女神
まさにそれは一瞬の出来事だった。上からパキパキッと何かを割る様な音が聞こえたと思ったら、俺の視界はありえないほど明るくなり、次の瞬間には、驚く暇もなく物凄い爆発音と共に俺の意識は消えてしまった。
(あ…れ…?一体何が起きて………)
俺は暗闇の中で、何もできない。
(何も見えない……何も感じない……)
ただただ暗く、今まであった体の感覚が何一つない事に気がついた俺は、ようやく自分が死んだ事を悟った。
(はは……死ぬときって、案外あっさりしているんだな)
そこに焦りや恐怖はなく、どちらかと言えば喜びや達成感に似たような不思議な感情が漂っているような気がした。
しばらくすると、俺の中に別の感情が漂って来た。
(これが死なのか……これから俺は一体どうなるのだろうか……柴丸は無事に帰れただろうか……)
すると、少しずつだが身体の感覚が戻り始めた。
その感覚は、まるで胎児から一人の人間として成長して行くような。
まるで、生命として生まれ今に至るまでの、体のあらゆる成長を俺は物凄いスピードで経験したのだった
そして、全ての感覚が戻った俺が、瞼を開くとそこには女性が立っていた。
「本当に…申し訳ございませんでした!!」
開口一番にそう言い放つと、その女性は俺に向かって深々と頭を下げた。
「へっ…!?」
俺が、突然の出来事に驚き声を上げると、その女性はそのままの体勢で話し始めた。
「本当に申し訳ございません、私は死者の魂をを導く為、神々によって選抜された女神、エルテラと申しますっ!!」
その姿は、確かに女神っぽく純白で装飾も見事な服装と、薄くはあるがはっきりとした後光を放ち、まさに女神と言っても差し支えない気品を醸し出してはいるのだが、どうにも頭を下げているせいなのか、ただ俺がろくでもない人間なだけなのかは分からないが、俺には会社でヘマをして上司に謝る部下に見えてしまった。
(何だか…むずがゆいな……)
「あ、あの…とりあえず頭を上げてもらえませんか?その……どうにもむずがゆくて……」
「は、はい!重ね重ね失礼しますっ!」
そう言って、女神は慌てて顔を上げた。
(いや、重ね重ねって……女神が人間相手にこんな感じで大丈夫なのか…?)
「あの~それで女神様は、どうして……」
そう言いかけると、女神は遮るように俺に言った。
「あ、あぁ、あの!私に様はいりません!名前で、エルテラと呼んでもらって結構ですからっ!!」
俺は、この不自然なまでに下からな態度に疑問を持ちつつも、このままだと話が進まない様な気がしたので、女神の言う通り名前で呼ぶことにした。
「あぁ……それじゃあ……えぇっと…エルテラさんは、どうしてそんなにも俺に謝るのでしょうか?俺にはその心当たりがなくて……」
すると、エルテラは申し訳なさそうな顔で涙をこらえ、少し震えた声で話し始めた。
「はい…単刀直入に申し上げますと、実はお迎えするお方を間違えてしまったのです…」
「えぇーっと、それはどう言う……?」
俺が首を傾げながら尋ねると、エルテラは慌てて説明を続けた。
「はいっ!実は私、最近ここに配属されまして、他の神々から『お前はこの任に就いてまだ間もない、魂の導きに間違いがあっては困るから、まずは動物達の魂のみを迎え、適切に導くように。』と言われておりまして…」
(もしかしてこの女神、新人……いや、この場合…新神?……なのか?)
「それで本日、天命を全うし寿命が尽きるはずだった柴丸様をお迎えしようとしましたところ……その……雷を当てるタイミングを間違えてしまって……」
エルテラはそう言い終わると、すいませんを何度も連呼しながら、何度も頭を下げた。
(マジかよ……)
俺は、しばらくこの事実にショックを受けていたのだが、何度も頭を下げるエルテラに、いつの間にか自身の新入社員時代の面影を重ねてしまい、何だかいたたまれないと言う気持ちになってしまっていた。
「え、えーっと…エルテラさん……理由は分かりましたから、と、とりあえず落ち着いて下さいっ…」
「はい……」
(まぁ…手違いで死んだのはショックだけど……て言うか、一応女神なんだし、手違いなら生き返る事は出来ないのだろうか?)
俺は、少しの希望を抱きつつ、エルテラさんに聞いてみることにした。