5
「おかあさん」
「なあに」
「本当に、お母さんなの」
「なに言っているのよ。お母さんに決まっているでしょう」
そして沈黙。
母親は娘を見て、娘はそばにいる知らないはずの刑事二人に目もくれずに母親を見ていた。
刑事たちが見ているなか、その状態がしばらく続いたが、やがて娘が言った。
「お母さんじゃないわ。いったい何なの。このお化け!」
娘は袋から何かを取り出した。
花火だ。そしてライターも。
娘はライターで花火に火をつけた。
そしてそれを母親に向けた。
「お母さんを返せ。このお化け!」
家庭用にしては強力な花火だった。
さすがに二人の刑事が止めようとした。その時。
「うがうっ!」
とてつもなく大きな声。
どう聞いても人間の声ではない。
しかしその声は、母親から発せられたのだ。
刑事が見ていると、母親の顔が一瞬でなくなった。
のっぺらぼう。
そしてその母親の体の真ん中に切れ込みのようなものが入り、その身体が左右に大きく広がった。
牛でも包めそうなほど広がったその中には、獣の牙が何列にも生えていた。
牙だらけなのだ。
「きゃーーーっ」
叫び声をあげ、娘は花火を放り出して逃げていった。
坂上は拳銃を手に取ると、その化け物を撃った。
ベテランだが、訓練以外は拳銃を撃ったことがただの一度もなかった。
だが訓練は欠かさず続けていた。
訓練は嘘をつかない。
坂上の撃った弾は、全て化け物の真ん中に命中した。
まだ若い小山田の撃った弾も一発残らず化け物に当たった。
二人が全弾撃ち尽くした時、化け物がゆっくりと倒れこんだ。
見ていると、あちらこちらがぶくぶくと盛り上がった。
そうかと思えば、いろんなところがぐにぐにと伸びたり縮んだりした後、その不気味な動きが止まった。
そこにあるのは白くぬめぬめした巨大なナメクジのような肉の塊だった。
鼻が曲がりそうなひどく生臭い臭いがした。
二人は黙ったままそれを見ていた。
それはそのまま動かなかった。
坂上はその時気づいた。
こいつは人間を喰うんだ。
そして喰った人間に化けるんだ。
擬態するもの。
ミミックともいう。
そう考えればすべての辻褄が合う。
坂上は周りを見てから言った。
「どうやら女の子は逃げてしまったようだな。小山田、パトカーに戻って応援を呼ぶぞ。鑑識に、こいつを運ぶ車も」
「はぁい」
小山田が声を震わせながらかん高く言った。
そのまま二人で家を出た。
玄関を出たところで坂上は振り返った。
しかしそこには、あの巨大なナメクジなようなもの姿はなかったのである。
終




