!」
(なんだよ……一応俺が異世界で順応出来るように、女神なりに考えての事なのかよ……マジで一発殴ろうかとおもったぞ……)
俺は、大きなため息をついてから立ち上がり言った。
「一応……お礼は言っておく……ありがとな。」
すると、エルテラは恥ずかしそうに言葉を返した。
「い…いえ!とんでもないです。私はただ、新しい世界に新しい人生を、新しい自分で歩んでほしかっただけなので……」
(まぁ、いい事言ってはいるけど、結局この姿の俺は、こいつの趣味趣向の塊なんだよなぁ……)
俺はそう思ったのだが、それを口にだすのはやめておく事にした。
「そう言えば、俺魔法とかスキルとかって、使い方とかよく分からないんだけど……」
俺は、心を静めながらそう尋ねると、エルテラは、何故かドヤ顔で話し始めた。
「もちろん!そこは抜かりありませんよ、私こう見えても女神ですからっ!」
(調子のいい女神め……)
俺が疑いの目で見ていると、エルテラは、わざとらしく咳払いを1回してから続けた。
「鳴宮様は、こちらに来られた時にスマホを持っていましたよね?」
(あぁ……そう言えば、死ぬ前にポケットに入れてたな……)
俺は、死ぬ前の記憶を思い出していた。
「確かに持っていたが……」
すると、女神は言った。
「あのような物は本来、元の世界でしか機能を発揮できないですし、これから転生される世界においてもただの異物でしかありません。」
(なるほど確かに……)
「ですが!機能を能力に変えるのであれば、それはつまり女神の祝福と言うことになりますよね?」
(そうなのかぁ…知らんけど……)
そう言うと、エルテラは俺に近づき、おでこに人差し指を軽く押し付けて言った。
「なので、鳴宮様のお体を私好みに作るついでに、スマホの機能を能力に変換してここに入れておきました!」
(まさかこいつ……)
「ま…マジですか!?」
(この女神、実は天才なのでは……)
エルテラは、指を下ろしながら笑顔で続けた。
「はい!マジです!しかし、メールや通話など、一部再現不可能な機能はありましたが、私が知りうる向こうの知識は、全て脳内で検索出来るようにしてありますので、きっとお役に立てると思いますよ!」
(おぉー!!)
俺は、感激のあまりその場に土下座し、頭を下げた。
「ありがとうございます女神様!!さっきまでずっと、ポンコツだと思ってました本当すいませんでしたっ!!」
そう伝えると、女神は膨れっ面で言い返した。
「ぽ、ポンコツは余計ですっ!」
「アハハハ……冗談だよ冗談……」
俺が謝ると、エルテラはちょっと照れくさそうな表情を見せたのだった。